守田です。(20150822 22:00) (20150825 02:30訂正 なお訂正に関しての詳しいことは(1130)を参照のこと)

まったく愚かなことに政府と九州電力は川内原発の再稼働を11日に強行してしまい14日から送電が開始されました。
ところが再稼働してまだ10日しか経っていない21日にさっそくトラブルが発生しました。二次冷却水に海水が混入した可能性が明らかとなったのです。
考えられるのは、蒸気化した二次冷却水を冷やして水に戻す「復水器」にピンホールなどが生じていて、そこから復水器で配管を通じて二次冷却水と接している海水が混入したことです。
事故の概要を伝えているNHK NWESWEBの報道を全文貼り付けておこうと思います。
(ネット上の記事は一定時間が経つと消えてしまうので、重要なものはこうして残しておくことにしています)

ちなみにこの間、「明日に向けて」で14日に行った後藤政志さんとの対談内容を文字起こしして掲載してきましたが、この事故は後藤さんが指摘した通りの構造のもとに起こった可能性が高いです。
「すべてを点検して安全を確認することになっているが実際には見落としが生じる。その中にもともと水に接していて腐食しやすいところなどがあり、再稼働であらたに力がかかって事故が生じて初めて問題があったことが分かる場合がある」。
「川内原発の場合、4年以上も停まっていたので、再稼働後にこうした事故が起こる可能性がそれだけ高くなっている」という点です。
この点については今回の事故の概要の把握を踏まえて、次回にもう一度詳しく見ておきたいと思います。

ただこの事故は今回の再稼働に向けた動きの中では二度目であることにも注目が必要です。
再稼働に向けて原子炉以外の機器を立ち上げた直後の7日にも、原子炉冷却水ポンプの軸の振動を測定している計測器の数値が異常に低下するトラブルがあったのです。
点検によって計測器に不具合があったことが分かり、交換されましたが、これも小さいですが重大な事態です。原子炉の内側はとても目視できるようなものではないので、状態はすべて計測器によって把握されているからです。
それだけに計測器の故障は事故の見逃しの可能性も生じさせます。同時に計測器の故障の重なりは、実際に重大事故が起きた際に、運転員が事故ではなく計器の故障だと思い込んでしまうリスクも生じさせます。
実際に福島第一原発事故のときも一号機の水位計が壊れてある一定の水位を指したまま止まってしまったのですが、吉田所長を含め現場の誰もがメーターを信じてしまい、水位が下がってメルトダウンが始まっていることを把握できなかったのでした。

そのためこの復水器付近での何らかの不具合の発生と、計測器の数値の異常はどちらも九電が再稼働工程中に想定されるトラブルを事態の深刻度に応じてレベル0~4の5段階に分けた自社の独自基準の2にあたると公表されています。
設備などに影響が出るのがレベル2以上のトラブルでこの場合は公表すると公言していたため報告にいたったわけです。2と言っても0~4とされているために5段階の真ん中のトラブルであることをおさえておく必要があります。

以下、NHKの記事と共同通信の記事を貼り付けます。

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川内原発 トラブルで出力上昇作業を延期
NHK NWESWEB 8月21日 16時06分
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150821/k10010197331000.html

今月11日に再稼働した鹿児島県にある川内原子力発電所1号機で、発電に使った蒸気を水に戻す設備でトラブルがあり、九州電力は、発電機の出力を上げる作業を延期すると発表しました。
九州電力は今のところ運転に問題はなく、原子炉の運転や発電、送電は続けるとしています。

