守田です。(20130216 21:00)

14日に、多治見市に、「核融合科学研究所周辺環境の保全等に関する協定書等の締結および重水素実験に反対」する意見書を提出しました。今回はこのことについて書きたいと思いますが、あらかじめお断りしておくと、僕はまだ核融合の仕組みと危険性について、十分な把握ができてるとは思っていません。
それでも多治見市が応募したパブリックコメントを無視するわけにいかなかったので時間の許す範囲での批判を試みました。まだまだ不十分な理解でしかありませんが、みなさんと一緒に考えていくためにも、今回のコメント作成で学んだことを書いておこうと思います。

危険な原子力の夢=核融合発電のための重水素実験に反対します!

核融合発電の仕組み

核融合発電とは、核分裂によってエネルギーを得るのとは反対に、原子と原子がぶつかって融合するときに出るエネルギーを使うものです。これでお湯を沸かしタービンを回して発電する。お湯を沸かしてからは原発と同じです。ただし核分裂を応用する原発では、燃料のウランやプルトニウムも、これが分裂して生成される物質も、ともに放射性物質であって放射能汚染が避けられないことに対し、原子と原子の融合では、放射性物質が発生せず「クリーンなエネルギーを得られる」というのが開発側の謳い文句です。
しかし核融合が実際に実用されているのは水爆のみ。なぜかというと原子を核融合させるためには、超高温状態を作らなければならないのですが、これがとても難しくて技術がおいついていないからです。なにせ最低でも1億度前後のとんでもない状態(気体とも違い、「プラズマ」状態と呼ばれます)を作らなくてはなりません。たかだかお湯を沸かすのに、なんで1億度以上の場を作らなくてはならないのかという疑問が真っ先に生じますが、とりあえずそれは横において話を先に進めます。

核融合をもっともさせやすいのは水素の仲間の重水素と三重水素(トリチウム)です。重水素は海水の中に5000分の1ほど含まれているので「燃料は無限にある」とされます。しかし重水素だけでは融合させにくいので、一緒にトリチウムを使います。トリチウムは鉱物や、重水素と同じく海水に含まれているリチウムに中性子を当てると作られるもので、放射性物質です。重水素とともに水素の仲間(同位体)で、化学反応では水素とまったく同じようにふるまいます。
「水素爆弾」という名前の由来もここから来ています。水爆の場合でもまずは超高温状態を作らなければなりませんが、どうしているのかというと起爆装置としてなんと原爆を使っているのです。原爆でまず超高温状態を作り出す。それで核融合が行われてさらに莫大なエネルギーが放出される・・・わけですが、当然にも原爆による膨大な放射能(核分裂生成物)が発生します。50年前に繰り返し大気圏内で実験が行われたため、膨大な放射能が降り注がれてしまいました・・・。

今、目指しているのはより高温の「プラズマ」状態の安定した維持

発電のためには原爆など使えるわけがありませんから、原爆にかわって、1億度以上の場(プラズマ状態)を生み出す装置を作らなければなりません。これが大変難しい。しかもただ高温であるだけではダメで、高い密度が必要とされ、その状態で一定時間、封じ込めなくてはいけない。しかし地球上に1億度に耐える材質などありません。そのためこの装置の内部に強力な磁場を作って、そこにプラズマを閉じ込めることが目指されています。それで装置の壁面にプラズマが触れないようにしないといけない上に、プラズマ状態を保たせなければいけない。そのため装置は非常に大型化してしまいます。
現段階ではこれが何とかできて5億度ぐらいまで達しているぐらいの段階だそうです。装置の名前で言うと「トマカク型装置」がこれを達成しています。ここでは水素ガスが使われてきました。しかしこの「トマカク装置」、運転が難しくて、せっかく作ったプラズマが突然消えてしまったりする。一定の時間、もたせることも難しい。それで今、行われつつあるのはもっと操作が容易だとされる「ヘリカル型装置」で、より高いプラズマ状態を安定的に作ることです。
この「ヘリカル型装置」は日本の技術で開発されてきたそうで、その世界最大のものが土岐市の核融合科学研究所にあるのです。そこにこれまでの水素によるプラズマ発生段階を越えて、重水素を入れてより高温のプラズマ状態を作り出し、核融合を起こさせる実験がこれから始められようとしてる「重水素実験」です。この装置はまだ「核融合炉」とは言わないそうで、それを可能にするための実験という位置を持っています。同研究所のパンフレットには、重水素を研究すれば、三重水素(トリチウム)のこともよくわかるとも書いてあります。プラズマ状態でのトリチウムの状態なども研究対象になっているのでしょう。
では重水素を入れて、より安定的なプラズマ状態を作り出すとどういうことが起こるのか。重水素同士を核融合させるために必要な温度はなんと10億度以上だそうで、この装置はそこまでの状態を作れません。しかしそれでも核融合がわずかに生じるとのことで、そうすると重水素同士の融合から、エネルギーの他にヘリウムと中性子と三重水素(トリチウム)が生まれてきます。このうち中性子は放射線であり、トリチウムは放射性物質です。こうした放射線と放射性物質を生み出しながら、より高温で密度の高いプラズマ状態を安定的に作り出し、「核融合炉」の創出につなげようというのが「重水素実験」だということです。

