守田です。(20160901 11:30)

7月17日に伊方原発3号機で一次冷却材ポンプの故障事故が起こりました。
四電は予定されていた7月末の再稼働を断念、部品の取り換えなど大掛かりな修理を行い、8月12日に再稼働を強行しました。
しかし細かく調べてみるとこの一次冷却水ポンプはこれまでも繰り返し事故を起こしてきたことが分かりました。
また四電の事故に関する発表を分析してみると、格納容器の耐圧試験で壊れてしまったこと、にもかかわらず再び予備部品への交換だけで対処に代えられたことが分かりました。

僕はこれらの事態から、そもそもこの一次冷却材ポンプには構造的欠陥があり、だから事故を繰り返してきたのではないかと推論しました。
この点に関して専門の技術者からの助言を得たいと考えて、元東芝の技術者の小倉志郎さんにお尋ねしました。
小倉さんは『元原発技術者が伝えたいほんとうの怖さ』(彩流社)を書かれた方で、同じく元東芝の格納容器設計者だった後藤政志さんの先輩にあたります。「原子力プラントに誰よりも精通した方」と後藤さんよりご紹介いただきました。

小倉さんはこのように指摘してくださいました。
「問題の伊方原発3号機ポンプ故障についてですが、守田さんのご指摘の通り、この軸シール=軸封装置=こそ、原子炉システムの「アキレス腱」です。そして、この装置については政府=原子力規制庁=の技術基準はありません。
原子炉圧力バウンダリーを構成する箇所でありながら、「溶接部」「フランジ部」とは異なり、圧力に耐えている部品同志が相対的に移動しあっているのですから、内部から液体が漏れるのを防ぐのは至難です。
とりわけ、原子炉の高圧がかかるのですから、その部品の設計はメーカーの設計、製造技術、経験のノウハウ固まりのようなものです。」

僕なりに読み解いていきたいと思います。

まず一次冷却材ポンプは「原子炉冷却材圧力バウンダリ」を構成する箇所です。この用語は以下のように定義されています。

「「原子炉冷却材圧力バウンダリ」とは、原子炉の通常運転時に、原子炉冷却材(加圧水型軽水炉においては一次冷却材)を内包して原子炉と同じ圧力条件となり、運転時の異常な過渡変化時及び設計基準事故時において圧力障壁を形成するものであって、それが破壊すると原子炉冷却材喪失となる範囲の施設をいう」

引用は以下の文章からです。

原子炉冷却材圧力バウンダリの考え方について
https://www.nsr.go.jp/data/000050332.pdf

ここは原子炉内と同じ圧力に耐えていて、冷却材を封じ込めているのですから、ここが突破されれば最も恐ろしい冷却材喪失事故が起こり、メルトダウンが発生しかねない核心部分だということです。
しかし溶接でがっちりと接合してあるところや、配管を周りに貼り出した帽子のふちのようなところでボルト締めしている「フランジ部」と違って、このポンプの中の冷却材のシール部は、部品同士が相対的に動きあっている。
なかなかこの部分の構造が理解しにくいのですが、四国電力が発表した以下の故障原因の説明の図をみると概略が分かると思います。

伊方発電所3号機 1次冷却材ポンプ3B第3シールの点検結果等について
四国電力 2016年7月25日
http://www.yonden.co.jp/press/re1607/data/pr005.pdf

小倉さんは次のように続けられています。
「ケーシングに固定された固定リングと軸に固定されたリングの接触面は水分子程度の微小な隙間を介して、こすれあっています。その隙間から「なぜ水が漏れないのか?」の理由さえよくわからないのです。
ですから、ある時漏れたとしても「なぜ漏れたか?」がわかるわけがありません。それで、7月25日に四国電力がプレスリリースしたような「一方のリングが傾いた」などという苦し紛れの理由を挙げるのです。
しかし、その傾きは光の1~2波長程度の傾きであっても漏洩の原因になるのですから、傾いた証拠など測定できるわけがありません。」

理解を進めるために、ここでポンプ一般(渦巻きポンプ)の構造を捉えておきたいと思います。以下をご覧下さい。

ポンプのお話
三和ハイドロテック株式会社
http://www.sanwapump.co.jp/special/story/01_08.html

ケーシングとはいわばポンプの外枠です。この中に羽根車が入っていて回ります。このとき羽根車がまわる部分には液体が入っているわけで、これが羽根車の軸受け部に侵入してこないように「軸シール」が付けられます。
原発の場合、ここに原子炉内の高圧がかかってしまうのでやっかいなわけです。それでここに純水を回す、液体によってシールをするという特別な方法をとっているわけですが、ここが技術的な難所であるわけです。
このポンプの軸受け部のシール方法に技術的困難を抱えているのは実は加圧水型原発だけではないそうです。沸騰水型原発も同様の部品を抱えているからです。沸騰水型では「再循環ポンプ」と呼ばれています。

