守田です(20190616 10:30)

九州電力川内原発1号機と2号機が来年3月18日、5月22日に止まる見通しとなりました。理由は「テロ対策が間に合わないからだ」と報道されています。 川内原発ばかりでなく、いま動いている他の7基、伊方、大飯、高浜も同じように期限が来たら止まる見通しです。 何はともあれ危険な原発が止まる見通してあるのはそうでないよりは良いことです。しかし、ここでもまた大嘘がまかり通っている。いつものことですがマスコミがこれときちんと報道していません。

● 原発が次々と止まる見通し

今回の原発の停止の見通しは新規制基準の中で設置を義務付けた「特定重大事故等対処施設」が期限までに建設ができないことを理由とするものです。 川内原発の期限はすでに見た通りですが、この他では伊方原発が期限が2021年3月で工事が約1年延びる見込み、同じく高浜3号機が期限が2020年8月で約1年、4号機が2020年10月で約1年、大飯3,4号機が2022年8月で約1年です。 すべての電力会社が「期限までには間に合わない」「これ以上の工期短縮は無理」と公言しているため、このスケジュールで止まっていく可能性が高いです。


日経新聞 2019年6月14日より

このことは電力会社にとって原発がますます大きな経営リスクとなっていることを意味します。 そもそもこの困難の上に、いつまたどこでどんな事故が起きるか分からない。小さな事故でも停まってしまえばその分赤字になります。経営判断として原発を抱えることのリスクがどんどん大きくなっているのは間違いない。 私たちはこれ自身が民衆運動の成果であることをしっかりと確認しておきましょう。私たちが金曜行動などで繰り返し原発反対を唱え続けているからこそ、原子力規制委員会も「期限切れなら停止」と言い出さざるをえないのです。

原発、テロ対策重く 川内原発が初の停止へ  残る再稼働6基に波及も 日経新聞 20190614
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO46120630U9A610C1EA4000/

● 進んでいないのは「テロ対策」の前段の「重大事故対策」!騙されてはいけない!

しかし私たちはここに大きなウソが介在していることもしっかりと把握しておく必要があります。電力各社が「間に合わない」と言っているのは、「テロ対策」だけでなく、重大事故の際に放射能の飛散量を抑制するためのフィルターベント設置などなのです。 もう少し詳しく言うと、今回、規制委員会が新規制基準(2013年)から5年といい、その後工事計画の審査を終えてから5年と猶予を伸ばしてきたのは「特定重大事故等対処施設」と言われるものです。 メインは原子炉から100m以上は離れた場所に緊急制御室を設置するなど。ここに「フィルターベント」が組み込まれているのですが、それが「テロ対策施設」かのようにごまかされている点が大問題なのです。

規制委員会発行の「実用発電所原子炉に係る新規制基準について」という文章を見ても分かります。(特に6ページ) ここでは、かつては「共通要因による安全機能の喪失を防止(シビアアクシデントの防止)」までしかなかったが新規制基準では「万一シビアアクシデントが発生しても対処できる設備・手順の整理」を足したとされています。 その中に「格納容器の閉じ込め機能の維持」がありベントの設置が含まれ、その次にやっと「テロや航空機衝突への対応」として「原子炉建屋外設備が破損した場合等への対応」が出てきますが、現状ではこの重大事故対策もなされていないのです。

「実用発電所原子炉に係る新規制基準について」 原子力規制委員会 http://www.nsr.go.jp/data/000070101.pdf


「実用発電所原子炉に係る新規制基準について」6ページ

● 規制委員会は「重大事故対策」を「テロ対策」と偽ってきた!

規制委員会は本来、「テロ対策」ではなくて「重大事故対策」であるフィルターベント設置に、加圧水型原発に限って5年以上の猶予を与えました。 東電などの沸騰水型原発に比べて格納容器が大きくすぐには崩壊には至らないからだなどと説明されていますが、これもまったくの嘘。福島とタイプが違い、西日本に多い加圧水型なら批判は少なかろうと先に動かしたかったから猶予を与えたのです。 その際、沸騰水型では再稼働の条件である「重大事故対処施設」に組み込まれたフィルターベントの設置が、加圧水型では「特定重大事故等対処施設」に組み込まれ、全体として猶予が与えられたのでした。

ようするに新規制基準の大きな軸の一つがないまま稼働している事実を言い逃れるために「テロ対策」にフィルターベントを組み込んで、マスコミや人々を欺いたのです。 ところが資金難から電力会社がこれをも嫌がり、先延ばしにしていて、新規制基準が適用されていない状態が続いているので、先に「テロ対策の再度の延期は許さない」と言い出し、むしろ再度、それまでの猶予を確認したのが今回の真相です。 だとするならば、問題にしなければいけないのは、新規制基準を満たしていない稼働中の原発をすぐに停めることだということがすぐにも分かります。そもそも「期限」を付けてきたことの中にも偽りがあるのです。


九州電力ホームページより 「テロ対策」となっているのは⑮のみ!

● 原子力災害対策の早急な見直しが必要だ!

これは原子力災害対策にも直結する事態です。 規制委員会は「新基準によって事故で放出される放射能量は福島の時の100分の1以下になる」と公言し「事故に際しては5キロ以遠は自宅待機した方が安全」などとも言って、原子力防災を抑圧すらしてきたからです。 しかし実際にはそんな新規制基準など適用されてないのです。福島原発事故が起こった時とほとんど変わらないような状態でいま原発は動いているのです。

それなら最低でも福島原発と同レベル以上の放射能が流れることを前提とした原子力災害対策を全国で進めねばなりません。 兵庫県丹波篠山市はだからこそすでに市民に「いざというときはとっとと逃げて下さい」と伝え、安定ヨウ素剤を事前配布しましたが、これは兵庫県が旧規制基準で試算したところ、兵庫県の過半の都市に大量の放射性ヨウ素の飛来が分かったからです。 ところがこの試算結果を兵庫県はHPから削除してしまいました。理由は「新規制基準ではそこまで飛ばないから」というのです。しかしそんな基準、適用なんかされていないのです。だから兵庫県もせめて旧規制基準対応にあらためるべきです。

もちろんそんな事故など起こさせないのが良いに決まっています。国がなすべきことは新規制基準など適用されていない現状をかんがみて、ただちにすべての原発を停めることです。 あくまでもみんなでこれをも止め続けなくてはなりません。しかしそれでも稼働しているので災害対策を進めなければならない。そのときに新規制基準の考え方など絶対にとってはいけない。だって適用されていないのですから。 それらから国に対しては全原発をすぐに停めよ!と突きつけましょう。同時に各自治体には「新規制基準は適用されていません。旧規制基準に対応する原子力災害対策を策定してください」と要請していきましょう。