守田です。(20130107 17:30)

このところ、朝日新聞が「手抜き除染」問題について次々とスクープを連発しています。
まずは1月4日、「手抜き除染相次ぐ 福島第一周辺 土や葉、川に投棄」という記事が1面トップに掲載されました。原発周辺の除染作業で、取り除いた土や枝葉、洗浄に使った水を周辺の川などに捨てているというのです。これでは除染どころか汚染の拡大にしかなりません。「手抜き」だけでは足りない犯罪的行為です。
紙面には「仕組み再考の時」と題して、次のような指摘も行われています。「環境省は除染前後に放射線量を測るようゼネコンに求めているが、計測地点は限られ、除染がどこまで徹底されたか把握するのは難しい。作業員からは「計測地点周辺だけきれいにすればいいとい指示された」との証言が相次ぐ。環境省の現場職員は「隅々まで監視するのは不可能」と認めている。除染の仕組みは機能していないというほかない。」

「除染の仕組みは機能していない」というこの指摘は妥当だと思います。しかしもう一歩つっこむべきではないか。ここにはそもそも除染が可能なのか否か。あるいはどのようなところまでなら除染できるのかという問題が背景に横たわっているからです。
現実にはどうか。放射能汚染はその度合いにおいて、山のような分布を見せています。このうち裾野と呼べるべきところは、汚染が比較的少ないので除染は可能だし、妥当な、確実にそこにある放射能をつかまえてどこかに閉じ込める形での除染(移染)が行われるべきでしょう。しかし山の頂の方になるとまったく不可能です。そのためどこからを除染対象とするのかが検討される必要があります。
にもかかわらず、この肝心の「仕分け」が行われず、例えば飯舘村の山林など、とても除染などできるはずがないところに、莫大な資金が投入されて除染が行われている。やるとなったら全山の樹木を切り取らないといけない。しかもそれをどこかに持ち去らねばならない。現実には不可能なので、現場はどうなるのかと言えば、おざなりな作業を行ってお茶を濁すことが横行しているのです。それで貴重な経費が消耗されてしまっています。
ここには「除染」が、実際には多くの地域が居住できなくなっていることや、長い間、帰ることも難しくなっている事実を、隠蔽するためにこそ行われている現実が生み出す矛盾です。「手抜き」が問題だというよりも、合理的に考えて、できない「除染」が強行されていることにこそ真の問題があります。朝日新聞の記事はこの点に触れていなくて残念です。

ただしその後、より突っ込んだ取材記事もでてきました。1月5日の「手抜き除染、夏から苦情殺到 環境省、対応おざなり」という記事です。それによると、こうした手抜き除染の横行は、早くから周辺住民によって察知され、環境省に苦情が殺到していたにもかかわらず、何らまともな対応が取られていなかったというのです。
この段階で、責任は実際に手抜きを行っている末端の業者よりも、指導監督責任のある環境省にこそあることが明らかになりました。環境省の官僚たちは、手抜き除染の横行を知りながら、見て見ぬ振りをしていた。本当にひどいことで、社会的批判がなされる必要があります。出鱈目な指導による除染費用の浪費も厳しく咎められる必要があります。このことは重要なポイントです。
さらに1月7日には、「「先行除染も手抜き」 福島第一原発周辺の作業員証言」という記事が掲載されました。郡山市で行われた「被ばく労働を考えるネットワーク」などによる作業者の座談会で、「建物や道路から20メートル内の本格除染に先駆けて作業拠点となる役場などで実施した先行除染でも、回収しなければならない枝葉や水を捨てる「手抜き除染」をしていたと証言した」ことが報じられ、これまでの除染作業の多くが、まともに行われなかった疑惑もが突き出されています。
同日の新聞には、こうした事態を受けて、政府が「除染適正化推進本部」を設置したことが報じられています。朝日新聞のスクープが、政府をして対応せざるをえなくさせたといえるでしょう。

しかし僕はこれでもまだ足りないと思います。「除染適正化推進本部」というネーミング自身も腹立たしいですが、先にも述べたように、本当に必要なのは、もっと除染の困難性そのものを明確化させ、その対処を検討することだからです。
その中には、困難であるとの認識のもとに、避難を拡大するという選択が当然にも含まれます。とくに重要なのは避難権利の拡大です。なぜか。これまで政府は、多くの汚染地域の人々に「除染」をしたら大丈夫だといいなし、除染の実行を約束してきました。
しかしそれがまったくおざなりであったわけで、約束の前提が崩れているわけですから、必然的に避難の権利を拡大をするべきなのです。ここに問題の一つの核心があります。

