守田です。(20140223 09:30)

「明日に向けて」連載800回を越えた前号ご報告の中で、今後、自らが担う課題として、取材対象を世界に拡大し、とくにヨーロッパにアプローチすることに触れましたが、このための旅として2月25日に出国しドイツに赴きます。
翌26日にベラルーシ共和国に向かい、ミンスク・ゴメリなどの諸都市を訪問してきます。ベラルーシ、ドイツとまたがって行われる医師たちの国際的な協議会に参加するためです。
ある事情から今はこれ以上、詳しいことが書けないのですが、ともあれチェルノブイリの真実をつかむための旅に行ってきます!

「チェルノブイリの真実」と言うと、「それはもう明らかになっていることではないか?」と思う方もおられるかもしれませんが、そんなことはありません。今なお被害の実相が新たに解明され続けているのが、チェルノブイリの被害の実相なのです。
このため被害の見積もられ方にも、世界の中で大変な差異があります。事故の被害をできるだけ小さく見せようとする勢力と、真実を明らかにしようとする人々のせめぎあいがあるのです。

ちなみにチェルノブイリ原発事故による死者数を、世界で最も少なく発表しているのはどこの国の誰であるかご存知でしょうか。なんと日本政府の首相官邸ホームページです。
「東電福島原発・放射能関連情報」と題されたページの中の「原子力 災害専門家グループ」にある「チェルノブイリ事故との比較」という文書で「平成23年4月14日」付で出されています。 この中から死亡に関して書かれている部分を抜粋します。

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「1,原発内で被ばくした方 *チェルノブイリでは、134名の急性放射線障害が確認され、3週間以内に28名が亡くなっている。その後現在までに19名が亡くなっているが、放射線被ばくとの関係は認められない。」
「2,事故後、清掃作業に従事した方 *チェルノブイリでは、24万人の被ばく線量は平均100ミリシーベルトで、健康に影響はなかった。」
「3,周辺住民 チェルノブイリでは、高線量汚染地の27万人は50ミリシーベルト以上、 低線量汚染地の500万人は10~20ミリシーベルトの被ばく線量と計算されているが、 健康には影響は認められない。
例外は小児の甲状腺がんで、汚染された牛乳を無制限に飲用した子供の中で6000人が手術を受け、現在までに15名が亡くなっている。」
http://www.kantei.go.jp/saigai/senmonka_g3.html

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絶句してしまうような大うそなのですが、実はこれにはカラクリがあります。
これはら2006年にIAEAAなどが中心になって行ったチェルノブイリ・フォ ーラムで出された数字にもとづいているのです。
ここではこれまで死者として首相官邸HPにもあげらえている60人余りがカウントされた後に。さらに約3940人が死亡し、事故の犠牲者は4000人になると発表されています。
ところが首相官邸HPではこの今後亡くなる3940人が意図的にはぶいているのです。それで世界で最小の犠牲者数の見積もりになっています。

ところがこのIAEAの報告がなされた当時、ただちに「そんなに少ないはずがあるわけない」とベラルーシやウクライナの専門家やNGOが猛抗議し、ベラルーシ政府自身からも抗議が出されて、IAEAは苦境に立ちました。
これを救うために登場したのがIAEAと密接な関係を保っている国際機関のWHO(世界保健機構)でした。WHOは数か月後に、犠牲者は最終的に9000人になるという修正報告を出しました。

しかしかえってこのことで、この報告の信ぴょう性が危ぶまれるなか、環境団体のグリーンピースが組織した国際的な調査によって、ウクライナとベラルーシの合計で14万人が死亡という発表が同じく2006年に出されました。
ただしグリーンピースは、依然、調査の継続が必要であり、結論づけるのは早計だとのコメントも付していました。
この間の詳しい経緯を、京都大学の今中哲二さんが書かれているので紹介しておきます。

「チェルノブイリ事故による死者の数」今中哲二(初稿2006年8月)
http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/tyt2004/imanaka-2.pdf

この中で今中さん自身は、推計が非常に難しいことを前置きした上で、「私の勘では、最終的な死者の数は10万人から20万人くらい、そのうち半分が放射線被曝によるもので、残りは事故の間接的な影響」と述べています。

ところがこれらの発表を大きく覆す研究論文がアメリカのニューヨークアカデミーオブサイエンスから2009年に出版されました。
“Chernobyl: Consequences of the Catastrophe for People and the Environment”というタイトルです。
岩波書店がさっそく翻訳本を出してくれています。邦題は『チェルノブイリ―大惨事が人びとと環境におよぼした影響』です。ぜひ手に取って欲しい本です。
旧ソ連でゴルバチョフの科学顧問を務めたロシアの科学者アレクセイ・ヤブロコフ博士を中心とする研究グループがまとめたものですが、そこにはこう書いてあります。

