守田です。(20150501 22:00)
4月28日、国立がん研究センターが、2015年に国内で新たにがんと診断される患者数が、2014年よりも10万人増え、98万人に上るとする予測を発表しました。
なんと一年で88万人から98万人への増加の予測です。率にして11%も増えると考えられるのですから、きわめて大きな変化であると言わざるを得ません。情報は以下から見ることができます。
2015年のがん統計予測
国立がん研究センターがん対策情報センター 2015年04月28日
http://ganjoho.jp/public/statistics/pub/short_pred.html
この予測は2014年から開始されたもので、最初の予測が2014年7月10日に出されています。
この時に出された2014年の予測罹患数は、約88万2千例(男性50万2千例、女性38万例)でした。
この情報には「2010年の全国がん罹患モニタリング集計結果と比較すると、合計で約8万例増加」という説明が加えられていました。
これに対して2015年の予測罹患数は約98万2千100例(男性56万300例、女性42万1千800例)となっています。
男女の合計で約10万例増加ですが、2010年と2014年の比較による増加が約8万例であったことに対し、1年で10万例増加ですからこれだけを見ると激増に見えます。
もっともこの予測データは最初に提出されたのが2014年であり、2010年のものは予測値ではなく実測値なので、同じように比較はできないのかもしれません。
がん研究センターはこうした急速ながん罹患数の増加の要因を、主に高齢化によるがん罹患者の増加のためとしていますが、それで1年間で10%以上も増えるのでしょうか。
やはり広範囲な被曝の影響が表立って出始めているのではないでしょうか。
部位別データを見ると、もっとはっとすることがありました。放射線被曝との関連性が強いとされている男性の前立腺がんが突出して増えているからです。
2014年では75400例であったものが、2015年では98400例となり、同じく2014年に90600例から2015年に90800例へと微増した胃がんを抜いて、罹患数のトップに躍り出ました。
ちなみに過去のデータをいろいろ見てみると、2008年のがん罹患数は、男性437,787例、女性311,980例で合計749,767例。約75万例でその後2年間で約88万例になっていますから、この間、1年で約6万5千例づつ増えていたことが分かります。
このときの前立腺がんの罹患数は51,534例で、胃がん、肺がん、大腸がんについで4番目の位置にありました。ちなみにトップだった胃がんはこの年で84,082例でした。これもがん研究センターのデータです。以下にアドレスを示しておきます。
部位別罹患数(2008年)
http://ganjoho.jp/data/professional/statistics/backnumber/2013/fig04.pdf
前立腺がんはアメリカではずいぶん前から男性のがん罹患数のトップにあり、がん死亡の中でも2位の位置につけているがんですが、日本ではもともとは罹患率が低く1950年の死亡者数は83人ととても少ないがんでした。
ところが1980年代後半ごろから急速に増えだしました。1975年の罹患数は約2000例でしたが、2000年には約2万3千例、2006年4万2千例、2008年51,534例と急激に増加してきて2015年98400例となっているのです。
今回の予測値においても1年間でなんと2万3千例の激増です。1975年の罹患数が約2千例だった病が、なんと10万例に届こうとしているのです。
この1年間の激増については「前立腺がん検診であるPSA検査(血液検査)が普及したため」との説明もなされており、確かにその側面もあるのかもしれませんが、しかしそれでも大変な急増であることは間違いありません。
女性について部位別にはどうかというと、やはり被曝との関連性が高いと言われる乳がんが2014年も2015年もトップを占めていて、86,700例から89,400例へと増加しています。2008年もトップでした。
乳がんがやはり胃がんを抜いて女性の罹患数のトップとなったのは1996年です。
最近では生涯において、12人~15人に1人の女性が乳がんに罹患するとも発表されていますが、これもまた1975年約1万例だったものが1990年2万5千例、2000年3万7千例、2004年5万例、2008年6万例、2015年約9万例と増加してきてのことです。
TBS ピンクリボンプロジェクト
http://www.tbs.co.jp/pink-ribbon/data/
ただし原資料はがん研究センター
こうしたもともと日本の中で少なかった前立腺がんや乳がんの急激な増加の原因として指摘されているのが「食事の欧米化」です。
確かにその側面はあるでしょう。「欧米食」が身体に悪いことを如実に示していると言えますが、しかしそれではとくに1980年代、90年代から急速に増加に向かってきたことの説明が十分にはつきません。
この点で指摘したいのは、「欧米食」と一口にいっても、アメリカやヨーロッパの食事もまた大きくさまがわりしており、とくに近年、劇的と言えるまでに内容が悪くなっていることです。