九州電力によりますと、川内原発1号機で20日、発電に使った蒸気を冷やして水に戻す「復水器」と呼ばれる設備に異常があることを示す警報が鳴りました。
九州電力が復水器の水の成分を調べたところ、塩分の濃度が通常より高いことが分かったということです。
このため九州電力は蒸気を冷やすために取り込んでいる海水が復水器の中の水に混ざり込んだとみて21日予定していた発電機の出力を75%から95%まで上げる作業を延期すると発表しました。
九州電力によりますと、トラブルがあったのは3台ある復水器の1台で、混ざり込んだ海水は微量とみられ、別の装置で塩分を除去できているということです。
九州電力は海水を取り込んでいる配管に穴が開いている可能性があり、異常があった復水器の一部を止めて点検していますが、ほかの復水器に問題はなく原子炉の運転や発電、送電は続けるとしています。
復水器は原子炉の熱で発生させた蒸気を水に戻す装置で、川内原発の場合、蒸気や水に放射性物質は含まれていません。
九州電力によりますと復水器の内部を通る海水を取り込む配管は1台当たり、2万6190本あり、今回の再稼働までに行われたサンプル検査で異常はなかったということです。
川内原発1号機は今月11日、国内の原発としては1年11か月ぶりに再稼働し、その後、発電機の出力を徐々に上昇させて異常がないか確認する調整運転を続けています。
九州電力は今月25日に原子炉の出力を100%に上げる予定でしたが、復水器の点検のため作業は1週間程度遅れるとしています。

蒸気を冷やして水に戻すための装置

今回トラブルがあった復水器は発電用のタービンを回したあとの蒸気を冷やして水に戻すための設備で、川内原発1号機には3台あります。
中には1台当たり、2万6190本の細い管があり、その内側に海水を流して管の外側の蒸気を冷やし水に戻す仕組みで、戻した水はポンプで蒸気を作り出す蒸気発生器に送り出されます。
本来、海水と蒸気は混ざらない構造ですが、復水器の細い管に腐食などで穴が開くと、海水が混入し、蒸気発生器に悪影響を及ぼすおそれがあります。
川内原発は加圧水型と呼ばれるタイプで、原子炉で発生した熱で直接蒸気を作るのではなく、放射性物質を含まない2次系の水を蒸気発生器で沸騰させて蒸気を作ります。
このため安全上、蒸気発生器の腐食などを防ぐ対策が重要で、今回のような海水の漏えいを想定して、配管の途中に塩分を取り除く装置が設置されているほか、定期検査でサンプル検査をして損傷状況を調べることになっています。

原子炉運転に影響ないと確認

原子力規制庁では21日午前9時ごろ九州電力から報告を受けて、現地の検査官がトラブルの状況や原子炉の運転に影響がないことを確認したということで、今後は九州電力が行う原因の調査や調査結果を踏まえた対処方法を確認していくことにしています。
原子力規制庁の松浦克巳総務課長は、「九州電力は1週間ほどで原因究明や必要な措置を行うとしている。しっかりと確認していきたい」と話しています。

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川内原発1号機でトラブル ポンプ軸の振動に異常値
【共同通信】2015/08/07 22:25
http://www.47news.jp/CN/201508/CN2015080701002348.html

九州電力は7日、近く再稼働を予定している川内原発1号機(鹿児島県)で、原子炉冷却水ポンプの軸の振動を測定している計測器の数値が異常に低下するトラブルがあったと発表した。
ポンプを止めて点検したが異常はなく、計測器に原因があると判明した場合、再稼働工程に影響はないという。
トラブルはレベル0~4の5段階に分けた深刻度で真ん中のレベル2。九電が原因を調べている。
九電によると、7日午前、ポンプ軸の振動を監視している計測器の数値が低下しているのを作業員が発見した。

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記事に基づいて20日に起こった事故について分析を行いましょう。
まず川内原発の基本構造をおさえておく必要があります。この原発は加圧水型原発です。炉心を160気圧ぐらいに加圧され、沸点が高くなった300度ぐらいの温水がまわっていて、それが「蒸気発生器」で二次冷却水と接しています。
蒸気発生器とは2センチぐらいの細管がたくさんUの字状に通っている機器で、その配管越しに二次冷却水に熱を移し、蒸発させて蒸気を作る装置です。ここで発生した蒸気がタービンを回して発電をし、その後に「復水器」にまわります。
ここでやはり配管越しに海から取り入れられた海水と接し、冷やされて蒸気から水に戻るのですが、おそらくはこの復水器の配管に穴があき、二次冷却水に海水が混入して起こったのが今回のトラブルです。