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「1986年4月から2004年末までの期間における、チェルノブイリの大惨事に由来する死亡総数は、過剰死亡数105万1500人と推計される。」(『同書』p180)
「詳細な調査研究によって、ウクライナとロシアの汚染地域における1990年から2004年までの全死亡数の4%前後が、チェルノブイリ大惨事を原因とすることが明らかになっている。その他の被害国で死亡率上昇の証拠が不足していることは、放射線による有害な影響がなかったという証明にはならない。
本章の算定は、不運にチェルノブイリに由来する放射性降下物の被害を被った地域で暮らしていた数億人のうち、数十万人がチェルノブイリ大惨事によってすでに亡くなっていることを示唆する。チェルノブイリの犠牲者は、今後数世代にわたって増え続けるだろう。」(『同書』p181)

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IAEAなどと違い、信頼できる組織であるグリーンピースが推計した死者数が14万人であったことに対し、105万1500人と、非常に大きな差異が出てきている理由は、主に扱った原典の違いにあるようです。
というのは欧米の科学者が集って行ったグリーンピースの調査に対し、この調査では、旧ソ連の多数の科学者や医学者の文献が扱われました。その多くがロシア語、ウクライナ語、ベラルーシ語で書かれていたため、英語圏の科学者には読めないものも多かったのです。
しかしその報告こそ、被災者に最も近くで寄り添い、健康被害とともに向き合ってきた中で書かれたものであって、被害の実相をよりリアルに記したものでした。
そうした文献が15万点以上あると言われ、この調査ではその中から厳選した5000点の文献が使われているそうです。その多くのものが英語圏=西側には初めて紹介されるもので、そのため、被害の事実がより克明に明らかにされることになったのでした。

この研究事実一つからも明らかなことは、チェルノブイリの被害の全貌はまだまだその輪郭が見えてきたにすぎない段階にあるということです。
だとするならば私たちはもっともっとチェルノブイリの真実を知る必要がある。現在進行形で明らかになりつつある事実に継続的に学び、私たちにこれからおこりうることに覚悟を決め、腹を据えて対処法を練り上げていく必要があります。
すでに同様の観点から、映画監督の鎌仲ひとみさんが何度も現地に赴き、新作『小さい声のカノン』の制作を進められていますが、僕もそうした努力の一端に連なりたいと強く思うのです。そのためにベラルーシに赴き、さらにチェルノブイリへの支援を続けてきたドイツの経験に学びたいと思います。

その後、3月7日からはじまるヨーロッパアクションウィークという企画にも参加します。
「チェルノブイリと福島の後の未来のために」とサブタイトルのついたもので、それぞれの現場からの証言をヨーロッパ各地で行うというものです。
とくに日本人である僕には、トルコから強い依頼が来ています。トルコは日本が原発を輸出しようとしている国。こちらにとっても最も原発の危険性を最も伝えたい国の一つです。

今のところ、首都のイスタンブール、原発立地予定地のシノップ、およびイズミールでの講演と記者会見を行うことが決定しています。
シノップは黒海沿岸にある美しい町ですが、2009年に原発建設反対を掲げた市長が当選しており、町の人々の原発を拒否する意識は高いです。
しかし他方でトルコは親日国で、日本の技術への信頼が高い国。こうした信頼に応えればこそ、原発は日本の技術をもってしてもとても制御できないものであることをしっかり伝えなければならないと思います。
その意味で、僕は安倍首相があらゆる角度から壊してまわっている日本に住まう民への信頼を、原発の危険性をはっきり伝えることで、少しでもつなぎ直してきたいとも思います。

トルコ訪問の後は再び、ドイツに戻りヘアフォートで講演を行うほか、ベルリンを中心に、反原発運動を担ってきたドイツの人々と交流し、さまざまな経験に学ぶ予定です。
原発の廃炉過程の経験や、自然エネルギーの利用経験などにも学びます。

もう一点、ドイツ、ベラルーシ、トルコへの訪問の全体を通じて、東京オリンピックに各国のアスリートを送り込んではならないことを強調してきます!
そもそも私たちの国はまだ原子力非常事態宣言が適用されている国です。そのため通常の法律が凍り付いており、放射線管理区に該当する線量の地域にたくさんの人が居住している現実がある。
東京とて、とても無視できない汚染があります。福島原発も今なお瀕死の状態。こんなところに世界の宝でもあるアスリートを集めることは、世界への裏切りです。
福島原発事故の真の収束のためにも、原発被災者への補償と真の救済のためにも、さらには津波の甚大な被害を被りながら政府に見捨てられつつある被災者を助けるためにも、私たちの国はオリンピックなど、やっている場合ではないのです。このこともしっかりと伝えてきます。

総じて、チェルノブイリの真実をつかみ、福島の真実を伝えるための旅に出発します!
すでにたくさんの方からのサポートをいただいていますが、可能な方はカンパなどで応援してください。必ずや大きな成果を作り出してきます!

僭越ながら、昨日に続いて再度、カンパの振込先を書かせていただきます。

振込先 郵貯ぎんこう なまえ モリタトシヤ 記号14490 番号22666151
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