守田です。(20141204 15:00)

ウクライナで原発事故が起こったことが報じられましたので分析を行いました。

事故を起こしたのはウクライナ南東部にあるザポリージャ原発3号機。11月28日に出力系統で回路がショートし原子炉が緊急停止しました。
ウクライナエネルギー相によると「ショートの原因は分かってないものの、原子炉には問題はなく、5日までに電源系統の緊急修理を終えて再稼働する見通し」だそうです。
今のところヨーロッパ各地の放射線モニタリングポストは通常値を示しており、大きな放射能漏れが起こっている兆候は確認されていません。

発表が行われたのは12月2日。同原発の停止により電力供給が不足し、苦情が寄せられたため公表したとのことです。
ザポリージャ原発は旧ソ連時代に稼働を開始したもので発電規模はヨーロッパ最大。世界では第5位。合計出力は600万キロワットですが、近年は核燃料が得にくくなっており、定格の発電は行えていません。
同国の原発による発電の半分を担い、発電全体の5分の1を担っています。事故を起こしたものを含めて全部で6基の原子炉があります。

今回の事故がこれ以上、拡大しないことを祈るのみですが、調べてみると構造的に幾つかの問題があることが見えてきました。
一つに稼働年数が長いことです。最初の5基は1985年から1989年まで毎年1基づつ連続して稼働を開始し、6号機のみソ連崩壊後のモラトリアム期間を経て1995年から稼働しました。
旧ソ連製の原発は設計上耐用年数30年とされているので2015年から毎年1基が運転期間を終えることになりますが、ウクライナでも運転延長が目指されておりそれをIAEAが後押ししています。より危険度の高い老朽化した原発の運転延長が次々となされようとしています。

またこの地域はウクライナ政府軍と親ロシア派の軍事衝突が繰り返されている同国の東部地域から200キロ余り、同じくロシアが占領し編入したクリミア半島からも同じぐらいしか離れておらず紛争に巻き込まれる可能性があります。
実際に今年の5月17日にも銃で武装したグループが同原発に押し寄せて侵入を試み、地元警察によって阻止されるという事態が起こりました。
武装グループは自らザポリージャ在住のネオナチグループと名乗り、親ロシア派から原発を守ることが目的で原発への襲撃を試みたのではないと主張し、警察によって釈放されましたが、同原発が戦闘に巻き込まれる可能性があることを強く示唆した事件でした。

Gunmen attempt to enter Ukraine’s largest nuclear power plant
http://rt.com/news/159640-ukraine-gunmen-nuclear-plant/

もちろんウクライナ政府側も、親ロシア勢力側も、原発が事故を起こした際に壊滅的な事態が発生することは認識していますから、意図的な攻撃を行うことは考えられませんが、戦闘規模が拡大し、かつ戦線が近づいた場合、原発が不測の事態に巻き込まれる可能性があります。
7月17日には同国上空を飛行していたマレーシア機が何者かによって撃墜され、東部のドネツク州に墜落しました。兵器の威力と能力が高度化している中で、今後もこうした突発的な事態が発生する可能性があります。
またこの撃墜は未だに犯行者が不明で、親ロシア派説、ウクライナ軍説、またマレーシアにプレッシャーをかけたかった西側の何者か説などさまざまな憶測が飛び交っていますが、そのことが疑心暗鬼を生んでさらに一触即発の緊張感を高めてしまっています。

またウクライナ政府にとっては、国民の支持を得続けるためにも、こうした戦闘状態がある中で電力供給を維持することが重要課題となるため、その分、原発の安全性への配慮が後退している可能性も強くあります。
今回も原子炉が11月27日に緊急停止していながら12月5日に再稼働させるのは、冬の到来の中での電力需要への対応を最優先したいためだと思われますが、電源系統のショートの原因すら発表されないなかでのわずか1週間での再稼働はそれ自身危険行為に他なりません。
にもかかわらず、緊急の再稼働が容認されるのも、この地域が東部の戦闘地域に隣接する地域であることと大きく関係しているのではないかと思われます。

