守田です。(20150928 09:30)

篠山市で来年1~3月に安定ヨウ素剤の事前配布を行うことをご紹介しましたが、篠山市原子力災害対策検討委員会が篠山市長と市民に提出した「提言書」の中から、安定ヨウ素剤に関する項目(4章)を抜粋しご紹介します。
なおあらかじめ生じやすい誤解にお答えしておきます。

一つに提言で掲げている「原子力災害対策」の基本は「とっとと逃げる」ことです。
放射性ヨウ素が飛来する条件下ではもちろん他の核種も飛来します。この中で防げるのは放射性ヨウ素による被曝のみです。そのためこの薬を飲めば大丈夫だというわけではありません。
基本は安定ヨウ素剤を服用して「とっとと逃げる」ことです。逃げる途中に放射性ヨウ素に追いつかれた場合を考えて服用するのです。もちろん逃げられない方もおられます。その場合も考えて複数日数分の備蓄を提案しています。

二つに「放射性ヨウ素は半減期が短くてすぐに消える」ので大した意味はないのではというもの。
まったく反対です。半減期が短いのは単位時間あたりに出てくる放射線量が多いからです。半減期が30年のセシウム137と半減期が8日のヨウ素131を比較すると、セシウム137が1本の放射線を出す間にヨウ素131は約1369本もの放射線を出します。
このため半減期の短いものは短期に身体にものすごいダメージを与えるのです。そのためにも安定ヨウ素剤の服用は重要ですが、他にも半減期の短い核種はたくさんあるので、事故の初期ほど放射線値が高く、「とっとと逃げる」ことが大事なのです。

あらかじめこの点を補足した上で、以下の提言の4章をご紹介します。

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原子力災害対策計画にむけての提言
http://www.city.sasayama.hyogo.jp/pc/group/bousai/assets/2015/06/teigensyo.pdf

第4章 被曝防護のための安定ヨウ素剤の服用
第1節 安定ヨウ素剤服用の必要性
第1  放射性ヨウ素の甲状腺への取り込みを防圧
次に放射線被曝防護の観点から、安定ヨウ素剤の服用に必要性についての提言をまとめたいと思います。
安定ヨウ素剤の服用はなぜ必要なのでしょうか。もともと自然界にヨウ素という物質があります。身体はミネラルとしてこれを日々、取り込んでいます。
原発事故が発生した場合、原子炉内で生成された自然界にはない放射性ヨウ素が飛んできて、空気中のヨウ素と結びつき、放射能を持った人体に悪いヨウ素が生まれます。
ところが人体は自然界にある普通のヨウ素なのか身体にとって悪いヨウ素なのか見分けがつかないので、体の中に取り込んでしまうのです。

普通の食物の場合、例えばアルコールであれば、ある程度、肝臓で分解されて、その日のうちに腎臓から排出されるという経路を取ります。
ヨウ素は体の中のミネラルとしてある特定の臓器にある一定の期間、貯蔵されてしまう特徴があり、その間に放射線が出ることで臓器に損傷を与えてしまうのです。
とくに取り込まれる特徴があるのは甲状腺です。自然界にあるヨウ素によって甲状腺ホルモンを作っているため、ヨウ素を必要としているからです。

日本に長く住んでいる方の場合は、海外の内陸部で生活している人々に比べて、ヨウ素をたくさん含む海藻などの海産物を日常的に食べているため、ヨウ素を摂取する機会は多いと言えます。
しかし甲状腺をヨウ素のタンクに例えるならば、ヨウ素を燃料として甲状腺が働いているために、仮に一度タンクが満タンになっても、日々、燃料であるヨウ素は消費されていきます。
そのためタンクにはいつでもある程度の空きがあると考えるべきです。

そのため放射性のヨウ素が入ってきた場合に、空いている部分に放射性ヨウ素が入ってしまい、体外に出ていくまでの間、放射線が出て甲状腺を被曝してしまいます。この被曝の仕方を内部被曝と言います。
これに対し、放射性の悪いヨウ素が来る前に、自然界にあるものと同じ良いヨウ素で甲状腺のタンクを満たしておけば、悪いヨウ素が素通りしてくれる(タンクは満杯で入る余地がない)というのが、安定ヨウ素剤服用の意義です。

第2 安定ヨウ素剤服用の時期
そのことから逆に考えてみて、原発で事故が起きて放射性のヨウ素が飛んできて、身体が取り込んでしまったあとからいくら良いヨウ素を摂ってみても、悪いヨウ素がすでに甲状腺のタンクの中に入ってしまったら意味がないことになります。
具体的には、放射性ヨウ素の取り込みから6時間以上経ってから安定ヨウ素剤を服用しても、ほとんど効果がないのです。

逆に原発事故が起こったけれども、まだ放射性ヨウ素が飛んでこないのに、8日間ぐらい前に安定ヨウ素剤を飲んでも、ヨウ素が体外に排出されるので、悪いヨウ素が飛んできたときに再びタンクに隙間が出来てしまう。
適切な時期に適切な量をとらなければ効果が得られないのです。

