守田です。(20131212 18:30)

まれに見る悪法である秘密保護法を強引に可決した安倍首相は、臨時国会の閉幕を踏まえて首相官邸で記者会見し、民衆の激しい抗議の声に動揺して「反省」の言葉を口にしました。東京新聞は以下のように語ったと伝えています。

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「厳しい世論は国民の叱声(しっせい)であると、謙虚に真摯(しんし)に受け止めなければならない。私自身が、もっともっと丁寧に、時間を取って説明すべきだったと反省している」
首相は「審議過程では、秘密が際限なく広がる、知る権利が奪われる、通常の生活が脅かされるといった懸念の声もいただいた」と指摘。その上で「そのようなことは断じてあり得ない。今ある秘密の範囲は広がらない。一般の方が巻き込まれることも決してない」

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「厳しい世論は国民の叱声であると、謙虚に真摯に受け止めなければならない」・・・明らかにこれは、全国津々浦々で行われいる秘密保護法反対デモに動揺して出てきた言葉です。
石破幹事長の「デモはテロ」という発言も、石破氏の反民主主義的な発想と、デモへの恐れがないまぜになって飛び出してきたものでしたが、首相のこの言葉にも、民衆の抵抗への激しい動揺があらわれています。明らかにデモを恐れています。

しかしもちろん、「謙虚に真摯に」などというのはまったく嘘です。本当にこの首相は嘘を平気でつけるひとなのだとため息が出ます。
彼は続けて「秘密が際限なく広がる、知る権利が奪われる、通常の生活が脅かされる・・・そのようなことは断じてあり得ない」と断言しましたが、福島原発がコントロール下にあり、汚染水は完全にブロックされており、現在も未来も健康被害はないと断言したこの首相を、誰が信じることなどできるでしょうか。
安倍首相が何を言おうが、法の性質は条文に記されており、その内容が「秘密が際限なく広がる、知る権利が奪われる、通常の生活が脅かされる」ものとなっているのです。だから日本中で反対の声が上がっているのです。だから「反省」など語るなら、この悪法を廃案にすべきなのです!

また多くの人が危機を感じるから、大きな反対の声を上げているのに、審議を尽くさず、強引に法を通してしまった。「謙虚に真摯に」受け止める気がある人物が、また「時間を取って説明すべきだった」と思う人物が、あのようなあまりに強引なやり方をとるはずなどありません。
にもかかわらず、安倍首相は、またも大嘘で切り抜けようとしている。本当に、この方はまっとうな倫理観を持ち合わせていない。そういう人物こそ、たくさんのことを秘密にしたがります。きちんと持論を説明することができない上に、嘘を繰り返すので、その露見をいつも恐れているからです。
ちなみに首相のお連れ合いの昭恵さんは、「家庭内野党」だそうですが、こういう嘘には反対しないのでしょうか。大嘘つきの伴侶がこの国の首相をしていることに恥ずかしさを感じないのでしょうか。どこが「家庭内野党」なのか大いに疑問です。
ツイッターでのある方の書き込みに、安倍首相の言い分は、暴力を振るった後に「もっと優しくすれば良かった」と語るDV夫のようだというものがありましたが同感です。

安倍首相の大きな動揺は、共同通信8、9日に行った世論調査で、内閣支持率が11月の57.9%から10.3ポイント落ちて47.6%へと急落したことにも影響されたものです。不支持も26.2%から38.4%に上昇しました。
秘密保護法についても、次期通常国会以降に「修正する」が54.1%、「廃止する」が28.2%で、合わせて82.2%がこのままの施行に反対しています。法律に「不安を感じる」という回答も70.8%に登っています。
経営陣を安倍首相の息のかかった人物に変えてきたNHKの世論調査ですら、支持が60%から50%に下落。不支持が25%から35%に上昇との結果が報じています。

内閣支持率の急落は、全国で展開された秘密保護法反対行動が呼び起こしてるものです。もともと安倍政権は、政治的理念での支持など受けていません。「アベノミクス」におけるまやかしの「経済効果」のみが支えです。
秘密保護法のことも、TPPへの参加も、公約にはまったくなかった。にもかかわらず戦争への道をひた走る、安倍政権の危険な姿が、ようやく多くの人々にも見えてきたと言えるでしょう。

こうした民衆の声の高まりの中で大きく動揺しつつ、一方では支持率を失う前により強権的な体制を強めてしまおうと思いながら、他方で支持率低下が気になって仕方がない姿を安倍首相とともに体現しているのが迷走を繰り返す石破幹事長発言です。
石破氏は、「デモはテロ」ととんでもない発言をして批判をあびたときにも、即刻、「テロ」発言を撤回し、「政治家は世の中に対するおそれを持っていかなければならない」と語りました。(12月4日)
デモに対して「テロ」と捉えてしまうような恐れをいだき、その上、このテロ発言批判にも恐れを抱いた石破氏が、自らの動揺を隠すために「恐れを持った」ことを「恐れを持っていかなければならない」と言い換えただけですが、石破幹事長はその後も同じことを繰り返しています。

