守田です。(20131019 18:30)

連日、台風関連の記事を書いていますが、社会的関心がたくさんの方が亡くなった伊豆大島に収集してる中で、福島第一原発でも、事前に準備した対策が機能せず、「またもぎりぎりの対応が迫られた」ことが報道されています。
東京新聞は、「事前に定めた排水手順も守れず、現状の設備の限界がはっきりし、追加の対策が急がれている」と述べています。

具体的には、汚染水タンク群周りの堰内に雨水がたまった際に、近くの小型タンクに水を移し、放射性物質の濃度を測って基準値未満なら排出するとしていたものの、おりからの豪雨でポンプアップが間に合わず、その場で測って排出したというのです。
またほかのタンク群では4月に水漏れが発覚して使用が中止された地下貯水池に消防車を使って移送するということが行われました。まさに「ぎりぎりの対応」で、汚染水処理が破たんしており、台風にまったく対応できないことが明らかになっています。

一方、この豪雨の中で、8月19日に300トンの高濃度の汚染水漏れが起こったタンクのそばの観測用の井戸で、ストロンチウムが1リットルあたり40万ベクレル、トリチウムが79万ベクレルと、「過去最大」の汚染値が観測されたと報道されました。
いずれも地表に残っていた汚染物質が、雨で洗い流され、井戸に入ったものと思われます。

40万ベクレル、79万ベクレル・・・ものすごい値ですが、ただ「過去最大」というのは、8月の汚染水漏れに対応して9月に掘られたこの観測用の井戸での話です。東京電力が「過去最大」と発表したので、マスコミ各社とも見出しに「過去最大」とつけていますが、観測された過去最大の汚染水というわけではありません。
これまでの最大値は、2011年3月の事故直後のけた違いのものですが、さらに8月19日に発見された300トンの汚染水漏れでも、ストロンチウムで8000万ベクレルもの値のものが漏れ出してしまっていたのです。
その点で、少なくともストロンチウムに関して、40万ベクレルを「過去最大」と発表することは、8000万ベクレルのものを300トンも漏らした事実から目をそらせるものだと言わざるを得ません。

またこのように8000万ベクレルが300トンだとか、またも40万ベクレルの汚染水だとか言われ続けることで、世の中の多くの人々の危機感覚がマヒしてしまい、「またか」という感じしかもてなくなって、その都度の意味が把握できなくなっていると思われます。
実際に起こっていることは、福島第一原発の現場で、汚染水処理がまったくうまくいかず、海の深刻な汚染がどんどん進んでいること、しかもどれぐらいの汚染かもほとんど把握できなくなっているという事実だと思います。
しかも台風27号が続いてやってこようとしています。再びタンク群の堰が溢れだし、対応ができないままに排出が行われるのは確実ではないでしょうか。海がまた深刻に汚染されます。

しかし問題は本当に海の汚染だけなのでしょうか。現場には1リットルあたり8000万ベクレルもの汚染水が300トンも流れ出してしまい、それがあるものは排水溝から海に出たでしょうが、あるものは周辺の土壌を汚染し、雨が降るたびに敷地内を移動しているわけです。
この他、僕にもにわかにすべてのタンクのどこからどのように漏れが発生しているか、把握できないほどに、繰り返し高濃度の汚染水が漏れ出してきて、それらがまた雨で敷地内を移動しています。
これらは、福島第一原発内の作業員、そしてまた収束作業のための機器に影響することはないのだろうか。いや確実にしているのではないだろうか。また原子炉建屋や、タービン建屋などの構造物にも悪影響を与えているのはないでしょうか。

1リットル8000万ベクレルもあれば、周辺にはもの凄い量の放射線が発生しています。放射線は物質にあたると電離効果を及ぼし、分子切断を行って物質を破壊します。しばしば誤解されてしまいますが、影響を受けるのは生命体だけではありません。あらゆる物質がダメージを受けるのです。
この雨のたびに高濃度に汚染された放射性物質が何百トンという単位で移動している現場で多くの作業員の方たちが働いています。その中でとくに最近、さまざまなヒューマンエラーが繰り返されていますが、そのことと放射線被曝は関係しているのではないでしょうか。
あるいはただでさえ電子機器は水に弱く、鉄製のものは錆が生じやすいのに、その上、放射能汚染された水が蔓延している作業環境の中で、さまざまな工具や機材は、正常に働くのでしょうか。報道に現れない多くの不具合が生じているのではないかと僕には思えます。

つまり豪雨にされされ、繰り返し大変な放射線を発する汚染水が漏れ出してきてしまうことが、作業環境を極度に悪化させ、工具や機材、構造物にも悪影響を及ぼしているのではないかと思えます。
その意味で豪雨は、福島第一原発サイトにボディーブローのように働いているのではないか。一回、一回、現場の状態を深刻にさせているのではないか。ある意味ではその象徴としても、繰り返し「過去最大」と表現される汚染水漏れが起こっているのではないでしょうか。
現場は収束に向けて歩みを強めているのではなく、どんどん悪化しているように僕には思えます。

海の汚染はとても深刻です。それは私たちの命の源である海の破壊を促進しており、私たちにさまざまな形で返ってきていることでしょう。
しかし汚染水問題を、海の汚染の問題だけに還元することは危険ではないか。ただの水ではなく、高濃度の各種の放射能を含んだ汚染水が、毎日何百トンという単位で移動しているのです。これもまた人類にとってはじめての経験です。

いずれにせよ、福島原発サイトは、コントロールされているとかいないとかいうレベルではなくて、何がどのように起こっているのかもほとんど把握できていない状態にあるのです。
自然の猛威がこの私たちに状況すら把握できていないサイトを繰り返し襲う中で、どのような不測の事態が発生してもおかしくないと考えるのが合理的です。だから台風が接近する時などは、とくに原発の状態に注意を集中する必要があります。

