守田です。(20121217 23:30)

岩手県釜石市の旅館にいます。東北をめぐる旅の途中です。
14日京都を出発、東京を経て、その日のうちに仙台に到着。「小さき花・市民の放射能測定室」を運営してる農民科学者の石森秀彦さんに迎えていただき、彼の家に向かいました。夜と朝をかけて、放射線測定に関して深く意見を交わしました。

15日は仙台での被災者企画に参加。午後1時半から9時までという長丁場ながら、ものすごい深い内容が詰まっている企画に参加できて、胸をゆすられっぱなしでした。しかもその後、主催者の穂積さんご夫妻のご好意で、出演者のみなさんと一緒の宿泊地へ。翌日明け方の3時半まで討論を重ねました。

16日は福島市へ移動。車中で今回、僕を誘ってくださったフォーラム福島の阿部さんや、相馬高校放送部の生徒たちを率いている渡部先生などと意見を交換し、市内では飯舘村から移ってきた喫茶店あぐりや、フォーラム福島を訪問しました。

そして今日、17日は朝方に福島市内で放射線計測を行い、その後に、再び新幹線で仙台に戻り、京都から夜行バスでやってきた京都OHANAプロジェクトのメンバーと合流。一路、岩手県大槌町めざして午後四時過ぎに到着。地元のNPOぐるっとおおつちのみなさんの事務所を訪ね、明日、明後日と続く企画の打ち合わせをして、宿泊地の釜石に戻ってきました。この非常に濃厚な数日間に得たことは多く、すぐにも記事にしたいことが僕の頭の中にぎっちりと詰まっています。

にもかかわらず、今宵は優先的に書かねばならないことができてしまいました。総選挙についてです。今回の自民党の「大勝」は僕にとってはまったくもって予想通りの結果であり、何らの驚きもありませんでした。しかし京都の親しい友人、ブログを読んでくださっている方、岩手県在住で明日からの企画にかけつけてくれようとしている方・・・など多くの方が、今回の結果を憂いて僕に意見を求めてきました。

とくにある方は、「自分の小さな息子を見ていると、この子がいつかこの人のせいで徴兵され、人を殺す訓練をさせられるのかもしれないと思うと、石原氏の顔を見て涙が出てきた」と語られました。これを聞いて僕は「すぐにも何かを書かなくてはいけない」という思いを強くしました。

選挙の結果に憂いを感じているみなさま。結論から先に述べます。
(1)今回の結果は小選挙区制という非常にゆがんだ国政選挙制度が作りだしているもので、民意を反映したものではありません。とくに「国防軍」の建設をうたう自民党に強い支持が集まったのでは断じてありません。それどころか自民党は、大敗北した前回選挙に比べて、たいして得票を伸ばしてすらいません。つまりこの国の民意が、この右傾化する党を選んだわけではないのだということをしっかりと見据えておく必要があります。

(2)同時に今回の選挙には、首相官邸前を10万、20万で取り巻いてきた国民・住民・市民の声がまったく反映されませんでした。その理由は、脱原発を掲げた政党のほとんどが、原発問題をエネルギー問題としてしか打ち出せず、今も継続しており、破局に向かう可能性すら内包している事故問題として、あるいは被曝問題として、打ち出さなかったことにあります。要するに福島原発事故への批判があまりに不徹底だったのです。だからこそ、世論を二分するような論議になりませんでした。

(3)この2点目はマスコミによっても強められてきたことでもあります。今なお4号機が非常に不安定な状態にあり、世界に大変な被曝のダメージをおこしうる事故の可能性が去っていないこと。そのために日本の総力を事故の拡大の防止のために投入するとともに、広域の避難訓練を行うべきこと。またそんな状態も踏まえて、住民の避難権利を拡大し、せめて子どもたちの疎開を促進することが問われていることなど、本当のことを数日でも書きつらねさえすれば、選挙の争点は大きく変わっていたでしょう。

