- 守田です。(2015902 16:00)
昨日1日に東芝をめぐる大きなニュースが飛び込んできました。不正会計問題による混乱が続く中、東芝が8月31日に新たに調査が必要な問題が発覚したことを明らかにしたというのです。
このことでこの日に予定されていた2015年3月期の有価証券報告書の政府への提出期限が守れなくなりました。再提出期限は7日であり、これが守られなければなんと東芝は株式市場への上場廃止という決定的な危機を迎えます。
東芝はこれまで経団連会長などを輩出してきた日本のトップ企業です。原子力産業の中核でもあります。その東芝が商いの基本中の基本である決算発表ができないでおり、株式の取引の場から退場を求められる瀬戸際にあるのです。
以下、毎日新聞の以下の記事を軸に問題のアウトラインをトレースしておきたいと思います。なお情報をおさえておくために記事全文を末尾に貼り付けます。
決算発表再延期 東芝、信頼回復遠く 修正、見通し甘さ露呈
毎日新聞 2015年09月01日 東京朝刊
http://mainichi.jp/shimen/news/20150901ddm003020031000c.html
原因は「複数の国内・海外子会社の会計処理の調査が必要となった」(室町会長兼社長)ためとされています。詳細が明らかにされていませんが、室町社長は「米国子会社での水力(発電所)案件のコスト見直し」などと説明しています。
関連工事の原価総額を低く見積もって、損失の先送りや売り上げの過大計上を行っていた疑いがあるのです。ただしこの「米国子会社」は原子力産業であるウェスティング・ハウス社ではないと東芝は言明しています。
原子力部門の低迷によりウェスチング・ハウス社が十分な収益を上げていないとして、東芝が会計上の価値を見直し、多額の損失を計上するのではとの懸念が広がっているがゆえの言及ですが、今回の事態でますますその疑念も深まらざるをえないしょう。
このことは東芝のみならず日本企業全体の危機であるとも言えます。おりしも中国経済減速への懸念から世界同時株安が進行していて、ものすごい幅の株の乱高下が続いていますが、東芝の信用の失墜もこれを加速させているのは間違いありません。
事実、東芝株は本年3月の最高値(535円)からどんどん下落を続けており、9月2日15時現在で349円まで落ちています。ちなみに東芝がウェスティング・ハウスを買収するなど原子力ルネッサンスに全面的に乗り出した時の最高値は1133円(2007年7月13日)。
しかし直後のリーマンショックで一時は230円まで下落。(2009年2月20日)その後の粉飾決算で浮上していたのでした。東芝は経団連会長などを出してきた会社ですから、大規模不正は、日本企業全体への不信を増幅せざるを得ない位置性を持っています。
僕はすでにこの東芝の大不正が原発部門の破産によって生み出されてきたことを指摘し、以下の記事を配信しました。
明日に向けて(1117)東芝不正会計問題の背景にあるのは原子力産業の瓦解だ!-1
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/6aa800a3bbf14bc67022035818f98209
主要部分をもう一度、ピックアップしておきます。
7月20日に行われた第三委員会の報告によると不正が行われたのは2008年度から2014年度第3四半期で、額は計1518億円に上るとされています。自主チェック分を合わせて利益のカサ上げは累計1562億円に上るとのこと。
この責任をとって田中久雄社長、元社長の佐々木則夫副会長、西田厚聰(あつとし)相談役の歴代3社長が辞任。さらに取締役16人中8人が辞任するという異例の事態になりました。
背景にあったのはアメリカ・ブッシュジュニア政権が2001年に「原子力ルネッサンス」を打ち出し、小泉政権がこれに飛びついたことでした。もんじゅやJCO事故によって生み出されていた原子力見直しの機運にふたをし、原子力推進に舵を切ったのでした。
これが原子力政策大綱とされ、2006年に綜合資源エネルギー調査会原子力部会によって「原子力立国計画」にまとめられました。そこで謳われたのが既存原発の60年間運転、2030年以後も原発依存を30~40%以上に維持、プルサーマル・再処理の推進。
さらにもんじゅの運転再開と高速増殖炉サイクル路線の推進、核廃棄物処分場対策の推進、原発輸出と「次世代原子炉」開発、ウラン資源の確保、原子力行政の再編と地元対策の強化などなどでした。原発輸出もこのときより国策とされたのでした。
原子力政策大綱
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/tyoki/taikou/kettei/siryo1.pdf
原子力立国計画
http://www.enecho.meti.go.jp/topics/images/060901-keikaku.pdf
東芝はこの国策に全面的にコミットし、2006年に米原子力大手のウェスチング・ハウス社を当時2000億円規模、高値でも3000億円と言われたいたのに、なんと倍を越える6400億円強の価格をつけ、三菱、日立をおさえて買収に成功したのでした。
この買収は2005年6月に就任した西田社長のもとで行われましたが、実際の仕切りを行ったのは原子力部門を登りつめて、西田氏に次いで後に社長となった佐々木則夫専務(当時)だったと言われています。
