守田です。(20111011 23:30)

このところ、連続講演で走り回っています。8日、9日にベジタリアンフェスティバルに参加させていただいてお話し、放射線相談会なども開催しました。避難中の親子などたくさんの方とお話できました。また今日11日は、亀岡市でママさんたちを中心とした集まりに呼んでいただきました。

それぞれに新たな素晴らしい出会いなどもあり、充実した時間を過ごすことができました。後ほど、報告を書きたいと思いますが、いまここでお伝えしたいのは、この間、参加したある大学の寮における消防訓練の場での講演についてです。消防局の隊員の方たちもいる場でお話しました。

ちなみに消防局の隊員の方たちを僕はとても尊敬しています。素晴らしい力を持っていて、311大震災でも各地から被災地に集結して大活躍をされました。原発災害では、東京都のハイパーレスキュー隊が見事な放水をしてくれた。しかしこのとき、多くの隊員の方たちが被曝してしまっています。

10年とちょっと前の茨城県東海村でおこったJCO事故のときも、救急隊の方が、臨界事故が起こり、作業員の方たちの重度の被曝が起こっていることを告げられずに現場に呼ばれたために、放射化したこれらの方たちから被曝をしてしまいました。それだけに消防隊の方にも聞いていただけるのは嬉しかった。

この日は簡単なレジュメを用意していきました。まず最初にこれをご覧いただきたいと思います。

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原発災害に対する心得

知っておきたい心の防災袋(防災心理学の知恵)
1、災害時に避難を遅らせるもの
○正常性バイアス⇒避難すべき事実を認めず、事態は正常と考える。
○同調性バイアス⇒とっさのときに周りの行動に自分を合わせる。
○パニック過大評価バイアス⇒パニックを恐れて危険を伝えない。
○これらのバイアスの解除に最も効果的なのは避難訓練

2、知っておくべき人間の本能
○人は都合の悪い情報をカットしてしまう。
○人は「自分だけは地震で死なない」と思う。
○実は人は逃げない。
○パニックは簡単には起こらない。
○都市生活は危機本能を低下させる。
○携帯電話なしの現代人は弱い。
○日本人は自分を守る意識が低い。

3、災害時!とるべき行動
○周りが逃げなくても、逃げる!
○専門家が大丈夫と言っても、危機を感じたら逃げる。
○悪いことはまず知らせる!
○地震は予知できると過信しない。
○「以前はこうだった」ととらわれない。
○「もしかして」「念のため」を大事にする。
○災害時には空気を読まない。
○正しい情報・知識を手に入れる。

原発災害を耳にしたときの対処
1、情報の見方
○出てくる情報は、事故を過小評価したもの。過去の例から必ずそうなる。
より深刻な事態が起こっていると捉える。
○「直ちに健康に害はない」と言われたら、「直ちにでなければ健康に
害がある」と捉え、害を防ぐ行動をとる。
○周囲数キロに避難勧告がでたときは、100キロでも危険と判断し
直ちに避難。

2、避難の準備
○災害を起した原発と自分の位置関係を地図で把握し、気象情報から
風下がどこかを確認する。分からなければとにかく原発から離れる
検討をする。
○マスク、傘、雨合羽必携。幾つか代えを持つ。
○お金で買えない一番大事なものを持ち出す。その場に戻ってこられ
ないと想定することが大事。どうでもいいものは持っていかない。

3、避難にあたって
○可能な限り、遠くに逃げる。逃げた先の行政を頼る。
○雨にあたることを極力避ける。降り始めの雨が一番危ない。
○二次災害を避けるべく、落ち着いて行動する。

放射線被曝についての心得
1、知っておくべき放射線の知恵
○放射能から出てくるのはα線、β線、γ線。エネルギー量もこの順番。
○空気中でα線は45ミリ、β線は1mしかとばず、γ線は遠くまで飛ぶ。
○このため外部被曝はγ線のみ。内部被曝ですべてのものを浴びる。
○より怖いのは内部被曝。外部被曝の約600倍の威力がある。(ECRR)

2、被曝を避けるために必要なこと
○外部被曝を避けるには必要なのは、放射線源から離れること、線量の
少ないところにいくこと。
○内部被曝を避けるために必要なのは、放射線源から離れ、線量の少ない
ところにいくとともに、チリの吸い込みを避けること、
汚染されたものを飲食しないこと。

3、放射能との共存時代をいかに生きるのか
○元を断つ。
○あらゆる危険物質を避け、免疫力を高める。前向きに生きる。

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まず初めにお話ししたのは、「明日に向けて」(277)で触れた「正常性バイアス」についてです。防災心理学の言葉で、危機が目の前に迫っているのに、危機を危機として認識せず、事態は正常だと思い込んでやり過ごそうとするバイアス=偏見のことです。

同調性バイアスとは、いざというときに周りの様子をうかがい、合わせてしまうこと。判断停止に陥り、付和雷同してしまうことです。この場合、幸いにも周りに積極的に逃げ出そうとする人がいる場合には、結果として避難が可能になりますが、誰も動かない場合は、逃げ遅れてしまう可能性が高い。