(4)にもかかわらず、自民党は今後、脱原発政策を反故にし、それどころか憲法改悪に手を染め、9条をなくして国防軍を創設し、基本的人権の縮小にまで踏み込んでくる可能性があります。それはこれまでよりも格段に高い可能性ですが、それに対してどうすればよいのかといえば、答えは実に単純です。真正面から立ち向かえばよいのです。そうすることことが私たちに問われているのです。

(5)私たち自身が、選挙に反映していない民意を目に見える形に変え、高々と掲げるのです。憲法を守るだけでなく、真に生かさなければならない。いや一歩先まで進んで、基本的人権が「国籍」によって差別されていることを越え、この国に住まう全ての人に人権が認めるところまで進まなくてはいけない。そのような不断の努力の中でこそ、人権は守られ、だから今、被曝に苦しむ人々の権利も守られていきます。

(6)その可能性はすでにこれまでの多くの人々の能動的な活動の高まりによってはっきりと示されています。放射能をめぐる企画が全国津々浦々で重ねられている現実。再稼動反対運動や、がれき焼却反対運動が各地で取り組まれている現実。これまでないほどに市民自らが科学をしている現状。それは本当に凄いものがあります。にもかかわらずそれらが選挙に反映しなかった。選挙制度、既成政党、マスコミの限界です。だからこそそれを下から覆していく行動が今こそ問われているし、その展望は非常に大きく切り開かれていると僕は実感してます。僕自身、この流れを促進するために全身全霊を傾けたいと思います。

以下、上に掲げた点のうち、とりわけ今回の選挙で自民党が民意を得ていないと僕が断言する根拠を補足していきたいと思います。とくに僕が指摘したいのは小選挙区制という、民主主義に著しく反した制度の矛盾です。

まず今回の衆院選で各党の得票率と議席占有率の関係を300小選挙区でみてみます。すると分かるのは自民党が、43.0%の得票率で237もの議席を獲得していることです。占有率はなんと79.0%。4割少しの得票で8割の議席を獲っているのです。一方、民主党は22.8%の得票率で獲得議席数はわずか27。占有率は9.0%です。票数では半分以上なのに、議席数は237対27。これはあまりにもめちゃくちゃではないでしょうか。

この小選挙区で落選候補に投じられ、投票が議席獲得に結びつかなかった「死票」は、全国の合計で約3730万票に上っています。なんと3730万人の意志が無視されているのです。小選挙区候補の全得票に占める「死票率」は56.0%。前回が46.3%だったので、9.7ポイント増となっています。ここにも今回の選挙があまりに民意を無視した結果をもたらしていることがあらわれています。

比例選(定数180)をみても、自民党が信任を受けたのではないことがはっきりします。なぜなら今回の自民党の得票率は27.62%ですが、実にこの数は大敗した前回2009年衆院選の26.73%とほぼ同じだからです。それで前回は大敗で今回は圧勝です。

実際には今回の自民党の全国の比例得票数は1662万票で、2005年に「郵政選挙」で「大勝」したときの2588万票を大きく下回っています。2009年の1881万票にも及んでいない。この点にも自民党の支持が広がったなどとはまったく言えないことがあらわれています。

これらから言えることは何か。原発安全神話と同じように、選挙制度でも私たちは大きく騙されているということです。この国が民主主義であるという幻想にです。実際には4000万人近い人の票が死票になる中で、小選挙区では4割の得票で8割の議席を得たものが、他の4000万人の支持を受けた候補の多くを押しのけてしまっているのです。これで公明正大な選挙制度だといえるでしょうか。いや公明正大とまで言わなくてもいい。かろうじて民主主義であるとも言えないような制度がいまの私たちの国の選挙制度なのではないでしょうか。私たち有権者のことをあまりに愚弄するなと言いたいです!