第二に、非常に大事なのは、こうした「手抜き作業」が横行しているならば、当然にも現場の作業者の安全も確保されておらず、劣悪な被曝環境が現出していることは明らかであって、その点こそがこの「手抜き」問題から導出されなければならないという点です。作業者が極めて危険な状態におかれ続けているのです。
そもそも除染は、そこに人が住めない危険なものがあるから除く作業であるわけで、作業者は、その危険物に近づくのですから極めて危険です。しかも放射能は目に見えず、匂いもしないので、感知しにくい。そのことが危険性を何倍にもしています。
除染作業は、ホットスポットなどに集まっている放射性物質に手を加えるのですから、それを吸引してしまう可能性が極めて高い。恐ろしい内部被曝の危険性が常につきまといます。
実際に僕自身も除染に少しだけ関わって思ったことは、除染作業においては、作業現場だけでなく、そこで使った道具、衣服、靴、車などなども汚染され、それでその後に放射性物質と一緒に動くことになってもしまいます。この汚染からはっきりと「切れた」ことは「クリーンルーム」でも作らない限り極めて難しい。そのため杜撰な作業では、ほとんど確実に現場で放射性物質を吸引し、そればかりか家にすら放射能を持ち帰ってしまうことになります。

それからからこうした杜撰な作業は、第一に作業者にとって極めて危険であり、第二に周辺にいる人々にとって危険です。現在の多くの作業では、ある意味ではせっかくホットスポットに集まっている放射性物質を、わざわざ拡散してしまってもいるからです。
それを作業者や周辺の人々が吸い込む事態が作り出されてしまっている。他の作業とは違って、放射性物質の除染における「手抜き」とは、汚染の拡大・深刻化という恐ろしい意味を持つものであることこそが踏まえられなければなりません。
従って、その場が除染が可能なのかどうかという判断の中には、それを行う作業員の安全が守れるのか否か、きちんと放射能汚染と切り離すことができるのか否かという点も含まれなければなりません。そうすれば一層、除染の困難さは際立つわけですが、それこそが放射能汚染の恐ろしさの一つであることに私たちは社会的に向き合っていくしかないのです。

「手抜き」除染の批判にとどまらず、除染の困難性、危険性の隠蔽こそが、問題の元凶であることを見抜き、政府や行政に、問題の抜本的な見直しを迫り、避難権利の拡大も求めていきましょう。

以下、参考までに朝日新聞の記事を列挙しておきます。いずれもデジタル版のコピーなので記事は途中までです。

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「手抜き除染」横行 回収した土、川に投棄
朝日新聞 2013年1月4日(記事と動画「除染作業手抜きの実態」)
http://www.asahi.com/national/update/0104/TKY201301040001.html

【青木美希、鬼原民幸】東京電力福島第一原発周辺の除染作業で、取り除いた土や枝葉、洗浄に使った水の一部を現場周辺の川などに捨てる「手抜き除染」が横行していることが、朝日新聞の取材でわかった。元請けゼネコンの現場監督が指示して投棄した例もある。発注元の環境省は契約違反とみて調査を始めた。汚染廃棄物の扱いを定めた特別措置法に違反する可能性がある。

■福島第一周辺、環境省が調査へ
環境省は昨夏以降、福島県内の11市町村を除染特別地域に指定し、建物や道路、農地などから20メートル内の本格除染を始めた。それ以外に広げるかどうかは今後の課題だ。これまで4市町村の本格除染をゼネコンの共同企業体(JV)に発注した。楢葉町が前田建設工業や大日本土木など(受注金額188億円)、飯舘村が大成建設など(77億円)、川内村が大林組など(43億円)、田村市が鹿島など(33億円)。
環境省が元請けと契約した作業ルールでは、はぎ取った土や落ち葉はすべて袋に入れて回収し、飛散しないように管理しなければいけない。住宅の屋根や壁は手で拭き取るかブラシでこする。高圧洗浄機の使用は汚染水が飛び散るため雨どいなどごく一部でしか認めていない。洗浄に使った水は回収する決まりだ。

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手抜き除染、作業員証言 「詰め切れぬ葉は捨てて」指示
朝日新聞 2013年1月4日
http://www.asahi.com/national/update/0104/TKY201301040009.html

「手抜き除染」横行の情報を得て、取材班は現地に向かった。
「袋に詰めなければならない草木をここに捨てました」。20代男性が取材班を案内したのは、県道から20メートルほど斜面を下りた雑木林だった。枯れ葉や枝が幅1メートル、長さ50メートルにわたり散乱し、高い所は1.5メートルほどの山になっている。
福島第一原発から南に15キロの福島県楢葉町。昨年8月に警戒区域が解除された後も大半が避難指示解除準備区域に指定され、町民は住んではいけない。

