守田です。(20140201 23:00)

この間、福島3号機と4号機の現状に関してレポートしてきましたが、今度は1号機に関する重大な発表が東電によってなされました。1月30日のことです。
それによるとなんと炉内に投入している冷却水の8割が、格納容器から漏れ出していると見られると言うのです。そのことが3年近く経って分かったと言うのです。
以下、テレ朝のニュースを示しておきます。

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冷却水の8割が漏えいか…福島第一原発1号機の汚染水
テレ朝news 20140130 22:41
http://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/000020591.html

福島第一原発の原子炉1号機からの汚染水漏れについて、新たな事実が判明した。「1機の圧力抑制室付近から、1時間あたり最大で3.4トンの汚染水が漏れていたと推計される」と、30日に東京電力が明らかにした。
1号機には溶けた燃料を冷やすために、1時間あたり4.4トン注水している。その水は燃料に触れて、放射性物質を含んだ高濃度の汚染水となり、注水量の約8割が圧力抑制室付近から漏れているとみられるのだ。
また、東電は「他の場所からも漏れていることも分かった」とし、引き続き調査する。

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実は同じ30日、東電は福島2号機の圧力抑制室にも穴が開いていて、そこからも水漏れが確認されたと発表しています。この結果、圧力抑制室のまわりの「トーラス」室に水漏れしているというのです。
東電は1月18日に、福島3号機の床に2400万ベクレルというベータ線核種で汚染された水が流れていることも発表しており、1号機から3号機まで格納容器から汚染水が漏れているという事実が連続発表されたことになります。

このように東電が連続的に情報を発する時に、非常に大事な点は、重大事実の連続発表に対して危機感を麻痺させてしまわないことです。というかもう麻痺して当然であり、麻痺させるように情報を出しているとすら思えるので、しっかり意識を保つことをよびかけたいです。

そのためには、こうして出てくる情報を「ああ、また汚染水漏れか」という感じで、一緒くたにして捉えてしまうのではなく、あくまでも歴史的経緯に立ち戻って、きちんと整理して捉えておくことです。
もちろん、多くの方にそれだけの情報整理の時間がないのも事実です。これまで東電は、情報を受け取る側が、きちんと整理して受け取る余裕などないような形で、あえてまとまりのない形で、洪水のような形で、「最高値」だとか「高濃度」だとかいう言葉を繰り返してきているので、なおさら分からなくなって当然です。
そこで今回も、冷却水8割漏れが何を意味するのか、あるいはどのように捉えるのか、整理を試みたいと思います。

まず今回、明らかになった8割の冷却水漏れの可能性というのは、昨年11月13日に初めて発見された、格納容器からの冷却水、ないし放射能汚染水漏れ情報からの解析の中で得られてきているものだということを押さえることが重要です。
どのようにしてこれが見つけられたのかと言うと、新たに開発されたカメラを設置したボートが、核の容器下部にある圧力抑制室付近を探索し、圧力抑制室に向かうベント管下部から冷却水の漏れ出しを確認したのでした。
これを東電は以下のように発表しています。

福島第一原子力発電所1号機ベント管下部周辺の調査結果について(1日目)
東京電力株式会社 平成25年11月13日
http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/handouts/2013/images/handouts_131113_15-j.pdf

この1枚目の図を見てください。漏えい個所は、格納容器(PCV=Primary Containment Vessel)の下部の「サンドクッション」と書かれたところの下部にある「サンドクッションドレン管」あたりとされています。
サンドクッションとは、格納容器の鉄板と、周りを覆うコンクリートが直に接すると、鉄板に圧力がかかって変形する恐れが考えられたため、砂を入れてクッションとしているところです。
ところがこの砂が水を吸うことで、かえって鉄板を腐食させてしまうことがあるため、その水分を抜くためのドレン管がその下に取り付けられているのです。1号機からの冷却水漏れはここから確認されたというのです。
今回の発表は、冷却水漏れのあらたな発見ではなく、これらの地点から出ている汚染水を計算で求めたものであるとともに、他にも漏れ出しているところがあることを示唆したものです。

さてこの場合、重要な問題はなんでしょうか。8割も漏れていた!・・・もちろんそれはかなり重要な点です。溶け落ちた核燃料と接して激しく汚染されたものすごい放射能濃度の汚染水が発生していることが分かったからです。
1時間あたり3.4トン漏れているということは1日あたり81.6トン。それがおそらくは事故の早い時期から流れ続けているのです。