重水素実験の危険性

この実験で生じる危険性にはどのようなものがあるでしょうか。研究所側は「ほとんどない」と言っていますが、なにせ1億度もの熱を発っする装置が壊れることはないのでしょうか。しかも内部で核融合が行われ、膨大なエネルギーが発生します。そもそもこの実験は重水素でプラズマ状態を作るとどうなるかを知る実験なのですから、多くの未知数があります。研究所側も「重水素を研究すれば、三重水素(トリチウム)のこともよくわかる」と言っているわけで、分からないことが多いことを意味しています。核融合を伴いつつ超高温のプラズマを発生させる実験はやはりそれだけで危険性が多いといわざるをえません。
二つ目に、重水素の核融合で、2つの放射能汚染の可能性が生じることです。一つには中性子が発生します。中性子は「透過力」が強くて、遮蔽がもっとも難しい放射線です。同時に中性子はあたったものを脆弱化させるとともに放射化してしまう性質を持っています。研究所側は、実験が終わってから設備が40年で無害化するというのですが、40年もの間、使った装置そのものが放射性物質になってしまうのです。この点で、中性子をたくさん発生させることのリスクは非常に高いです。
もう一つ厄介なのは、この過程で放射性のトリチウムが発生することです。そもそも水素は非常に扱いが難しい物質です。とくに封じ込めが難しい。しかもある割合で酸素ガスと混合すると小さな火種でも爆発を起こしてしまいます。実際に福島第一原発1号機はそれで建屋が吹っ飛びました。そのため現在も窒素を封入して水素の爆発を避けています。また水素は酸素と結合して水を作りますが、その水素がトリチウムの場合は、放射性の水ができてしまいます。放射性物質で汚染された水ではなく、水そのものが放射化されてしまうので回収が難しい。環境中の水と混ざったらもう回収不可能です。何せ水ですから、もちろん生物にもどんどん取り込まれる。
では土岐市で行われようとしている今後の実験でどれぐらいのトリチウムが出てくるかというと、実験所側はなんと毎年555億ベルものトリチウムが発生するとしており、「90%以上を回収する」と言っています。反対に言えば10%未満、55億ベクレル近くは回収できないと公言しているのです。回収しにくい物質であることはここからも明らかで、見積よりももって漏れてしまって、環境をより汚染する可能性も多分にあります。

