守田です。(20141130 00:30)

社会的共通資本としての絵本の続きをお送りします。

絵本に対する思いをさまざまな経験から深めつつも、しばし滋賀県に通わなくなっていた僕が市居みかさんと再会したのは、市居さんが絵を書き、玉崎洋子さんが文を書いて作った、1枚のチラシがきっかけです。
タイトルは「まずは知らなきゃね」。市居さん描く「あすのわぐま」が、原発について「本当はこうなんだよー」と猫ちゃんに説明しているものです。
何はともあれ以下をクリックしてみてください。A4二つ折り、見開きようのもので、1枚目の右側からスタートしています。
http://asunowa.shiga-saku.net/e614436.html
https://docs.google.com/viewer?a=v&pid=explorer&chrome=true&srcid=1n4BN-8yTV5-BqPLEixco6GMXyRBn1Hz1NF8pdV_ibNfW20AATCj_rShSINd8&hl=en

僕がこのチラシを手にしたのは、2011年4月に行われた大阪での脱原発デモでのこと。カメラを持って撮影しながら歩道を歩いていた僕に小学生ぐらいの女の子が「はい!」とにこやかに手渡してくれたのでした。一読して、これは原発事故以降のベストチラシだと思った。
それでただちに持ち帰ってマスプリ。周りにじゃんじゃん配りだしたところ大好評でしたが、その頃になって良く読むと「イラスト市居みか」と書いてある。「あ、あの時の市居さんだ」と嬉しくなりました。
チラシのマスプリの許可を得なければと、連絡先の「あすのわ」に電話を入れて快諾を得ましたが、そのあすのわの方たちがのちに「びわこ123キャンプ」をはじめていきました。思えばこれが僕のしがの方たちとのつながりの糸口になりました。1枚のチラシ、素敵な絵の踊るチラシのもつ力でした。

そのころ、つまり2011年過程で、僕は被爆医師の肥田舜太郎さんと出会い、本当に深刻な放射能漏れの中にあって、私たちが前向きに生きてくために必要なのは、放射能の元を断つことと、一方で腹をくくり、免疫力を高める努力を傾けることだと教わりました。
免疫力を高めるためには健康生活をすることが大切ですが、同時に私たちが経験的に知っているのは、精神生活の豊かさもまた、免疫力の向上に大きく寄与するのだということです。だからことばの力、絵の力もまた、免疫力の向上に大きく寄与するのだと僕は思いました。
その意味で僕は「絵本は放射能に効く」と感じました。今でもあの2011年4月の大阪のデモのときに「あすのわぐま」と出会い、心がパッと明るくなった嬉しさ、楽しさを思い出します。そのために僕は折に触れて絵本に接することの喜びを伝えようとしてきました。

今はそれ以上の意味を感じています。というのは安倍首相は今、自分たちの政権の延命だけのために衆議院を解散するなど、正当性のないことばかり繰り返しています。
「アベノミクス解散だ」とか「増税延期を問う解散だ」とか言っていますがどう考えもおかしい。アベノミクスが間違っていて、人々の暮らしが苦しくなり、景気がどうしようもなく悪いから増税なんかできなくなったのであって誰も増税に賛成などしていないのです。
それだけではなくこの首相は本当に平気で嘘ばかりついてきました。福島原発があんなにひどい状態が続いているのに「完全にコントロールされている」と言ってみたり、集団的自衛権行使の強引な決定でこの国がアメリカに率いられて戦争に参加する可能性が高まっているのに「これは日本が戦争に巻き込まれないためのものだ」と言ってみたり。

今日、こうした安倍首相の横暴ぶりは日を追うてひどくなっています。
とくにマスコミや野党に「大義なき解散」との指摘を受ける中で、安倍首相はテレビのキャスターに「今、解散総選挙は必要なんですか?」と問われて「それも選挙で問うてください」と訳のわからない返答をしたり、「経済なんかぜんぜんよくなってない」という町の声が紹介されると「おかしいじゃないですか」と切れてどなったりしています。
そこには誠実さなどかけらもない。相変わらずうそばかりを連発し、少し突っ込まれただけで逆切れを繰り返していますが、私たちが見ておかなければならないのは、このような人物が首相を続けてきたこと、誰も安倍首相を諫めることができない中で、他ならぬ与党の議員たちの多くが想像力を失い、感性を麻痺させてしまっていることです。