象徴しているのは質の悪い油や糖分を多用したファーストフードの激増ですが、このためアメリカ内部をみても1980年と2015年の間に肥満率が倍以上に伸びてしまっています。この悪くなる一方の「食の欧米化」が日本にも流入していると考えられます。
しかし一方で1980年代以降の前立腺がんや乳がんの激増の、一方での大きな原因となってきたのは、1950年代から60年代にかけての大気中核実験の頻発と、その後の原子力発電所の急増ではないかと思われます。
前立腺がんは50~60代以降に発症するケースが多いものであり、乳がんは30代後半から発症しはじめ、40代後半でピークを迎える傾向にあります。
50年代から60年代の核実験の激発の最中に生まれた年齢層(1959年生まれの僕もその1人です)の発症年齢への到達と、先に示した増加のカーブに対応関係が見られるのではないでしょうか。
この点を考えると、乳がんが先に1996年に罹患数のトップに躍り出て、前立腺がんが2015年に初めてトップに躍り出てきたことにもうなづけるものがあります。同じころに被曝した結果ががんとして表れるのに女性と男性(乳がんと前立腺がん)で時間差があったと考えられるからです。
原発の場合はどうか。原発は実は事故を起こさなくても放射能を排出しています。排出しながら「許容量で環境に影響はない」などと言われてきたのです。その上、度々事故隠しも行われてきました。
こうした現実に対して、アメリカでは原発と乳がんの関連性を調査した優れた書物が出ています。ジェイ・エム・グールドによる『内部の敵』です。被爆医師、肥田舜太郎さんが中心になって翻訳され、自家出版されています。
グールドは合衆国の乳がん死亡率が、核実験が頻繁に行われるようになった1950年から1989年までの間に2倍になったこと、最も増加率の高い郡では4.8倍にまでなったことに着目し、全データをコンピュータに入力して大掛かりな解析を行いました。
そこでは殺虫剤や農薬を含め、様々ながん発生因子が扱われましたが、死亡率が有意に上昇したアメリカの全ての郡に共通する因子を調べて、唯一あがってくるのは、その地域が核施設から100マイル(160キロ)以内にあることだったことが明らかになりました。
肥田舜太郎さんはこれに基づいて、日本地図に原発からの160キロラインを引きはじめましたが、途中でほぼ全国が入ることが分かって止めたと語られていました。正確には和歌山県南部と北海道東部、沖縄諸島だけが160キロ圏を免れます。
アメリカは全土に約100基の原発を持っており、その上に軍事用のプルトニウム生産炉を持っています。
この他ウランの濃縮工場や再処理施設、核兵器製造工場など日本とは比較にならない数の核施設を持っており、ハンフォード基地の放射能漏れ事故などをはじめ、たびたび深刻な事故を起こしてきました。
しかも冷戦の最中の軍事施設の事故であることを理由に、その多くが隠され、人々が知らぬ間に被曝してしまっています。ネバタ砂漠で核実験が繰り返されたことを含めると、世界の中で最も深刻な被曝が繰り返されてきた地の一つがアメリカだと思えます。
そのためアメリカは前立腺がんも乳がんも、罹患率、死亡率ともに高いことが考えられます。
日本はどうか。核兵器製造施設はありませんが、アメリカよりも圧倒的に小さな国土に最大で54基もの原発を抱えて運転してきてしまいました。
もともとそのことが食べ物の悪化とともに乳がんや前立腺がんをはじめ、全体としてのがんの罹患数を増やす因子となってきたのではないでしょうか。これと化学物質の汚染が複合してきたのではないか。
そしてそうした健康悪化が重ねられた上に、つまりがんがどんどん上昇しつつある状態の上に、福島原発事故によるものすごい規模の放射能被曝を私たちは被ってしまったのです。
これらから、2015年において前年比で11%ものがんの罹患数増が予測されていること、しかも男性の前立腺がんの伸びが著しく罹患数の中でトップに躍り出たことに、僕は福島原発事故による被曝が大きく関連しているのでないかという強い疑いを持たざるを得ません。
ただし科学的に確証していくためにはより綿密なデータ精査が必要です。こうしたデータは数年経ってから揃ってくることも踏まえつつ、分析力をアップしながらこうした作業へのチャレンジを続けたいと思います。
なお一番肝心なことは、こうしたデータの把握を通じて私たちがなすべきことは、がんの増加をただ手をこまねいて見ているのでなく、私たちの健康を守るあらゆる試みを強化していくことです。
その中心になるのは放射線被曝防護であり、今でも被曝量の高い地域の方たちをいかに守るのかということです。
放射線防護だけを考えれば、理想的には線量の高い地域から避難を促進することが大事ですが、しかし故郷に住み続けたいと思うのも尊重されるべき重要な人権です。だからこそ避難の権利の確立への努力とともに、各地で可能な限りの防護を積み重ねる必要があります。
そのためには政府の原発安全神話ならぬ「放射能安全神話」に対抗し、放射線防護-内部被曝防護に関する知識を増やすとともに、子どもたちの保養を増やし、疎開の可能性を探っていくことが大事だと思います。
同時に、これだけ「食の欧米ががんを増やしている」と言われているのですから、食の安全性全体を見直し、ゆっくりしっかりよく噛んで食べることなども含めた、食べ方の改善を進めていくことです。
がんの急速な増加の現実をしっかりと見据え、命を守る活動を強化していきましょう。