守田です。(20130823 23:00)

福島の子どもの甲状腺がんが相次いで見つかっています。20日に行われた福島県からの発表によると、これまで結果が判明した19万3千人のうち18人が甲状腺がんが確定、25人が疑いありと診断され、1人は疑いがあったものの陽性とされたそうです。
2013年2月の発表では38114人中確定3人、疑い7人でしたが、6月の発表では17万5千人中、確定が12人、疑いが17人となり、今回で19万3千人中、確定が18人、疑いが25人となりました。
この悪性の「疑い」は医学的に90%の可能性とされています。となると現在の数は19万3千人中、18+25×0.9=40.5人、切り上げで約41人であると言えます。(記事の表題には40人以上としました)
子どもの甲状腺がんの発症数は、世界的に100万人に1人から2人と言われています。それがすでに福島県でわずか19万3千人の検診で41人も出てきてしまっている。発症率を100万人1人だとするとなんと約2100倍、2人としてもその半分の1050倍もの割合です。ものすごく大変です!

この次々と見つかってきた子どもの甲状腺がんを、政府は「時期が早いので福島原発事故由来のものではない」と断定しています。僕はそんなことはない、福島原発事故が大きく関与していると思っています。
しかしここで指摘しておきたいのは、もし本当に原因が原発でないのだとしても、それはそれで問題だということです。なぜって、通説の1000倍から2000倍の割合で、甲状腺がんにかかった子どもたちが現にいるのだからです。
当然それには原因がある。原発以外の何らかの恐ろしいことがあることになるのです。しかし政府の発表も、政府に批判的な精神を貫けないマスコミも、この重大な点を見過ごしています。
この現実から直ちに考えなければならないことは、福島の子どもだけでなく、もっと広域の子どもの調査をしなければならないということです。原発事故のせいではないとするなら他県の子どもたちにも甲状腺がんが広がっている可能性が高いからです。

またやはり原発事故のせいだとした場合も、汚染は東北・関東の広い地域にまたがっているのですから、早急にその地域の子どもたちの検診を進めなくてはいけません。どちらの場合でも福島だけに調査を絞っていてはいけない。
最低でも東北と関東の全域の子どもたちを見る必要があります。いや、福島原発事故が原因でないというのであれば、全国の子どもたちの検診を進めるべきなです。にもかかわらず、なぜ政府の中からこうした発想が出てこず、マスコミもこの点を追及しないのでしょうか。
がんだけが心配なのではありません。甲状腺の悪化は、甲状腺の本来の機能である成長に必要なホルモンの合成機能の低下をもたらします。このためがんにならずとも、成長期の子どもたちには大きな支障がもたらされます。甲状腺がんが1000倍から2000倍も起こってきているのですからこうした支障も拡大しているはずです。
この場合、甲状腺の機能低下を調べるためにホルモン関連の血液検査をすればよいのですが、なぜか政府はそれを拒んでいます。また避難区域の住民を対象に行った血液検査の結果も、公表していません。なぜでしょうか。血液検査を行い、公表することに不都合を感じているからではないでしょうか。

これらも含めて考えられるのは、やはりこの甲状腺がんの拡大には被曝が大きく影響しているということです。そもそも政府は、チェルノブイリで事故後4、5年してから甲状腺がんが現れたかのような言い方をしています。だから今の甲状腺がんは原発由来ではないと述べていますが、それは間違いです。
自ら現地で医療行為にあたった菅谷昭現松本市長は、著書『原発事故と甲状腺がん』の中で、ベラルーシ全体で1986年は2例しかなく、100万人に1人か2人という国際的な発症水準が維持されていたのに、1987年には4例、1988年には5例、1989年に7例と徐々に増えていき、1990年に29例、ピークの1995年に91例となったことを明らかにしています。
事故前の11年間(1975~1985年)と、事故後の11年間(1986~1996年)を比較してみると、7人対508人にもなります。事故後の11年間で発症数が70倍以上になったのです。
これらから、チェルノブイリ事故でも、翌年から子どもの甲状腺がんは増え始めていたことがわかります。しかも当時は秘密主義の旧ソ連がまだ維持されているときでしたから、これ以外の事例が隠されたり、見つかっていなかったことも推察されます。

ただこの数字を見ると気になるのは、すでに日本では福島の子どもの一部をみただけで、国際的な発症水準の1000倍から2000倍というとんでもない発症率になっていることです。これはどういうことなのでしょうか。
しかもチェルノブイリの子どもたちと比較した場合、ヨウ素被曝に対して大きな違いがあります。日本に住む人々は天然のヨウ素を含んだ海産物をよく食べているため、ユーラシア大陸の内陸の人々よりも、もともと甲状腺が摂取している天然のヨウ素の度合いが高いということです。その点はある意味で有利な点なのです。
ところがものすごい勢いで発症率が上がりだしている。なぜでしょうか。二つの理由が考えられます。一つにそれだけヨウ素被曝が激烈だったということです。しかしもう一つ、実は政府が言うように、確かに以前からのがんもあるのではないか。というより放射性ヨウ素以外の発がん物質もあるのではないかということです。
具体的には特定できませんが、1986年のチェルノブイリの子どもたちと比較してすぐに分かることは、現代の日本に住む子どもたちの方が、圧倒的な量の化学物質に暴露されていることです。アトピーを抑えるための薬剤なども多様されている。これもまたがんの原因物質なのではないでしょうか。つまり複合汚染が襲ってきているのではないか。