しかし一歩前に戻ると、実は量の問題だけでなく、そもそも格納容器から漏れていることが発見されたということ、格納容器が壊れていることがはっきりしたこと、このこともまた非常に重要な位置を持っているのです。
なぜなら昨年11月まで、東電は、格納容器については、2号機はベント失敗があったがために、圧力抑制室で破損が起こったとしながらも、1号機と3号機は壊れていないという立場を採ってきたからです。
高濃度の汚染水は、原子炉内の核燃料を冷却したのちに回収されたタービン建屋の地下に漏れてしまい、そこに地下水が流入してくることで、混ざりあい、外に漏れ出して、海にも達している・・・というのが昨年夏に東電が発表したことです。

タービン建屋から漏れていることと、格納容器からも漏れていることには決定的な違いがあります。なぜかと言うとそもそも格納容器とは、その内側にあって核分裂反応を行う原子炉圧力容器内で何かのトラブルが生じ、放射能漏れが生じた際に、それを封じ込めることをこそ最大の任務としている構造物だからです。
だからこそ東電は、1号機、3号機の格納容器は壊れていないと強弁していたのです。汚染水漏れは、本来、水を溜めるために作られたのではないタービン建屋から起こったのだとしてきたわけです。

一例として東電を支援している日本原子力文化振興財団のサイトを見てみましょう。

東京電力(株)福島第一原子力発電所事故
http://www.jaero.or.jp/data/02topic/fukushima/index.html

この中の「原子力」」の「格納容器とは」の項目に以下のような記述があります。

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原子炉格納容器は気密性が高くつくられ、燃料の損傷などによって放射性物質が放出された場合に周辺への拡散を抑える役目をもっています。
しかし、今回の福島の事故では全電源の喪失などにより原子炉が高温高圧状態となり、原子炉格納容器から水素とともに放射性物質を外部へ放出する事態に陥りました。
さらに2号機については、原子炉格納容器に損傷が生じ、放射性物質が外部に放出されたと考えられています。

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放射能を封じ込めるための格納容器を守るために、放射能を抜くベントが行われたこと、いわば格納容器の任務放棄がなされたことは書いてありますが、1号機、3号機の格納容器が壊れたとする記述はありません。
あくまでも壊れたのは2号機の、格納容器の一部をなす圧力抑制室だけだとしてきたのです。なぜでしょうか。1号機から3号機まですべての格納容器が壊れてしまったことがはっきりすれば、このプラントが設計的に破たんしていることがより鮮明に証明されたことになってしまうからです。
もちろん2号機の圧力抑制室が壊れてしまっただけでも、このプラントは設計的にアウトであるわけですが、実際にはすべての格納容器が壊れていた。となれば同じ構造を抱える原子炉の再稼働などはまったくの論外であることも明らかです。

重要なのは、「放射能を封じ込めるための格納容器を守るために放射能を放出するベント」・・・などということがもとより論理矛盾であり、「ベントをつけたから」という理由での再稼働など許してはならないのですが、今回は、そのベントがなされても、格納容器が壊れてしまったことが明らかになったのです。
しかもそれがどのような構造のもとに起こり、どこかどれだけ壊れたのかもまだ未解明です。とするならば、これまで行われている、再稼働に向けた「過酷事故対策」の前提もまた崩壊してしまったことになるのです。
おそらく東電は、この点がクローズアップされることを避けるために、マスコミの注視を、汚染水の量的凄さに向けようとしているのではないかと思われます。もちろん8割が漏れていたということも重要なポイントですが、私たちがしっかり見据えておくべきことは、格納容器がベントを行っても壊れていたという決定的な事実です。

さらに繰り返し述べているように、放射能を閉じ込めるはずの格納容器が壊れていたことが3年近くも経って分かったことに、この事故が収束していないどころか、まだ実態の多くが解明されておらず、現状がどうなっているかも把握されていないことが表れています。
私たちの前にまだ制御されない巨大な危機が横たわっていることをこそ、それは示しています。「また東電が・・・」などと東電をなじってすましていてはいけない。私たちの危機をこそ、認識すべきなのです。
ぜひこの点を押さえ、福島原発の状態が悪化した場合の避難対策に真剣に取り組みながら、みんなで一生懸命に、原発のウォッチを続けていきましょう。