守田です。(20140419 09:30)

3月30日に奈良市民放射能測定所の開設1周年記念企画でお話した内容の起こしの5回目です。 今回も市民測定所の役割についての考察ですが、前回を引き継いで、「シーベルトのまやかし」と闘うセンターになって欲しいということと、「食の安全全般を目指すセンターに」ということを提案しました。 現代の食品産業の歪んだ状態の分析を、肥満の問題から論じています。この内容はまだまだ連載を継続します。

なおこの講演録は、奈良市民放射能測定所のブログにも掲載されています。前半後半10回ずつ分割し、読みやすく工夫して一括掲載してくださっています。 作業をしてくださった方の適切で温かいコメント載っています。ぜひこちらもご覧下さい。

守田敏也さん帰国後初講演録(奈良市民放射能測定所ブログより) http://naracrms.wordpress.com/2014/04/08/%e3%81%8a%e5%be%85%e3%81%9f%e3%81%9b%e3%81%97%e3%81%be%e3%81%97%e3%81%9f%ef%bc%81%e5%ae%88%e7%94%b0%e6%95%8f%e4%b9%9f%e3%81%95%e3%82%93%e5%b8%b0%e5%9b%bd%e5%be%8c%e5%88%9d%e8%ac%9b%e6%bc%94%e3%81%ae/

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「原発事故から3年  広がる放射能被害と市民測定所の役割  チェルノブイリとフクシマをむすんで」 (奈良市民放射能測定所講演録 2014年3月30日―その5)

Ⅱ.市民放射能測定所に求められることとは? ~提案として~

【シーベルトのまやかし】 一番大きなポイントになるのは、ベクレルBqとシーベルトSvの換算式のまやかし性です。というか、「シーベルト」と言う単位に潜む誤りをもっと語っていかなければいけないと思うのです。 シーベルトというのはみなさんご存知のように、放射線を浴びた場合に人間にどれくらいのダメージがあるのかを表した数値で、放射線の被曝管理に使われている値ですが、もともとは「ジュール」という、ある一定の水の温度をどれだけあげることができるのかという数値を基礎にして成り立っているものです。 ではどれぐらいのものが被曝の許容基準になっているのかというと、1ミリシーベルトmSv/年間が多くの国で採用されています。これ以上は一般の民衆には浴びせてはならないとしようという国際的合意ができており、被曝をめぐる一つの攻防ラインであるとも言えます。 もちろん1ミリシーベルトだって安全値ではない。どれほど小さな値であっても被曝にはリスクがあるという観点もまた国際的な合意になっています。その意味では1ミリでも浴びない方がいいのですが、一つの攻防線として最低、この基準は国に守らせようと、多くの国で考えられているわけです。

しかしこのシーベルトによる被曝管理は、基本的には外部被曝に対してのみ有効なのです。身体の外から飛んでくる、主にγ線による放射線被曝の人体への影響を数値化するときにのみ、シーベルトは有効性を持ちます。 先ほども述べたように、基本的に熱量として1グラムの水の温度をどのくらい上げられるか、その熱量に換算した力が人間に加わっていると考えて計測するわけですが、内部被曝はこの外からのγ線の被曝を中心とした被曝の計量の仕方では危険性を計量できないのです。 これは非常に重要な点です。今日は公言してしまいますが、ECRR(ヨーロッパ放射線リスク委員会)の計算式も、僕は間違っていると思います。なぜかというと内部被曝によって人体が受けるダメージは、線量が同じでも、放射線を受ける場所によってぜんぜん違う結果をもたらすからです。 身体の中のどこに放射性物質が入って、どこの器官がどのように被曝で損傷したのかによってぜんぜん結果が違ってくる。

ぜんぜん違うというのは、私たち人間が手にしている医療が、どこの部位だったら手術ができるとかできないとか、そういうことまでをも含みます。被曝による現実的なリスクが場所によって大きく変わってくるわけです。 ところがベクレルとシーベルトの換算式というものがあって、何ベクレルだと何シーベルトに値するという具合に、数値の置き換えが可能だとされているのです。 ICRP(国際放射線防護委員会)が作っている計算式ですが、これで計算するとシーベルトでの値が非常に小さく出てきてしまいます。つまり1キログラム当たり10万ベクレルぐらいのものを食べないと1ミリシーベルトなどになることなどありえません。 事故のあと1年間、私たちの国は1キログラムあたり500ベクレルまで政府によって許容されてしまったわけですが、この場合でも、500ベクレルを食べても0.0065ミリシーベルトにしかならないのだとされてしまう。そのために多くの汚染された食材が「危険性は非常に少ないので食べて大丈夫」とされてしまったのです。

僕も多少の関わりがある生協で一所懸命に食材の放射線地を測ってくれているところがあるのですが、ある日ここの発表を見てみたらこの換算式を載せてしまっているのです。それで計算すると「1キログラムあたり5~10ベクレルのものなど、心配しないで大丈夫」ということにされてしまうわけです。 そうではなくてまずその計算式自身が誤りであること、そのように内部被曝は単純かして測ることはできないのだということを語っていって欲しい。その上で、やはり内部被曝はできるだけ減らすのが理想だということを強調して欲しいのです。 東大のアイソトープ研究所の所長で、長年にわたってがんと格闘してきた児玉龍彦さんは、膀胱がんの場合、膀胱における10ベクレルぐらいの被曝からも影響が出た例があると語っています。そのぐらいのレベルでもう影響が出てきている。 そうした実例をたくさん積み上げて、積極的に低線量内部被曝の危険性を主張していくことが、僕は非常に大切だと思うのですね。