ではどれぐらいが目安になるのかというと概ね24時間前に安定ヨウ素剤を飲めば、9割以上は防護できる、最低1日は十分持つとされています。研究報告によると4時間ぐらい遅れても6~8割ぐらい効果はあると言われています。
脳梗塞や心筋梗塞の発症への対処と比較すれば時間の余裕があります。
第2節 安定ヨウ素剤服用における諸注意
第1 服用にあたっての条件
誰が安定ヨウ素剤をどれぐらい飲むことが必要なのかですが、高齢者には若い人に比べて放射線被曝の影響が少ないと言われています。しかしそれはあくまで通常の被曝に対してのもので、高濃度の被曝を想定したものではありません。
そのため、救援活動従事者や医療従事者などは年齢に関係なく予防的服用が必要ですし、一般の高齢者も念のために服用した方が良いです。

結核病患者についてはかえって悪くする場合があるとも言われています。確かに一時的に悪くなることはありえますが、被曝による発がんの方が、将来的に重篤な結果を生むので、たとえ結核があっても服用すべきだと考えられます。
妊産婦に関しては、胎盤を通して放射性物質が透過するため飲むべきです。長期服用すると胎児の下垂体に働いて一過性の成長障害が起きうるとも言われますが、薬を飲む期間を一定に限ればその限りではないとデータに出ています。

第2 非常に低い副作用の発症率
アレルギーのある方の服用に関してですが、病院などではヨウ素は脳動脈瘤やくも膜下出血などを診断するために血管を造影するため、あるいは循環器系の血管を造影するために使われています。
ヨウ素系造影剤を注射して検査を行いますが、その際、100人の検査で1~2人ぐらいジンマシンが出ます。

こうしたヨウ素系造影剤で遅発性の24時間以内のアナフィラキシーショックで死亡した例もあります。
そのためヨード剤使用における副作用の心配が語られることとなったのですが、実際には医師によって静脈内にイオン状態で投与するのと飲むのとでは条件が大きく違います。
血液の中に医師が投与する場合はイオン状態にある造影剤が血液中の酸素と結びついて合併症になる場合がありますが、経口投与の安定ヨウ素剤は非常に安定しているのでほとんど起きません。

どれぐらい重篤な副作用があるのかというと、8,000~9,000万人が受けているインフルエンザ予防注射の場合、重篤な副作用の発生率は0.002%ぐらい。対してヨウ素剤の場合、重篤な副作用は0.0001%。20分の1です。
副作用の発生率がそれぐらいである以上、その後の利益を考えて、現場の責任者の責任において判断することは人道的に許されると考えられます。

この点については法的なサポートが必要です。現場の緊急判断の結果に関しては免責されることをはっきりとさせておくことが早急に望まれます。

第3 事前の調査の必要性
ただし可能な限りリスクを減らすために、事前調査を行うことが重要です。
ヨウ素に関する基礎疾患やアレルギーについてはすぐにもできます。春の健康診断が一斉に行われる時期にヨウ素に関するカードをつけて、それにチェックをしてもらうだけでよいので、すぐに始めるべきです。
そこで食物アレルギー、とくにヨウ素アレルギーがあるかないかを尋ねるのです。本人が分からないのならそれでもかまいません。食物アレルギーが何かないか尋ねるだけでも良くてそれはどういうものですかとその点をチェックしてもらえば良いのです。

第4 事前の教育の必要性
実際に薬を飲んでもらうことについて、福島の時はどうだったのかというと、多くの人々が福島原発事故まで安定ヨウ素剤の存在を知りませんでした。しかし原発周辺には配られていました。そのため安定ヨウ素剤は十分にありました。
しかしほとんど服用されませんでした。判断ができなかったためです。

このことから明らかなことは、安定ヨウ素剤があっても、副作用に関する知識が不十分であって過度に怖がったり、どの時期に飲んだらいいのかという知識がなかったら、実際のときにはなかなか的確に飲めないということです。
このため求められるのは訓練です。調査、教育、訓練が必要です。安定ヨウ素剤の必要性と副作用の実際、なぜその処置をしなくてはいけないのかという必要性を十分に分かっていたら、副作用を怖がって飲まないことは起きません。

そのため安定ヨウ素剤の場合でも副作用や発生率に関して詳しく説明し、かつ発現したときの対処を説明し、その上で必要性を説いて訓練をすれば、市民が安心して飲んだり子どもにも飲ませることができるので様々な場での教育が大切です。
とくに子どもの服用に関しては家庭の役割が重要となりますので、子どもが保護者とともに放射線防護や安定ヨウ素剤について学ぶことも大切です。
ある程度医学的な知識を持った保健師さんなどを、私たち検討委員会の医師が教育し、服用にあたっての注意事項について、一般の市民を含めて、講習を行っておけば、合併症の発現に対してもある程度は対応できます。

続く