守田です。(20150708 12:30)

昨日7日に九州電力が川内原発1号機、再稼働に向けて原子炉への核燃料搬入を開始しました。
マスコミ各社は「「原発ゼロ」が続いた電力供給は大きな節目にさしかかっている」(朝日新聞)と報道しています。
「明日に向けて」前号で詳述したように、川内原発再稼働は事実上、安全性の確保など度外視したままに行われようとしている暴挙・愚挙であり、何としても止めたいと思います。
ただ一方で「原発ゼロ」にばかり注意を奪われていてはいけないということもここで述べておきたいと思います。

これは各地で脱原発集会に参加していても度々思うことです。「原発は650日以上動いてない」などの発言が聴かれるからです。ちなみに今日時点で661日原発ゼロが続いています。
確かに間違ってはいないし、民衆の力に誇りを抱いての発言なので共感もするのですが、しかしその計算は、あくまでも一度達成された原発ゼロ状態に対し、民主党政権が再稼働を強行した大飯原発3、4号機を起点にしてのこと。
実はその時点でも他の原発はすでにもう長い間動かすことができていなかったのです。

具体的に見ていきましょう。大飯3・4号機が停まったのが2013年9月15日であることを考慮して、今月7月15日でそれぞれの原発がどれだけ停まっているのかを見ていくと以下のようになります。

大飯3・4号機       1年10カ月
泊3号機          3年2カ月
柏崎刈羽6号機       3年3ヶ月
高浜3号機         3年4カ月
島根2号機他1基      3年5カ月
伊方2号機他3原発3基   3年6カ月
玄海1号機他1基      3年7カ月
敦賀2号機他4原発4基   3年10カ月
高浜4号機他1基      3年11カ月
川内1号機他3原発5基   4年2カ月
福島第二1号機他3原発8基 4年4カ月
東通1号機他2原発2基   4年5カ月
高浜1号機         4年6カ月
浜岡3号機他3原発3基   4年7カ月
女川2号機         4年8か月
柏崎刈羽3・4号機     7年11カ月
柏崎刈羽2号機       8年
平均            4年2カ月

原発大国の日本で「原発ゼロ」が660日続いていることも凄いことですが、このように原発停止状況の全貌を見たほうがより日本の核産業の現状が見えてきます。
どうみたって大変な危機です。平均で4年2カ月も動かせていないからです。

ちなみに最長は柏崎刈羽原発2・3・4号機でもう8年にもなるわけですが、この原発が世界最大の出力を誇っていることをご存知でしょうか。世界で一番ウランを使ってくれる原発でもあった。
その原発が8年も動かず、他の原発も48基の平均で4年2カ月も動いてないわけです。このためウランの世界的消費量が著しく落ちてしまっています。
いやウランの消費という点だけで考えるならば、これに2011年3月時点では存在していた福島第一原発1号機から6号機が動けなくなったことが加わります。
すでに廃炉になっているので上の一覧からは除いていますが、これをも含めると合計54基もの原発がウランを平均4年以上消費できていない。このことで世界のウラン燃料会社など、核産業が大ダメージを受けています。

いや何より深刻なのは日本の電力会社各社です。平均で4年以上、運転してないのですから運転を含むあらゆる技術が継承できない。
またそもそもあらゆる機械は動かさないでいるとどんどん各部の固着が始まって動きにくくなるのが常識です。この面でも各原発はプラントとしてもダメになりつつあります。
例えば8年も動いてなければ自動車だってバイクだってそう簡単にエンジンは回りません。場合によってはオーバーホールが必要ですし、再稼働の時には思わぬトラブルも発生するものです。
原子炉とても同じこと。長く停まっていることで人材も機材もどんどん劣化してしまうのです。

私たちが見据えておかなくてはならないのは、だからこそ安倍政権や原子力産業は、原発輸出に必死になっているのでもあるということです。
原発輸出は容易に動かせない日本の原発に代えて、海外で建設・運転を行い、原発技術を生き延びさせるためにも行われようとしています。
このことには具体例があります。トルコの友人(アクティビストのプナールさん)が日本に招かれたとき、女川原発のPR館を訪問したそうです。
原発が動いてないのに職員がたくさんいることに驚いた彼女が、人員を減らさない理由を館員に尋ねると、即座に返ってきた答えが「原発輸出のためです」だったそうです。

事実は少し違う。輸出のために人材を確保しているのではなく、輸出によって、今だぶついている人材の仕事を確保し、技術を延命させようとしているのです。
その意味で原発輸出は、瀕死の状態にある日本の核産業の懸命の延命策であり、これができなくなると、核産業の「終わりの日」がぐっと近づくことも見えてきます。

しかしその輸出のためにも、日本で原発が1つも動いていないのはいかにも具合が悪い。
「日本の原発は安全だと言っても、あなたの国は一つも原発を動かしていないではないですか」と言われると答えに窮してしまうからです。
そのためにとにかく一つでも二つでも原発を動かして「原発ゼロ」状態を無くしたいというのが日本政府と核産業の本音でしょう。
しかし・・・安全のために一つの原発の再稼働も許すことはできないことは前提ですが・・・仮に一つ、二つ原発を再稼働したとて、この構造的な危機が解消できるわけではありません。

