守田です。(20130910 11:30)

東京五輪開催が決定しました。なんということでしょうか。すでにさまざまな健康被害の出てきている東京、福島原発事故が収束などしておらず、深刻な海洋汚染が進み、いつまた事態が悪化するかもしれないこの国に世界のトップアスリートを集めて「平和の祭典」を行おうというのです。あまりにひどいです。
なかでも最も許しがたいことは、安倍首相が世界の信義をまったく裏切り、東電でさえも言ってない大嘘を使って、福島原発による放射能汚染の危険性を完全に隠そうとしたことです。
いわく。「(原発の)状況はコントロールされている」。「東京に悪影響を及ぼすことはない。私が保証する」。
メインスピーチ後の質疑応答では次のようにも述べました。「汚染水の影響は福島原発の港湾内〇・三平方キロメートル内で、完全にブロックされている」「必ず責任を完全に果たす」。

開いた口が塞がりません。もともと安倍首相には人間的な信頼を持つことなどできませんでしたが、しかしこんな大嘘を、一国の首相が、世界に向けて公言するなどということがあってもいいのでしょうか。
繰り返しますが、あの嘘を繰り返してきた東電ですら言ってないことです。それどころか9日の記者会見で、東電自身が首相の公言を否定する見解を打ち出しています。
これを報道した毎日新聞の記事から一部を引用します。「9日に開かれた東京電力の記者会見で、報道陣から首相発言を裏付けるデータを求める質問が相次いだ。担当者は「一日も早く(状況を)安定させたい」と応じた上で、政府に真意を照会したことを明らかにするなど、認識の違いを見せた。」
東電ですら否定せざるをえない大嘘なのです。私たちは世界の人々への信義にかけて、このあまりにひどい虚言を訂正しなければなりません。積極的に福島原発の危機、東京にも汚染が及んでいることをアピールする責務があります。

まず何よりも批判しなければならないのは、「原発の状況がコントロールされている」という大嘘です。コントロールされているどころか、核燃料がどういう状態にあるのか、何が起こっているのかも把握できていないのが現実です。だから原子炉から湯気が立つだけでも東電が事態を把握できず、解釈がクルクルと変わっていきます。それゆえ、私たちはそのたびに危険を感じ、避難の準備を進めざるをえない状況なのです。
しかも膨大な汚染水が発生して対処不能に陥っている。もっとも深刻なのは周辺から流れ込む地下水が、炉内の冷却に使われた高濃度の汚染水と混ざってしまい、東電の控えめな推定でも300トンという膨大な量が、2011年3月の事故以降、海に流れ続けているという事態です。
これに加えて、必死になって貯めてきた高濃度汚染水がタンクから漏れ出すという事態も加わっています。これがまた地下水を汚染してしまっています。対策として汚染除去装置のアルプスの活用が目指されてきましたが、これもトラブル続きで実用の目途が立ちません。
さらに今年3月にクーリングシステムがねずみによるショートによって一斉にダウンしてしまうなどの事故も起こり、現場が場あたり的な対処の連続で、ぎりぎりの状態で命脈を保っていることも明らかになりました。要するにまったくもってアンコントロールな状態が続いているのです。

そもそも、政府がこの事態を今になってようやく認めたから、前面にでて公金を投入することにしたのではないのでしょうか。東電のこれまでの対処で「状況はコントロールされている」のであれば、なぜこのような対処が必要だと言いださねばならなかったのでしょうか。
安倍首相もそんなことは分かり切っているのです。にもかかわらず東京にオリンピックを招致したいとの一点ですぐにばれるような大嘘をついたのです。もちろん狙いはオリンピックの経済効果と、自分の首相としてのポイントの獲得でしょう。
しかしそのために、たちまち東電ですら否定せざるをえないような嘘をついてしまった安倍首相は、私たちの国に対する世界の信頼を大きく損なったと言わざるを得ません。海洋汚染問題を世界にお詫びし、本当の事故収束にむけて世界の英知の結集を訴えかけることこそが本来なすべきことであるのに、その道も大きく遠ざけてしまいました。
僕はこんなことは、絶対に、いつまでも通用しないと思います。いくら嘘を繰り返しても事実を変えることはできないからです。なかでもいくら嘘をついても放射能は消えません。その意味でこの大嘘は必ず安倍首相自身に何らかの報いをもたらすでしょう。