さらにウクライナとロシアの対立は違った形でも原発の安全性を低下させています。
ウクライナの原発はすべてロシア製であるため、核燃料もロシアから購入しているわけですが、ロシアとの関係が悪化する中で安定供給ができなくなっています。そこに東芝傘下となったウェスチングハウス社が2005年から燃料供給への参画を開始しています。
具体的にはザポリージャ原発に次ぐ規模の南ウクライナ原発3号機で従来のロシア製核燃料棒とウェスチングハウス社製の核燃料棒を混合して使用する試みが行われ、当初は良好とされましたが、燃料棒交換時に破損が確認され、2012年に装着が停止されました。

しかしその後に大きな政変があり、ウクライナ新政府がロシアとの対立を深める中でウラン燃料の枯渇が深まったため、もう一度、新政権がウェスチングハウス社製の核燃料の使用へと舵を切ろうとしているのです。
ロシア側は重大な事故の発生の危険性があると忠告しています。ロシア政府の核問題での発言にも常に信ぴょう性が欠けてはいますが、それでも原子炉設計社と無関係の会社が作った核燃料がどこまで安全なのか確かに大きな懸念があります。
しかも戦争的な事態の中でですから、戦闘に勝ち抜くためにも安全性が犠牲にされ続ける可能性があります。

どうしたら良いのか。世界的規模で起こっている戦争的事態ですので、私たち市民が何ができるか、頭がくらくらしますが、やはりすべてのウクライナの人々を苦しめているチェルノブイリ原発事故を見据え、親政府側であろうが親ロシア派であろうが、被災者への世界からの支援を続けることが大事だと思います。
そのことで争いの火種を一つ一つ消していく。私たちができることは本当に小さな努力でしかないかもしれないけれども、いつの時代もそれが積もり積もって歴史が動いてきたことを考えて、被災者支援を続けることが大事だと思います。
いや今や私たちは支援というよりも、ともに同じ原発事故を抱えたものとして連帯し、戦争と核のない世の中をともに求めていく必要があると思います。

その点で僕が10月に参加させていただいたドイツIBB主催の国際会議は学ぶことが満載でした。すでに報告したようにこの会議で僕はトルコと日本の間の脱原発運動での結びつきについて発言しましたが、檀上から降りた僕に一番最初に歩み寄ってきて手を握ってくれたのはウクライナから招かれたリクビダートルの方でした。
いきなりロシア語?ウクライナ語?で話しかけられましたが「お前の言っていることは良かった。共感した。一緒にがんばろう」と言ってくださっているに違いないことだけは良く分かりました。
あの方はどこにお住まいなのだろう。ザポリージャ原発からはどれぐらいのところにいるのだろう。原発で事故があったと聞いて、今頃何を思っているだろうという思いがこみ上げてきます。

またこうしたつながりがあるからこそ、5月17日にネオナチグループが武装して同原発に押し入ろうとした時にはそのニュースをキャッチできなかった僕が、今回の事故の報道に強く刺激され、すぐに情報収集を行えたのも事実です。
もちろんトルコの方たちのこともとても心配になりました。事故が拡大したらまた黒海を越えて放射能がトルコに飛んでいく可能性がある。そうならないことを祈るばかりですが、祈るだけでなく、事故を防ぐためにできることを重ねたいと思います。
私たちは原発が世界の至る所にある現状では、どこであろうと大規模戦闘は原発にも危険性を及ぼす可能性があること。また戦争という特殊事情そのものが、原発の危険性をさらに大きくしてしまうことを考え、戦争の火種を無くす最大の努力を傾けていくべきです。

こうした観点を頭に入れつつ、今後、ウクライナをはじめ各国の原発へのウォッチも強化していきたいと思います。
同時に市民の側からできる原子力災害対策を進化させ、本の形にまとめて普及を図るとともに、英語化に挑戦し、世界の原発の周りの人々にも読んでいただけることを目指したいと思います。
もう二度と深刻な原発事故が起こらないように心の底から祈りつつ、同時に、地球のどこでも事故が起こる可能性があることを踏まえて対策を重ねていきましょう。