小倉さんは次のように続けられました。
「私がBWRの原子炉再循環ポンプをはじめ各種のポンプでのシール部漏洩を起こした場合に良く見たのは「シール面=こすれ合う面=に微細な異物が侵入した」という理由です。しかし、分解してみてもそんな微細な遺物が見つかったためしがないのです。
今回の伊方の場合もそうですが、本当は漏洩の原因は不明なのです。しかし、「原因不明」と公表してしまえば、「対策の妥当性」を説明できなくなります。そこで、苦し紛れの誰も確認できない理由を挙げざるを得ないのです。
シールの断面の構造をみるかぎり、原子炉格納容器の漏えいテストのために原子炉格納容器の内圧を挙げたところで、第3シールの固定リングが傾くとは考えられません。上記したように、傾きの存在を確かめられないし、Oリングの摩擦力が(不均一に)増えたことも確かめられないのですから、これは空想による「屁理屈」でしかありません。」

これはすごい指摘です。
実際に現場に携わってきた方にしか知り得ないことですが、実は各種のポンプでこうしたシール部の漏えいがこれまでも起こってきており、しかも「本当の原因は不明」なのだというのです。
小倉さんはここから、7月25日に発表された四国電力の報告をバッサリ切り捨てておられます。「これは空想による「屁理屈」でしかありません」と!

この小倉さんのご指摘を読んで、とても納得するものがありました。
というのは四電は報告書の中で、格納容器の耐圧試験を行ったら、普段はこのシール部にかからない圧力がかかって第3シールの固定リングが傾き、隙間ができてしまってシール部の水が漏れたと説明しているのです。
しかしそれなら耐圧試験で壊れたことになるわけで、当たり前ですが、耐圧試験をクリアできる構造に変えないといけないわけです。
ところが四電はこの部品を予備品と変えることですませてしまったのですが、なんというか、どうしてそれで今回の漏えいの原因への対処を説明できたと四電の技術者が思えるのか分からなかったからです。

事実は小倉さんが指摘するようにそもそも原因が分かってないことにあるのでしょう。だから「屁理屈」で言い逃れようとしたわけですが、辻褄があわなくなってしまったのでしょう。
しかしこれは実にひどいことです。故障事故の原因が分かってないのです。当たり前ですがそれでは修理できません。それで新しい部品に代えてすましているわけなのです。しかし構造的欠陥が正されないのですから、再び故障事故が起こる可能性が極めて高い。
同時に大事なのは、この構造的欠陥は加圧水型原発だけのものではないということです。沸騰水型も同じ問題を抱えている。その意味で原発のアキレス腱そのものなのです。

小倉さんはこう結論付けています。
「シールの断面のポンチ絵を見れば第1シールの内側に「封水」、第3シールの内側に「パージ水」を注入しています。これらは常温の純水のはずです。
ですから、なんらかの原因で、「封水」「パージ水」が止まった場合には高温高圧の原子炉水がシール内部に侵入してきて、シール部品に使っているOリングやカーボンリングを破損させて、LOCA(原子炉冷却材喪失事故)の原因にもなりかねません。
ですから、PWR、BWRのどちらにおいても原子炉圧力バウンダリーでありながら、原発導入の最初から規制の「盲点」になっていたと言えるでしょう。
PWRは3段シール、BWRは2段シールと基本的な違いがありますが、原理的な弱点を持っていることは同様です。」

恐ろしいのはこの構造的欠陥、ポンプの軸受け部のシール技術の未確立から繰り返されてきた水漏れ故障事故が、冷却材喪失事故に直結する可能性があることです。まさに原子炉の核心部の構造的欠陥です。
この一点からだけでも、もはや日本中のすべての原発を動かしてはならないことは明らかです。

なお小倉さんは、他にも現場で作業に携わった方でしか知り得ないリアリティに基づきつつ、原発の「ほんとうの怖さ」を伝えて下さっています。
ぜひこの機会に小倉さんの著書、『元原発技術者が伝えたいほんとうの怖さ』(彩流社)をお読み下さい。
僕が書いた拙い書評も末尾にご紹介しておきます。

最後になりましたが丁寧にご説明くださった小倉さんに感謝を申し上げます。

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明日に向けて(1258)書評『元原発技術者が伝えたいほんとうの怖さ』(小倉志郎著)上
2016年5月5日
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/4d69f94211bb3211cd069067a5d12e45

明日に向けて(1259)原発の複雑さと被曝の恐ろしさ―書評『元原発技術者が伝えたいほんとうの怖さ』中
2016年5月7日
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/3ad835a9c25f35ad2ec51063e164ecd9

明日に向けて(1260)原発の危険性の核心―書評『元原発技術者が伝えたいほんとうの怖さ』下
2016年5月8日
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/58e006e2625b59e2151bb7218500c919