守田です。(20130922 16:30)

安倍首相による五輪招致発言での「状況はコントロールされている」「(汚染水は)完全にブロックされている」「健康への問題は全くない」という大嘘発言に対して、原発直近の浪江町議会から、きわめてまっとうな抗議が出されました。
毎日新聞に短く記事が載ったので、全文をご紹介します。

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福島第1原発:汚染水問題 浪江町議会、首相に抗議 制御発言に意見書
毎日新聞 2013年09月21日 東京夕刊
http://mainichi.jp/feature/20110311/news/20130921dde018040035000c.html

福島第1原発の汚染水問題を巡り、安倍晋三首相が国際オリンピック委員会総会で「状況はコントロールされている」などと発言したことについて、原発事故で全域が避難区域に指定されている福島県浪江町の町議会は20日、「事実に反する重大な問題がある」とする抗議の意見書を全会一致で可決した。
意見書によると、原発から1日推計300トンの汚染水が流出している「深刻な事態」であり、「『コントロール』『(港湾内で)完全にブロック』などされていない」と指摘。
「健康への問題は全くない」と発言したことには浪江町だけで震災関連死が290人を超えるとし、「福島を軽視する政府、東電に憤りを禁じ得ない」と訴えている。【三村泰揮】

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発議は共産党の町議さんがされたそうですが、とても共感しました。とくに僕が大事だと思ったのは、汚染水問題もさながら、「健康への問題は全くない」と安倍首相が発言したことに対して、浪江町で震災関連死が290人を超えることを突きつけている点です。
「震災関連死」とは、震災での直接的な死は免れながらも、その後の避難の過程などで亡くなられたことを指します。とくに福島県の場合は、津波や地震の影響ではなく、原発事故によって避難を余儀なくされた方たちが多数おり、その場合の震災関連死は「原発事故関連死」であると言えます。
これは東京新聞が独自に集計して明らかにしたもので、本年9月11日現在、浪江町では291人が原発事故関連死で亡くなっています。福島県全体では確定しているのが910人。ただし震災関連死が431人と最も多い南相馬市がこのような区分をしておらず、同じくいわき市などもこうした統計がなくこれらの数が入っていません。
南相馬市も、大半が原発事故関連死であると南相馬市の担当者が述べており、東京新聞はこれらを入れると約1300人にのぼると述べています。なお福島県の震災関連死数は8月末で1539人。直接死1599人に迫っており、「上回るのは確実」と言われています。

この1300人の死は、原発事故がなければ起こらなかった死であり、まさに事故そのものによって強制された死です。1300人もの方が原発事故で殺されてしまったのです!このことが明らかになっているのに、誰一人も裁かれていない。なんということでしょうか。
その上、「健康への問題は全くない」と首相が世界に公言したのです。これは亡くなった方の魂や、遺族の方の心を踏みにじるに等しい行為です。浪江町議会の怒りの声は、このあまりに理不尽な政府の姿勢に対するやむにやまれぬ叫びです。安倍首相はこの声を受け止め、謝罪して発言を撤回すべきです。
なお、1300人の方が亡くなったのは主に「避難のストレス」のせいだと言われていますが、僕は避難のストレスに被曝のストレスが加わったと考えています。被曝があったのは間違いないことだからです。震災関連死の直接死に対する割合が、福島県だけ突出して高いことも、このことを示しています。
ただし避難のストレスに被曝のストレスが加わったのは、福島県だけのことではありません。宮城県や茨城県などでも同様のことは起こりました。それらの死因のすべてが放射線と関連付けられず、避難のストレスだけにカウントされてしまっていますが、この点をどうにかしてひっくり返していく必要があります。

そのことをも考慮しつつ、今はこのまっとうな怒りの声を発してくれた浪江町議会を、全国から応援していきたいと思います。さしあたり、意見などを投稿できる浪江町のフォームをご紹介しておきますので、共感された方はぜひメッセージをお寄せ下さい。僕もすぐに共感と応援の約束を送信しました。

