守田です。(20150720 12:00)

「明日に向けて」の少し前の紙面で戦後70年、被爆70年を迎えるこの夏、「戦争と原爆と原発と放射線被曝」のつながりをつかもうというアピールを発しました。

明日に向けて(1110)戦争と原爆と原発と放射線被曝の問題のつながりをこの夏につかもう!
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/6d94974091d3e6927162832e251589fc

大筋において今も確信を持っている内容ですが、しかし僕はこの記述の中で「被爆者」と「認定被爆者」を混同して使ってしまいました。
明らかな間違いです。申し訳ありません。お詫びして訂正します。このことは「ピースメディア」を主宰する友人がすぐに指摘してくれたことです。
とりあえずブログとHPの文面の修正を行いましたが、この点はとても大事なポイントなので、「被爆者」と「認定被爆者」の法的な規定を厚生労働省と広島市のホームページから引用してご紹介することにしました。

あらかじめ要点を示します。
前回も書いたことですが、この国は原爆の被害を受けたすべての人々を救済してきたのではまったくありません。被害を小さく見せようとするアメリカの意向をくんで、法的な意味での「被爆者」の規定を厳しく制限してきました。
これらの結果として「被爆者」とは、法的には政府によって被爆者と認められ、被爆者健康手帳を所持している方のことを指します。このため厚労省のホームページでは「被爆者(被爆者健康手帳所持者)」と記載されています。
「被爆者」は具体的に「1. 直接被爆者、2.入市者、3.救護、死体処理にあたった方等、4.胎児」と分類されて規定されています。詳しくは転載した厚労省の説明をご覧下さい。

ここで重要なのはこのように政府に被爆者と認められた方でも、放射線被曝による被害が認められないたくさんの方がおられたし、いまなお、おられるということです。
「認定被爆者」とはこれに関連した定義です。被っている病やケガが放射線被曝によるものであること、また熱戦による病やケガが被曝の影響でなかなか治らず、治療を必要としていると認められた場合(原爆症認定)にその方が「認定被爆者」とされるのです。
原爆を受けたすべての人が「被爆者」と認められなかっただけでなく、上記の1~4の条件に合致した「被爆者」の中で、なおかつ放射線によって障がいを受けたことを証明できなければ「認定被爆者」と認められないということです。

このあまりに理不尽なあり方に対し、被爆者の方たちが、放射線によって障がいを受けたことを国家に認めさせることを迫ったのが「原爆症認定訴訟」です。
ちょうど裁判が始まったころに書かれた安原弁護士の講演録を掲載しておきます。

原爆症認定行政と集団訴訟の意義~被爆行政を大きく変えさせるために~
安原幸彦弁護士(広島・長崎を語り継ぐために~埼玉の聞き書き 被爆体験~ HP)2003年
http://homepage3.nifty.com/kikigaki/gakusyuu03.html

これを読むとそもそも被爆者は戦後12年間もの長期にわたって、国による何らの救済も得ていなかったことが分かります。12年間もの間です。
この状態がようやく改善されたのはビキニ環礁核実験による第五福竜丸の被曝などから、核兵器反対運動が戦後初めて取り組まれた中でのことでした。
こうして1957年になってやっと「原爆医療法」ができて医療上の救済が始まったことが分かります。このとき被爆者健康手帳が出され、医療上の救済のための給付の受給資格として「原爆症認定」が始まりました。
なおこの段階での手帳公布の対象区域は旧長崎市及び広島市並びにその隣接区域とされていました。

安原弁護士によれば、原爆症認定は当初、今よりもずっと幅広く行われ、ガンなどが発見されればすぐにも認定が受けられていたようです。
ところが11年後の1968年に「原爆被害者特別措置法」ができると「被爆者」の規定も「原爆症」の認定もどんどん絞り込まれていくようになり、厳しさを増していきました。
「原爆症」認定は「放射線によって障がいを受けたこと」が厳しく適用されるようになり、認定はほどんど受けられなくなって、とうとう「被爆者健康手帳」所持者の1%にも満たなくなってしまいした。

原爆症認定訴訟は、この状態を覆すことを目指して、全国の地裁・高裁で行われ、原告被爆者側が国に対して19連勝と圧勝を続けた後に、2009年8月に当時の麻生太郎首相との間で原告全員の一括救済が合意されました。
しかし政府はその後も合意を忠実に守らず、なおかつ裁判で何度も負けた放射線被曝に対する基準を今も継続して使い続けています。このため「認定被爆者」は相次ぐ裁判勝訴後も全国で8000人程度で、「被爆者」約21万人の4%に満たない現状です。
そしてこのように裁判で負けて否定された放射線評価体系をそのまま使い続けてきていることが、現在では福島県民をはじめ、東電福島原発事故の被災者をも手酷く苦しめ続けているのです。
被爆者はこの現状に対し「ノーモア・ヒバクシャ訴訟」という形で各地で裁判を継続中です。