【『低線量・内部被曝の危険性  ーその医学的根拠ー』】 「関西医療研究会」の高松先生や、山本先生、入江先生たちが出している内部被曝に関する本があります。『低線量・内部被曝の危険性  ーその医学的根拠ー』というタイトルで、耕文社から出ていますが、僕は素晴らしい本だと思っています。 この中でもECRRの考え方に対しての疑問符が出されていましたが、それらの内容を積極的に語っていただきたいなと思います。 同時に今、入江先生たちが本当に熱を込めて、福島の子どもたちに甲状腺がんがアウトブレイクしていることを語ってくださっています。「ものすごく大量の放射線を浴びないと病気にならないなどと政府や原子力村が語っていることは真っ赤な嘘だ」という主張につながる提言です。 この測定所にはせっかく入江先生が関わってくださっているのですから、この貴重な提言をぜひとも積極的に活用して欲しいです。

低線量の被曝の重なりの中で、実際にこれだけの甲状腺がんが発症しているのだということを説得力を持って語り、だから少しの被曝でも避けるようにすることが大事なのだと、繰り返し、繰り返し、多くの方に伝えていただきたい。 そのことを測定に来た方に説得力をもって伝えていく場に、測定所を飛躍させていって欲しいと僕は思います。 本当に全国にたくさんの市民測定所がありますけれども、中にはICRP的な計算式で危険性を換算しているところもあります。 この点は国際的な論争にもなっているところですから、手に負えないと考えているところもあると思います。だけれども奈良の測定所は「関西医療問題研究会」と親しくしてきているのですから、説得する材料もたくさんあると思うのでぜひそこに踏み込んで下さい。

【その2。~食の安全全般を目指すセンターに~】 もうひとつは、総会資料中の「一年間やってきたこと」の中に、すでにこれから述べる領域がいっぱいあるのですが、ぜひ、食の安全全般を目ざすセンターへと測定所を飛躍させていって欲しいですね。 ここに紹介されていた「天然・自然農法の高島さん※との交流」など、とてもいいなあと思うのですが、こういう経験を測定に来られた方と共有することが、僕はとても大切だと思うのです。

※高島佐和さん。奈良市北部にて「田原ナチュラルファーム」を経営、農薬を使わない自然農法を実践。奈良・市民放射能測定所のスタッフ。

【肥満と貧困についての講演活動から】 最近、子どもたちを相手に行っている講演の内容についてお話ししたいと思います。スライドをお見せしますが、タイトルに「食べものと健康の話  ―何を食べてはいけないか    ゲキ太りする世界を考える」とつけています。福島や関東から子どもたちを招いた保養キャンプで話したことが出発点となったものです。 初めに「世界の主な国の肥満率」の話をするのですが、みなさんはご存知ですか?子どもたちが相手なので、「世界の主な国」と言っていますが、OECD(Organization for Economic Cooperation and Development,  経済協力開発機構)加盟国のことです。 2012年の統計で、世界で一番太っていた国がどこだかわかりますか?肥満の人が多い国。答えはわりと簡単だと思うのですが・・・。そうです、アメリカです。

ところが、今やアメリカは2位になりました。1位はどこでしょう。 「インド」 違います。ヒントはTPPです。 「メキシコ」 ピンポーン、正解です。

なぜかというと、ヒントはTPPといいましたが、TPPような条約で一番最初にできたのはNAFTA(North American Free Trade Agreement,  北米自由貿易協定)です。1994年にカナダとアメリカとメキシコで結ばれた自由貿易協定です。 その結果どういうことが起こったのかというと、アメリカの安い農産物が洪水のようにメキシコに入ってきて小さな農家が軒並み潰れていきました。農家が潰れて人々が都市に流入するとともに、、アメリカのジャンクフードが大々的に押し寄せていったのです。恐ろしいことに貧困と肥満がセットで押し寄せました。 もう一度OECDのデータをみると、平均で国民のうち16%が危険な肥満領域にあります。アメリカは34%。 逆に、OECDの中で一番スリムな国はどこなのかというと、実は日本なのです。二番が韓国です。

この要因をどうとらえるのかについては、いろいろな分析が必要です。 日本では肥満としては表現されない他の問題もあることを押さえていかなくてはならないのですけれども、それでもざっくり言うと、やはり海産物とか、穀物や野菜を主体にしている日本の食べ方のほうが体にいいと言えるのではないかと僕は思っています。ところがそのいい食事もどんどん崩れてつつあるのが今の状況です。 アメリカに話を戻すと、アメリカは肥満の人だけではなくて、肥満予備軍に分類される人を加えると、もう7割くらいの人が健康な状態にないことが分かっています。 しかも貧困な人のほうが肥満率が高くて、アメリカ黒人女性は今、肥満率5割です。さらに3割が肥満予備軍です。健康な身体を維持できている人は2割しかいないのです。どんどん太ってしまって、命の危険にすらさらされているような状態です。

続く