守田です。(20150904 23:30)

多くの反対の声を押し切って川内原発再稼働に踏み切った九州電力は8月31日に1号機をフル稼働状態にしました。この日の午前11時20分に原子炉の熱出力を100%に保つ「定格熱出力一定運転」への移行が行われました。
原子力規制委員会の最終検査を経たのちに10日に営業運転に移るとしています。これとともに2号機にも11日にも核燃料を装填し10月中旬に再稼働、11月中旬に営業運転に移るとしています。
この間、明らかにしてきたように、世界で4年以上停まっていた原発を再稼働させたのはわずかに14例。そのすべてで事故がこっています。川内原発1号機自身も再稼働後にすぐに復水器でトラブルが起きました。このまま稼働を続けるのは大変危険です。
私たちは無謀な川内原発の運転を止めること、いわんや2号機を絶対に動かさないことを声を大にして訴えていく必要があります。

同時に危険性をまったくかえりみず、誰が責任主体なのかもはっきりしないままに稼動が強行されている事態をしっかりと直視し、民衆の側から原発災害対策を練り上げていく必要があります。
むろんこれはけして再稼働に手を貸すものではありません。そうではなくて、とにかく再稼働が危険に満ちているために身構える必要があるのです。これ抜きに再稼働の危険性を主張しても、何かが足りない主張になってしまうと僕は思います。
繰り返しますが、川内原発の再稼働は危険です。すぐにもトラブルが発生する可能性があります。また復水器など冷却系統でおこるトラブルは、冷却材喪失⇒メルトダウン=過酷事故の発生にただちにつながる可能性があります。
もともと加圧水型原発は一次冷却水の熱を二次冷却水に伝える「蒸気発生器」に弱点があり、繰り返し深刻な事故が起こっています。日本の加圧水型原発の製造者は三菱工業ですが、同社の蒸気発生器は2012年にもアメリカで深刻な事故を起こしています。

これらから私たちは、再稼働を強行してしまった川内原発の事故への備えを進めていく必要がありますが、その際に、ぜひ参考にして欲しいのが、僕も参加する兵庫県篠山市原子力災害対策検討委員会が6月に市長と市民に対して発した提言です。

原子力災害対策計画にむけての提言
http://www.city.sasayama.hyogo.jp/pc/group/bousai/assets/2015/06/teigensyo.pdf

以下の記事により詳しく提言のことに触れましたのでこちらも参考にしてください。

明日に向けて(1098)篠山市への「原子力災害対策計画にむけての提言」が公開されました!ぜひお読み下さい。
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/f9fc4d8144b29e54944c1237c9bc3188

篠山市原子力災害対策委員会が市長と市民に求めたのは以下の4点です。主に市長に施策の実行を求めていますが、同時に市民にも原子力災害に対応する力を身につけることを求めています。
(1)市民が避難する計画の策定
(2)安定ヨウ素剤の事前配布
(3)事故の際の対策本部の設置による市民への情報提供や勧告
(4)日頃からの災害全般に対する備えの強化

これら提言の精神として私たちは以下のことを強調しました。
「原子力災害が起こった時の対処として一番大事なのは「とっとと逃げる」ことです。いったん安全地に逃れてから危険の度合いを判断し、安全が確認されれば戻ってくるという対応をすることが、早期の対応として最も合理的です。」
「事故に遭遇した時に、理想的にすべての被害を防ぐことは困難であることを前提としつつ、少しでも被害を減らすこと、減災の観点に立って原子力災害対策の計画を練り上げることをこの提言は目的としています。」

原発事故に対する対策として一番、大事なのは、福島原発事故の例を見てもあきらかなように一度事故が始まってしまうと事故の進展具合を把握することはほとんど不可能に近いということです。
そのために最も合理的なのは「とっとと逃げる」ことです。この点が何よりも重要です。
事故の進展を確かめたりしていてはいけません。情報が隠される面もありますが、それ以上に政府も電力会社も何が起こっているか分からなくなっていたのが実情だったからです。

同時にみておかなければならないのは、事故はどこまで発展するか分からないということです。福島原発事故とても対応にあたった方たちの努力に大きな偶然も加わってあの段階でとまっているのであって、もっと厳しい状態になることも十分にあり得ました。
その点からするならば、最悪の場合を想定した避難対策は建てようがありません。最も恐ろしいのは格納容器が壊れてしまい、いっぺんに膨大な放射能が飛び出してくることですが、そうなったら近隣を中心にたくさんの急性死も出てしまいます。
その意味で万全な対策など建てようがないのが原発事故なのだということを肝に銘じておく必要があります。そのため被害は免れないかもしれないけれども、せめても少しでも被害を減らすという観点からのみ、よりリアルで有効な対策が建てられます。