この歴史から私たちが学ぶことは次のことです。
一つ。この国は自ら行った戦争の結果、アメリカ軍に投下された原爆の被害に対して、アメリカの側に立って被爆した人々を踏みにじり続けてきたこと。
二つ。そのあり方は、法的な援護対象とされる被爆者を限定し、さらに放射線による障がいを受けた人々に対する「原爆症認定」をもっと絞り込み続けてきたこと。
三つ。これらの被爆者無視の状態を、被爆者や被爆者と連帯する民衆運動によって何度も打ち破り、改善が重ねられてきたものの、今なお原爆による被災者への国の補償は不十分であること。
四つ。とくに放射線被曝の影響をめぐって激しい攻防が重ねられてきたこと。原爆症認定訴訟で国は2009年までの集団訴訟だけで19連敗したにもかかわらず、今なお、裁判で破れた放射線評価体系と使っていること。それを福島原発事故にも適用していること。
五つ。国のこの酷い仕打ちの背後には常に核大国のアメリカがいるということ。そもそも原爆投下という戦争犯罪を行ったのはアメリカであり、アメリカこそが被災者への補償をすべきであること。

以上、僕自身の「被爆者」と「認定被爆者」の混同の誤りを正すことを第一目的としつつ、ここに重大な問題が横たわっていることを明らかにできたと思います。
被爆70年を迎える夏、ぜひこのことをこの国のすみずみまでいきわたらせていきたいと思います。

*****

以下、「被爆者」と「認定被爆者」の規定を示しておきます。

被爆者とは(厚生労働省ホームページ)
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/genbaku09/01.html

昭和20年8月に広島市と長崎市に投下された原子爆弾によって被害を受けた、被爆者(被爆者健康手帳所持者)の方々の数は平成23年3月31日現在、全国で21万9410人となっています。
被爆者援護法に定める「被爆者」とは次のいずれかに該当する方で、被爆者健康手帳を所持している方をいいます。

1. 直接被爆者
原子爆弾が投下された際、当時の地名で次の区域において、直接被爆した方。
<広島>
広島市内
安佐郡祇園町
安芸郡戸坂村のうち、狐爪木
安芸郡中山村のうち、中、落久保、北平原、西平原、寄田
安芸郡府中町のうち、茂陰北
<長崎>
長崎市内
西彼杵郡福田村のうち、大浦郷、小浦郷、本村郷、小江郷、小江原郷
西彼杵郡長与村のうち、高田郷、吉無田郷

2.入市者
原子爆弾が投下されてから2週間以内に、救援活動、医療活動、親族探し等のために、広島市内または長崎市内(爆心地から約2kmの区域内)に立ち入った方。
※広島にあっては昭和20年8月20日まで、長崎にあっては昭和20年8月23日まで。

3.救護、死体処理にあたった方等
原子爆弾が投下された際、又はその後において、身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった方。例えば、被災者の救護、死体の処理などをされた方。

4.胎児
上記の1から3に該当した方の胎児であった方。
※長崎にあっては、昭和21年6月3日まで、広島にあっては、昭和21年5月31日までに生まれたかた。

被爆者健康手帳とは
上記「被爆者」にあてはまる方には、被爆者健康手帳が交付されています。被爆者が病気やけがなどで医者にかかりたいとき、この手帳を健康保険の被保険者証とともに、都道府県知事が指定した医療機関等にもっていけば、無料で診察、治療、投薬、入院等が

うけられます。
認定被爆者とは(広島市ホームページ)
http://www.city.hiroshima.lg.jp/www/contents/1111545206256/index.html

被爆者が、原子爆弾の傷害作用により起こった病気やけがについて、医療を受ける必要があるときは、その病気やけがが「原子爆弾の傷害作用によるもので、現に治療を要する状態にあること」
又は「原子爆弾の熱線などの放射能以外の傷害作用による場合には、その方の治ゆ能力が放射能の影響を受けているため現に治療を要する状態にあること」についての厚生労働大臣の認定を受けた方をいいます。

この病気やけがは、例えば、
ア 悪性腫瘍(固形がんなど)
イ 白血病
ウ 副甲状腺機能亢進症
エ 放射線白内障(加齢性白内障を除く)
オ 心筋梗塞
カ 甲状腺機能低下症
キ 慢性肝炎・肝硬変
などがあります。

新しい審査の方針による原爆症認定の仕組み(PDF文書
http://www.city.hiroshima.lg.jp/www/contents/1111545206256/simple/common/other/52bb7766002.pdf

詳しくは  厚生労働省ホームページをご覧ください。
http://www.mhlw.go.jp/image/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000045826.GIF

認定を受けるためには、以下の書類を、広島市を経由して厚生労働大臣に申請することになります。

必要書類
1 認定申請書
2 医師の意見書
3 疾病等による検査成績書(精密の健康診断個人票)
4 被爆者健康手帳
5 印鑑

窓口
詳しいことは、市役所原爆被害対策部援護課援護係認定被爆者担当にお問い合わせください。

根拠規定
原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律