しかも自然災害が各地で多発する時は、人々の意識も分散されます。また万が一、原発の状態が悪化し、避難が必要になったとき、すでに先行する災害で避難が困難になっていることも予想されます。2011年の3月のようにです。
繰り返し身構えることは大変ですが、しかしこのとんでもない危機的な状況の継続に慣れてしまわずに、万が一の事態への対応をシミュレートし続けていただきたいと思います。

台風27号の接近の中で、福島原発サイトの悪化を含む、あらゆる災害の可能性を頭に入れて、対策を強化していきましょう。

*****

大雨対策 吹き飛ぶ 福島第一 台風でまたも危機
東京新聞 2013年10月17日 朝刊
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2013101702000121.html

台風26号が接近した東京電力福島第一原発では十六日、これまでの大雨を踏まえて準備した対策が機能せず、またもぎりぎりの対応を迫られた。事前に定めた排水手順も守れず、現状の設備の限界がはっきりし、追加の対策が急がれている。 (清水祐樹)

東電は九月の台風18号の経験から、タンク群周りの堰(せき)内にたまる雨水を排出する手順を決定。近くの小型タンクに水を移して放射性物質の濃度を測り、基準値未満なら排出することにした。移送用ホースなどの設備も整えた。
しかし、前日から降り続いた雨で、堰内の水位が急上昇。ポンプの能力が追いつかずにあふれそうになり、タンクへ移している余裕がなかった。
結局、九つの区域で、堰内の水をその場で測定し排出する事態に。ほかのタンク群では、消防車を使って未使用の地下貯水池に移した。貯水池は四月に別の池で水漏れが発覚し、利用をやめた設備だが、それを使わざるを得ないほどの状況に追い込まれた。
東電の今泉典之原子力・立地本部長代理は記者会見で「今の仕組みでは今回の大雨に対応できず堰から直接排水した。地下貯水池の利用は悩んだが、緊急避難的に移すしかなく、現場が判断した」と説明した。

新たな対策として、高さ三十センチの従来の堰の外側に、大型の堰を新設することを計画。タンクからの水漏れで堰内に汚染が広がらないよう、タンクの底板とコンクリートの間に止水材を入れ、漏えい防止も図る。
ただ、これらの対策が完了するのは早くても年末で、それまでは大雨のたびに厳しい状態が続く。

*****

福島原発:40万ベクレル地下水過去最大 排水溝も高く
毎日新聞 2013年10月18日 11時44分(最終更新 10月18日 15時47分)
http://mainichi.jp/feature/20110311/news/20131018k0000e040214000c.html

東京電力は18日、福島第1原発で高濃度汚染水約300トンが漏れた地上タンク付近にある地下水観測用井戸(地下約7メートル)から、放射性ストロンチウム90などベータ線を出す放射性物質が1リットル当たり40万ベクレル検出されたと発表した。
ストロンチウム90の国の排出基準は同30ベクレル以下。この井戸では過去最大値の125倍の濃度という。
近くの排水溝のせき止め水からも、前日発表した濃度の15倍に上る同3万4000ベクレルが検出され、過去最大値を更新した。いずれも17日に取水した水という。
観測井戸は、9月上旬に掘られた八つのうちの一つ。タンクから最も近い15メートルの場所にあり、これまでも他の井戸より高い値が検出され、過去最大値は9月8日の同3200ベクレル。
この井戸はふたがされており、東電は濃度上昇について「理由はわからないが、漏れた高濃度汚染水の影響が考えられる」としている。井戸は地下水が原発建屋に流入する前にくみ上げて海に放出する「地下水バイパス」計画の井戸の上流側にあり、同バイパスの実効性に影響を与える恐れもある。

一方、排水溝では17日に過去最大値の同2300ベクレルの検出を発表したばかり。
東電は「台風26号による雨水と一緒に周囲の汚染土が流入した可能性がある」としながらも「以前の台風でもこんなに急激に上昇したことはない」と説明。排水溝のせき止め水は、土のうを積んでおり、東電は外洋に流れ出た可能性は否定している。【栗田慎一、蓬田正志】

*****

福島第1原発:井戸で過去最大のトリチウム…汚染水問題
毎日新聞 2013年10月18日 22時07分(最終更新 10月18日 23時18分)
http://mainichi.jp/feature/20110311/news/20131019k0000m040096000c.html

東京電力は18日、福島第1原発で高濃度汚染水約300トンが漏れた地上タンク付近にある地下水観測用井戸から、放射性物質のトリチウム(三重水素)が1リットル当たり79万ベクレル検出されたと発表した。
10日に測定した同32万ベクレルの約2.5倍で過去最大値。この井戸からは放射性ストロンチウム90などほかのベータ線を出す放射性物質も、過去最大値の同40万ベクレルが検出されている。いずれも17日に採取した水を調べた。

観測井戸は、9月上旬に掘られた八つのうちの一つで、高濃度汚染水が漏れたタンクから北に約20メートル。井戸の北側には、タンク内の水を出し入れするポンプ設備の配管などがあり、漏れた水で汚染された土壌を撤去しきれなかった。井戸にはふたがされていた。
トリチウムは、第1原発の放射性汚染水を浄化する多核種除去装置「ALPS(アルプス)」では除去できない。東電は濃度上昇の理由について「汚染土に含まれる放射性物質が台風の雨で移動して地下水に影響した可能性がある」とみている。汚染土の撤去や汚染地下水のくみ上げなどの対策を検討する。
ほかに、17日に採取したタンク近くの排水溝の水からも、ストロンチウム90などが1リットル当たり3万4000ベクレル検出されている。