守田です(20200515 23:30)

2000年代になってこの国に起こった最も大きな事件、やはり誰もが東日本大震災と福島原発事故、そして新型コロナウイルス感染症をあげると思います。今日はこの二つを比較してみたいと思います。世の中の受け止め方についてです。

● 福島原発事故の時に起こったこと

福島原発事故が起こった時、東京電力は事故の進展を隠していました。原発は1,2,3号機が次々メルトダウン。4号機のプールも干上がりだして破局に向かいつつありました。
現場では人々を被曝させて、格納容器を守る「ベント」を行おうとしましたが、2号機は間に合わず、格納容器下部が裂けてしまいました。でもポンコツで強度が弱かったからで、かえって破局的爆発は免れました。
一方、4号機が干上がれば膨大な放射性物質が出てくるところでした。内閣府原発安全員会の試算で半径170キロ圏内が強制移住、半径250キロ圏内が希望者による避難ゾーンになるところでした。しかしこれも偶然に免れました。


毎日新聞が2011年末にやっと原子力委員会の3月のシナリオをスクープ

僕はこの時、メルトダウンが起こっているに違いないし、大爆発もありうると考えて「逃げて下さい!」と発信し続けました。実際、濃厚な放射性物質が3つの原子炉から漏れ出していました。
この時、数万から数十万の方たちが、福島や関東・東北から逃げ出しましたが、多くはそうではなかった。それどころか「原発が危機だという脅しに屈するな」などの言語が飛び交い、人々の大半は逃げませんでした。
民主党政権も「俄かに健康に被害はない」と繰り返すばかり。この国を「正常性バイアス」が覆い、どこの新聞もワイドショーも政党も「逃げろ」とは言いませんでした。


東電は事故直後からメルドダウンしていることを知っていた(NHKより)

● 新型コロナウイルス感染症のもとで起こっていること

今回は正反対の様相の中にあります。僕は当初から新型コロナは、致死率はそれほど高くはないと捉えてきました。しかし対処をあやまれば、耐えがたい医療崩壊を引き起こしうることが見えてきました。
それで僕は、人々が医療パニックを起こさないことが最も大事だと考え、この病が子どもや若者では重症化する可能性が低いこと、医療を重症化した方に集中するようにすれば、多くの命を守りつつ越えていけることを強調しました。
こうしたことは、政府の専門家会議もとても丁寧に説明していました。また専門家会議の姿勢は、強権発動を回避し、対話的な姿勢で物事を進めようとしていることが分かったため、そこにみんなで集えば良いと思いました。

ところがテレビのワイドショーに登場するコメンテーターなどが、感情的に危機を煽りだしました。死者急増のニューヨークを横目に「東京は手遅れに近い」「いまのニューヨークは3週間後の東京」「ロックダウンは不可避」などの断言がなされました。
「この病を危険だと言わないものは命を軽視している」と言わんばかりの雰囲気も生まれ、そんな中で安倍政権批判に見せかけた専門家会議への非難、さらには「死者数がごまかされている」など、医療者を中傷する言説が跋扈しました。
そして「緊急事態宣言は遅かった」「日本にも韓国のような監視システムを導入すべき」「なぜロックダウンができないのか」「人権より命が大事」など、左から「強権発動」を求めるような声さえ出てきました。


「東京は手遅れに近い」と断言した渋谷健司氏。その後、なんの釈明もしていない。

● 私たちの努力が死者を低く抑えている

一体いま、何が起こっているのでしょう。福島原発事故と向き合ってきたみなさん。被曝を避けようと奮闘してきたみなさん。冷静になって振り返りましょう。
あのとき、どのテレビ局が私たちの味方をしてくれたでしょうか。どの新聞が真実を書いてくれたでしょうか。そしてどの政党が人々に「逃げよ」と言ってくれたでしょうか?
どこもありませんでした。そしていま、そんなテレビが、大新聞が、そして一部の政党が、危機を煽りまくっています。「死者がごまかされている」などの言説=医療者へのバッシングが流され続けています。

背後には原子力ムラに通じる人々がいます。福島原発事故のときに、福島に乗り込み、人々に「放射線安全教育」を施してきたい上昌広氏や渋谷健司氏が、危機煽りの先頭に立ち続けています。この二人につながる人々が医療界への攻撃を続けています。
しかし医療界も、私たちも「重症化しやすい人々を守り抜く」ことには見事に一致団結し、努力を重ね、そのもとで確かに多くの命を守りぬいています。この状態で感染の山を一度、下げることができています。
私たち全体の努力によるものです。私たちはロックダウンなどせずにこれをやり遂げています。この貴重な成果を、上昌広氏や渋谷健司氏に騙されて、見えなくなってはいけません。


原子力ムラにご用心! 相馬市のPDFより

● 騙しの構造を見破ろう

この2人に人々が騙されやすいのは、彼らが安倍首相が重ねる失策と、それへの人々の怒りを巧妙に利用しているからです。実際、安倍首相は人々を守る気も力もないことを露骨にさらけ出しています。
実は専門家会議も悲鳴をあげているのにお気づきでしょうか。一つに感染症対策の両輪であるべき経済補償が、ちっとも進まないからです。だから「経済に明るい人を入れた諮問会議を作って欲しい」と言い出しています。
もう一つは、医師が求めたときにできるだけのPCR検査能力の拡充や、PPEなど医療者を守る材料の供給も進まないからです。そもそもアベノマスクの配布など意味のないことをはじめ、それすらがまだ届かない。腹が立ちますが、それが利用されている。


アベノマスクは配られないうちにまったく必要がなくなった!

もう一つ、放射能が大量に漏れ出した時、日本の医療界もまた避難者を助けてくれませんでした。それへの不信感がある方もいるのではないでしょうか。確かに子どもが大量に鼻血を出しても「考えすぎだ」と告げた医師もいました。
しかし知ってください。多くの医療者は放射線の専門家ではないのです。放射線治療を行う医師でも、大量の内部被曝に立ち向かった経験などない。その上、放射線防護学ががっちりと原子力ムラに握られ、反論ができるものなどほとんどいなかったのです。
しかし今回は違う。相手は感染症なのです。だから医療者の多くが「重症化した人々に重点的に医療を振り向けて命を助ける」方針のもと、結束して一斉に動きだしました。

政府の初動は遅かろうが、医療界はすぐに動きだし、お年寄りの多くを病院から遠ざけた。2月には通院が激減していました。上手にお年寄りを守りだしたのです。これは専門家会議が招集される前からのことです。
さらに専門家会議が方針を出すと、感染症の専門医たちが次々と自らも発信して、この方針の妥当性を説明しだしました。そうしてこのもとに、実際に今日、感染症の大きな山を一度下げることに成功したのです。死者数を極めて低く抑えたままにです。
ぜひ医療者に感謝を捧げましょう。私たちも互いの努力を評価しあいましょう。もちろんこの感染症はまた次の山がやってくる。いまは小康状態です。しかし冷静になれる今だからこそ、「騙しの構造」を見破り、恐怖煽りに立ち向かえるようになりましょう。

医療パニックをおこさなければたくさんの命を守りぬける!だから危機煽りを抑えこむことが大事。この間の経験を振り返り、先を見据えて、より賢くなっていきましょう!

#新型コロナウイルス #医療パニック #危機煽り #パンデミック #上昌広 #渋谷健司

***

記事にご寄付をいただける場合は以下からお願いします!自由に金額設定できます。
https://www.paypal.me/toshikyoto/500