2013.01.23

明日に向けて(613)ストロンチウムはどこへ?・・・東電魚介類調査から考える

守田です。(20130123 23:30)

1月18日に東京電力が福島第1原発の港湾内で採ったムラソイから、1キロあたり25万4千ベクレルの放射性セシウム濃度が検出されたと発表しました。すでにこの事実をご存知の方も多いと思うのですが、僕はこの報道に接した時に、いったんは「どんどんひどい汚染実態が出てくるな」とは思ったものの、何かもやもやした懐疑を抱きました。
というのは、これまで東京電力が、事実を正直に発表したことなど一度もなく、常に何らかの意図が隠されていたからです。特に驚くべき事実が発表される時ほど、何かが強く隠蔽されようとしてきています。それでは今回の東電の発表の意図にあるものは何なのか。
実はここ数日、このことを調べるために、東電や水産庁の発表した魚介類の汚染データを繰り返し調べていましたが、何度か迷宮に入りそうになりました。数字を見ていてもなかなか何が隠されているのかいないのか見えにくい。それでもようやくおぼろげながら見えてきたものがあります。それは海に膨大に流れ込んだストロンチウムの行方についてです。

ストロンチウムについては、事故当初より、多くの人々が懸念を抱きながら、いまだ確証的な調査結果が出てきていないのが実情です。セシウムについては、市民レベルでも測れる。実際に全国でおよそ100ヶ所以上の市民測定所が立ち上がり、精力的な測定が行われています。それでも政府も東電も、さまざまなごまかし測定を繰り返していますが、これに対しては市民の側で対抗していくことがまだできます。
しかしストロンチウムは今のところ、市民レベルでは測ることは困難です。専門の調査機関に持ち込んで、市民の側が汚染を暴いた例などもありますが、セシウムの汚染ほどに恒常的な測定ができません。そのためセシウムの値がかなり小さくても、他の核種は大丈夫なのかという不安がつきまといます。

そもそもストロンチウムはどれぐらい原子炉から飛び出したのか。これまでの土壌などの測定から見えているのは、セシウムと比較して100分の1から1000分の1程度の量が飛んでいるということです。関東から東北のかなりの地域に飛んでいることが確認されています。2012年7月24日に文科省が発表したデータでは、秋田県、岩手県、茨城県、神奈川県、群馬県、埼玉県、東京都、栃木県、千葉県、山形県で、福島原発由来と考えられるストロンチウムが検出されています。
ストロンチウムはセシウムに比べて、人体に対しては数百倍危険だと言われていますから、これだけでもかなり深刻な汚染であることがわかります。

しかしこのセシウムとの比較値は、チェルノブイリ原発事故と比べると非常に小さい。なぜかと推論すると、チェルノブイリでは爆発によって原子炉の蓋があいてしまい、しかも炉内で火事が起こって、放射能が上空高く舞上げられて、風にのって拡散してしまったことに対し、福島原発事故では、原子炉の上部はそれほど壊れず、ヨウ素やセシウムなど、ガス化しやすいものが飛び出していき、ストロンチウムはそれほどは飛び出さなかったことが考えられます。
ただしこれは大気に飛び出した放射能のことで、福島原発の場合、原子炉に穴があいてしまい、炉心を冷やした水が膨大に環境中に流れ出しました。この水で炉内にあった放射能がどんどん押し出されてしまった。そのためストロンチウムは、大気中にはセシウムの100分の1から1000分の1しか飛ばなかったかもしれませんが、海には大量に入ってしまったことが推論されます。
これを裏付けたのは朝日新聞による東電発表に基づいた試算でした。2011年12月18日に発表されたもので、ここでは2011年4月から5月までで、少なくとも約462兆ベクレルの放射性ストロンチウムが流出したことが指摘されています。東電が同じ時期に流出した放射性ヨウ素とセシウムの総量を約4720兆ベクレルと発表しているので、ストロンチウムはその1割に相当することになります。セシウムだけを考えるのならば、(ヨウ素とセシウムの比を1対1と仮定して)ストロンチウムは2割は出ていたことになります。