なぜかと言えば、あれほど不誠実な嘘の連発や事実を無視した発言が続くにもかかわらず、誰も抗おうとせず、黙認することで嘘への加担を続けているからです。
批判でもしようものならすぐに政権から遠ざけられてしまうからと考えてどんどんイエスマン化してしまっている。国のため、社会のために首相のあやまりの前に立ちふさがる「愛国の志士」もまったく出てきません。それが「劣化」を指摘されている与党議員たちの姿です。
市井の人々に「暮らしが苦しい」と言われても察するイマジネーションを持たず、どう考えても危険な原発を避難計画もなしに動かそうとしていることにもまっとうな危機感を持てない。とにかく自分に都合の悪いことはすべて考えないようにしてしまっている。集団で人間的想像力にふたをしたままこの国をとんでもない方向に進ませつつあります。

ここでぜひ再度、松居さんの言葉を思い起こして欲しいと思います。
「物語を聞ける力というのは、物語という目に見えない世界を、自分の心の中に見えるようにする、絵(イメージ)にする力です。一般に想像力(イマジネーション)といわれる力です。想像力が豊かであれば、人間は見えないものを見ることができます。絵本は、子どもたちの想像力に大きなかかわりがあります。」
「子どもは、生まれたときから、豊かな想像力を持っているのではありません。それは直接、間接の体験を通して獲得されるものです。体験が豊かであればあるほど、想像力も豊かになるでしょう。絵本は、幼児にとって体験を豊かにする機会をあたえます。」(『絵本とは何か』p7、8)

こう話をつなげてみると今の政治家たちがどれほどこうした人間的なイマジネーション力を失っているかが見えてくると思います。
思いやりの心を著しく欠いており、だから周辺国と溝が深まるばかりだし、国内にもヘイトクライムを蔓延させています。それどころかヘイトクライム団体と関係の深い人物を多数閣僚に登用すらしている。
私たちはこのあまりにひどい状況に立ち向かっていかなければなりませんが、だからこそ、相手があまりにひどいからこそ、私たち自身の心の豊かさ、想像力の逞しさ、他者の痛みを思いやりシェアできるイマジネーションを、「灰色」の人々に立ち向かう中で失ってしまうことを避けなければならないと思うのです。

そのために今、絵本を読み、文学を読み、美しい絵画を楽しみ、さまざまな音楽に耳を傾けることで、私たちは常に私たちの中の美しいもの、柔らかいもの、優しいものを守り、育んでいく必要があります。絵本などが与えれくれる栄養をたくさん採って、心の健康を保つことが大事です。
そのためにもぜひ市居みか展に行かれてください。あるいは市居みかさんの絵本を手に取ってください。ふしはらのじこさんの絵本も読まれてください。松居直さんの著作に触れてみてください。
さらにぜひ宇沢弘文先生の書に、今、この時期だからこそ、接していただきたいと思います。その中で、社会的共通資本を守ろう!と叫び続けられた宇沢先生のご遺志をシェアしてくださると嬉しいです。僕自身も社会的共通資本を守るため、さらに奮闘を続けます!

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再度、市居みかさんの個展情報をお知らせしておきます。

11月28日から12月10日まで。四日市のメリーゴーランド本店にて開催中です。
12月7日午後2時からギャラリートークがあります。

絵本作家 市居みかの日々あれこれ
http://ichiipk.exblog.jp/23487278

なお今回の記事は2011年9月にはじめて滋賀県信楽市を訪れてお話するにあたって書いた以下のものをリライトして作りました。

明日に向けて(271)ことばの力、絵の力、絵本の力 20110927
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/954c69322a4325aecc96c8f86eea952b