守田です。(20120428 09:00)

「がれき」問題・大飯原発再稼動問題での攻防が続いていますが、ここでは、「がれき」問題に関する基本的な視座を確認しておきたいと思います。それには矢ヶ﨑さんが出された「がれきの広域処理について」という提言が役に立ちます。

矢ヶ﨑は観点を5つにまとめています。(1)拡散してはならない、燃やしてはならない。(2)汚染地帯のがれきは汚染されている。(3)万が一受け入れが決まってしまう→これまでの焼却体制を抜本的に変えるような設備を新設し、徹底した放射能対策を採らねばならなくなる→現実にはできない。(4)子孫や地球に恥じない支援―汚染の無い地域を保全することが基盤―。(5) 棄民政策の数々:日本はとっても野蛮な国になりました!・・・の5つです。

それぞれにすっきりとポイントをまとめてあるので、ぜひお読みいただきたいと思いますが、最後に書かれている「日本はとっても野蛮な国になりました!」というのは、事態のすべてを物語った言葉であるとも言えます。

なぜか。今行われている放射能対策、「がれき」対策のすべてが、東日本大震災に伴う福島原発事故以前にあった多くの法律を踏みにじり、完全に無視して進められているからです。要するに法的に言って違法なことばかりであり、著しく正義を逸脱しているのです。

特に問題なのは放射線に対する法的許容度をいっきょに緩和してしまっていることです。少し前だったら、「放射線管理区域」に指定され、飲むこと、食べること、寝ること、さらには18歳未満の青年・子どもを連れ込むことが禁止されていた地帯が、野放しにされ、そうした汚染の中に追い込まれた人々への賠償どころか、避難の権利すら保障されていないのです。これはもう本当にめちゃくちゃな状況です。

しかもそういう事態を作り出した東京電力の誰一人も訴追を受けていない。政府も同じです。誰一人責任を追及されたものもいない。東電社長は多数の人々を難民においやっているかたわらで、6億円もの退職金をもらって勇退している始末です。

そんな無法・横暴・反社会性を野放しにしている政府がいう、「東北の痛みを分かち合おう」という言葉の、あまりの欺瞞性をこそ、私たちはまず見抜かなければなりません。痛みを分かち合うというのならば、まずは東北で激烈に起こっている放射能被曝をなんとかすべきではないのでしょうか。東北に全国から新鮮な食材を送り込むべきではないのでしょうか。

高線量地域では、除染も技術的にあまりに困難で進めることができてないのだから、政府が率先して避難を拡大すべきなのです。同時に、東電の責任者の厳しい処断を行い、被害者への早急な補償措置もとるべきです。それを抜きになんの「痛みの分かち合い」なのでしょうか。実際に、行われているのは、東電の「痛み」の分かち合いに過ぎません。要するに東電の罪を、当事者には償わせないままに、広く、国民・住民に背負わせようとしているのです。

しかし、矢ヶ﨑さんも述べていることですが、真に東北を、汚染地を救おうとするのであれば、非汚染地を保全し、そこで人を受け入れ、そこから食料を供給することこそが肝要です。そうした点からも、がれきの広域処理は愚作の中の愚作、いや政府による新たな犯罪行為に他なりません。

肝心なことは、こうしたことがまかり通り、被曝の責任者の処断がなされなければ、東北・被災地は見殺しにされてしまうということ、いやそれに続いて私たちもまた、見殺しにされていくということです。僕はここに問題の核心があると思います。だから「痛みを分かち合うため」に、私たちはこれ以上、政府が野蛮化することを許してはならないのです。

その意味で、「がれき」の広域処理という野蛮行為をくいとめ、さらに政府にもっと徹底した放射能防護対策の実行を迫っていく中でこそ、わたしたちは汚染の中で苦しむ人々を救っていく道筋を作り出すことができます。

こうした視座を基礎にすえて、この問題への対処を続けましょう!
以下、矢ヶ﨑さんの提言をご紹介します。

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がれきの広域処理について
琉球大学名誉教授 矢ヶ﨑克馬

(1) 拡散してはならない、燃やしてはならない
放射能に汚染された物は「拡散してはならない、燃やしてはならない。」これが人間の命と環境を保護する鉄則です。

①汚染されたがれきを汚染地域外に持ち出すと、いのちに危害を及ぼす地域が広がるから持ち出しはしてはいけません。原発では放射性物質を「封じ込める」ことに務めていたはずが、いったん爆発して外に出ると「拡散させろ」は如何に無見識で乱暴な行為であることでしょう。

②焼却処理すると2次被害を作り出します。瓦礫に放射性物質が付いているままでは直接的に2次被害は及ぼしません。折角、吸い込んだり食べたり飲み込んだりできない状態でいる瓦礫を、燃やすと吸い込んだり食べたりできる姿に変えてしまいます。放射性微粒子が空気中に広がったり、残灰が再利用されて生活の場を被曝したり、田畑にまかれたりすることになります。焼却という2次被曝の操作をしてはならないのです。 このような意味で、がれき広域処理は、いのちを守るための鉄則を破り、国や行政が決して行ってはならない「市民の健康を傷つける可能性」を開き、強制する行為です。誠意と配慮に欠けた最悪の処置です。

(2) 汚染地帯のがれきは汚染されている
政府が宣伝する「汚染されていない瓦礫だけを処理する」というのは事実と違います。 対象となっている宮城・岩手は高度汚染地域の中です(文科省汚染マップを見るとすぐわかります)。放射能汚染地帯にある野積み瓦礫には放射性物質が必ず入っています。 実際は汚染されているのですが、ある限度以下の汚染は「汚染されていないとみなす」というからくりなのです。「汚染されていない」という表現は、市民をだましているといえましょう。 政府はこれまでの100ベクレル/キログラムの放射能汚染物処理基準を、突然8000ベクレル/キログラムまで釣り上げて、「安全に処理できる」と、法律も何も作らずに勝手に決めていますが、とんでも無いことです。誰に対して安全なのでしょう。 加えて汚染は放射能だけではありません。アスベストや他の毒物・劇物が含まれています。専用処理施設が必要です。

