守田です。(20121009 23:30)

10月5日に東京での記者会見に参加しました。記者会見の内容はたくさんのマスコミ紙面に反映されたようです。会見の様子は以下から見ることができますのでご覧ください。おって詳細な報告を出したいと思います。

*USTREAM録画「市民と科学者の内部被曝者問題研究会(汚染・環境実態調査検討部会モニタリングポスト検証チーム)記者会見」
 http://www.ustream.tv/recorded/25928641

さて7日に同志社大学のある寮に赴き、防災訓練に参加しました。僕の役どころは、避難訓練に続いて、原発災害に対する心得をお話することでしたが、学生さんたちがとても熱心に聞いてくださいました。「初めて自分の問題として考えた」という方もいたそうで、良かったです。
これにむけてレジュメを作りましたので、ここに貼り付けます。まずはこれをご覧ください。

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原発災害に対する心得

知っておきたい心の防災袋(防災心理学の知恵)
1、災害時に避難を遅らせるもの
○正常性バイアス⇒避難すべき事実を認めず、事態は正常と考える。
○同調性バイアス⇒とっさのときに周りの行動に自分を合わせる。
○パニック過大評価バイアス⇒パニックを恐れて危険を伝えない。
○これらのバイアスの解除に最も効果的なのは避難訓練

2、知っておくべき人間の本能
○人は都合の悪い情報をカットしてしまう。
○人は「自分だけは地震(災害)で死なない」と思う。
○実は人は逃げない。
○パニックは簡単には起こらない。
○都市生活は危機本能を低下させる。
○携帯電話なしの現代人は弱い。
○日本人は自分を守る意識が低い。

3、災害時!とるべき行動
○周りが逃げなくても、逃げる!
○専門家が大丈夫と言っても、危機を感じたら逃げる。
○悪いことはまず知らせる!
○地震は予知できると過信しない。
○「以前はこうだった」ととらわれない。
○「もしかして」「念のため」を大事にする。
○災害時には空気を読まない。
○正しい情報・知識を手に入れる。

原発災害にどう対処するか
1、原発災害への備え
○災害対策で一番大切なのは避難訓練。原発災害に対しても避難訓練が有効。
何をするのかというと、災害がおこったときをシミュレーションしておく。
○家族・恋人などと落ち合う場所、逃げる場所を決めておく。
○持ち出すものを決めておき、すぐに持ち出せる用意をしておく。

2、情報の見方
○出てくる情報は、事故を過小評価したもの。過去の例から必ずそうなる。
○「直ちに健康に害はない」=「直ちにでなければ健康に害がある」。
○周囲数キロに避難勧告がでたときは、100キロでも危険と判断。

3、、避難の準備から実行へ
○災害を起した原発と自分の位置関係を把握。基本的には西に逃げる。
○マスク、傘、雨合羽必携。幾つか代えを持つ。
○お金で買えない一番大事なものを持ち出す。その場に戻ってこられないと想定することが大事。どうでもいいものは持っていかない。
○可能な限り、遠くに逃げる。逃げた先の行政を頼る。
○雨にあたることを極力避ける。降り始めの雨が一番危ない。
○二次災害を避けるべく、落ち着いて行動する。

放射線被曝についての心得
1、福島原発事故での放射能の流れと情報隠し
○福島原発事故では風の道=人の道に沿って放射能が流れた。
○被曝範囲は東北・関東の広範囲の地域。京都にも微量ながら降っている。
○SPEEDIの情報隠しなど、東電と政府の事故隠しが被曝を拡大した。

2、知っておくべき放射線の知恵
○放射能から出てくるのはα線、β線、γ線。体への危険度もこの順番。
○空気中でα線は45ミリ、β線は1mしかとばず、γ線は遠くまで飛ぶ。
○このため外部被曝はγ線のみ。内部被曝ですべてのものを浴びる。
○より怖いのは内部被曝。外部被曝の約600倍の威力がある。(ECRR)
○外部被曝を避けるには必要なのは、放射線源から離れること、線量の少ないところにいくこと。
○内部被曝を避けるために必要なのは、汚染されたチリの吸い込みを避けること、汚染されたものを飲食しないこと。

3、放射能との共存時代をいかに生きるのか
○元を断つ。
○被曝の影響と向き合う。被爆者差別とたたかう。
○あらゆる危険物質を避け、免疫力を高める。前向きに生きる。