しかしそれに私たち市民・住民が巻き込まれるのはまっぴらです。私たちは安倍首相が大嘘をついた限り、反対に真実を声を大にして述べ続ける責務があります。真実の第一は、福島原発の現状があまりに深刻であることです。
そして二つ目に、東京にも深刻な汚染があること、「東京に悪影響を及ぼすことはない」などとはまったく言えないことを明らかにすることが大切です。この点は東京に住んでいるみなさんにもぜひ自覚を深めていただきたい点です。東京安全宣言に巻き込まれ、放射線防護を怠ってはなりません。
汚染を指摘する根拠はいくらでもあります。まず事故の初期に放射性ヨウ素が東京まで到達して、飲料水を汚染したという事実です。残念なことにこの放射性ヨウ素を東京在住の多くの方々が吸わされてしまったのです。
そのための健康被害が今後、どんどん出てくることが懸念されますが、自分が汚染されたか否かを心配するのはなく、ぜひとも汚染されたと腹をくくっての対処を進めていただきたいです。参考までに、ヨウ素による水道水の汚染を報じた当時の記事や、早川由紀夫さんがヨウ素汚染について論じた記事を紹介しておきます。

東京の水道水から検出 乳児基準超えるヨウ素
共同通信 2011/03/24
http://www.47news.jp/CN/201103/CN2011032301000502.html

2011年3月に東京を襲ったヨウ素
早川由紀夫の火山ブログ 20130114
http://kipuka.blog70.fc2.com/blog-entry-569.html

もちろん、福島からの風で運ばれてきたのはヨウ素だけではありません。セシウムもたくさん飛来して、東京の各地を手ひどく汚染してしまいました。これらについては、事故当初より、各地の土壌汚染を精力的に調査した「放射能防御プロジェクト」が繰り返し警鐘を鳴らしてきました。
ぜひ今一度、このプロジェクトが発表した調査結果に目を通して、東京や首都圏各地の汚染についての把握を進めて欲しいです。またこうしたことを自分の周りにいる海外から来られている方、あるいは海外に情報発信できる方にお伝えください。
東京の汚染は、こうした福島からの風によるものだけでもたらされたのではありません。汚染物質が大量に付着しているごみを集め、焼却してしまったために、とくに焼却場に近い地域がよりひどい汚染を被ってしまいました。
その上、東北の放射性物質の付着したがれきなどを積極的に引き受けて焼却してきたために汚染がさらに追加されてしまいました。このゴミには放射能だけでなく、ヒ素や六価クロムなど、津波によって工場などが破壊されることで発生したものも大量に混じっていました。これらをも勘案しつつ、以下のデータを参照して欲しいです。

首都圏150ヶ所放射能土壌汚染調査結果一覧(2011年8月8日発表)
http://tokyo-23.seesaa.net/article/219200602.html

東京で被曝対策をして生きるということ
http://hibakutokyo.com/3-%E3%81%A9%E3%81%AE%E7%A8%8B%E5%BA%A6%E3%81%AE%E6%B1%9A%E6%9F%93%E5%BA%A6%E3%81%AA%E3%82%89%E4%BD%8F%E3%82%81%E3%82%8B%E3%81%AE%E3%81%8B/

さて、福島原発や東京の現実を世界に明らかにし続けるにあたって、私たちがおさえておくべきことは、当面、東京オリンピック成功に向けた大きなキャンペーンが開始され、反対の声を上げにくい状況が作られることです。
まず私たちはこのことに腹をくくり、孤立を恐れずに真実の声を上げ続けることに腹をくくろうではありませんか。
その際、私たちが踏まえるべきことは、東京オリンピック成功の大合唱は、必ず安倍首相の大嘘を肯定する方向に強まっていくということです。福島原発の危険性を覆い隠す方向にということです。