内閣支持率の低下を受けた11日に、石破氏は日本記者クラブで会見し、秘密保護法で指定された秘密を報道機関が報じることについて「常識的に言って、何らかの方法で抑制されることになると思う」と述べました。
実際には秘密保護法の条文にすら「国民の知る権利の保障に資する報道又(また)は取材の自由に十分に配慮しなければならない」と明記してあり、正当な取材で秘密を入手した場合は処罰の対象にならず、秘密を報じた場合の罰則規定も設けられていないのであって、石破氏の発言は強権的な逸脱です。
ところが、石破氏はこの会見の2時間後に自民党本部で記者団に「(秘密を)漏洩(ろうえい)した公務員は罰せられるが、報道した当事者は処罰の対象にならないということだった」と訂正し、秘密に関する報道についても「抑制を求めたものではない」と釈明したのでした。官僚など側近に、条文への無理解を指摘されたのでしょう。

にもかかわらず12日になると石破氏は再び方向転換。ニッポン放送のラジオ番組の中で、「秘密保護法で指定された秘密情報」を報道機関が報じることに自制を求めて、「外へ出すと国の安全に大きな影響があると分かっているが報道する。(その結果)大勢の人が死んだとなれば『それはどうだろう』というのはある」などと発言しました。
いったんは、報道そのものが罰せられると語り、あわてて、罰せられないと訂正し、さらに罰せられないが自制すべきだと発言の修正を繰り返したわけです。
ここには石破氏の、より強権的な道に進もうという反民主主義的な意図と、民衆の怒りへの怯えが錯綜していることがはっきりと表れていることが見てとれます。同時に、秘密保護法があまりにあいまいで、はっきりとしていない法律であることもよく表れています。だから「常識だ」と言ったことを2時間後に訂正し、翌日、再訂正することになったのです。

安倍首相と石破幹事長の、動揺の繰り返しから見えることは、この二人はまったく反省などしておらず、反民主主義的な野望を持ち続けていますが、他方で、民衆の声をひどく恐れてもいるということです。
実はこれは現政権幹部に共通する価値観に裏打ちされた態度です。それを象徴するのが、麻生副総理が、7月参院選の自民党「圧勝」時に語った「ナチス称賛発言」です。麻生氏はこう語ったのでした。
「ある日気づいたら、ワイマール憲法が変わって、ナチス憲法に変わっていた。誰も気づかないで変わった。あの手口に学んだらどうかね」・・・。

これに対して、僕は当時、すぐに以下のような分析を出しました。

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麻生氏は憲法9条をはじめ「改憲」の道に人びとの十分な合意などないことをそれなれりに把握しているのです。また正々堂々と、改憲について論じ合ったとき、自民党の主張がたちまち「民主主義に反している」という正論で破られてしまうことも肌身で感じている。明らかに民主主義に驚異を感じているのです。
だから、選挙民に何が重大問題であるかを気づかせないままに、徹底した嘘と暴力の発動によって、「ある日気づいたら、ワイマール憲法が変わって、ナチス憲法に変わっていた。誰も気づかないで変わった」ナチスの民主主義破壊の手口に強烈に魅力を感じ、ついその本音を出してしまったのです。」

明日に向けて(720)自民党の「圧勝」?てやんでぃ!(麻生ナチス発言から自民党を支配を見る)
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/c085961caa38a6d04a2f23a37d178192

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現在の、安倍首相や石破幹事長の、非常に強権的でありながら、動揺を繰り返す態度は、麻生ナチス称賛発言に通底するものであり、現政権が共有して持っているものです。
現政権は民主主義をまったく尊重しておらず、ナチスすら褒め称えるような価値観の人々によって成り立っているのです。しかし一方でその本質の露見を痛く恐れているのです。
そうであるならば、私たちの進むべき道はあまりにも明らかです。民主主義の旗を高く掲げ、さらにいっそう怒りの声を大にすること。同時に、さらに一層、民衆の覚醒を深めることです。

そのために街頭行動と、学習会活動を縦横無尽に組み合わせた行動を重ねましょう。
原発のこと、放射線のこと、戦争のこと、戦後史のことを学び、さらにあらゆる分野に知識と知恵を伸ばしていきましょう。
今は真に民主主義を育てるときです。暗黒の独裁政権か、民衆によってラディカルに支えられたデモクラシーか。大きな分岐点に私たちはいます。未来のために、子どもたちのために、力を尽くして頑張りましょう!