守田です(20200414 08:30)

● ニューヨークも検査拡大がマイナスに働いた(クローズアップ現代による報道から)

新型コロナウイルスに関する考察の続きです。
前回、イタリアが新型コロナウイルス対策でのアジャストを行わないまま、検査を拡大したために、医療崩壊に至ってしまったことを書きました。
アメリカ・ニューヨークでも同じことが起こったことが報告されています。報道したのは4月9日放映のNHKクローズアップ現代でした。

医療崩壊どう防ぐ?ヒント各国の先進事例 軽症者対応がカギ ? 20200409
https://bit.ly/2JXeBcX
当初アメリカは、検査を絞っていましたが、途中から拡大に転換。そのときニューヨークでは、不安が募ったために、無症状の人々まで病院に押し掛け、何時間どころか何日も検査を待つ長い列ができて、クラスターが連続発生したち推測されています。
番組の中ではこの点を、米国日本人医師会会長の柳澤ロバート貴裕教授が説明されています。


ニューヨークでは検査を求めて市民が医療機関に殺到してしまった。クローズアップ現代より


病院の前に連日発生した長い列が繰り返しクラスターになった可能性を語る柳澤医師 クローズアップ現代より

またアメリカはかかりつけ医師の指示で、病院にいくシステムを採っていますが、それだとなかなか病院にかかれません。これに対して救急外来は誰でも受け付けているので、そこに患者が殺到してしまったそうです。
軽症者が救急現場におしかけ、他のたくさんの命を救っている救急現場が大混乱してしまいました。

こうしたことの重なりの中で、アメリカは11日に一日の死者が2000人を越えたそうです。とても悲しいです。
ただしサンフランシスコ州などは医療崩壊などひきおこしてないそうで、アメリカ全体が同じ状態であるわけではありません。

● 新型コロナウイルス対策へのアジャストに成功した韓国

これに対して、新型コロナに合わせて、いち早くアジャストしたのが韓国でした。企業の研修施設などを、無症状ないし軽症者(10~50代)の隔離施設としたのです。名前は「生活治療センター」です。日本もこれを真似始めたわけですが、これはいい!
韓国では大邱にある特定教団から、巨大なクラスターが発生しました。その大邱では、当初、軽症者が感染症病床を埋めてしまい、自宅待機者が亡くなるなど、医療崩壊が始まり批判が高まりました。
そこで韓国はすぐに舵を切り替えました。3月2日から代替施設使用も明言しました。この施設のこともクローズアップ現代で紹介されています。


韓国はいち早く軽症者を病院外の専用施設に移して医療崩壊を乗り越えた クローズアップ現代より

さらにこれとセットで、韓国が始めたのがドライブスルー検査でした。2月26日に高陽市から始まっています。人々が病院に押し寄せること、院内感染の可能性が高まることを回避したのです。
このドライブスルー方式も、この感染症の致死率が、それほど高くないからできる検査です。エボラ出血熱だったらとてもできない。しかし新型コロナなら、院内感染を防ぐ上でも極めて合理的です。
ちなみにこの方式を日本でも鳥取県が採用するそうです。ただし院内感染を避けるのが目的。検査をどんどん拡大するための戦略ではないと鳥取県は語っています。これまでと同様、医師の判断に基づいて検査が行われます。ちなみに鳥取は医療先進県です!

さて韓国もまた、FETP(フィジカル・エピデミック・トレーニング・プログラム)によるクラスター潰し戦略を採用している国です。
実は韓国では、一時期まで陽性者の大半が、大邱の教団のメンバーでした。なんと3月3日時点で感染者の9割が教団員だったそうです。このため韓国政府は23万人もいる教団員の中から、実に効率よく感染者を補足していったのでした。
この際、コロナの一種であるMARS(中東呼吸器症候群)による手痛い経験から、検査能力をアップしてきた努力が実り、どんどん教団員とその濃厚接触者に検査を拡大していき、クラスター潰しを重ねて行ったのです。

この過程を追いかけた記事がありましたのでご紹介しておきます。3日時点で感染者の9割が教団員だったことも、ここに書いてあります。
「マスク曜日制」「自宅隔離中に死亡」 PCR検査多数の韓国、新型コロナ対策の“反省点”
文春オンライン 20200306
https://bunshun.jp/articles/-/36431?page=2


韓国の「新天地イエス教会」教祖が土下座して謝罪 一時期は感染者の9割が教団員が占めた ネットより

重要なポイントですが、実は韓国もまた、不特定多数への検査は行っておらず、クラスターが発生した場をおさえ、その周りの濃厚接触者を調べる戦略を摂り続けています。
その点では「検査対象は日韓で大きく異ならない」ことを、国際感染症センターの忽那賢志医師が語っています。

PCR検査の対象は「日韓で大きく異ならない」 新型コロナ患者を診る医師が報道を危惧する理由
https://bunshun.jp/articles/-/36805?page=2

● ロックダウンなど必要ないことを韓国は証明している

韓国はこのように、FETPによる感染者の追いかけによるクラスター潰し、感染症へのアジャストとしての「生活支援センター」の開設、これまたアジャストとしての院内感染を防ぐドライブスルー方式の活用を重ねてきています。
このもとで死者を少なく抑えている。しかも欧米のようなロックダウンは行っていません。素晴らしい。感染者の徹底追跡のためのスマホ活用の点で「人権侵害では?」という批判もありますが、それでも民主主義を守りながら、新型コロナの影響を抑えこんでいる。
そして僕も日本もそうだと思うのです。FETPはもともとアメリカで開発されたプログラムですが、アジアでは韓国・中国・台湾・シンガポール・日本が行っており、情報共有もしています。互いに良い点を学びあっていて、各国とも抑え込みに成功している。


1月30日、新型コロナウイルスによる肺炎についての会議に出席する文在寅・韓国大統領(左から2番目)時事通信社

とても残念なことに、欧米諸国は、韓国の戦略をトータルに摂り入れることができなかったのだと思います。とくに代替施設の用意がないままに、かつまたクラスター潰し戦略もないままに、検査を拡大してしまいました。
でも今からでも、このことに気づいてアジャストを試みれば、苦境を脱することができるのではと思います。
FETPの大事な点は、結果的にそれが民主主義を守ることにつながることです。なぜならクラスターの発生しているところを、細かく特定して、限定的に封鎖する戦略なので、都市全体のロックダウンなど必要としないからです。

だから韓国も日本も、都市封鎖などしていないのです。あたりまえですが、その方が人々への打撃は少ない。だから新型コロナには強いのです。社会的体力の奪われた方が、ロックダウンするよりも軽微だからです。
そしてこのままに対策が成功すれば、感染症対策においても、世界は全体主義を採る必要などないことを示せます。ぜひ韓国と日本のコンビで、そしてまた同じような挑戦を行っている、スウェーデンやアイスランドとともに、その実績を残したいものです。
その点でも確信をもって「都市封鎖など必要ない」と明言し、民主主義を守りながら、最も効率的な感染症対策の道を切り開こうとしている、日本の医療界=専門家会議を、僕は支持し続けます。

続く

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