防災心理学では、この正常性バイアスこそが、避難を妨げる最も大きな壁だと指摘しています。ではこの心理的ロックを解除するにはどうしたらいいのか。そこで指摘されているのが、あらかじめの避難訓練の実施なのです。人はシミュレーションがあれば、現場でもそれに沿って行動できるからです。

原発災害でも同じことが言えます。あらかじめの避難訓練が最も大切です。実地訓練ができれば一番ですが、なかなか難しいので、図上訓練を行うといい。自分の近くの原発を調べて、避難経路を確認するなどするとよいですが、原発や放射線の危険性を学ぶことも、図上避難訓練の一部となります。

もう一つ、大事なのは、災害に遭遇したときの心理として、人が、パニック過大評価バイアスに陥りやすいことです。311後にも「パニックを起こしてはならない」という言葉がしきりに語られましたが、実はその結果、危険情報が伝わらない方が、肝心の危機が隠されてしまうため危険なのです。

行政に携る人々や、理屈っぽい男性(僕のその一人ですが)などがかかりやすいバイアスですが、実は人はそう簡単にはパニックを起こさないのです。それは今回の311大震災・大津波・原発災害時に多くの人々がみせた整然たる行動にもあらわれています。

これらから導き出される結論を、箇条書きにしたものが、「知っておくべき人間の本能」と「災害時!とるべき行動」です。これは、『防災オンチの日本人 人は皆「自分だけは死なない」と思っている」』山村武彦著、宝島社からの引用ですが、実に的確な指摘だと思います。

ここに書かれたことはあらゆる災害についてあてはまることです。このためこの点を理解していると、あらゆる災害時に適用できます。火災でも地震でも複合災害でも、同じ心理が働くからです。ぜひこの内容はプリントして、学校や会社など、公の場に貼りだしておいて欲しいものです。

さて、当然にもこの内容は原発災害にも該当します。そしてそれは特別な訓練をしていない限り、原発の運転手や営業会社、管轄官庁、政府などをも飲みこんでしまいます。行政がパニック過大評価バイアスにかかるだけではない。正常性バイアスにも同調性バイアスにも陥るのです。

いや原発災害こそその可能性が高い。なぜか。「事故が起こるのは天文学的確率」などといってリアルな想定をできてないからです。いやリアルに事故が想定できるなら、原発は危険すぎて運転を許されなくなってしまう。そのため運転を続ける限り、事故をリアルに想定できないのです。絶対的な負のスパイラルです。

このため、スリーマイル島事故でも、チェルノブイリ事故でも、事故当初、運転員も管轄部署も、「信じがたいような楽観的な見方をした」ことが記録されています。いざというときの対処をしてないので、異変が起こっても、誤報ではないかとか考えて、俄かには事実を受け入れられないのです。

福島原発事故でもそうでした。事故直後にヘリで現場にむかった管首相に対して、原子力安全委員会の斑目委員長は「総理、日本の原発は壊れません。大丈夫です」と語ったとされています。管首相もそれを信じてしまった。両者ともに完全に正常性バイアスにはまってしまったのです。

また多くの行政がはまったのは同調性バイアスでした。これは行政に色濃く存在する「事なかれ主義」によっても加速されました。このため自ら独自に「逃げよ」という判断を出せた県や市町村はほとんどなかった。このため住民は逃げる決定的チャンスを失いました。

マスコミもまた正常性バイアスと同調性バイアスに色濃くはまってしまいました。すべてのテレビ、新聞が、政府の安全宣言を繰り返す広報のようになってしまった。この深刻な事態を、今なお、わがこととして捉えかえしている大手メディアはありません。とても残念なことです。

これらが合わさりながら、「パニック過大評価バイアス」もより強く働きました。危機の可能性を語るだけで、「パニックをあおるな」というバッシングの対象になり、ますます危険情報が隠されてしまうようになりました。正常性バイアスと同調性バイアス、パニック過大評価バイアスはセットになってより強力になった。

いや、今もそれは働き続けています。それが原発事故がまったく収束していない事実を覆い隠し、さらに非常に危険な放射線被害が広がりつつあることにもマスクをしてしまっています。まさにこのような状態の中で、私たちは原発災害から身を守る真の方向性を切り開いていく必要があるのです。

もちろん、実際にあったことはこうしたバイアスだけでなく、意図的な事故隠しや、危険を知りつつ安全を宣言するなどの犯罪的行為の重なりであり、それはまた別に批判されなければならないことですが、ここで強調したいのは、正常性バイアスは、事故の可能性を憂いて、対策を取ってないものに等しく襲ってくるということです。

これらからぜひ、各地で、こうした点を頭に入れた原発災害訓練を推し進めることを呼びかけたいと思います。それは現に進みつつあるむ放射線被曝への構えを強化し、必要な避難を促進することにもつながります。それは脱原発の声の高まりにも連なって行くものだと僕は思っています。

僕自身、呼んでいただければどこへでも講師で赴きます。どうぞ声をかけてください!