守田です。(20120622 09:30)

今日はこれから兵庫県篠山市に赴き、映画『チェルノブイリ・ハート』上映に即してミニ講演をしてきます。今宵は篠山に宿泊し、明日、午前中から同じく丹波市でも同じ講演をします。その後、電車に飛び乗り、舞鶴市で講演を行います。

どこも震災遺物が燃やされたり、その灰が埋められたりしようとしている場です。大飯原発の直近の場でもあります。そこで多くの方たちが、放射能への不安を感じ、同時に今の政府のあり方に強い批判を感じています。そこにお招きいただいてお話できるのはありがたいことです。心を込めた訴えをしてきます。詳しい案内を末尾に貼り付けておきます。

さて、今日は昨日(上)を掲載した論考の(下)をお届けします。

ゆっくりと、長く、大量に続く放射能漏れの中で
私たちはいかに生きればよいのか(下)
2011年8月18日 守田敏也

3、放射能との共存時代をいかに生きるのか

それでは私たちはこうした時代をどうやって生きていけばいいのでしょうか。
被曝してしまったらどうしたらいいのでしょうか。

さきほど紹介した肥田医師は、次のように語られています。「被曝したと思ったら、腹を決めなさい。開き直り、覚悟を決めなさい。そして身体の免疫力を精一杯高めて、放射能の害と闘うのです。」(肥田医師への守田によるインタビューより。岩波書店『世界』9月号)

食べ物の選択において、できるだけ放射能汚染されてないものを選ぶことは大切です。その場合の目安となるのは産地です。できるだけ原発事故から離れたものの方が安全度が高い。大量生産・大量消費のベースに乗った加工食品、あるいは極端に値段の安い食材をさけ、生産者の分かる食材を選ぶことが賢明です。

しかしそれでも基準値が非常に緩く設定されてしまっている今、汚染されたものを完全に避けることは難しい。程度の差はあれ、私たちの多くがすでに被曝を受けていると考えるのが現実的です。

ではどうしたらいいのか。体の免疫力を高めて、放射能の害と、それがもたらす病魔に立ち向かうのです。その場合に知っておくべきことは、私たちの身の回りには、放射能以外にも体に害をなすものがたくさん蔓延しているということです。食品についていえば、多くの添加物は体に有害です。防腐剤などもそうです。また食材となる動物を飼育するときに使われている抗生物質なども体によくない。また食材ではありませんが、日常的に多くの場所で使われている殺虫剤の多くにも猛毒の薬品が含まれています。

放射能汚染ばかりでなく、これらをできるだけ排除すること、身体の中に入りうる毒素をできるだけ少なくすること、それが体の免疫力を高めることに直結します。そのために、今、私たちは、食べ物の作り方や流通の仕方を学びなおし、食べ物における安全とは何かの知識を増やしていく必要があります。猛毒のタバコを吸われている方は、これを機会にぜひ禁煙に踏み切られることをお勧めします。

また何を食べるのかということとともに大切なのは、どのように食べるのかという点です。食べ方をよりよくすることが大事なのです。良く言われることですが、しっかりと噛んで、消化酵素をたくさん出して、食べ物を胃の中に送ってあげる必要がある。30回噛むと良いと言われるのはそのためです。また食後には必ず休憩を入れて、消化を助けてあげることも大切です。

また食事は、家族が揃い、あるいは友人と集い、明るく楽しい話題とともに食べるときに、栄養がよりよく吸収されることも証明されています。このように安全で、よりよいものを、しっかりと、楽しく食べる。それを基礎に、身体の免疫力を上げ、放射能の害と立ち向かっていくのです。それが放射能との共存時代に必要なことです。

4、正常性バイアスの問題

このように、放射能の害と正面から立ち向かおうとするときに、大変、やっかいな障害物として立ち現れるものに、「正常性バイアス」というものがあります。社会心理学の中の災害心理学で解明されている、人が異常事態、危険事態を認めまいとする心理のことです。

私たち現代人の多くは平和で安定した生活を営み、生命が危機にさらされる体験は非常にまれです。そのため危機に晒されてもすぐに認知できないことが多いのです。

とくに危機の認識を阻むのが「正常性バイアス」です。バイアスとは偏見のことですが、目の前にある危機を危機として認めず、世の中は正常に動いていると思い込んでしまうことです。例えば非常警報がなったときに、誤報だと思い込むなどがその典型です。この正常性バイアスの心理的ロックを解除しないと、人は正しい退避行動ができないのです。

危機の認識は、危機への対処の決断を問います。危機だと思ったら、時には命がけで行動しなければならなくなる。いやその状態におかれているからこそ危機なのですが、人にはそう思いたくない心情がある。そのため往々にして「正常性バイアス」は「同調性バイアス」と連動します。周りの人に同調する心理です。非常警報が鳴っても、誰かが「誤報ではないか」と言って動こうとしないと、みんなが同調してしまう。その結果、誰も退避行動を取らない。これは現実の多くの災害の場面で、実際に起きていることがらです。