こうした朝日新聞の発表に対して、東京電力は対応していくことが必要だと考えたのではないか。というのは福島第一原発から20キロ圏内の漁獲類の放射性核種調査が、2012年の3月末から始められたからです。そもそも20キロ圏内は立ち入り禁止区域であり、政府関係者と東電しか立ち入れない場所であるわけで、もっと早くから調査がされてしかるべきでしたが、事故後、1年以上も東電はそうした調査をしませんでした。それが俄かに漁獲類調査を始めた同期の一つに、ストロンチウム汚染に関する朝日新聞の指摘があったように思えます。
しかしだからといって東電がその後に、ストロンチウムの調査と発表をすぐに行ったわけではありませんでした。3月29日以降、月に何回か、20キロ圏内の約10箇所のポイントの魚介類を調べてセシウムの汚染値を発表することが繰り返されてきました。その中で、8月1日に定点観測地点の一つの太田川沖合1キロ付近(南相馬市沖合)で、セシウム合算で1キログラムあたり25800ベクレルのアイナメが発見されました。実際には3万を超える数値のものと、1万を下回るもの2匹を合算した数ですが、それでも事故後最大の汚染魚の発表として注目を集めました。(発表は8月21日)
このようなデータが出てきた時に、多くの人が感じるのが「生態濃縮が進んでいるのではないか」ということだと思います。実際にその可能性があるとは思いますが、しかし注意すべき点は、同調査が始まったのは2012年3月からであり、同じ地点でのそれ以前のものとは比較ができないことです。それ以前の最大値をみると、淡水魚は除いて、2011年4月19日に、福島県いわき市でイカナゴ稚魚か1キログラムあたり14400ベクレルが検出されています。それに対して今度は25800ベクレルの値だったわけですが、しかし測った場所も魚も違うので比較がしにくい。

それでさらに9月以降の発表資料を見ていて驚くべき事実に突き当たりました。というのは3月29日以降、毎回発表されるのは、セシウム134と137、および合算の数値のみであり、だんだんこちらの資料の見方もルーチン化して注意力が落ちてくるのですが、それでも執念深く毎回のものを追っていくと、11月30日の発表資料にだけ、いきなりセシウム以外の核種の調査として、放射性の銀110mと、ストロンチウム90の調査結果が出てくるのです。本当にいきなりです。
しかも銀110mの検体が21あることに対して、ストロンチウム90は3つしかない。また実は採取は6月から行われています。重要なデータなので、魚の名前、採取場所など、細かいデータを記しておきます。
コモンカスベ(筋肉) 木戸川沖合2キロ付近 2012年6月16日採取 銀ND ストロンチウム90 0.48ベクレル、セシウム合算合計1000ベクレル
シロメバル(筋肉)  木戸川沖合2キロ付近 2012年7月15日採取 銀ND ストロンチウム90 0.61ベクレル、セシウム合算合計1630ベクレル
マツカワ(筋肉)   2F敷地沖合2キロ付近 2012年7月15日採取 銀ND ストロンチウム90 0.81ベクレル セシウム合計合算1670ベクレル
(ただしストロンチウム90は魚全体で測定)

これをみると、6月7月の時点で、東電がストロンチウムの測定をする意志があったことがはっきりします。同時にわずか3体の測定で終わらせるつもりであったことも非常に見えやすい。その上で8月に「最大汚染魚」が東電によって発表されている。
つまりこのときも、こっそりストロンチウムの測定をしつつ、それから目をそらすために「最大汚染魚」の発表をしたのではないかと思えてきます。

なぜそのように考えるのかと言えば、この11月30日の発表には、驚くことに「1F20km圏内海域における魚介類調査報告(H24年7月~9月採取分)」というものが忽然として現れてくるからです。毎回のルーチン化された汚染値の発表の下、しかもいきなりのストロンチウム測定値の発表後にこれが出てきます。
http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/images/handouts_121130_02-j.pdf

しかもこの「2-5」に「セシウム以外の核種濃度調査結果」が出てきます。そこで7月から9月採取分として(わざわざ6月分をのぞいて)わずか2検体分の数値が出されている。最大0.81、最小0.61、平均0.71(単位はBq/kg)とありますが、2匹で最大も最小もないものです。
さらに驚くべきことは、ここにやはりいきなり3月から6月採取分として、7検体が出てくることです。ここでは最大1.5、最小0.12、平均0.62(単位同じ)となっているのですが、東電が3月から6月に発表したデータにはこのことはまったく載っていませんでした。これらはここで初めて出てくるデータなのです。つまりこのころから東電はストロンチウムを測っていながら、意図的に発表していなかったのです。
その上で、この11月30日の発表では、この検体2体を青い線で囲み、青字で次のように書き加えています。「ストロンチウム90/セシウム137濃度比は、0.0002~0.002と非常に低いレベル」・・・。
ここまで読んで、ああ、これが言いたかったのかと合点しました。値の大きめの魚ははずして7~9月の2検体のみに絞込み、それまでの発表ではセシウムについては134と137の合算値しか書いてこなかったのに、ここでは137とだけ比較する。それで「セシウムに対してこんなに小さいぞ」と強調したかったわけです。

