明日に向けて(876)「原発事故にどう備えるか 検証避難計画」―クローズアップ現代から(上)

守田です。(20140628 23:00)

今回の表題は2014年3月5日に放映されたNHKクローズアップ現代のタイトルをそのまま拝借しています。
なかなか良く作られた番組でした。ヨーロッパ・トルコから帰国してだいぶん経ってから観ましたが、原発避難の現実をきちんと取材して報道してくれていることに感銘を受けました。
なにはともあれアドレスをご紹介しておきます。

原発事故にどう備えるか 検証 避難計画
NHKクローズアップ現代 2014年3月5日
http://www.nhk.or.jp/gendai/kiroku/detail_3472.html7

クローズアップ現代の凄いところは、放送内容のスクリプト全文を文字お越ししてアップしてくれていることです。
動画もダイジェスト版(6分31秒)が見れます。スクリプトの初めの方に「動画を見る」のボタンがあります。
http://www.nhk.or.jp/gendai/kiroku/detail02_3472_all.html

ぜひ全体をご覧になって欲しいのですが、番組がハイライトしてる点を取り上げると、福島原発事故のときに強制避難の対象となった原発直近の地域で、避難が非常に困難であったことです。
初めに出てくるのは原発から4キロに位置していた双葉厚生病院の例。看護師の渡部幾世さんが登場しています。
原発事故が起こった時、この病院には寝たきりのお年寄りを含む130名以上の方が入院していました。

国は避難指示を段階的に3キロ、10キロ、20キロと出し、双葉厚生病院も10キロ圏内に避難指示が出されたときに移動を開始しましたが、すでに周辺の道路では渋滞が発生。
緊急に近くの町の病院に移るだけで5時間以上がかかってしまい、病院到着後に亡くなってしまう方が出ました。
渡部さんは「申し訳ないというのもあります。 無理な移動がなければ、こんな早く亡くなることは無かったかなと思う」と述べています。

番組はなぜ政府が段階的に避難指示を出したのに、交通渋滞が発生したのかと問い、調査してみると実際には避難指示が出る前に周辺住民の自主避難が開始されていたことをつかみました。
分析を行った東洋大学の関谷直也准教授は次のようにコメントしています。
「原子力事故というものが、相当以上に人々に恐怖感を与えた。どこまで避難すればいいのか、どこが安全、どこが危ないのか、わからない状況での避難だった。段階的避難させていくとしても、そう簡単にいかないことがわかった。」

ここでノンフィクション作家の柳田邦夫さんが番組のコメンテーターとして登場し、次のような指摘を行っています。
「これから原発というものを、仮にでも稼働するとなると、この避難計画というのはとても大事な意味を持つんですが、なぜかと言うと、福島原発事故の最大の教訓をあえて2つ挙げれば、1つは、災害というのは科学的に想定したつもりでも、それ以外の何かとんでもないことが起こりうる、それに備えられるかどうかということと、
それから地域の住民の安全、命や健康の安全、これを考えるにあたっては、原発のプラント自体がいかに技術的に安全ですと保証されたにしても、今度は住民の目線に立ったときに、本当に大丈夫なのか、想定外のことが起こったときどうするんだという目線から言うと、
最悪の事態を前提にした避難計画というのが、技術的なプラントの安全性とは独立して、きちっと確立されていないと、住民の命は守られないという、これが最大の教訓であるわけですよね。」

その上で実際に避難を準備するにあたって必要なこととして次の点を指摘しています。
「まずは、地域防災計画が綿密に、地域の特性に合って作られているということ、最悪の事態に備えて。それが住民一人一人に啓発活動の中で、地域として徹底している。
それから2番目には、それが実際に避難できるのかどうかを、全員参加の訓練でやって、その実効性を試さないといけないと同時に、住民が避難を体で覚える。
どういう避難のしかたをしなきゃいけないのか、これを体で覚えるということとか、さらには、いざ事故が起こったときに、正確な事故情報、避難指示っていうのがきめ細かく伝わるということ。
さらには地域にある病院とか福祉施設、あるいは老人施設、そういう体の動かないような人たちをどうするかという問題とかですね、さまざまな問題があって、それが一つ一つが全部クリアされて初めて、避難計画っていうのが意味を持ってくるわけです。
これは大変な作業です。」
柳田さんはこれを一自治体に任せず、国が責任をとってやるべきだと述べています。

続いて、では避難のできない人が病院などで屋内退避をする時に、誰が残ってその人たちを守るのかという問題が生じるわけですが、番組は実際に南相馬市立総合病院で起こった実例を追いかけていきます。
院長の金澤幸夫さんは4日目に病院に残るかどうかを職員の自己判断に任せることにしました。すると3分の2の職員が離れていった。このとき病院を離れた側と、病院に残った側の看護師さん、そして金澤院長がそれぞれ次のようにコメントしています。