これは加圧水型原発の構造的弱点、ないし欠陥によって必然化されていることです。なぜかというと福島原発などが採用している沸騰水型原発だと一次冷却水そのものが炉内で沸騰して蒸気になりタービンを回します。
その後、同じく復水器で海水と接して冷やされ、水に戻って炉心に流れていくのですが、この沸騰水型原発ではタービンを放射能の入った蒸気で回すので、タービン建屋まで放射能に激しく汚染されてしまいます。
また運転中に冷却系から照射される中性子が配管を透過するため、海水に含まれている微小な金属片や腐食物などが放射化されるため、常に放射能が放射能に漏れ出してしまう構造を持っています。
これに対して加圧水型原発は、炉心をまわる水は沸騰させず、二次冷却水を蒸気にしてタービンをまわすため、この工程で、やはり厳密には同じような放射化によってある程度のタービン汚染が生じるものの沸騰水型ほどではありません。

しかし何といっても構造が複雑になり、たくさんの細管がかけめぐることになります。とくに一次冷却水は沸騰させないために高圧をかけているため、沸騰水型原発と比べてより高いストレスが配管にかかることになります。
構造上最大の弱点とされているのがわずか直径2センチの多数の細管を160気圧の温水が駆け巡る蒸気発生器で、実際に1991年2月9日に美浜原発2号機で細管の破断が起こり、大量の放射能水が二次系を汚染し、その一部が環境をも汚染してしまいました。
この際、放射能汚染が生じたこと以上に恐れられたのは、蒸気発生器の細管破断が炉心の冷却材喪失につながりかねず、メルトダウンが生じる可能性があったことでした。
こうした危機は「たとえ細管にトラブルがあっても完全断裂することなどありえない」とされていたそれまでの想定を覆し、外周の完全破断が起こったことでもよりリアルなものとなりました。

このため日本中の加圧水型原発を点検せざるをえなくなりましたが、構造上ピンホールが多数発生してしまうことが分かり、点検時に穴のあいた配管には栓をして閉ざしてしまい、それでも間に合わない場合、蒸気発生器そのものの交換が行われました。
このように蒸気発生器は加圧水型原発の構造的弱点として把握されるようになったのですが、重大な問題としてあったのは、それまで蒸気発生器の寿命がすなわち加圧水型原子炉の寿命とされていたのに、無視されたことでした。
予想よりもずっと早く蒸気発生器での事故が発生したため、設計にない延命手術をすることになったのです。つまり、廃炉にすべきところを無理に使い続けることが常態化したのでした。
これは格納容器に設計段階では想定されていなかったベントを後付けするのと同じ過ちでした。蒸気発生器がトラブルを犯し、交換せざるを得なくなることが分かったのであれば、設計をし直して、トラブルのおきない蒸気発生器をめざすべきだったのです。

ところが蒸気発生器の問題に意識を奪われている中で、同じ美浜原発の3号機で二次系の配管が破断しする大事故が起こりました。
ちょうど定期点検の準備作業が行われていましたが、その作業員11人のうち、4人が死亡し、2人が重体、5人が重軽傷を負う大惨事でした。後日、重体の1人も死亡。過去最悪の運転中の原発の事故となりました。
この際、問題とされたのは、蒸気発生器などの危険性から点検がもっぱら一次系の配管の点検に集中し、二次系の配管の点検がおろそかになっているうちに、20ミリあったはずの配管の肉厚が1ミリぐらいにまで減ってしまっていたことでした。
ここに点検中の稼働で一気に圧力がかかったために大きな破損が生じ、そこから高熱・高圧の水蒸気が作業員の上に降り注いでしまったのでした。4人はほぼ即死状態、体中の水分が一気に蒸発してしまったそうです。

