守田です。(20140909 23:30)

8月に驚くべき情報が出されました。福島原発から飛び出したウランが、福島原発から170キロ離れたつくば市で採取されていたというのです。大変、深刻な情報です。
共同通信の記事を紹介します。

***

茨城のちりからウラン検出 原発事故の溶融燃料
共同通信 2014/08/27 17:35
http://www.47news.jp/CN/201408/CN2014082701001722.html

東京電力福島第1原発事故直後に約170キロ離れた茨城県つくば市で採取した大気中のちりから、核燃料や原子炉圧力容器の材料のウランや鉄などを検出したとの研究結果を東京理科大と気象庁気象研究所のチームが27日までにまとめた。
事故で溶けたウラン燃料が原子炉内の他の物質と混ざった状態で外部に放出されたことを裏付ける結果で、同大の中井泉教授は「事故直後の炉内や放射性物質の放出状況の解明につながる」とさらに詳しい分析を進めている。
チームは、2011年3月14日夜から翌朝にかけてつくば市の気象研究所で採取された高濃度の放射性セシウムを含む粒子に着目し分析してきた。

***

「事故で溶けたウラン燃料が原子炉内の他の物質と混ざった状態で外部に放出されたことを裏付ける結果」・・・つまり幾つかの放射性物質が混じり合わさったホットパーティクルが広域に飛んでいたことが証明されたわけです。
これまで福島原発事故の深刻さを訴えてきた多くの科学者たちの見解が、東京理科大と気象庁によって裏付けられたことになりますが、重大事態にも関わらず扱いがあまりに小さい。
なぜ重大なのかと言えば、最低でも170キロ以内の広範な地域が、セシウムだけでなくウランをはじめとする放射性物質で汚染されていることが明らかになったからです。
つくば市で捉えられたのはそこでたまたま採取したからであって、もっと広域にウランなどが飛散している可能性が十分にあります。

ウランそのものもα線を出すとともに重金属としての毒性もあり、大変恐ろしい物質ですが、懸念されるのは同時にプルトニウムも飛散していたのではないかということです。
ウランがこれだけ飛んでいたのだから、その可能性はかなり高いと言えると思います。
というのは核燃料として使用されているウランは二酸化ウランです。これはウランが融点が1132.2 °Cであることに対し二酸化ウランでは2865℃と高温にも耐えやすいためでもあります。
これが溶けてしまったのだから、燃料棒は最低でも2865℃を越えてしまったことになる。

福島原発3号機には、ウランとプルトニウムを混ぜ合わせたMOX燃料が装填されていました。この場合も二酸化プルトニウムが使われていますが、その融点は2400℃、さらに沸点は2800℃となっていて、燃料棒はプルトニウムの沸点を越えていたことになる。
当然、MOX燃料内のプルトニウムは、ウランが溶けだすと同時に気化をはじめたはずです。
さらに1号機、2号機ではどうかというと、運転している炉内では、核分裂するウラン235とともに装填されているウラン238に中性子があたり、プルトニウム239が生まれているわけです。
この場合は二酸化プルトニウムの形ではないと思われますが、単体としてのプルトニウムの融点は639.5℃とウランから比べるとずいぶん低い。沸点はどうかというと3230℃です。2865℃との差異はわずかに365℃であり気化する温度まで達していた可能性が高い。
(なお炉内で生成するプルトニウムの化学的な状態がよく分かりません。単体でしょうか、酸化化合物でしょうか。どなかた知っている方は教えて下さい)

さらにウランそのものも気化したのではないかと考え、ウランの沸点を探ったのですが、驚いたのは探せども探せども二酸化ウランの沸点情報がないことです。多くの方が「探しても分からなかった」と記述しています。
もし知っている方がいたら教えていただきたいのですが、実はこれは何らかの理由で伏せられている情報なのかもしれません。
ちなみに単体のウランの沸点は4131℃と高いですが、単体のプルトニウムを二酸化プルトニウムにすると沸点は下がるので、二酸化ウランも4131℃より低い可能性も考えられます。
しかしホットパーティクルを形成したとなると、一度気化して大気中に飛び出し、そこで他の多くの気化した放射性物質と共に、外気で冷やされながら空気中の塵と接触し、そこで液体状態に戻り、やがて個体の微粒子となったまま塵に付着して飛んでいった可能性が高いです。

いずれにせよ、ここから考えられることは、ウランやプルトニウムの付着したホットパーティクルが遠くまで飛散し、多くの人が吸引してしまった可能性があるということです。しかもかなりの広範囲においてであり、深刻な健康被害の原因となっている可能性があります。
しかもウランもプルトニウムもともに半減期の非常に長い放射性物質であり、その危険性は数年ではまったく減じません。ということは今なお高い危険性があるということです。
ここから言えることは関東・東北のかなりの広範囲において、ウランをはじめとした放射性核種の調査をすべきだということです。もちろんウランやプルトニウムの調査は、政府機関にしかできないことです。
とくに軍事物質でもあるプルトニウムを測ることができるのは、実質的には政府機関だけです。

同時に私たち市民の側も、この問題を追いかけてきた少数の人々の営為に着目し、可能な限りの分析を進める必要があります。
実はウランの飛散については初期からアメリカの一部で観測されたとの情報も流れており、僕自身、暫く追いかけましたが十分に内容をつかめませんでした。よく理解できなかったのです。
今回の発表を機会に、ウラン、プルトニウムの飛散情報の分析の欠落を埋めていき、どれぐらいの危険性が広がっているのかをつかんで紹介していきたいと思っています。
ともあれこれでまた福島原発における汚染実態をセシウムだけで測ることはできないことが明らかになりました。放射性物質に関する一層のウォッチと分析を続けて行きたいと思います。

なおウランやプルトニウムを巡っては、僕にはまだよく分からないことが多いです。間違いがあればどんどんご指摘ください。「明日に向けて」に反映させ、市民の側の科学力の発展につなげたいと思います。
以下、かつてプルトニウムについて論じた記事をご紹介しておきます。

***

明日に向けて(292)「プルトニウムは重いから飛ばない」というのはウソ!20111013
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/16457148fe8f56cb730f29c1c118a2b9

明日に向けて(139)原発敷地外でプルトニウム検出 20110606
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/3e530cd619639ee55e1caeb1b5fc3deb