守田です。(20130410 23:30)

4月6日、東京電力により、福島第一原発の地下貯水槽から120トンの放射能汚染水が漏れ出してしまったという発表がなされました。この段階で東電は、別の地下貯水槽に移すことが必要だけれどもそれには5日間かかると述べました。
ところがその後、次々とこの認識が覆される事実が発覚しました。まず明らかになったのは、移送を進める間にさらに47トンが漏れる可能性があるということでした。この段階で、仮設設備ばかりを使ってきた限界への各方面からの批判が始まりました。
続いて汚染水の漏れ出しが起こった貯水槽の隣の貯水槽からも、同じことが起こっていることが判明し、ここからも汚染水を違う貯水槽に移さなければなならくなってしまいました。さらにその移送先であった第一貯水槽も、同じように漏れ出しが起こっていることが判明。ついに東電は4月10日段階で、貯水槽への移送を断念。6月までにすべての汚染水をタンクに移すことを発表しました。

そもそもこの汚染水は、原発炉内の冷却に用いられた後、セシウムだけが除去できたもので、ストロンチウムやプルトニウムなども含まれたものです。原子炉に穴が空いているため、建屋の中に流入してくる地下水とも混ざってしまい、毎日400トンが新たに発生しています。
海水が混ざっているため塩分濃度も高く、それだけシート材などを腐食させやすい。東電はこの水を、原発敷地内に建てた多数の貯水タンクと地面を掘って作った7つの地下貯水槽に貯めてきましたが、すでに今回の事故以前から許容量の約8割に達しており、行き詰まりをみせていました。
その状態での今回の事故は、汚染水処理過程が完全に破綻してしまったことを意味しています。今後、新たな対策をたてることが問われています。

今回の汚染水事故が示したものは何でしょうか。一つは先に、幾つかの燃料プールのクーリングシステムが一斉にダウンしてしまった事故の分析によっても明らかにしたように、福島原発サイトの今が、突貫工事の連続による、仮設に次ぐ仮設での対処によって、極めて脆弱な状態になっているということです。詳しくは以下をご覧下さい。

明日に向けて(651)無責任体質に覆われた福島原発の現場(収束作業員ハッピーさんのつぶやきから)
http://toshikyoto.com/press/715

しかし一方で、今回の事態を見ていて、何かおかしいという違和感も湧いてきました。電源が一斉にダウンしてしまったことは隠しようのない事実だったと思うのですが、今回の汚染水漏れ、本当はもう少し前から把握されいたのではないか。むしろ発表の機会を伺い、次々と発表を書き換える形で公表したのではないか。
端的な話、このように発表されると、情報を追いかける側としては混乱しやすいのです。細かい経緯がわかりにくくなる。一般の方は、事態を追いかける気力を失い、東電によって発表され、マスコミが流す記事をただ読み続けることにもなってしまうのではと思えます。
実際、今回の事態の報道を時系列にそって読んでみましたが、こういう時ほど、マスコミの側も東電の発表通りに記事を書かされやすい。つまりこのように事故情報が小出しに修正されながら出てくるような状態は、実は情報操作もしやすい状態でもあるのです。マスコミは東電の発表の伝達媒体になってしまう。

東電がまた何かを隠しているのではないか・・・と疑いの目を向けて少し前に遡ってみると、浮上してきたのは、東電がこの間、汚染水の中に含まれているストロンチウムの情報を隠したがっているように見えることでした。これを僕は以下で分析しました。

明日に向けて(613)ストロンチウムはどこへ?・・・東電魚介類調査から考える
http://toshikyoto.com/press/588

ここで明らかにしたことですが、2011年12月18日に発表された朝日新聞による東電発表に基づいた試算によると、2011年4月から5月までで、少なくとも約462兆ベクレルの放射性ストロンチウムが流出したことが明らかになっています。東電が同じ時期に流出した放射性ヨウ素とセシウムの総量を約4720兆ベクレルと発表しているので、ストロンチウムはその1割に相当することになります。
セシウムだけを考えるのならば、(ヨウ素とセシウムの比を1対1と仮定して)ストロンチウムは2割は出ていたことになるのですが、その後の調査でこれの裏付けとなるデータが出てこない。魚の汚染としても浮上してきません。しかし相当量のストロンチウムが放出されたことは間違いないのです。にもかかわらず行方不明です。
東電はここに人々の目、マスコミの目が向くことに強い警戒心をもっているのではないかと思えます。そこからさまざまな発想を巡らしているのではないかと考えて、東電の動向を見ていると、いつも一つのつながった系が見えてくるのです。