原子力規制庁が各自治体に事実上採用を強制している「原子力災害対策指針」の根本的矛盾はこの点にあります。この指針は起こりうる事故を非常に軽く見積もってこの根本矛盾を無視しています。
災害対策としてそれではまったくだめなのです。規制庁の指針は「嘘と建前」が前提になっているからです。そんなものは現実によって消し飛んでしまい、たちまち役に立たなくなるどころか、かえって人を危険においやるので犯罪的ですらあります。
そのような「ウソ」の避難計画など作っても仕方がありません。そうではなくて、最悪の場合でもせめても少しでも被曝を減らす、生き延びる人を増やす、そのように考えたリアリティのある対策こそが必要なのです。

そのために提言で主張しているのは、災害対策に対する市民の能動性をアップすることです。これは原子力災害に対してだけでなく、他のあらゆる災害にも適用できることであり、町を強くする性格を持っています。
一番大事なのは、災害心理学、災害社会工学などに学び、いざというときの心構えと準備を行っておくこと、そのことで災害心理学に言う「正常性バイアス」「同調性バイアス」「パニック過大評価バイアス」に陥らないようにすることです。
「正常性バイアス」にかからないようにするとは、現代人は命が危機に瀕する経験が少ないために、実際に直面すると危機的状況を心が認めず「事態は正常になっていく」とバイアス(偏見)をかけてしまうことを知り、この心のロックを回避することです。

この心理が働くと、避難すべき事実が認知できなくなって避難が遅れてしまいます。例えば火災報知器がなったときに「これは誤報ではないのか」などと思い、命を守る行動に移ることをためらってしまうなどです。
この点で恐ろしいのは、放射能は目に見えないし身体に感じない場合が多いので、危険性がより認知しずらいことです。さらに福島原発事故以降、政府が「放射能が怖くないキャンペーン」を繰り返しはってきているのでそれによっても危険が把握されずらい。
私たちがしっかりと見据えておかなくてはならないことは、実は福島原発事故以降、放射能被曝に対してはこの「正常性バイアス」が働き続け、政府によって強化すらされていることです。この呪縛をこそ断ちきらなくてはいけません。

「同調性バイアス」は危機に直面して能動性を失い周りに合わせてしまうことです。多くの場合、周りは「正常性バイアス」にかかっていますから、これに同調し、増幅してしまう結果をももたらします。
「パニック過大評価バイアス」は実際には現代人は危機を前に認知ができないことの方が多いにも関わらず、「危機に直面すると人はパニックになる」という言辞が実態を離れて一人歩きしてしまうため、危機の伝達を躊躇してしまうことです。
これら両者ともに正常性バイアスをより強めることに結果し、危機を前に退避行動をとらないうちに逃げる機会を逸してしまうことにつながります。これらは実際の災害でしばしば起こっていることです。

この心理的ロックを打ち破るために有効なのは何か。災害心理学ではあらかじめの「避難訓練」こそが正常性バイアスによる心理的ロックにかからない一番大事なことだと教えています。
ところが原発災害対策においてはよりリアルな避難訓練をすると、その分だけ住民が原発の危険性を知ってしまう構造にあります。だから政府も電力会社もこれまで避難訓練をサボタージュしてきたし、今回もまともな避難計画なしに再稼働しているのです。
これに対する最も有効な手段、政府の再稼働と放射能の安全神話を打ち破るものこそ避難訓練です。避難訓練は放射能の危険性を主に防護の観点から学ぶことと、事故時にどうするのかのパーソナルシュミレーションを重ねることを気軸としています。

どうか川内原発だけでなく燃料プールという大変危険な存在が日本中にあることをも踏まえて、それぞれで事故が起こったら自分はどうするのかのパーソナルシュミレーションを重ねて下さい。
その場合、家族や親しい友人と逃げ方、逃げ先を決めておくことが大切です。事故時は互いの連絡がとれなくなることを踏まえ、集合地点や避難で向かう先を決めておくのです。可能な限り遠くの知人、親戚などと防災協定を結んでおくことをお勧めします。
また放射線被曝のメカニズムを学びとくに避けるべきは内部被曝であること、そのためには放射性微粒子を体内に摂りこまないようにすること。そのためにマスク、うがい、手洗いを徹底し、衣服などへの付着を防ぎ、払うことなどを準備しておいてください。

続く