(3) 万が一受け入れが決まってしまうと?
1.客観的にみて、放射能汚染、アスベスト汚染に対応する焼却炉を作らねばなりません。放射性物質の主成分はセシウムです。セシウムの沸点は低く640℃ほどで、燃焼温度の800℃では完全に気体状態になります。とくに問題なのは蒸気圧が高く、通常のバグフィルターの通過ガス温度約200℃でも100パスカル(1000分の1気圧)ほどの蒸気圧があり、かなり大量に空気中に漏れていきます。一方、アスベストは溶融処理する必要があり、アスベストの融点は1521℃ですので、800度程度の燃焼温度では溶融できません。汚染ゴミは通常の家庭ごみに混入して焼却されることが計画されているので、放射能汚染とアスベスト汚染の二つだけでも、安全な汚染処理はできません。
2.運搬・分別・焼却等作業員の安全のためにきちんと汚染防護をすべきです。
3.放射能に対しては、入口、中間、出口での計測設備を設ける必要があります。
4.処理を終了した時に施設の内部も清掃処理しないといけません。
5.灰の処理、溶融金属等の処理、最終処理施設等々、安全対策を施す、あるいは今までの処理方法を変更する必要があります。

(4) 子孫や地球に恥じない支援―汚染の無い地域を保全することが基盤―市民の「被災地の皆さんの力に何としてもなりたい」、という気持ちは尊いものです。しかし、「広域がれき処理」への協力はしてはいけません。「放射能汚染を拡散してしまう協力」は、将来にわたって子や孫に危害を及ぼす危険を導入することです。人類の安全という観点からは愚かな行為です。被災者と非被災者の両方に、本当の利益を生み出す人道上に恥じない支援」をすることが大切です。そのために、

①これから何十年も継続する汚染地獄を、日本として耐え抜くためには、汚染されていない西日本は汚染されていないままに保つことが大切です。

②汚染されていない土地で食糧大増産を行い、逆に、汚染地帯では基本的には食用作物は当分の間作らない。それを実施して初めて日本の市民の食の安全が保障されます。遊休農地がすぐ役立ちます。汚染されていない土地に汚染地域の農家を招きましょう。

③今の基準の100分の1程度の低い基準を「食料品」に適用して初めて“人の健康を守れる基準”という意味合いが出てきます。それ以上の汚染食品については東電が当然補償すべきです。こうした基準で初めて農家の方が「おいしく無害な食品」ということで、胸を張ることが可能です。消費者も生産者も共に被害者です。両立して健康を防護できる基準を確保しましょう。

④避難者の支援や、保養の機会や場所を提供するなど、非汚染地で無ければ実施できないことを行うのが、非汚染地の務めです。市民は正道に立つ支援を実行しましょう。 「広域がれき処理」のような国際的ルールを踏みにじる乱暴な、本質的支援で無い「支援」は行ってはなりません。

(5) 棄民政策の数々:日本はとっても野蛮な国になりました!
政府は原発爆発以来、どのようにして市民を守ってきたのでしょう? まず、汚染物処理基準はどうでしょうか?

①以前は、汚染処理基準を100ベクレル/キログラムとしていました。事故の際に突然それを8000ベクレル/キログラムに釣り上げました。さらに管理処理できる場合は10万ベクレル/キログラムまで引き上げました。

②公衆(一般市民)の年間被曝限度(これ以上被曝すると政府の責任で防護しなければならない基準)を、1ミリシーベルトから20ミリシーベルトに釣り上げました。「日本人は事故の時は放射線に対する抵抗力が20倍になる」のでしょうか?

③チェルノブイリ周辺国(ロシア、ベラルーシ、ウクライナ)は、住民の保護基準を年間1ミリシーベルトで「移住権利(住んでいても良いが移住し世と思えば、国が保障する)」、5ミリシーベルトで「移住義務(危険だから移住しなければならない)」地域に設定しています。日本のこれに相当する基準は何と20ミリシーベルト(計画的避難区域)および50ミリシーベルト(避難区域)です。日本の住民はチェルノブイリ周辺国より20倍も放射線に対する抵抗力が高いのでしょうか?とんでも無い。ひとえに、東電の賠償責任を軽減することと政府の責任を軽減するためだけなのです。

④同様に食物の放射能汚染限度値は500ベクレル/キログラムと極端に大きな値を設定されましたが、ドイツの100倍の程の高さを設定しているのです。日本政府は「基準以下ならば安全」と宣伝していますが、そうではありません。汚染食品を食べることにより、チェルノブイリ周辺では大量の健康破壊が起きています。チェルノブイリ周辺では「貧しいがゆえに人々は汚染地帯の産物を食べざるを得なかったのです。現在日本では、政府の強制によって汚染食品を全日本人が食べさせられています。

⑤爆発直後、安定ヨウ素剤を政府は蓄えがあるにも拘わらず与えませんでした。
何ということでしょうか!人の命は切り捨てられ踏みにじられているのです。これらの措置は、人の命と環境を守るためでしょうか? 全く逆に、市民の生活の場に汚染被曝を強制し、人の命と環境を犠牲にして、東電と政府の責任を可能な限り少なくし、政府の無策を人々の犠牲で補おうとするものです。市民が自らの命を守るためには、知恵をつけ力を合わせ、このような国のあり方を変えなければなりません。