浪江町 お問い合わせ
https://www.town.namie.fukushima.jp/form/detail.php?sec_sec1=2&inq=04&check

さて浪江町議会の抗議に見られるような全国・全世界で高まる怒りや懸念の声を前に、首相は福島第一原発に乗り込み、再び、「完全ブロック」発言を繰り返しました。厚顔無恥とはこのことですが、引っ込みがつかなくなっているとも取れます。
これについて朝日新聞が報じた短い記事を紹介しておきます。

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安倍首相「完全にブロック」強調 汚染水漏れ現場を視察
朝日新聞 2013年9月20日0時48分
http://www.asahi.com/politics/update/0919/TKY201309190430.html

安倍晋三首相は19日、東京電力福島第一原発を訪れ、放射能汚染水漏れの現場を視察した。首相は視察後、汚染水の影響が一定範囲内で「完全にブロックされている」との認識を改めて示した。
ただ、汚染水の海洋流出は続いており、「ブロック」の実態について論議を呼びそうだ。一方、首相は東電に対し、福島第一原発の5、6号機を廃炉にするよう求めた。
首相は免震重要棟で作業員を激励後、汚染水が漏れたとみられる貯蔵タンクや放射性物質除去装置、汚染水の拡散を防ぐため港湾内に設置された幕(シルトフェンス)などを視察した。
首相は視察後、記者団に対し、7日の国際オリンピック委員会(IOC)総会での東京五輪招致演説と同じ表現で「汚染水の影響は湾内の0・3平方キロメートル以内の範囲で完全にブロックされている」と改めて強調。
「福島への風評被害を払拭(ふっしょく)していきたい。汚染水処理についてはしっかりと国が前面に出て、私が責任者として対応したい」とも語った。

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再び嘘を重ねている。というよりそのことが言いたくて、わざわざ福島第一原発に乗り込んだのだと思いますが、こうした姿勢は、今後の事故対応を非常に悪くすることをここで指摘しておきたいと思います。
なぜなら首相は「汚染水処理についてはしっかりと国が前面に出て、私が責任者として対応したい」と語ったわけですが、当たり前の話、事故処理において一番大事なのは現状認識です。
しかし首相は初めからそれを大きく捻じ曲げているわけです。それでどうして「責任ある対応」などできるでしょうか。むしろこの先、ますます自分の大嘘を正当化するために、現状を曲げ続ける可能性が大きくあります。
これに対して、東電は首相の嘘によって政府に有利な立場になったので、「今のうちに」と次々と、現場がコントロールなどされておらず、汚染水があちこちから漏れ出していたことを公言していますが、政府はそれの否定にやっきになってしまっています。

確実に言えることは、この点をきちんとけじめない限り、ずさんな事故処理、またアンコントロールな実態の隠ぺいが続くということです。そことが現場の士気をも著しく下げる。日本に住まう人々、いや世界の人々のために現場で危機と向かい合っていることもが隠されてしまうからです。
そればかりではありません。こうした事態は、必ずと言っていいほど、責任のなすりあいを生み出し、その余波が被害者の側に回されてくることにもなります。そうした事態はすでに起こり始めています。
数日前に開催されていた国際原子力機関(IAEA)総会の関連行事として16日夕、ウィーンで開催された日本政府主催の福島第1原発汚染水漏れ問題に関する説明会の席上で、次のようなことがありました。
当然にも各国から汚染水漏れの深刻化を問う発言が相次いだのですが、これに応えた日本政府の担当官が、なんと、汚染水処理は漁民が反対しているのでうまくいかないなどと述べたというのです。これを報じた毎日新聞の記事から当該部分を引用します。(記事の全文は末尾に)

