守田です。(20160119 09:30)

「明日に向けて」前号で、原発のケーブル不正敷設問題についての緊急署名を取り上げました。
昨年9月に柏崎刈羽原発6号機で発覚したケーブル不正敷設が、その後、他の多くの原発でも行われていたことが明らかになった問題です。
このため原子力規制庁は本年1月6日に各電力会社に対して、すべての原発で同様の問題が起こっていないかどうかを点検する指示を出しました。

ところがこの指示からすでに再稼働している川内原発1号機2号機と、再稼働が予定されている高浜原発3号機4号機が外されているのです。
理由は新規制基準でこの点の審査がなされたことになっているので問題ないというのです。本当でしょうか?再稼働を進めたいからよしとしているだけではないでしょうか?
ケーブル問題は原発の安全性の根幹にある問題の一つです。にも関わらず再び三度杜撰なことが強行されようとしています。
昨夜、ここで提案したのはこれを食い止めるための署名への協力です。再度、掲載しますので、ぜひお力をお貸しください。

高浜・川内原発も調査を!ケーブル不正問題についての緊急署名
https://fs224.formasp.jp/f389/form1/

さて、今回は問題をより一歩深めて、ケーブル不正敷設問題が、どれほど大きなものなのかを論じていきたいと思います。
今回の不正は「発電用原子力設備に関する技術基準を定める省令(昭和四十年六月十五日通商産業省令第六十二号)」への違反と言うことになります。
1965年に制定された、原発の運用全体をカバーする法律ですが、焦点のケーブルの問題は第4条の二にあたります。
これは1975年の改定であらたに付け加えられた附則(昭和五〇年一二月二三日通商産業省令第一二二号)に記されています。

後に第四条二の内容も詳しく見ていきますが、重要な点はこの改定が目指したものは、それまで原発に使われているケーブルが可燃性のものであった点を難燃性のものに変えさせることにあった点です。
同時に火災が起こった場合の影響をさらに減らすための防火壁の設置なども求められました。このためケーブルをひとまとめにせず、必要に応じて分けて敷設し、万が一ひとつの系統がダメになっても他の系統が生き残れる指示などがされたのです。
まず指摘しておきたい重大問題は、この1975年に発せられた安全対策の指示が、それ以前に作られた原発には適用されず、危険な可燃性のケーブルが使用され、防火壁やケーブルの仕分けもないままに多くの原発が運転され続けた来たことです。

これがどれほど危険かと言うと原発内で火災が発生した時に、可燃性ケーブルによって延焼が拡大してしまう可能性があるからです。ちなみに原発のケーブルの長さは1基あたり1000~2000キロもあります。これだけのものが燃えやすい素材で敷設されていた。
実際に1975年3月に起こったアメリカアラバマ州・ブラウンズフェリー原発1号機の事故では、1600本以上のケーブルが焼け、原子炉の安全性が確認できなくなってしまったという実例がありました。
火災事故は国内の原子力関係施設でも度々起きています。1967年~2012年3月に136件も発生していて、1967年の日本原子力発電東海原発では5人が死傷しています。
07年の新潟県中越沖地震の際には、今回問題となった柏崎刈羽原発3号機の変圧器が燃える事故が起こりました。11年の東日本大震災でも東北電力女川原発1号機で高圧電源盤がショートし7時間以上燃えました。

1975年の法令改定は火災事故の際の危険性を大幅に低減するためのものだったのに、なんと17基もの原発がこの適用を免れてしまい、危険な可燃性ケーブルのままに運転を続けていたのでした。以下に当該の原子炉と起動年を記します。、
東京・福島5号機・71、関西・美浜1号機・66、美浜2号機・68、高浜1号機・69、高浜2号機・70、美浜3号機・72、大飯1号機・72、大飯2号機・72、中国・島根1号機・69、四国・伊方1号機・72、九州・玄海1号機・70、日本原電・敦賀1号機・66。
これにすでに廃炉となった福島1~4号機を含んで合計17基になります。

この問題は毎日新聞が2013年1月1日の元旦の紙面に一面トップで大きく報じて明るみに出ましたが、実は12年に新規制基準に向けた有識者懇談会でも指摘されていました。記事の中でも以下のように指摘されています。
「11月21日の有識者会議で規制委の更田豊志(ふけたとよし)委員が「火災については『いいよ(遡及適用しない)』というのはいかんだろう」と2度も強調した。」
記事ではさらに極めて重要な内容が付け加えられています。

