守田です(20200304 15:00)

● アウトブレイクを防ぐことが大事

新型コロナウイルス問題の核心がより深くつかめてきました。武漢で起きた悲劇は、十分な準備がないうちに感染が広がって一気に患者が病院に押し寄せ、既往症患者も次々と罹患し、重篤者が急増して医療がパンクしてもたらされました。
日本で同じことを起こさないことが大切です。感染拡大防止の積極的な努力をしましょう。前回の僕の記事ではこれらの点が明快には打ちだせていませんでした。申し訳ありません。この点の解説を行いたいと思います。

防がなくてはいけないのは病のアウトブレイクです。中国の経験から明らかになっているデータによれば、この病は罹っても8割の方は軽症か無症状のうちに治ります。その点ではけして怖くない。ただし2割の方は重症化し、6%が重篤化します。主に高齢者は既往症のある方です。
守るべきはこれらのハイリスクな方々です。医療が健全に動いていれば重症になってもかなり対応できます。しかしアウトブレイクして重症者が急増すると厳しい。人々が恐怖から病院におしかけることが重なると病院がパンクします。

やっかいなのはこのウイルスが無症状でも感染性を発揮すること。そのため感染予防が難しい面があり、対処をあやまるとアウトブレイクします。それで各国とも武漢のような事態を招かないために懸命になっています。
ある感染症に詳しい臨床医は「アウトブレイクすると病のあり方がまったく変わって猛威を振るうのです」ともおっしゃっていました。現場を知っている方の実感が伝わってきて説得力がありました。
すでにそんな集団感染がダイヤモンド・プリンセス号の中で促進され、そこで培養されたウイルスも市中に広がりつつあります。


中国・武漢の紅十字会医院で、医師の診断を待つ人々(2020年1月25日撮影)。(c)Hector RETAMAL / AFP

● 若い世代(10~30代)の配慮が命を救う

この点で前回僕は、満員電車対策をしないで小中高の休校措置だけを行うのはいかがなものかと書きましたが、この措置にも一定の効果が望めること、とくに中学・高校の休校に効果がありそうなことが見えてきました。この点で僕は認識をあらためました。
重要なのは2日に専門家会議からなされた提言です。北海道での感染拡大の分析の結果、10代から30代で、都市部で罹患したけれども軽症か無症状で活発に行動している方の一部が感染を促進し、周辺部の高齢者にウイルスを運んでしまっているようだというのです。
都市部よりも周辺部で症例が確認されていることからの考察です。当然、都市部により多くの罹患者がいるはずですが軽症・無症状なので発見されません。もちろんこれらのことは若い世代の責任ではまったくないことも専門家会議は指摘しています。

もう一つこの病の特徴として新たに見えてきたことがあるそうです。軽症・重症に関わらず罹患者の約8割は感染させていないこと。罹ったからすぐに人にうつしてしまうわけではないのです。
これに対し2割の方に感染力が生じているわけですが、そういう方が風通しの悪い屋内の閉鎖的空間で、人と至近距離で一定時間交わると、複数の方に感染させ、患者集団(クラスター)が生み出されてしまいます。
具体的な例として挙げられているのは「ライブハウス、スポーツジム、屋形船、ビュッフェスタイルの会食、雀荘、 スキーのゲストハウス、密閉された仮設テント等」です。
ただしこれらには推測に基づいていて明確なエビデンスがあるわけではありません。「こう考えられるのでやってみよう」という提案であることも留め置く必要があります。

その上で専門家会議は若い世代にこう呼びかけています。
「10 代、20代、30代の皆さん。若者世代は、新型コロナウイルス感染による重症化リスクは低いです。でも、このウイルスの特徴のせいで、こうした症状の軽い人が、 重症化するリスクの高い人に感染を広めてしまう可能性があります。
皆さんが、人が集まる風通しが悪い場所を避けるだけで、 多くの人々の重症化を食い止め、命を救えます」と。

「屋内の閉鎖空間 急速拡大も」国の専門家会議見解【全文】
NHK NWES WEB 20200304
https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/view/

専門家会議の会見 3月2日 FNN

● いま起きているのは「オオカミ少年」状態だ

政府も当初の楽観的姿勢を変えたようです。それで安倍首相が会見を行いました。しかし何が脅威なのか、小中高の休校措置のどこか合理的なのか、まったく語りませんでした。
実はこの休校措置、専門家会議に諮問もせずに強行し、記者会見もしたようです。これがとてもよくなかった。このため安倍首相はリスクの低いはずの「子どもたちを守る」ことだけを連呼しました。
さらに集団感染を防ぐと言いながら学童保育は行うという。しかも朝からだそうですから当然濃厚接触はより増える。あまりに整合性が欠けています。

そもそも専門家会議は「子どもを守る」とは言っていません。むしろ重症化しやすい人々を守るために、軽症か無症状ですむ若い世代に協力を呼びかけたのです。
ところが安倍首相はその後の国会答弁でもこの点を明確に語っていません。明らかに専門家会議の見解と一致していません。また専門家会議の提言からは小学校まで休校にする意義はあまり見出せません。
いま必要なのは、安倍政権が小学校まで休校にしている政策について専門家会議に諮問し、効果があるのならそれを丁寧に説明すること。そうでないと担う側はストレスを受けるばかりです。

安倍首相の会見 2月29日 「子どもの健康を守るため」と連呼 ネットより

ともあれこれらの結果、「オオカミ少年」状態が起こっています。嘘と居直りと不誠実な答弁を繰り返してきた安倍政権の信用はゼロ。「支持率回復のためではないか」と疑われていますが、でも今回はどうやら本当にオオカミは来つつあるのです。
「オオカミ」の正体=新型コロナウイルスの怖さは、繰り返し述べますが感染の爆発的拡大をもたらしうること。同時に恐怖心から軽症者まで病院に押し掛ける事態も招きやすいこと。
とくに最悪のシナリオは、アウトブレイクの中でウイルスが病院に持ち込まれて、医療スタッフが罹患し、閉鎖を余儀なくされる事態で、すでにいくつかの病院で起こっています。でもその一つだった和歌山済生会有田病院が今日、診療を再開できました。いまはまだ持ちこたえている。

しかしこうしたケースが重なって、次々と病院がダウンすると、救急外来を含め、他のあらゆる医療もダウンします。これが最も怖い。それに不安が重なり人々が残された病院に殺到するともう一気に大ピンチです。
しかし政府はこの点もきちんと説明していません。どんなオオカミが来ているのかが明らかにできていない。いや安倍官邸がそれを正しくつかめていない可能性すらあります。
だから迫りつつある危機の本質がまだ社会に浸透していません。私たちが変えなくては。アウトブレイクと医療パニックを防ごうとの声を広めていきましょう!

続く