私たちはこの点にもっと着目し、内外に原発が平均で4年2カ月も動いてない事実を明らかにしていく必要があります。
このことは4月のトルコ訪問の時にも痛感したことでした。トルコの脱原発派の大学教授でさえ、日本の原発がゼロ状態を続けていることを知らなかったからです。
というかその教授は日本がこんなに長いこと原発が動いてないことに驚いて「それで経済は大丈夫なの?」と聞いてきました。
「何にも問題ないよ」と僕は即答しましたが、彼は「あー、騙されていた」という顔をしました。経済大国と言われる日本でさえ原発はまったく必要ないのだということを実感したからでしょう。

いやそもそも私たちにとってもっと興味を引くべき事実もあります。
日本の原発がほとんど動いてないこの3年の間にあったことはなんでしょうか。答えは株価の急上昇です。2012年7月に8,695.06円だった株価は2015年7月8日午前12時現在で20,067.59円となっています。
原発が動かないと経済が停滞するはずだったのではないでしょうか?

いやそもそも株価の話を持ってくると、経済成長とは何なのかという本質問題までもが浮上してきます。
今の株価はアベノミクスによるバブルであって、いつかそのうち必ずはじけるものにすぎません。では経済成長とは一体何なのでしょうか?
しかしこの本質問題を横においたまま、円安の中で多くの輸出企業が潤い、現状を「好景気」と捉えています。原発が動いていたときよりも動いていないこの3年でこそこの「好景気」は達成されたのです。原発など関係なしにです。

この問題は現代社会の経済が、物を製造して売ると言う実体経済から大きくそれてカジノ化している現実の中で起きていることです。
だからこそ私たちは「経済成長」などという言葉の幻想そのものを立ち切り、「成長」ではなく「分配の公平性」の側から経済を見直さないといけません。とくに現代の「成長」は格差拡大と直結しており、この点が正されなくてはいけない。

これらについては稿をあらためて論じなければなりませんが、いずれにせよ、私たちは「原発ゼロ」という捉え方よりも、日本の原発が総体としてすでに長期にわたって動いてないことにもっと着目すべきです。
この状態を作り出しているのは私たち日本に住む民衆の力です。ピープルズパワーこそが、原発大国日本で48基平均で4年2カ月も稼働できない状態を作り出しているのです。
各地で原発の稼働を食い止め続けている私たちのパワーに、強い誇りと自信を持ち、川内原発と高浜原発の再稼働の動きと対決していきましょう!

なお最後に昨日の朝日新聞の報道を貼り付けておきます。

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川内原発1号機、再稼働に向け原子炉へ核燃料搬入開始
朝日新聞 2015年7月7日20時29分
http://digital.asahi.com/articles/ASH774PWMH77TIPE01Q.html

九州電力は7日、川内原発1号機(鹿児島県薩摩川内市)の原子炉への核燃料の搬入を始めた。10日までの4日間で核燃料157体を運び込む。
8月中旬を目指す再稼働に向けた手続きは最終盤となり、「原発ゼロ」が続いた電力供給は大きな節目にさしかかっている。
川内1号機が再稼働すれば、東京電力福島第一原発の事故を受け、2013年7月に施行された新規制基準下で全国初となる。
震災後に関西電力の大飯原発3、4号機(福井県おおい町)が一時再稼働したが、13年9月に定期検査で停止しており、その後は「原発ゼロ」が続いてきた。

川内1号機での核燃料の搬入は、7日午後1時39分に開始。原子炉建屋に隣接する建屋内の貯蔵プールから、1体ずつクレーンなどで原子炉へ運び入れる。作業は24時間態勢で、放射線を遮るため水中で行う。
川内1号機では、規制委が再稼働前の設備検査を行っており、核燃料の搬入後も約1カ月にわたり検査は続けられる。順調にいけば、九電は8月中旬に原子炉を起動し、再稼働させる。
規制委の最終検査を経て、9月中旬に営業運転を始める計画だ。ただ、川内1号機は11年5月に定期検査に入ってから4年以上停止しており、想定外のトラブルなどで予定通りに進まない可能性がある。

九電は1号機に続き、2号機も10月中旬の再稼働を目指して準備を進める。
九電は新規制基準に対応するための耐震工事をしたほか、再稼働前に重大事故を想定した訓練を行うなどとしている。ただ、火山活動が活発化している九州では、巨大噴火による重大事故への懸念は根強い。原発周辺の住民の避難計画が不十分との指摘もある。
川内に続き、四国電力の伊方原発3号機(愛媛県伊方町)や関電の高浜原発3、4号機(福井県高浜町)などで再稼働の準備が進む。
しかし高浜3、4号機は福井地裁が再稼働を禁じる仮処分を出すなど、原発への視線はなお厳しい。川内をきっかけに再稼働が次々に続くかはまだ見通せない。(長崎潤一郎、東山正宜)