今回の原発事故に際してもこの正常性バイアスと、同調性バイアスが非常に強く作動しました。原発が爆発までしているのに、多くの人々は、それは何かの間違いであり、事故はすぐに収束し、避難の行動など取る必要が無いと思い込んでしまいました。それを政府、マスコミ一体となっての安全キャンペーンが促進しました。このため膨大な数の人が、最も高濃度の放射性物質が浮遊しているときに退避行動をとらず、あたら大量の放射能に曝されてしまったのです。

しかも肝心なことは、この正常性バイアスが、今もなお強く働いていることです。放射能が目に見えず、臭いも、音もないためです。放射能の危険性は、とりあえずはないと考えれば、「ただちには」何も感じることはありません。(敏感な人は体が反応しますが)

そのためかえって「放射能を怖がることの方がストレスだ」などというとんでもないバイアスまでが飛び出してきて、危険性を訴える人がかえって迷惑がられたり、非難されてしまうことまであちこちで起こり続けています。

災害心理学では、正常性バイアスのロックを解くのに大切なのは、日頃から避難訓練を行うことだと説かれています。では放射能の危険性や原発事故に対してはどうか。放射線の害について、日頃から学び、語り合おうことが一番です。そのための学習会などが、避難訓練に当たります。事実、今回の事故で真っ先に逃げ出して、被曝を免れた人の多くが、それまで原発の危険性についての市民学習会などに参加して知識を得た人たちでした。それを考えるならば、少しずつでも放射線の危険性を多くの人と語り合っていくことが大切です。正常性バイアスのロックが強く働いている人ほど、放射線の害を語ることに感情的に反発しがちなので、どうか優しい態度で接してあげてください。そうしてみんなで放射能の危険性から身を守っていきましょう。

5、脱原発をめざして歩む

放射能との共存時代を生きるにあたっての肥田さんはもう一つ、私たちがなすべきことを語られています。肥田さんは次のようにいいます。「自分だけ生き残ろうと思っても、原発がある限り放射能漏れが起こるのでダメです。みんなで元を断って、放射能から逃れる必要のない世の中を作るのが一番です」。

そうです。どのように健康を保とうとしても、原発が次々に事故を起こしたらそのたびに高濃度の放射能がまき散らされてしまいます。そればかりではありません。実は原発は通常運転でも「許容量」の放射能を漏らしていて、それも大変危険なのです。だから元を断つ必要があります。

こうしたことを考える上で非常に参考になるのは、文部科学省が作っているホームページです。「原子力教育支援情報サイト あとみん」というものです。ここには原子力発電推進の立場から、さまざまな説明が行われているのですが、その中に高レベル放射性廃棄物を処理するには、どれくらいの時間がかかるかということを示したグラフがあります。

高レベル放射性廃棄物とは、使用済み燃料棒からプルトニウムを取り出す「再処理」という工程を経た後のゴミのことですが、それによると、まず運転済みの燃料棒を10年、20年くらい燃料プールで冷やさなければなりません。この間に、急激に放射能レベルが下がっていきます。その後に「再処理」を行い、今度はガラスで覆っていく「ガラス固化体」が作られます。しかしそれもプールに入れて冷やさないといけない。80年間ぐらいは冷やし続けることが示されています。その後に「地層処分」で埋めてしまうと書いてあります。

現実的には、再処理を行ってプルトニウムを取り出し、再利用をしていく「核燃料サイクル」の展望は、「高速増殖炉もんじゅ」の行き詰まりなどで完全に失われているし、「地層処分」といっても、どこに埋めるか、何も決まっていないのですが、ともあれここでの表では、100年くらい経った頃から、放射能レベルの減り方がだんだんゆっくりになりはじめ、その後はなかなか減らなくなることが書かれています。

それで「ウラン鉱石の放射能レベル」という線のところまで下がる地点をみると、なんと1万年と書かれた地点を越えているのです。しかもそこからもなかなか放射能レベルは下がらない。やっとウラン鉱石レベルよりそれなりに下がっているところをみると、なんと100万年と書いてあります。このように文科省の示すデータでも、原子力発電で使った使用済み燃料の放射能は、1万年経ってもまだウラン鉱石のレベルに達せず、何万年も、あるいは何十万年も保管を続けなければならないことが明らかなのです。

しかも明確な方法も決まっていなければ、どこに埋めるかすら、決まっていないので、この費用は今はゼロ円にしかなりません。実際には100万年にいたるような管理が必要なわけで、天文学的コストがかかり続けるのですが、それが計上されていないのです。詐欺のようなものですが、大事なことは、このままでは私たちは、未来世代に対して莫大な借金を一方的に押しつけ、なおかつ莫大な放射能だけを送ることになってしまうことです。同時に莫大な放射能事故の危険性も送ってしまいます。これは未来世代に対する暴力です。その点からいえば、原子力発電を止めることは、社会正義の問題だと思います。