看護師 佐藤理香さん
「ふだんあまり言わない子どもたちが、(病院に)もう行かないでって。
スタッフが頑張っていたのを知ってて、それでも(病院に)戻らなかった、戻れなかったというか、戻らなかったんですね。 最終的には自分の判断なので。
今もつらいです、本当に。本当に無責任だったなと思って。」

看護師 小野田克子さん
「(娘に)『死んでもいいからお母さんのそばにいる』と言われて、そういうのを後から聞いた時に、なんて(自分)勝手というか。
自分の好きなことをさせてもらったとしか言えない。」
小野田さんはいったん福島市に避難させた娘さんに、お母さんと離れたくないと言われて、娘さんと病院で寝泊まりしながら看護の仕事を続けましたが、娘さんを危険にさらしてしまったと考えています。

南相馬市立総合病院 院長 金澤幸夫さん
「看護師はすごく使命感があると思う。 残った人の半分以上は死ぬと思っていた。それだけ厳しい状況だったと思う。」
金澤さんは、あまりに大きな覚悟を迫ることにつながったと考えているそうです。

この3人の話を聞いて、玄海原発から26キロにある伊万里市の病院から、いざとうときのための視察に来た医師の山元謙太郎さんが次のように語ります。
医師 山元謙太郎さん
「避難する人もすごい後悔の念を持つし、残った方も後悔するし。 誰ひとり満足する人っていない。
家族があったりして自分があって、生活してきている状況があるから、使命感一本だけとは限らないと思います。」

これを踏まえて柳田邦夫さんはこう述べています。
「これ、いみじくも原発災害というものの特異性を、端的に表していると思うんですね。
本当にこの心理や家族関係や、そういうことまで含めて、一人一人が抱え込んでしまうわけです。
それは看護師一人だけの問題ではなくて、被災した何万という数の、こういう困難な問題が生じるのが、まさに原発災害。
それが地域の避難計画や防災計画に関わる、大事なところなんです。」

「これに対して自治体や、施設の長や、それに対策本部に丸投げするのではなくて、国が基本的にはこうするという倫理の問題まで含めて、方針を出さないと解決しないですね。
例えばああいう防災とか、あるいは命を守る職業の人たちっていうのは、自分が去っても後悔が残る、残っても後悔が残る、いろんな問題抱え込む。」

「そのときにやっぱり、そういう義きょう心や、あるいは人助けというものの精神で燃える人っていうのは、自分の命を省みなくなってしまう。
それでいいのか。それを何か期待して、防災計画を立てちゃ絶対いけない。」
「大災害や原発災害のときに、そういう防災関係者、医療福祉関係者がどういう判断と行動をすべきか、これは基本的な方向づけっていうのを、国がなんか臨調みたいな問題を作って、議論すべきだと思うんですね。」
以上が番組の概略ですが、みなさんはどう思われますか?

こうした点に関して私たちは回答をすることが求められています。なぜなら原発災害対策は必ずたてなければならないものだからです。
何よりも、福島第一原発が、大きな余震の影響や、収束作業中の何らかのトラブルなどで、再び大きな危機に陥り、災害が拡大する場合を想定しておかなくてはいけない。
同時に、日本中の原発の燃料プールに、冷却水を失うと瞬く間に大変危険な状態に陥る使用済み核燃料が大量に入っているわけですから、この事故にも備えてなくてはなりません。
もちろん再稼働は安全性の問題からいって論外であり、稼働させないことこそ災害対策の第一歩ですが、他方で運転していない原発の事故にも私たちは備える必要があるのです。

さらに言えば、今や世界にたくさんの原発があるのですから、海外への赴任や転出、旅行中ばどに事故に遭遇することも十二分に考えられます。
その可能性も含めて、私たちは原発災害のときにどうするのかを徹底してシミュレーションしておく必要があります。
そのためにもこの番組で取り上げられた看護師さんたちの悲痛な声を、自分に引きつけて捉え、自分だったらどうするのかを考えてみていただきたいのです。

もちろん柳田さんは、まずは言うべき大前提を語ってくださっており、明快でありがたいコメントを発してくださっています。そうです。これはまずは政府が責任をとって考えるべきことなのです。
それは声を大にして要求し続けなければならないものですが、しかし安倍政権がまじめに取り組む可能性は残念ながらほとんどないでしょう。
同時にやはりこの問題は政府に任せておいて解決できるものではないことも見据えておく必要があります。私たち自身がこの問題に悩んで回答を出していかなくてはならないのです。

ではどう考えたら良いでのしょうか。まずはみなさん。考えてみてください。
今回は、長さも考えて、あえてこの問いを発するまでとし、次回に僕の考えを述べさせていただきます・・・。

続く