守田です(20161122 23:30)

本日未明、福島県沖で再びマグニチュード7.4という大きな海底地震が起こりました。この影響で福島県地方の多くが震度5弱の地震に襲われ、数メートルに及ぶ津波が押し寄せた地帯もありました。
しかし事前の避難等が徹底化した事もあって、それほどに大きな人的被害は出ませんでした。
今後、暫くは同規模かそれ以上の地震が起こる可能性があります。本年4月の熊本地震では2日後にエネルギー量にして16倍もの「本震」が起こっているので注意が必要です。みなさまのご無事をお祈りしています。

さて今回の地震で福島第二原発3号機の燃料プールの冷却装置が緊急停止してしまいました。
理由は燃料プールの脇にあって冷却に使われた水を受け、冷やしてポンプで再度プールに水を送り出すスキマーサージタンクの水位低下が検知されたからだとされています。
記者会見などによると、このタンクの中でスロッシングと呼ばれる水が波打つ現象が起こったことが原因とされています。

コップの中に水をはって左右に振ると水が競り上がるように波打ちますが、その時に片方は水位があがり片方は下がります。
これがスロッシングで大きな力が働くのですが、ともあれこの下がったところにポンプがあったため、水位の異常低下と検知され、冷却剤が無くなるのを防ぐ為にポンプが自動停止したというわけです。
地震後すぐにこの現象が起こり、1時間半ほどしてポンプが再起動され、冷却が再開されたと事態は説明されています。

東電はこれまで何度も嘘をついてきたので、本当に安全が確保できたのかどうか多くの方が「心配だ」と言う連絡を僕にくれました。
僕も東電を信用できないので疑いの目を向けざるを得ません。しかし少なくとも今のところは非常に深刻だと言えるような兆候は感じません。
今後、さらに余震、いやさらなる本震も起こる可能性がありますから、またどこか壊れてしまわないかと心配ですが、ひとまずは冷却は続行されているとみてよいと思います。

むしろ今回のことで私たちが注目しておくべきことは、あの過酷な福島第一原発事故が起こってからもう5年と8ヶ月も経つのに、危険な燃料プールに膨大な量の使用済み核燃料が沈められ続けているという事実です。
いま福島第二原発3号機の燃料プールに入っている核燃料はなんと2544体。うち2436体が使用済み核燃料です。新燃料は184体しかない。
では他の原子炉はどうでしょうか。分かりやすく並べてみます。

1号機 使用済み核燃料2334体 新燃料200体  合計2534体。
2号機     同じく2402体  同じく80体  合計2482体。
4号機     同じく2436体  同じく80体  合計2516体。
1〜4合計   同じく9532体 同じく544体 合計10076体。

なんと危険な使用済み核燃料がこんなにもたくさん脆弱なプールに入っている。
さらに重要な点があります。プールの容量はどうなのかというと4つの燃料プールをあわせて10940体なのです。ということは92%も埋まってしまっていることになります。つめつめの状態なのです!

なおこれらのデータは以下から取りました。

福島第一・第二原子力発電所の燃料貯蔵量について
福島復興ステーションポータルサイト
http://www.pref.fukushima.lg.jp/site/portal/ps-genan10.html

福島第一原発事故が私たちに突きつけたのは燃料プールの危険性でした。
これまで核燃料はペレット、被覆菅、圧力容器、格納容器、建屋という「5重のシールド」で守られているというのが原子力推進派のウリでした。
しかし福島第一原発事故では、この5重のシールドがやすやす破られてしまう事態が発生するとともに、4号機燃料プールが干上がる瀬戸際にたってしまいました。
このことで燃料プールにある核燃料は圧力容器というシールドも格納容器というシールドもなく、水面がむき出しになっていて、水が抜ければただちに危機に陥ってしまうものであることが明らかとなったのでした。

その4号機燃料プールが大破綻を免れたのはほとんど行幸の産物だったのですが、ここから明らかになった燃料プールの危険性は、プールが建屋上部に設置されていることでした。
これは核燃料を交換する際、膨大な放射線を避けるために水の中を移動させなければならないことから宿命化されたことでした。このため高い位置に水を張った巨大なプールを作らなくてはならなかったのでした。
その構造的弱点のために福島第一原発4号機燃料プールは大変な危機に立ち続けたのでした。