しかしこのこと自体が、現場の状況から人々の目をそらすことにつながり、現場で働いている方たちの孤立化をもたらし、危険性そのものを大きくします。
そのため、これに対して、政府が前面に立つこと、すでにして原発はコントロールされていることを、安倍政権が世界に公約したのですから、これまで以上に、原発の今へのウォッチを強め、安倍政権の福島原発事故処理を監視して、市民サイドから現状を明らかにし続けていく努力が必要です。
このことこそが危機の回避に大きな貢献を果たします。だからこそ私たちは孤立しようとなんであろうと、必至になってこの作業を続けていく必要がある。そのことで国民・市民を、私たちを、未来世代を守りましょう。

また東京オリンピック成功の大合唱は、津波被害に襲われた東北の回復、新たな街の創造を後景化させてしまう可能性が強くあります。「復興予算」にオリンピックの準備が先行してしまうということです。
おそらくは「オリンピックで儲かれば、東北へも波及する」などというロジックが使われるでしょうが、誰かが儲かれば、全体が儲かるなどと言うのは真っ赤な嘘であり幻想です。現実に私たちの国は巨額な富を貯めながら貧富の差の拡大ばかりを作り出しているのですから。
しかし被災地は、「東京オリンピック反対」とはいいにくいでしょう。だからこそ私たちが大きな声をあげ、オリンピックよりも東北の町の再建を優先せよという声を上げる必要があるのです。

さらにオリンピックに向けたムーブメントは、健康被害を覆い隠す方向にも流れていく可能性が高いです。これに対して立ち向かっていく必要があります。甲状腺検査をはじめ、健康被害に立ち向かう試みを強め、その結果を明らかにし、さらに広く健康被害との対決を呼びかけていく必要があります。
とくに僕は東京の人々のためにこのことが大切になってくると思います。なぜなら今後はオリンピック予定地の東京が、もっとも健康被害が起こっていることを隠される地域になりうるからです。そのことで東京では放射線被曝に由来すると思われる病を発症しても声をあげにくくなってしまう。
検査や治療が遅れ、病が深刻化してしまう可能性も大きくあります。病に対してはできるだけ早くその兆候をつかみ、免疫力を上げることを軸に、早期の対処をしていくことが肝心です。そうした意識が東京で大きく後退させられてしまうことに抗っていく必要があります。

どこの地域の人々だから大切だなどということはありませんが、東京は最も人口が多い街です。当然にも子どもたちももっともたくさんいます。その東京で、このような大嘘による安全宣言が世界になされたことこそが、都民にとっての最大の脅威です。
東京にお住いの方は、ぜひこのことに目覚めてください。放射線被曝の影響を今は感じない方も、そもそも東京の被曝の実態はほとんど都民に把握されていないこと、同時に放射線と人間の関係はまだまだ未知数であることにも着目して欲しいです。
だからこそ西洋科学の知見から言っても、健康被害が絶対にないなどとは言えないのです。チェルノブイリ原発事故でも病のピークは何年も経ってから出てきているのですから、今こそ、病に備えていく必要があります。そうした覚悟を抜きに東京に住み続けることは極めて危険です。愛する東京のために、東京の危険性をともに把握し、訴えていきましょう。

スポーツを愛するすべての方にも訴えます。スポーツを愛することは人間の命や体そのものを愛することに直結するものであると僕は確信しています。僕自身もスポーツを愛し、人間の命、身体の可能性の素晴らしさに何度も感動させてもらってきました。
そのスポーツの祭典が、放射能によって汚染された地域、しかも収束など程遠い、傷だらけの、アンコントロールな原発の近くで行われることなど許されることでしょうか。スポーツを愛するならば、なおさらこの暴挙に立ち向かわなければならないのではないでしょうか。
世界のアスリートたちは世界の宝です。その彼ら彼女らは、誰よりも自分の肉体の管理を重視している人々です。当然のこととして、多くのアスリートが東京オリンピックへの参加に躊躇し、悩みはじめているでしょう。汚染水問題は世界に報道されているのですから。こうした世界のアスリートたちのためにも、開催地の再考を主張していく必要があります。

幸いにも、この問題では私たちにはまだ時間があります。東京に注目が集まる中で、福島原発の今、東京の今、日本の今を、世界に発信していきましょう。そしてスポーツを愛し、だからこそ命を貴ぶ世界の人々と一緒に、放射能の問題を考え、ともに核の時代を終わらせていく可能性を切り拓いていきましょう。