今回も実は伏線として重要な位置を持っているのが、あらたな放射性物質除去装置アルプスの投入ではないかと思えます。まさにこの時期に投入され、試験運転が開始されていますが、この装置はこれまで主にセシウムしか除去できなかった現状を変え、ストロンチウムやプルトニウムをはじめ62の核種を捉えることができるとされています。これを投入することで、貯水の場がなくなった汚染水を海に放出したいというのが東電が折にふれて述べて汚染水対策の展望です。
これに今回の問題はリンクしているのではないか。あらかじめ把握していた漏れ出しの実態を公表することで、汚染水のアルプスによる濾過ののちの海への放出もやむなしという方向に世論を誘導することが目的なのではないか。そのようにも見えてきます。この点は、この問題を論じた読売新聞の社説の結語に「海への放出も検討すべきだ」とあったことで、より僕が疑惑を深めた点でもあります。問題の点を抜書しておきます。

「汚染水対策には長期的な視点も欠かせない。貯水タンクや貯水槽を設置する敷地は限られている。早晩、限界を迎える。浄化後、安全基準に沿って海に放出することの検討も求められよう。国民の理解を得るために、政府が果たす役割は大きい」(読売新聞社説4月10日)

さらに突っ込んで考えると、東電は、アルプスの投入による62の核種の濾過の下での海洋放出に踏み切る際に、これまでの汚染水の核種分析に踏み込まれないため、汚染水の漏れ出し問題の方に世論を誘導しているのではないかとも見えます。セシウム以外が除去できることを示すためには、もともとあったものが示されなくてはならない。それがどれだけ減ったかを表さないと、62の核種を除去できることが本当なのかどうか示せないからです。
しかし東電はこれまで汚染水の核種分析を明らかにしていません。いや過去に東電が発表したすべてのデータを細かく解析すると、あるいは発表がある可能性もあります。東電は後のちの追求に備えてこそっとデータを出しておくことを常套手段にしているからです。残念ながらその可能性の全てを調ることはできておらず、その点でこの僕の分析は限界を抱えてもいることを付記しておきます。
それでもともあれ汚染水の中身を東電が積極的に発表したがらずにきたこと、また残念ながらここをマスコミが追求してこなかったことは明らかです。

こうした例として挙げられるのは、今回、東電は120リットルが漏れ出したと発表した時に、そこに含まれる放射性物質は約7100億ベクレルだと発表したことです。後に原子力規制委員会が、もっと濃い可能性もあるので、このように発表したのは軽率だと指摘しています。しかしこの指摘もおかしい。そうではなく何が、どれだけ漏れたのかを発表させるべきなのに、違う指摘でごまかしているようにも見えます。
しかしこれまではセシウムしか除去していないと発表しているのですから、ストロンチウム、プルトニウムをはじめ、たくさんの核種が汚染水に存在していることが明らかなのです。だから何がどれぐらい汚染水に含まれており、それが環境に放出されたのかをこそ環境汚染の実態として問題とすべきなのです。しかし原子力規制委員会はまったくそれに触れていないし、残念ながらここに切り込んでいるマスコミも一つもありません。

これらから、今回の問題を汚染水の貯水問題に切り縮めず、汚染の中身を問題にしていく追求がなされるなければならない、この点での解析を重ねる必要があると僕には感ぜられます。
こうした観点からさらに本格稼働を迎えようとしているアルプスのこと、また浮上してくるであろう汚染水の海洋投棄の動きについて、ウォッチを継続していきたいと思います。