また原子力発電は温暖化防止のためにも必要と、政府や推進派の人たちが語ってきましたが、実際には原発は、発電している時だけ二酸化炭素を出さないだけで、その前後の過程では多くの二酸化炭素を出しているのです。実は二酸化炭素だけが地球温暖化の原因ではないのではないかという議論もあるのですが、それはともあれ原発もまた二酸化炭素をたくさん出す体系であることに変わりはないのです。

その上、原発は「海暖め装置」でもあります。たとえば100万キロワット級の原発は、実は300万キロワットの熱を発生させ、残りの200万キロワットを海に捨てているのです。100万キロワット級原発で、1秒間に周辺の海水より7℃高い排水を70トンも出しています。福島第一原発の原子炉がすべ動いているときには、1秒間に300トンの温水が出ていました。利根川の流量と同じです。柏崎刈羽原発では全て動くと1秒間に500トン。日本一の河川である信濃川の流量と同じ温水が出ます。これが日本中で、いや世界中で行われているのですから、原発はむしろ地球温暖化の主要要因の一つとすらいえます。

費用の面でも未来に莫大な借金を残すし、地球を暖めるし、原子力発電には何もいいことはない。その上、恐ろしい放射能漏れのリスクがつきまといます。実際、どんどん明らかになっていく周辺地域の汚染状況や、日本全体に拡がっていく食料汚染を考える時、原発に良いことなど一つもありません。生活の全てを奪われて避難せざるをえない周辺の方たちの現実を見るにつけ、一刻も早く全国の原発を止めていかなければならないが分かります。そのために一人一人の力を合わせることが必要です。みんなで元を断って、放射能を避ける必要などない世の中を目指しましょう。

終わり

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兵庫県篠山市 6月22日
兵庫県丹波市 6月23日

事故から25年・・・・まだ終わっていない
◆今だからこそ目をそらさず、ひとりでも多くの人に見てほしいーーー。
1986年4月26日チェルノブイリ原発事故発生。それは、当時生まれた子供たちにたくさんの災いを及ぼした・・・。
◆〈チェルノブイリ・ハート〉それは放射線の影響で心臓に重度の障害を持った子供たちのこと。
◆監督のマリオン・デレオが体当たり取材したアカデミー賞短編ドキュメンタリー賞受賞作品!

●2012年6月22日(金)
上映時間①午後2時、②午後4時、③午後7時
篠山市民センター・多目的ホール(篠山市黒岡)
※午後6時半から、フリーライター・守田敏也さんのミニ講演会があります。
(守田敏也さんは、丹波ブックレット「内部被曝」の著者の一人です。)

●2012年6月23日(土)
上映時間①午前11時、②午後1時、③午後3時
ポップアップホール(丹波市氷上町・ゆめタウン2F)
※午前10半から、フリーライター・守田敏也さんのミニ講演会があります。

主催/憲法たんば(平和憲法を守る丹波地区連絡会)ひょうご丹波・憲法を生かす会
後援/篠山市教育委員会、丹波市教育委員会、神戸新聞社、丹波新聞社

前売券/500円(当日800円) ※小中学生無料
申込み&問い合わせ/℡0795*73*3869
FAX0795*72*3639
〈前売券取扱所〉
小山書店(篠山市魚屋町、℡079*552*0019)
コミュニティカフェみーつけた(篠山市乾新町、℡079*554*2600)
みんなの家(篠山市魚屋町、℡079*554*2525)
かいばら観光案内所(丹波市柏原町、℡0795*73*0303)
ゆめタウン1階サービスカウンター(丹波市氷上町、℡0795*82*8600)

開催期間:2012年6月22日(金) ~ 2012年6月23日(土)
地 域:兵庫県
場 所:篠山市黒岡191番地 篠山市民センター・多目的ホール他
最寄り駅:JR篠山口駅
http://www.hnpo.comsapo.net/weblog/myblog/697/41326

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京都府舞鶴市 6月23日

舞鶴社会保障推進協議会
第11回定期総会・記念講演会

日時 6月23日(土)
場所 サンライフ4階 第1会議室
内容 定期総会 午後3:00~4:00

記念講演会 午後4:00~5:30(どなたでもご参加いただけます)
”震災がれき問題と内部被曝”
講師   守田 敏也 氏

舞鶴市は、震災がれきの受け入れを決めていますが、がれきってどんなもの…?
消却しても大丈夫…? 内部被曝のお話も交えながら、わかりやすくお話していただきます。
皆さんと共に考えていきましょう。

☆守田敏也さんのプロフィール☆
同志社大学社会共通資本研究センター客員フリーライター。3.11以降は原発事故問題を追って
物理学者の矢ヶ崎克馬氏と共に岩波ブックレットを上梓。ブログ「明日に向けて」発信中。

主催  舞鶴社会保障推進協議会(連絡先 舞鶴健康友の会事務所内 ℡ 78-3201)