こうした発表の後に、本年1月18日の25万5千ベクレルの汚染魚発表報道が出るわけですが、これをよく見ていくと、この2012年12月20日に採取した魚は、なんと「1F港湾内(物揚場付近)」から採取されています。実は2012年3月からの調査で、一度もこんなに原発に近くから採取されたことはないのです。すべてが沖合1キロ以上からです。それらは定点観測点の番号がついているのですが、この時だけ、定点にない原発直近から採取されている。それで「最高汚染魚」の発表になっているわけです。
しかし原発の直近には今でも汚染水が流れ込んでいることは明らかで、誰にだって最も濃度が高い汚染地帯であることはわかります。だから東電も事故から2年近く、一度も測りはしなかった。ところがここで敢えてこの場所の魚を測って見せたわけです。なぜか。一見すると東電に不利に見える高濃度の汚染魚の発見が発表されることで、東電のデータの信ぴょう性が少しは上がるからです。そうするとストロンチウムの発表にもより信ぴょう性が得られることになる・・・と東電は考えたのではないか。

しかしこの2検体しか調べていない濃度比が正しいデータと言えないことは、少し調べればすぐに見えてくることです。というのはおそらくここまで細かい打ち合わせをしているわけではない水産庁がもっと高い値を出してしまっているからです。
問題のデータは2012年11月15日に発表された「水産総合研究センターによる水産物ストロンチウム調査結果」です。
http://www.jfa.maff.go.jp/j/sigen/housyaseibussitutyousakekka/pdf/121115_sr_result_jp.pdf

ここに出てくるのもたったの5検体(マダラ、シロメバル、ムシガレイ、ゴマサバ、イシカワシラウオ)で、あまりに少なすぎますが、ここに出てくるそれぞれの魚のストロンチウムとセシウム(合算)の比を分数でみていくと、マダラ・1/1133、シロメバル・1/588、ムシガレイ・1/425、ゴマサバ・1/237、イシカワシラウオ・1/118であることがわかります。
東電が発表した0.0002とは分数では1/5000、0.002は1/500です。これはセシウム137だけの値なので、今、大雑把に約7割のセシウム134があったと過程すると、1/3000~1/300となりますから、水産庁の値は3倍ぐらい、高いことがわかります。
しかもこれとてもあまりにわずかな検体でしかなく、汚染が海の中でもまだらになっていることなどを考えてみても、およそデータに値しないものであるとしか言えません。というよりこういうあまりにも非科学的なデータの出し方では、水産庁とても、わざと少ないものだけを選んだのではという疑惑も拭えません。

これらから結論づけられることは、東電がストロンチウム汚染の実態を隠そうとしているのではないかということです。その関連の中で、25万5千ベクレルの汚染魚の発見の発表もあったのではないか。反対に言えば、このようなことで東電の発表を信じてはならないということです。
少なくとも3月から12月までえんえんと繰り返し魚を採取しながら、わずか9検体の魚しか調べず、しかもそのうち6検体についてはデータ公表もせず、最後に2検体だけ取り上げて、「ストロンチウム90/セシウム137濃度比は、0.0002~0.002と非常に低いレベル」などと発表するあり方そのものが、まったくもって不誠実であり、法律的にはどうあれ詐欺行為そのものであると言わざるを得ません。こうしたことを未だに繰り返しているのが東電だということを私たちはしっかりと認識しておく必要があります。
ここから浮上してくるのはストロンチウムの汚染がここに出ているようなものではなくて、もっと深刻に広がっているのではないかということです。であれば、何とかしてその実態を市民の側からつかんでいく必要があります。方法の模索も含めて、奮闘していく必要ありです。

それにしても、こうして東電の発表データをつぶさに解析しながら、その不誠実さが見えるに従って、何とも言えない空しさを感じました。少しでも被害を少なく見せるために悪知恵を巡らしている姿が浮かぶのですが「こんなことに力を入れてどうするのだ」と怒鳴って叱りつけたい境です。こんなことをしている間にやることがあるはずです。
すべての東電社員に、人間としての良心を即刻取り戻しなさいと言いたい。こんなひどい発表などしているときではないのです。そんなことが根本的に分からず、誠実な反省もしない東電が、あの事故の収束の指揮をいまでも採っていることが私たちの根深い危機の一つでもあります。
今できることは、その実態をこうやって丁寧に暴露し、社会的監視を強め、少しでもまともな状態になることを促すことです。そのためにも、また私たちの生命を守るためにも、ストロンチウムの行方をなお追い続けたいと思います。

以下、ストロンチウムについてこれまで考察した記事を参考までに貼り付けておきます。

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明日に向けて(517)ストロンチウム汚染についての考察(どのように広がっているのか?)
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/62e8b799a14d88a0a988bf98fa6e3dee

明日に向けて(446)膨大なストロンチウムが環境を汚染している!(焼却は極度に危険)
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/2e5cab4b20a545032ace3fe119c61d64

明日に向けて(347)4兆5千億ベクレル以上のストロンチウムが漏れ出している
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/2f48916ed9a40591031752e7a12fb858

明日に向けて(290)放射性物質:横浜でストロンチウム検出
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/bcd30bd2d0527804dfe48829eab3749d

明日に向けて(149)キュリウム・アメリシウム・ストロンチウムが検出された!
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/29360d5be7cccc6d875fbd108858455c

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