楢葉町の除染を受注したのは、前田建設工業や大日本土木などの共同企業体(JV)。作業ルールでは道路の両側20メートルの幅で草木や土を取り除き、袋に詰めて仮置き場に保管しなければならない。空間線量を毎時0.23マイクロシーベルト以下に下げていく長期的目標の第一歩だ。
男性は昨年10月、都内のハローワークで3次下請け会社の求人を見つけ、働き始めた。道路の両側20メートルにはったピンクのテープの内側で、のこぎりで木を切り、草刈り機で刈り取った草や落ち葉を熊手でかき集めて袋に詰め、運び出す作業のはずだった。
ところが、大日本土木の現場監督は当初から、作業班約30人に「袋に詰め切れない分は捨てていい」「テープの外の崖に投げていい」と指示し、作業員らは従った。監督が不在の日には別の監督役から同じ指示があったという。

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手抜き除染、夏から苦情殺到 環境省、対応おざなり
朝日新聞 2013年1月5日(記事と動画「田村市の除染現場の沢の投棄」)
http://www.asahi.com/national/update/0105/TKY201301040463.html

東京電力福島第一原発周辺で「手抜き除染」が横行している問題で、住民から環境省に除染作業への苦情が殺到していたことが分かった。ところが、環境省は苦情内容や件数を記録・分析して業者の指導に活用することをしていなかったという。住民からの苦情に場当たり的な対応を重ねたことが、手抜き除染を見逃す一因になった可能性がある。  
除染事業の現地本部である環境省福島環境再生事務所によると、建物や道路から20メートル以内の本格除染を始めた昨夏以降、住民から「草がきちんと刈り取られていない」「洗浄に使った水が漏れている」といった苦情が多数寄せられるようになった。これらは環境省が定めた作業ルールに違反する可能性があるが、担当者の一人は「ひっきりなしに電話がかかってきて、いちいち記録をとっていられなかった」と打ち明ける。
同事務所は朝日新聞の取材に「苦情があるたびに契約に基づいてきちんとやるよう作業現場に注意してきた」と説明。一方で具体的な内容や業者名、件数などは記録せず、苦情の多い業者を厳しく指導するなど効果的な対応をしていなかったことを明らかにした。個別の苦情にどう対応したのかは検証できないという。

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「先行除染も手抜き」 福島第一原発周辺の作業員証言 
朝日新聞 2013年1月7日
http://www.asahi.com/national/update/0106/TKY201301060323.html

東京電力福島第一原発周辺の除染現場で働く作業員の交流会が6日、福島県郡山市であった。複数の参加者が朝日新聞の取材に対して、建物や道路から20メートル内の本格除染に先駆けて作業拠点となる役場などで実施した先行除染でも、回収しなければならない枝葉や水を捨てる「手抜き除染」をしていたと証言した。
楢葉町で昨夏、先行除染をした作業員は「1次下請けの監督から『まじめにやってくれているのはいいけど、向こうに捨ててもいいんじゃないの』と言われ、枝葉を川に捨てた」と証言。葛尾村で先行除染をした作業員は「7月ごろ建物を洗浄した水をそのまま流していた。環境省の職員が来る日だけやらないように指示された」と語った。
交流会は労働組合や弁護士らでつくる支援団体「被ばく労働を考えるネットワーク」などが主催。約20人の作業員が参加し、特殊勤務手当(危険手当)が適正に支給されていないことについて環境省に改善を求める方針を決めた。

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「除染適正化本部」を設置 環境省、手抜き横行を受け
朝日新聞 2013年1月7日
http://www.asahi.com/politics/update/0107/TKY201301070076.html

菅義偉官房長官は7日午前の記者会見で、国による東京電力福島第一原発事故の除染作業で「手抜き」が横行している問題について「極めて遺憾だ。しっかりと調査して厳しく対応する」と述べた。環境省は同日午後、井上信治環境副大臣をトップとする「除染適正化推進本部」の初会合を開催。事実関係を調査し、管理を徹底するとともに信頼回復策を検討する。
回収しなければならない枝葉や土などを現場周辺に捨てる「手抜き除染」は朝日新聞の報道で発覚した。適正化推進本部の設置は石原伸晃環境相の指示。政務官や事務次官らがメンバーとなって調査・検討を進める。
まずは元請けのゼネコン各社に対して現場責任者に事実関係を確認するよう要求。「手抜き」が確認されれば、改善を指導していく方針だ。