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さて、ここでこのレジュメをみなさんに公開するのは、ぜひこの「原発災害に対する心得」を今後のそれぞれの防災対策に役立てていただきたいと思うからです。
とくに今回共著したいのは「知っておきたい心の防災袋(防災心理学の知恵)」と「原発災害にどう対処するか」についてです。このうち前半は災害一般に対する防災心理学の提言ですから、あらゆる災害に通用することです。後半はこの防災心理学の知恵を、原発災害に適用したものです。

ですから「知っておきたい心の防災袋」は、あらゆる災害に通用しますから、ぜひいつでも見れるところにおいておき、繰り返し読んで、心に留めておいていただきたいものです。災害時に必ず役に立ちます。これを知っているかどうかで生きるか死ぬかの分かれ目にすらなりえます。

この知恵をとても分かりやすく解説している本を先に紹介しておきます。『人は皆「自分だけは死なない」と思っている 防災オンチの日本人』という本です。防災システム研究所所長山村武彦さんの著作で、宝島社から2005年に出版されています。

さてこれまでも何度も取り上げてきているのですが、私たちが災害対策として一番に心に留めておきべきことは、命の危機に遭遇することの少ない現代社会の生活を送っている私たちは、日常生活の中で危機に対処する訓練をしてこないので、いざとなったときに、心がロックして、危機への適切な対応ができなことです。

同書ではこれを「正常性バイアス」「同調性バイアス」「パニック過大評価バイアス」とまとめていますが、この中で最も大きな位置を持っているのが「正常性バイアス」です。バイアスとは偏見のことですから、危機に瀕しても、事態は正常なのだ、ないしは正常に戻るのだという「バイアス」を現実にかけてしまい、あくまで危機の認識を回避してしまうことです。

なぜこのようなメカニズムが働くのか。私たちの心にはいわば許容量があり、それを上回るものを受け入れようとすると、心が壊れてしまいます。そのために心理状態の安定を守るための措置として、現実に対する認識を歪め、心の平成を保とうとするのであり、いわばこれは私たちの一つの生活の知恵とも言えます。

災害のときにはこれが私たちに危機をもたらすのです。例えば今突然、異常を告げるベルが鳴ったとする。「大変だ!」と感じたら、私たちはすぐに必死の行動に移らなければならない。しかし「誤報じゃないの?」と考えたら、とりあえずは心穏やかにしていられるわけです。しかしそのことで避難のチャンスを失ってしまうかもしれません。

この「正常性バイアス」に輪をかけて、危険性を拡大するものが、「同調性バイアス」と「パニック過大評価バイアス」です。前者は何かの突発事態があったときに、周りの顔色をうかがい、それに従ってしまうことです。この場合、周囲が正常性バイアスに陥っていると、それに同調してしまうことになります。そうではなくて、自分の危機意識に基づいて行動することが大事です。

さらに危険なのが「パニック過大評価バイアス」で、そもそも現代人はなかなかパニックになりにくいのに、さらにパニック回避を理由に、伝えるべき事実を隠してしまったり、非常に軽く、穏当に伝えることで、正常性バイアスを強める結果を生んでしまうことです。とくにこれは行政など、災害情報を伝える側が、けして陥ってはならないバイアスです。

大事なのは、こうした「正常性バイアス」「同調性バイアス」「パニック過大評価バイアス」のロックをはずすことで、災害心理学が進めているのは、一にも二にも、実際の災害を想定した避難訓練を行うことです。

避難訓練を繰り返していると、危機に瀕した時の心のよりどころが生まれます。よりどころとは危機への対処法、あるいは自分がとりあえずばすべきことを知っていることです。そのことで、危機の認識を避けなくても、心の平成を保てるので、現実を歪めることなく正しい認識が行えるのです。もちろん平成といっても、危機を受け入れているわけで、心穏やかではありませんが、けして心が壊れるようなことはありません。

あらゆる避難訓練はそのためにも行われていることを知っておくことが大事です。そのため、避難訓練には積極的に参加し、そこで学んだんことを日常でも時々、反芻すると良いです。ここまでが災害一般においておさえておくべき内容です。私たちの国は自然災害大国ですから、これは私たちが豊かな人生を送るための必須の知恵です。

続く