同時に注意を促したいことは、こうした症状は、検査対象になっていない大人たち、19歳以上のすべての年齢層で起こっている可能性が大きくあるということです。とくに19歳から20代前半の調査対象となった子どもたちのすぐ上の年齢層の若者たちのことが気になります。
再び菅谷さんの書物からベラルーシ―の成人の例を見ていくと、事故前の11年間が1347人に対して、事故後の11年間4006人、3倍になっていることがわかります。エコー検査による掘り起こしで増えた可能性もあるそうですが、子どもほどの発症率ではないにしろ、大人の甲状腺がんも確実に増えているのです。
子どもと大人の発症率の増え方を比較すると、70倍と3倍ですから、子どもの方が約23倍増えたことになります。これを日本で起こっていることに単純に当てはめてみると(日本での事故前の発症率が100万人に1人だったとして)大人は子どもの23分の1増えるわけですから、2100÷23=91で約90倍にもなることになってしまう。
もともと大人の発症率の方が高いですし、大人の方が人数もずっと多いわけですから、大人も実数ではかなりの方が発症されている可能性があります。大人の事故前の発症実数を調べればもう少し確からしい数字がでてくるでしょうが、ともあれここでは大人の発症のことも十分警戒しなければならないことがわかります。

私たちはこの大変な現実の前に立たされていることをはっきりと自覚する必要があります。かりに今、発症している甲状腺がんがすべて原発のものでないのだとしたら、それだけの大変な人体汚染が2011年3月11日以前に起こっていたことになります。そしてその痛んだ私たちの体の上に膨大な放射能が降ったのです。
いやより正確には確かに甚大な汚染が起こっていて、その上に大量の放射能による被曝があったために、今、大変な勢いで健康被害が顕在化しているという事実が私たちの前にあるのだというべきでしょう。私たちが向かい合うべきなのはこの現実です。
では私たちは何をすべきなのか。一つにあらゆる手段を尽くして、多くの子どもたち、いや大人も含めた大規模な甲状腺検診を実現し、できるだけ早期にがんを発見して退治していくことです。がんは早期に発見されるほど治療が有利です。だからこそ検診の拡大・徹底化が必要です。
同時に、私たちの体を信じて、ただひたすら免疫力を上げることに尽力することです。そのためにさらなる被曝を避け、化学物質を避けていくこと。生活のリズムを整え、身体を、命を大事にしていくことが問われます。

そのうえでぜひ目を向けて欲しいのは、甲状腺がんに限ってみていても、これだけ激烈な発症率の上昇が起こっているのですから、今後、あらゆる疾病が拡大する可能性があるということ、そのために医療が大変なことになる可能性があるということです。
医療界が崩壊しかねないほどの甚大な健康被害が拡大しつつある可能性があります。このことを見据えて、医療と福祉を支える市民的ムーブメントを作り出さなければなりません。一人一人が、自らの体を医療まかせ、医師まかせにすることを戒め、食の問題などにも精通していく必要があります。
そのためには食べ物の流通のあり方、作られ方などにも目を向けていかなければなりません。総じて命の問題、身体の問題、食べ物の問題にもっと大きな光を当て、それをこそ軸に社会を再編成していく必要があると思います。
その意味で私たちは今、根本的な改革=革命を志向すべきときに来たと言ってもよいのだと思います。

子どもの甲状腺がんの拡大・・・本当に大変なことです。だからこそ私たちは、この大変な事態を超える大きな決意を作り出しましょう。知恵を集めましょう。
被害の拡大を座して待っていてはいけません。身体を守るためにできることが無数にあります。だからそれを行いましょう。次々とやっていきましょう。
子どもたちとともに、未来を切り開くために力の限りを尽くしましょう。

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福島の子どもの甲状腺がん、疑い含め44人に 16人増
朝日新聞 2013年8月20日
http://apital.asahi.com/article/news/2013082000017.html

【大岩ゆり、野瀬輝彦】福島県は20日、東京電力福島第一原発事故の発生当時18歳以下だった子どものうち、44人が甲状腺がんやその疑いがあると診断されたと発表した。
6月から16人増えた。県は「被曝(ひばく)の影響は考えられない」とした。ただし、県の検査や説明に対して県民の間に疑問や不安の声もあるため、県は、専門家による新たな部会を作り、検査に問題がないか検証することになった。
6月以降に新たに診断された16人のうち、がんは6人、疑い例は10人だった。累計ではこれまでに結果が判明した約19万3千人のうち18人が甲状腺がん、25人が疑いありと診断された。1人は疑いがあったが良性だった。
この44人は原発事故時に6~18歳。がんの直径は5・2~34・1ミリ。がんは進行のゆっくりしたタイプだった。
事故後4カ月間の外部の全身被曝線量の推計調査を受けた人は44人のうち4割だけだが、全員2ミリシーベルト未満だった。
チェルノブイリでは4~5年後から甲状腺がんが増えたほか、今回の44人は複数回の検査でがんやしこりの大きさがほとんど変わっていないため、県は「事故以前からできていたと考えられる」と分析した。

しかし、県民の間には被曝影響に関する解釈や、検査の精度、情報公開のあり方などに批判がある。
このため県は、検査に関与していない専門医らによる専門部会を新設して、これまでの検査結果の判定や、がんと診断された人の治療、事故による被曝の影響などを改めて検証する。
事故当時18歳以下だった約36万人に対し生涯にわたり継続する甲状腺検査のあり方も改めて議論する。