守田です(20200315 23:30)

● 川内原発1号機が停まります

鹿児島県薩摩川内市にある川内原発1号機が明日16日に停まります。「特定重大事故等対処施設」(特重施設)の完成が「期限」の17日に間に合わないからです。
川内1号機だけではありません。川内2号機が5月20日、高浜3号機、4号機が8月2日、10月7日に停まります。
他の稼働中の残りの4基もこの施設を完成させておらず、いずれ期限を迎えます。玄海3号機、4号機は2022年8月24日と9月13日。大飯3,4号機も同年8月24日。裁判所の命令で停止中の伊方3号機も2021年3月22日が期限です。

稼働している原発はどれもとても危ないので川内1号機の停止は喜ばしいことですが、新規制基準で設置が決められたはずの施設が、福島原発事故後1つも完成してないのに稼働が続けられてきたことがあまりにひどい。
しかももともとこの施設は、新規制基準施行(2013年7月)後、すぐに設置されなければならないのに、5年もの猶予が与えられたものだったのでした。期限は2018年7月でした。
ところが電力会社がそれを守ることができなかったので、2016年1月に原子力規制委員会がさらに「本体施設工事認可後5年」と猶予を伸ばしたのでした。そこまでしたのにどの電力会社もこの施設を作らなかった。

このため原発はどんどん停まります。1年ぐらいは動かせない。関電は今になって停止後数か月で施設を設置して再稼働させると言い出しましたが、それならなんでもっと早く作らなかったのか。
ともあれ夏までに3基が停まります。玄海も3号機、4号機が9月と12月から定期点検に入り、大飯3、4号機も8~10月にかけて定期検査の時期を迎えるので、夏には全国の稼働原発は3基になり、秋に2基、その後、定検が長引けばゼロになる可能性もあります。
もともとこんな状態で、巨大会場でエアコンを効かせて東京オリンピックを行おうととしていたのですから、原発などまったくいらないことは誰の目にも明らかです。

川内原発1号機2号機 守田撮影 2018年1月


原子力災害対策への市民側からの取り組みを最も早くから行ってきた末田一秀さんと


鎌仲さん、岩田さんも一緒でした!

● 特重施設はほとんどが「テロ対策」ではなくシビアアクシデント対策用施設だ

ところでマスコミは原発停止の理由を「テロ対策で設置を義務付けられた特重施設の完成が間に合わないため」と報じていますが、大きな間違いです。原子力規制委員会による「詐欺に近い言い換え」と言った方がいい。
この点を説明します。九州電力の図が分かりやすいので使いましょう。下に示したPDの2ページを見て下さい。黄色いところが「特定重大事故等対処施設」です。

玄海3,4号機の特定重大事故等対処施設の設置について
2018年1月25日 九州電力株式会社
https://www.pref.saga.lg.jp/kiji00359890/3_59890_82783_up_ugje486o.pdf

このうちの「テロ対策」施設は「緊急時制御室」のある黄色い囲みのところです。テロで中央制御室が使えなくなった時の備えとされています。これももともと「免震重要棟」といって、震度7クラスの地震でも倒壊しない指揮所を作れということから始まっているので「テロ対策」というより自然災害などによる重大事故対策なのです。
とくに「フィルターベント」は、地震などで原子炉が壊れ、格納容器内の圧力が高まって限界を越えそうなときに、放射性物質を含んだ内側の気体をフィルターをごしに外に出す装置のことです。「テロ」以前の重大事故対策施設なのです。「窒素ボンベ」も本体内に置かれたもので「テト対策」とは言えません。
実はこのうちの「フィルターベント」が「テロ対策」とされているのは「加圧水型原発」だけのこと。福島原発と同じタイプの「沸騰水型原発」ではフィルターベントは「テロ対策」に入っていません。

ではなぜ「テロ対策」に組み入れたのか。理由は単純。福島原発と同じタイプの沸騰水型はすぐには動かせないので、西日本に多くある加圧水型から動かすためです。
原発がテロを受ける可能性を人々がそれほど感じてないことにつけこみ、「テロ対策なら伸びても仕方ないか」と思わせて、対策までに大きな余裕をあたえるためでした。
ところが肝心の電力会社が一向に対策を進めませんでした。それで新規制基準施行後5年の猶予(2018年7月まで)のはずが、2016年1月に「工事申請から5年」に代えられてしまいました。

これまたひどい伸ばし方で、工事申請をすぐにしない方がかってより猶予ができる。このため最初に申請した川内1号機が明日停まることに対し、最後に申請した玄海、大飯は2022年夏まで動かせるとされているのです。
「詐欺に近い言い換え」です。要するに加圧水型原発は、福島原発事故の前の旧規制基準のまま動いているのです。新規制基準など適用されていない。
あまりにひどい。新規制基準を守ってないすべての原発をいますぐ停止すべきです。

● そもそもベントがある段階で原発はアウト!

それではベントがあればいいのか。否。ベントがある段階で原発はアウトなのです。何度も述べてきた重要ポイントです。元東芝の格納容器設計者、後藤政志さんに教わりました。
原子炉の中には「圧力容器」があります。その中でウランの核分裂が行われ水を沸騰させて、タービンで発電しています。
この圧力容器を格納容器が包んでいます。その役割は、圧力容器内で事故が起こり、圧力が高まった時に放射性物質を含んだ気体を格納容器内で受け止め、封じ込めることにあります。環境を守るためです。

ところがベントの役割は、その格納容器を守るために放射性物質を含んだ気体を外に抜くこと。完全な自己矛盾なのです。このため後藤政志さんはこの装置を「格納容器の自殺装置」と呼びました。
要するにベントは格納容器が技術的に確立してないことの象徴なのです。社会的常識から言えばこんな設備のある施設は建設審査をクリアできません。だからアメリカで原子炉が開発されたときにはベントはついていなかったのです。
ところがたくさんの原子炉を売って使われだした後で、コンピューターシミュレーションで格納容器が崩壊する可能性のあることが明らかになり、後付けでベントがつけられはじめたのです。

本来、原子力産業はこの段階でアウトだったのですが、後付けのベント装置でごまかして生き延びてきたのです。
そのベントが始めて使われたのが福島第一原発事故でした。ところがベントは成功しなかった。電源を失っていてバルブが開かなかったからです。それで1号機と3号機は圧縮ポンプで空気を送るなどしてこじあけました。
ところが2号機は最後までバルブが開かず、最後までベントができなかったのです。ではどうして格納容器が大爆発しなかったのかというと、実は思ったほどの強度がなくて、下部のどこかで裂け目ができて、内部の気体が漏れ出したからでした。

その点では格納容器は二重三重にポンコツだったのです。そのために大爆発しなくてすみましたが、放出された放射性物質の9割は2号機のこの裂け目から出てしまいました。
ベントは成功などしなかった!ベントがあるだけで格納容器が未確立な原発は動かしてはいけないのですが、さらに後付け装置のベントなどうまく働く保障などないのです。
恐らくは電力会社が一番そのことを知っているから設置を渋ってきたのでしょう。しかしそれなら危険な原発を停めることこそが電力会社の責任です。

シビアアクシデント対策ができていないの「テロ対策」と言い換えているのもひどいことなら、そもそも「シビアアクシデント」を起こしうる施設を運用していることそのものがおかしい。
「原発を即時停めよ!」という声を大きくしていきましょう。

ベントのことなどを後藤政志さんと対談
2015年8月14日
https://www.youtube.com/watch?v=TKJNkgNOgaI&feature=youtu.be

#川内原発停止 #テロ対策 #特定重大事故等対処施設 #原発再稼働反対 #原発ゼロ