この点を考えるならば、核燃料を早く脆弱なプールから降ろす事は安全のための必須事項であるわけですが、福島第二原発ではいまだになんと1万本もが降ろせないままに高い位置にある燃料プールに沈められています。
これを降ろさないのは、あわよくば再稼働したいがためでもあるのかもしれませんが、それよりももっと切迫した事情は、降ろしたくても降ろす場がないことにつきるのだと思います。

というのは原子力推進サイドの思惑では、使用済み核燃料はプールでの冷却期間を終えた核燃料はキャスクに入れて取り出し、六ヶ所村などの再処理工場に送って、プルトニウムを取り出す「再処理」を行うことになっていたからです。
しかし六ヶ所村再処理工場は故障続きで運用の目処が立たない。そればかりかたとえ再処理工場を稼働させてプルトニウムを取り出したとしても、それを使うはずだった高速増殖炉もんじゅが破綻し、もはや廃炉が濃厚となっています。
まったく先の展望がない。だから東日本大震災の大変な揺れに襲われ、当初は原子力緊急事態の対象ですらあった福島第二原発の燃料プールがほとんど埋まってしまって危険な状態にあるのに、なお使用済み核燃料を降ろせないでいるわけです。

さらに重要なのは、さきほど燃料プールは92%埋まっていることを確認しましたが、ある意味ではそれはまったくの嘘であることです。
というのは実は本来は燃料プールはすでに埋まってしまったのに、隙間を詰めることで容量を増やし、そのもとで埋設率が92%になっているという恐ろしい事態があるのです。
この点で参照していただきたいのは以下の資料です。

使用済燃料貯蔵対策の取組強化について
電気事業連合会 2015年11月20日
http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/energy_environment/shiyouzumi_nenryou/pdf/001_03_00.pdf

これは極めて重要な資料です。
電力会社各社が、使用済燃料貯蔵容量の拡大のために、「使用済燃 料貯蔵設備のリラッキングによる増容量」 を行ってきたことが書かれているからです。
リラッキングとは何でしょうか。核燃料をそれまで以上に詰め合わせてしまうことです。そのことでプールの容量を増やしたのです。容量の偽造です。

そもそも使用済み核燃料にはたくさんのプルトニウムが存在しています。核分裂しなかった「燃え残り」と称されるウランも混じっています。だから再処理工場でそれを取り出したいのですが、これら核分裂性物質は扱いが非常にやっかいな物質なのです。
なぜならある一定量集まると核分裂を開始してしまうからです。とくにプルトニウムはその性質をより強く持っています。

もともと燃料プールはこの点を考慮し、地震等で使用済み核燃料が揺らされてもそれぞれが接近してしまわないように設計してあったのです。
ところがそれが一杯になってきてしまった。持ち出す先ができていないからですが、しかし燃料プールが埋まってしまうともう発電ができなくなる。使用済み燃料を取り出せないからです。それで思いついたのがリラッキング=容量の偽造なのでした。
このためある程度の量が集まると勝手に核分裂してしまうプルトニウムなどが入った燃料棒をつめつめにしてしまったのです。それでないと運転ができなくなるからでしたが、そのために安全マージンが大きく削られてしまったのです。
しかもその状態でも福島第二原発は92%も埋まってしまっているのです。その分だけ、燃料プールが揺らされた時のリスクが増大していることは明らかです。

この点はさきほど示した資料の6ページをみてもよくわかります。
元々の設計思想では、使用済み核燃料体はその中心の位置で互いに365ミリ離して燃料プールに入れられることになっていました。ところが変更後にはこの間隔が282ミリに削られ、すぐにもぶつかり合いそうな状態になってしまいました。
そんな形で1万本にもなんなんとする使用済み核燃料を、脆弱で建屋の高いところにある燃料プールにいれているのが福島第二原発なのです。
今そのサイトの近くで大きな震度5弱の地震が起こり、今宵も震度4の余震も起こっていて、今後、さらに大きな地震がくるとも限らない状態におかれているのです。

もう本当にいい加減にしてくれと言いたい!

以上から私たちは今後、福島第一原発だけでなく、福島第二原発のこともあらためてウオッチしていく必要があります。
いやこの二つの原発だけではありません。日本中の原発の燃料プールが同じような状態にいたっているのです。この危険性としっかり向かい合い、無謀で愚かすぎる再稼働を止めさせ、廃炉の推進、燃料プールからの核燃料の撤去を急ぐ必要があります。
今回の福島第二原発3号機冷却装置停止問題から、この点をしっかりと学びとっておきましょう!