守田です。(20131003 11:30)

下京福祉事務所職員組合のお招きで、お昼にお話をしてきました。「福島原発はその後どうなっているのか」を聞きたいという要請でした。
昼休みで、みなさんご飯を食べながらの場だったので、最初に、楽しく食べたいご飯のときに、しんどい話をすることになるので申し訳ないとお断りを入れて話し始めました。以下、話の内容の文字起こしをお送りします。

「福島原発事故の真の収束のために私たちは何をすべきか」上
1、瀕死の状態にある福島原発と向き合おう!
守田敏也 2013年10月3日 京都市下京区役所にて 

まず群馬大学の早川先生の放射能汚染マップをご紹介します。これで大きく見てほしいのは、放射能の汚染は福島県に限らないということです。東北、関東の非常に多くの地域で濃度の高い放射能が降っているのです。
ではどの辺まで汚染が来ているのかというと、長野県を東西に二つに割ったラインから愛知県に降りてくるぐらいまで、高い汚染が認められます。京都はどうなのかというと、うっすらとした汚染はありますけれども、東日本と比べると雲泥の差です。
チェルノブイリ原発事故では、1000キロ、2000キロ離れた所でも高濃度の汚染がありました。その感覚から言うと、京都で福島原発からの距離が600キロぐらいですから、西日本は奇跡的に汚染を免れたといえます。
それだけにこの西日本のきれいなポテンシャルを使って、いかに東日本を支えていくのかということがとても重要な問題だと思います。

今の原発の状態ですが、この間、東京五輪招致の発言で、安倍首相が、「原発は完全にコントロールされている」とか「汚染水は完全にブロックされている」という発言をしました。まったく嘘ですね。
あの発言に対して福島の方がなんと言ったのかというと、「ああいう発言が自分たちを一番傷つける。原発がコントロールできていないから、汚染水がブロックできていないから、福島の人は苦しんでいるからだ」ということでした。「それを考えると許し難い」と。

では状態はどうなっているのかというと、福島原発は今、瀕死の状態です。プラントとして完結していないのです。人間でいえば、病院の中で重篤な状態で、いっぱい管がつけられている状態です。スパゲッティ症候群です。そのためどれかの管が外れてしまうともうどうなるかわからない状態なのです。
しかも1号機、2号機、3号機は燃料が溶け落ちてしまって、放射線がものすごく高くて、とても近づくことができないのです。これは決定的な問題です。近づくことができないということは中で何が起こっているのか、はっきりわからないということなのです。
人間が近づけないならロボットを見にいかせればいいではないかと思う方もおられるかもしれませんが、何度もやっているのです。放射線はそのロボットの容易に壊します。あまりにも放射線が高いので、ロボットも途中で止まってしまうのです。
だからドロドロに溶けて落ちていった燃料がどの辺にあって、どんどん入れている水がどれぐらいあたっているのか、もう何もかもわからない状態なのですね。

4号機は上のほうに大量の燃料棒があります。ほかの原子炉にもあるのですが、ここに一番たくさん入っています。燃料棒というのはプールに入っていて、この水が抜けてしまうと、冷やすことができなくなります。
そうすると溶けだして、ものすごくたくさんの放射能を出してしまいます。もしこの時点で水を補給できなければ、もう福島原発サイトから撤退しなければならなくなります。その場にいれば、すぐに死んでしまいます。
そうなるとどうなるのか。ほかの原子炉の手当てもできなくなるのです。つまり福島のサイトでは一つうまくいかなくなると全部だめになるのです。5号機や6号機もだめになる。
さらに最悪なことにもう一つ共用プールというのが地上にあって、そこには1万本以上の燃料棒が入っているのです。これらが全部だめになるとどうなるのか。軽く見積もっても東日本壊滅です。そういう危機が私たちの目の前にまだあるのですね。

2011年末に出された毎日新聞の記事をお見せします。ここには「最悪170キロ圏が移住」と書いてあります。実は2011年3月に、日本政府が、4号機が倒れるのではないかということで、そのことにどういうことが必要なのか、シミュレーションしていたのですね。
当時、菅首相の記者会見で、出てきた菅さんがしばらく何もしゃべらなかったことがあるのを覚えていらっしゃるでしょうか。涙目でしばらく立ち尽くしていました。あれはこのときなのですよ。4号機が倒れる可能性があった。
そのときに内閣で試算したのは、最悪170キロ圏強制移住です。東京を含む250キロ圏が、希望者を含めた避難区域です。この場合、強制移住しなければならない人の数が3000万人だそうです。
それで自衛隊に作戦をたてよとの命令が出ていました。のちに統合幕僚幹部が漏らしているのですが、これを聞いて、自衛隊の側は絶望したそうです。自衛隊がいっぺんに動かせるのは数千人程度。それはそうでしょうね。3000万人なんてまったくのお手上げ状態です。