「クリーンな発電」までの道のりはあまりにも遠い

さらにそうした危険性を犯して実験を行って、かりに次の段階=核融合発電の実施に到れるのだとしても、計画ではまず重水素とトリチウムによる核融合によって発電が行われることになっています。この二者の場合は1億度のプラズマ状態で核融合が可能で、放射性物質ではない重水素同士であれば10億度のプラズマが必要なためで、まず発電の実用化にはトリチウムを使うことが前提されているのです。というか10億度のプラズマ状態での発電はまだ技術的な展望が開けていないのでしょう。論理上可能だとされているに過ぎないのです。高速増殖炉と同じく、応用しようとすればさまざまな困難が発生するでしょう。
つまり危険な重水素実験を行って、その先に開けるのは、まずは放射性物質で、扱いの厄介なトリチウムそのものを燃料とする、とてもクリーンではない発電に過ぎないということです。その場合も、中性子が発生し、融合炉が放射化されてしまう。ここでも先々「低放射化材を使う」と言われていますが、これも現段階では絵に書いた餅でしかありません。
しかも、このとてもクリーンだとは言えないトリチウムを燃料とした核融合発電にやっと到達するのが、現段階の甘い読みで2050年なのです。それまで一切、電力を生まない危険な実験に、莫大な資金が投入され、せっせと放射性物質を作っていくことになります。なおかつそうまでして取り組んで、できることはたかだかお湯を沸かすことだけです。何億度もの熱の場を使って、水を100度にする。あまりに不合理です。
そんなことをするよりも、ここにつぎ込む資金を自然エネルギーに振り向ければ、すぐにも電気が得られるし、火力であろうが原子力であろうが、熱でタービンを回すことに伴うさまざまな限界を大きく超えていくことができます。これひとつとっても、わざわざ危険を犯すメリットが何もないことが明らかでしょう。

今は、福島第一原発事故の終息にむけて資金を投入すべき

私たちの国は今、未曾有の危機の中にあります。福島第一原発事故は依然、終息などしておらず、4号機をはじめ、ものすごく深刻な危機が私たちの前にあります。理想的な計画でも、2050年になってやっと放射性のトリチウムを燃料とした湯沸かし器など作るよりも、この資金を全部、福島の現場に投入すべきです。
そもそも溶けてしまった燃料を取り出す技術も人類はまだ持っていないのです。ここに真っ先に、国中の英知と資金を集中しなくてなりません。また作業している方たちの待遇改善、作業環境における放射線防御の徹底化や、医療保障なども、もっと手厚くしなければなりません。作業はまだまだ延々と続くのです。いくらお金があっても足りないのではないでしょうか。
同時に、すでに出てしまった膨大な放射能への対処、そのために起こってしまった被曝への対応に資金を潤沢に投入しなけばなりません。すでに子どもたちから次々に甲状腺がんが見つかっています。それだけでなく全国各地で、体調不良の報告が増加しています。間違いなく言えることは医療予算が今後、大きく膨らんでいくことです。ここを手厚くしないと医療スタッフがまいってしまい、私たちの健康の基礎としての医療制度が崩壊しています。
また線量の高い地域からの人々の避難の促進、子どもたちの学童疎開、可能な場での除染の促進など、事故の結果への対応には、これからも膨大な資金が必要です。これにあわせて津波被害からの復活にも大量の資金が必要です。それらを考えても、この危険性が膨大で、なおかつ無駄な計画に資金をつぎ込む意義はまったくありません。

結論

「クリーンな発電」としての核融合発電は、あまりに道のりが遠く、危険な未知の実験を幾つもくぐり抜けなくては到達できないものです。しかもその過程で、常に中性子が放射され、周りの物質を放射化するとともに、扱いにくい放射性のトリチウムが生み出され続けます。あまりに危険性が高い上に、それで私たちが電気を手にできるのは、理想的にいっても40年以上先です。
現在、私たちは福島原発事故と向かい合っているのであって、これ以上に原子力に関連するリスクを増やすことなどあってはならないし、貴重な財源をそんなことに費やす余裕などまったくありません。以上から土岐市で行われる重水素実験は絶対に進めてはならないものです。私たちと未来世代のために、反対の声を広げましょう!

最後に地元でこの問題と精力的に向かい合っている「多治見を放射能から守ろう!市民の会」のページと、実験反対の署名を紹介します。みなさん、ぜひ署名にご協力ください。

多治見を放射能から守ろう!市民の会
http://t-mamorou.digi2.jp/index.html

重水素実験調印反対署名
http://sukoyaka-koshigaya.jimdo.com/重水素実験調印反対署名/