この時は蒸気発生器に問題は生じていなかったので放射能漏れは起こりませんでしたが、蒸気発生器に構造的弱点を有した加圧水型原発は、構造が複雑で全体の点検が十分に行き届かず、二次系でも大きな事故が起こりうることが分かりました。
しかもこうした二次系の大破断は、とりもなおさず蒸気発生器の熱交換機能の喪失に直結するので、この場合も、メルトダウンにつながるシナリオは存在していた筈で、メルトダウンに進行せずに済んだのは「幸運」としかいいようがありませんでした。
繰り返しますが、加圧水型原発は一次冷却水が高圧のために、沸騰水型原発よりも配管破断などの際により早く冷却水が抜けてしまう可能性があるため、美浜原発事故は過酷事故の一歩手前のものだったと言えます。

今回の川内原発でのトラブルは二次系の冷却水と海水が接する「復水器」付近で起こったものとみられていますが、記事にあるようにこの復水器の中に通っている海水をとりこむ配管は26,190本もあります。
本来、そのすべてに点検が必要なはずですが、復水器は3台あり、合計で78,570本もあるため、すべてを点検するのは不可能なのでしょう。定期検査ではサンプル検査で損傷状況を調べていることがNHKの記事にも書かれています。
もちろん定期点検ではこの他により損傷が起こりやすく、その場合の被害が甚大な一次系配管や、蒸気発生器を点検しなければならず、さらに美浜3号機の事故の教訓から二次系配管のすべても慎重に調べねばならず、その上に約8万本の細管があるわけです。
このため点検漏れが生じてしまい、動かしてみてそこから海水が二次系に入り込んで、ようやく欠陥が生じていることが分かったと言うのが今回の事態であって、これは加圧水型原発の構造的欠陥を物語るものです。

ちなみに日本の加圧水型原発はすべて三菱重工製ですが、三菱の蒸気発生器は他でも事故を起こしています。なかでも最近、大きな社会的影響を生み出したものがアメリカで起こりました。
ロサンゼルス南東120キロにあるサンオノフレ原発で2012年1月に判明した放射能漏れ事故で、運転中の2号機と3号機の両方で配管の一部が破損し放射能が漏れているのが発見されたのですが、この蒸気発生器が三菱が納入したものでした。
構造的欠陥が明らかになった同原発はその後に廃炉になったのですが、この建設に関わった電力事業者の米サザン・カリフォルニア・エジソン社(SCE)など4社が三菱重工に75億7000万ドル(約9300億円)の損害賠償を求めて提訴に踏み切りました。
三菱側は167億円の損害賠償の支払いを主張しており、両者の見解は真っ向から対立して法廷闘争必至の状況ですが、敗訴した場合、三菱が背負う賠償額はあまりに巨大で、同社の経営を一気に悪化させる可能性があります。

川内原発そのものをみてもすでにこれまでも1991年に気発生器細管の摩耗減肉(1号機、2号機ともに)、2000年、蒸気発生器の細管損傷(1号機)とやはり蒸気発生器でのトラブルが起こっています。
これらからも今回の事故もあまりに複雑に配管が走り回っている加圧水型原発での特有のトラブルとして発生していること、それ自身、メルトダウンに直結しかねない恐ろしいトラブルなのだということが踏まえる必要がります。
またこのような配管の脆弱性を考えると加圧水型原発は沸騰水型原発よりもより恐ろしい構造を有していることも見ておく必要があります。炉心を冷却している一次冷却水が、沸騰水型よりも高圧であるため配管破断があると瞬時に無くなってしまうからです。
その意味では配管構造の面では、沸騰水型よりも過酷事故に至りやすい構造を持っているのが加圧水型原発なのです。これらからも川内原発はこの小さなトラブルの段階で即刻運転を止めるべきです。何よりもこのことを強調したいです。

次回はこうした構造的欠陥を持つ加圧水型原発を4年も停めておいてから稼働することの危険性について分析します。