重要なことはこの危機がまだ去っていないことです。それが最も重大なことです。あそこはプラントとして完結してないのです。完結しているとは、何かがあったときに耐えうる体系が確保されていることです。
ところが完結していてすら、地震であれだけやられてしまったのです。そして今も応急手当てを繰り返している状態です。ですから一番恐ろしいのは大地震です。前回の地震に対する大きな余震ですね。
これまでも震度5強ぐらいのものはたくさん起こっています。何度も揺さぶられています。そこに大きな余震として震度6とか7のものとかが来る可能性があります。そのとき福島原発が耐えうる保証はまったくありません。まったくないのです。
そのような地震が来るときはほかの原発サイトも壊れる可能性があります。福島第二原発や女川原発がです。もともと私たちは長くこうした危機の前に立たされてきたのですが、福島原発はかなり壊れているので、危険性ははるかに高いです。今、日本が、いや世界が重大な危機の前に立っているということを知ってほしいのです。

最近、福島の方の話を聞いたら、その方の知り合いの方も、原発サイトにいかれているそうなのですが、朝、「今日も地球を守ってくっから」といって原発に向かうそうです。そういう形で仕事をしているのが現状です。
だから安倍さんの発言はただの嘘ではすまないのです。ああいう発言が危機を深めるのです。なぜ危機を深めるのかというと、今、私たちがしなければならないことは、福島原発が抱えている危機に対して、きちんと向き合うことだからです。
みなさん。今年の3月にあったことを覚えていますか。ねずみが配電盤をショートさせて、すべてのクーリングシステムがダウンしてしまいました。あのときに電気配線の基礎を知っているかたたちは、「なんでいまだにそんな配線をしているのか」といって怒りました。
配線をするときは、ショートして電気がいかなくなることがありうることを前提にする。だから重要な施設には一つ一つに独立で配線するのが常識なのです。ところがすべての原子炉のクーリングシステムを一つの配線でつないでいたから、一か所、ネズミがショートさせただけで、全部が止まってしまったのです。電気配線における非常識です。

ところが現場を責められないのです。なぜかというと、大変な高線量なので、普通の常識で考えられるような仕事ができないのです。だからその点だけ責めると現場はかわいそうなのですよ。
このときは僕も青くなりました。僕は次の危機は大地震によってもたらされると思っていました。ところがネズミでもそういう危機が来てしまうのかということで、本当に恐ろしくなりました。それが私たちの前に、今、あることなのです。

安倍さんはそういうことを全く無視して、現実を見ようとしていません。何なのでしょうね。第二次世界大戦に突入した時の日本政府ととてもよく似ていると思います。
強いという意味ではないですよ。みなさん、ご存知ですか。NHKスペシャルで放映されたことがあるのですけれども、第二次世界大戦に突入した時に、日本政府の天皇の前で行う御前会議に出ていた大臣たちの中で、アメリカに勝てると思っていた人は一人もいなかったのそうです。
一人もいなかったのですよ。ところがアメリカは日本に中国から徹底しろという要求を突き付けました。すでに日本兵が20万人死んでいました。だからここでアメリカの要求を飲むと国民に何を言われるか分からないと思ったのです。
それで陸軍は海軍に無理だと言って欲しかった。海軍は陸軍に言って欲しかったのです。そうやって誰もが責任をなすりつけあっている間に、誰も、勝てると思ってはいない戦争に突入していったのです。それが日本の姿でした。
そのことが何ら罰せられていないし、責任をとらされていないのです。それで日本国民だって300万人死んだし、日中戦争を合わせると、アジアで数千万人を日本軍が殺したわけです。そういう歴史がただされていなくて、安倍さんも現実の危機をまったく見てない。

それで7年後のオリンピックなんて、僕はできるわけがないと思います。なぜか。汚染がどんどん進んでいるわけです。汚染水だってどんどん漏れてしまって、昨日も、今日も、また新しく漏れたという話が出ています。
ちなみに今、東京電力は今、政府に対して決定的に有利な立場になってしまったのです。分かりますか。東京電力は自分を守ることについてはとても頭がいいですよ。だから安倍さんが発言をした翌日には記者会見をして、「いやいや、コントロールなんてできていませんから」と発言しました。
その後に、実はあのタンクも漏れていた、あそこも漏れていたという情報をどんどん出しているのです。なぜかというと、今、東電がいくら漏れているといっても、政府がかばわざるを得ない立場に立っているからです。

安倍さんの発言を政府としては守っていかざるをえないとなっている。東京オリンピックを獲得するために、世界に公言してしまったからです。
だから東電はここぞとばかりに、実はここも漏れていると言い出しています。しかし実際はどうなのかというと、汚染水漏れは、昨日、今日、分かったことではないのです。構造的に2011年のあの事態から止まってないのです。
ではどれぐらい漏れているのかというと、1日あたり、政府の試算で300トン、東電の試算で400トンです。400トンですよ!それだけの地下水が、建屋にたまっている高濃度の汚染水と触れてから海に流れているのです。だからコントロールされているなどという事態ではまったくありません。

何よりもみなさんに、こうした大変な危機が今、私たちの前にあり、それと向いあわなくてはいけないのだということを知ってほしいのです。