僕が自民党の大勝を予測していたのは、この仕組みのためです。同時に、再稼動反対やがれき焼却反対で一生懸命に行動している人々の声も思いも、まったく不十分にしか選挙で争点化されていなかったためです。だから言いたいのはこのような不誠実な、民主主義とは言えない、まやかしの代表選に一喜一憂せずに、本当の民衆の行動、草の根民主主義を自ら育て、その力で、放射線防護を進め、原発の再稼動に立ち向かい、国防軍の創設にも抗って、平和と人権を守り、育てようということです。

前述したようにそれが可能であることを僕は非常に強く体感しています。
例えば、僕は明日、明後日、大槌町で講演しますが、これで昨年3月11日からの講演数は約190回にもなります。僕が凄いのではないのです。それだけたくさんの人が、放射能をめぐる勉強会を開催してくれたのだということです。
僕など名前が売れているわけでもなんでもない一介のライターです。そんな僕からすら話を聞き、学び放射線防護を進めようとする人々が本当に無数にいる。

それも都市部ばかりではないのです。最近、僕が呼ばれているのは、例えば兵庫県篠山市や丹波市、京都府京丹後市や舞鶴市、宮津市、与謝野町、伊根町など、農村や漁村が広がる地域です。広島県でも、尾道市、福山市、三原市などで呼んでいただきました。県庁所在地ではない多くの町々です。しかもそういうところにいって知るのは、すでにそうした地域が、原発問題を語れる人々を次々と呼んでいることです。

同じことが全国津々浦々で起こっています。本当にあちこちで、小さな集まりから大きな集会までさまざまな人の集まりが出来ている。僕は17歳のときから今日まで社会運動に携わっていますが、こんな連続的な熱気にさらされた経験はかつてありません。しかもどこにいっても参加者の多くが実によく学んでいる。科学をしている。科学をして、自らの生き方を問い、地域の行く末を本気で考えています。

選挙はその息吹とはまったくリンクしないところで進められてました。悔しくもありはしますが、しかし僕は国会や国会議員は、この国の中で一番最後に変わるものだと思っているので、まあそんなものだと初めから思っていました。
そんなところとは別に、今、私たちの国のいたるところで、最深部からの変革が始まっているのです。大切なのはそのことです。私たちは私たち自身の力にもっと自覚的になり、自信を深めていい。その力こそが原発稼動を2基にまで押しとどめているのです。私たちより環境政策で大きく進んでいるドイツでさえ、まだ8基も稼動していることなど私たちはしるべきです。

小選挙区4割の得票で、8割の議席を掠め取った自民党は、この本当の民意を押しつぶそうとしてくるでしょう。その場合の一番の手が、民衆に自ら失望するように仕向けることです。その一つとして現行の選挙制度もあります。民意など得なくても、あたかも得たようなふりをして政治権力を振るうことを合法化するのがこのシステムです。私たちはこうした手にもう騙されないようにしましょう。

民主主義、デモクラシーの語源は、民衆(デモス)に力(クラチア)のある状態です。今、その力はかつてなく高まっています。それがストレートに現れない選挙制度に騙され、ここで自信を失ってはいけない。それこそ権力者の思う壺です。
あまりに民意を反映しない選挙制度そのものを、原子力安全神話とともに覆すことを私たちは目指しましょう。

そのためにも、明日、明後日と僕は大槌の人々とともに、大槌で、この放射能時代をいかに前向きにいきて突破していくのかを考えたいと思います。そうして津波災害、原発災害の苦しみから、町を人々を再生せんとしている大槌の方たちの試みに何か一つでも寄与しようと思います。そのために一生懸命にお話しようと思います。

みなさん。しっかりと足元をみて前に進みましょう。焦ることなどありません。私たちはいま、大きく成長しつつあるのです。原発政策で繰り返し私たちを騙してきた人々が、あの手、この手で、私たちには力がなく、おろかで、自分の足で歩くことはできないと私たちを丸め込もうとして来ますが、それを跳ね返していきましょう。

私たちはもう多くの虚構に気づいてしまった。覚醒してしまったのです。だから私たちには未来が見えています。
ともに進んでいきましょう!