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これ(日本政府への厳しい批判)に対し、廃炉機構の担当者は、汚染水の漏えい部分の発見と修理に手間取っている▽原子炉建屋に流れ込む前に地下水をくみ上げて海に放出する計画が漁業関係者らの反対で困難になっている−−と説明。
経産省の担当者が「法的な責任は東京電力にあり、我々はサポーターの立場。東電には資金もアイデアもなく、2年間も良くない状況が続いてしまった」と釈明すると、会場から「責任転嫁ではないか」との失笑が漏れた。

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「漁業関係者らの反対で困難になった」・・・汚染水を海に流すのをやめてくれと必死に叫んでいる被害者に責任を転嫁!これはあまりにひどい。記事には東電のせいにしたことに対して苦笑が漏れたとありますが、東電には確かに責任もあることに対して、漁民の方たちには何の責任もないのです。
これらのことはこれだけの原発事故がありながら、全政党の中で唯一原発政策の継続を掲げ、再稼働に邁進しようとしてきた安倍政権の考え方そのものから出てきたものに他なりません。その根幹にあるのは、嘘とでたらめで人々を騙して自分たちの都合のいい道を切り開こうとする、本当にひどい価値観です。

しかし嘘では現実は変わらないこと、放射能が減らせるわけではないことに、安倍首相や自民党政権は目をつぶり続けてもいます。信じがたいことですが、自分たちに都合の悪いことを想定する能力そのものが欠如しているのです。そこにこそ私たちの巨大な危機の実態があります。
首相に大嘘の撤回を迫りましょう。繰り返し、アンコントロールな実態を私たちの側から明らかにし、また大嘘を批判するまっとうな声を広めあいましょう!浪江町議会の怒りをみんなでシェアして進みましょう!

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福島汚染水:各国から厳しい指摘 IAEA説明会
毎日新聞 2013年09月17日 11時06分(最終更新 09月17日 12時01分)
http://mainichi.jp/select/news/20130917k0000e010137000c.html

国際原子力機関(IAEA)総会の関連行事として16日夕、ウィーンで開催された日本政府主催の福島第1原発汚染水漏れ問題に関する説明会で、各国の専門家から抜本対策の遅れや規制当局のあり方などを問う厳しい指摘が相次いだ。
第一義的な責任は東京電力にあると繰り返す日本側の説明からは「政府が責任をもって取り組む」(山本一太科学技術担当相)との意気込みが伝わらず、責任の所在のあいまいさを印象付けた。【ウィーン樋口直樹】

説明会には、原子力政策を推進する経済産業省と、同省から独立した原子力規制委員会、廃炉に関する研究開発を行う国際廃炉研究開発機構などの担当者が出席。汚染水漏れの現状と、凍土壁の設置や浄化装置の増設などによる政府主導の解決策について、会場を埋めた100人以上の専門家らに説明した。
だが、会場からの質問は今後の対策よりもむしろ、汚染水漏れの深刻化を招いた責任を問うものだった。スロベニアの規制当局者は「汚染水問題は原発事故直後から予想できた。なぜ2年以上もたった今まで持続的な解決策を見いだせなかったのか」と、厳しい口調で切り出した。
これに対し、廃炉機構の担当者は、汚染水の漏えい部分の発見と修理に手間取っている▽原子炉建屋に流れ込む前に地下水をくみ上げて海に放出する計画が漁業関係者らの反対で困難になっている−−と説明。
経産省の担当者が「法的な責任は東京電力にあり、我々はサポーターの立場。東電には資金もアイデアもなく、2年間も良くない状況が続いてしまった」と釈明すると、会場から「責任転嫁ではないか」との失笑が漏れた。
一方、原子力規制委員会のあり方にも疑問の声が上がった。2007年に調査団を率いて訪日した仏原発安全当局者は「規制委員会の技術顧問が、問題解決を図るため東京電力にアドバイスするのは、原子力安全の責任分担をあいまいにするものだ」として強い懸念を表明。
規制委員会側は「規制当局は電力事業者と一線を画すべきだが、福島第1原発事故に限り、問題の拡大を防ぐために行っている」と説明した。