「経産省の積極姿勢には裏がある。関係者は「電力会社に古い原発の廃炉をのませ、代わりに新増設を進める作戦」と明かす。
安倍政権の脱「脱原発」路線を見越した動きだ。しかし、安全と新増設は次元のまったく異なる問題だ。取引材料のように使うことは許されない。」

素晴らしいスクープだと思います。なおこの記事を書いたのは高島博之、松谷譲二という二人の記者さんです。

僕もこの1面の記事を読んだときに、なぜ経産省が17基もの原発が可燃性ケーブルを使って運転し続けてきたことをある種積極的に明らかにしたのかいぶかって見ざるを得なかったのですが、この指摘で腑に落ちるものがありました。
経産省、そして規制庁は、原発の安全性の根幹を揺るがす可燃性ケーブル問題を、あえて積極的に表に出すことで、電力会社に古い原発の廃炉を飲み込ませ、「新増設」に向かおうとしていたのです。
以上の点を当時、僕なりにまとめた記事を以下にご紹介しておきます。今回のケーブル不正敷設問題の大前提になりますのでぜひお読み下さい。毎日新聞の記事の全文も貼り付けてあります。

明日に向けて(604)原子力規制庁と経産省が原発防火の不備を指摘・・・なぜ?
2013年1月3日
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/ca90c89e036b12f8d7978f7cdded0eed

さてその上で今回の事態の重大性について明らかにしたいと思います。
今回明らかになったのは、1975年12月にケーブルの安全性向上のための法令改定がなされたにもかかわらず、実際にはそれが適用されず、75年以前に作られた原発どころか、実に多くの原発が危険なままに運転を続けていたということです。
原発の安全性に対する信頼を根底から揺るがす重大問題です。これだけでもすべての原発の運転はただちに止められなければならないし、問題の深部がえぐられ、責任者が処罰されるまで、とても次に向かうことが許されるものではありません。
まずはすべての原発に対して、これまで電力会社が規制をすり抜けていたことに重点を置いた徹底した点検が行われるべきです。それがなされるまで、日本のすべての原発の信用性は担保されていないことこそが突き出される必要があります。

とくに重要なことは、法律で定められた安全性の順守を電力会社が守っていなかった事態を、規制当局がまったく把握してこれていなかったという事実です。実に40年間もです。長きにわたって安全性の根幹が見過ごされてきたのです。
悪いのは安全性をないがしろにしてきた事業者だけではありません。規制当局の資質こそが問われ、法令無視を見過ごしてきた責任者こそが追及されなければならないのです。
にも関わらず、原子力推進派は、主な責任主体である旧経産省保安院を潰してしまい、原子力規制庁を立ち上げることで、実にこの責任の継承性を断ちきるという無責任なことを行ってきたわけです。

しかし原子力規制庁は国の機関です。当たり前ですが、この安全のための重大な法規制が破られていたことを40年も見抜けなかったことに国は責任を負い続けているのであり、原子力規制庁も当然にも負わなければならないのです。
国の原子力政策を担ってきた機関には、原発の稼働の是非を問う資質がないことそのものがここにくっきりと明らかになっているのです。問題の本質はそこにあります。
私たちは電力会社や原子力規制庁という責任制の継承にほっかむりした無責任な団体によりも、運転の最終責任を負ってきた国に対して、安全性を無視した運転が日本中の原発で行われていた責任を問うのでなければなりません。

当然にも全貌が明らかになるまで再稼働論議を行うことなど論外そのものです。
この点を強調し、各地に広めていきましょう。マスコミの記者さんも、電力会社の批判者のように立ちまわっている原子力規制庁の言動に惑わされず、ぜひこのような問題の本質を追及して下さい。
この場でもさらに問題を掘り下げるために、より詳細に、見過ごされてきた第四条の二の内容、またそれに対する東電の弁明と、規制庁側の問題を曖昧化させようとする態度の追及を続けていきます。

分析を続けます。

続く

なおこれらについて以下の企画でお話します。お近くの方、お越しください。

京都の今を考えるⅢ 1月22日(金)
―どうなる原発!編―
https://www.facebook.com/events/1057606290928311/