しかし市場価値の倍の根を付けた購入によってたちまち経営に重圧がかかりだしたところにリーマンショックに襲われ業績が一気に悪化。株価も1133円から230円まで落ちてしまいました。東芝はこの時点で危機に陥り、不正による生き延びを始めたのでした。
もちろん東芝も不正で一時期を凌ぎ、健全経営に戻ろうと考えていたのだと思います。その切り札だったのが原子力部門でした。
もともと東芝はアメリカGE社と組んで沸騰水型原発を製造してきましたが、新たに加圧水型原発メーカーのウェスティング・ハウス社を傘下に収めることで、双方の市場への進出を可能とし、輸出にも大きく踏み出して、業績を大きく延ばそうとしたのでした。
ところが福島原発事故によって完全にその展望が崩れてしまいました。なぜか。そもそも事故を起こした福島2号機、3号機が東芝製だったからです。正確には2号機はGEとの共同制作、3号機は純然たる東芝製でした。
このためアメリカで進んでいた東芝製原発の建設が中止に追い込まれました。2009年2月25日に発注を発表した「サウス・テキサス・プロジェクト」でした。東芝にとっても日本にとっても初めての原発輸出でした。
さらに日本中の原発が停まってしまったために点検料が入らなくなってしまったことも大きな打撃となりました。
このことは世界の原子力産業全体にとっての大きなダメージとなり、東芝はそのことでもますます苦境に入っていきました。
象徴的なことは、原子力発電の燃料となる濃縮ウランを供給しているアメリカのユーゼック(USEC)が3月5日に経営破綻したことでした。日本の民事再生法に当たる連邦破産法の適用を申請しました。ちなみに同社はウラン燃料の世界4大メーカーの一つでした。
日本の原発が停止したことで濃縮ウラン燃料が売れずに経営に行き詰まってしまったのです。2010年に日本は濃縮ウランの輸入量約700トンのうち、約500トンをユーゼックに依存している状態だったので、当然の事態とも言えました。
実は「原子力ルネッサンス」に社運をかけていた東芝はこのユーゼックにも出資していたのでした。東芝はユーゼックの経営破綻当時、そこでの損益は少ないと発表しましたが、トータルとしての原子力産業の展望の崩壊が示され、東芝の苦境が深まったのは違いありません。
こうした苦境を東芝は、社内において強引な販売促進を各部署に強いる「チャレンジ」を行って凌ごうとしていたと報道されています。経営難を現場での強引な販売促進によって補おうをしたのですが、このことが各部門での不正を促進したのでした。
達成不可能な営業目標を課せられた現場が、購入部品の請求次期をずらさせるなどして架空の営業利益を計上するなどの操作が常態化されてしまったのです。このとき現場で行われた上司によるハラスメントの実態の告発が日経ビジネス誌上などで公開されています。
原子力部門の展望が失われたことを素直に認め、損失をきちんと計上し、方向転換していたらこうはならなかったと思いますが、企業戦略の失敗を認めずに小手先で凌ごうとすることが、より同社を構造的な苦境に招いてきたと言えます。
それだけではありません。このような構造的な不正を行う会社が原発の製造メーカーであること自体が私たちにとっての脅威なのです。商いの基本である会計でこれだけの不正を犯す会社が原発製造の場でだけ誠実だなどと言えるわけがないからです。
株式の売買の相手としての信用が失われ、上場を廃止されようとしている東芝に、原子力などという危険の塊を委ねておくわけにはいきません。いやこうした構造的に粉飾決算を行う会社だからこそ、未完の技術である原子力に「チャレンジ」できたのです。
そもそも事故を起こした福島原発も東芝製であり、原発以外の製品であれば、当然にも製造者責任が問われていたのです。東芝の作った原発のせいでたくさんの人が被曝しているからです。そのことに謝罪の一つもしないことからも同社の不誠実性は明らかです。
いや重大なことはこのことは原子力産業全体に通底することだということです。産業の展望が失われているがゆえに東芝の経営に歪みが生じ、それを糊塗して進もうとして不正を重ねたのですから、同じことは十分に他社でも起こりえます。
実際、三菱重工も大変な経営難に突き当たりつつあります。2012年にアメリカのサンオノフレ原発2、3号機で三菱製の蒸気発生器でトラブルが発生し、2013年6月に廃炉が決まったからです。この蒸気発生器は2009年と2010年に交換されたばかりのものでした。
このため今年になって三菱重工はなんと9300億円もの巨額の損害賠償を行えとアメリカ側に提訴されてしまいました。三菱側が認めている過失は167億円であまりの開きがあります。裁判の行方次第では、三菱も一気に経営破綻に追い込まれる可能性があります。
私たちが見据えておかねばならないのは、川内原発の再稼働が、こうした原子力産業・原子力村の構造的行き詰まり、東芝の上場廃止という「一流企業」としての消滅の危機の中で強行されていることです。
とにもかくにも原発ゼロ状態を無くすことで、原子力産業の世界的衰退に歯止めをかけようとの意図が明確に働いているのだと思えますが、しかしそれは全く戦略的展望を欠いたものでしかなく、だからこそあまりに危険なものでしかないのです。
確かな展望もないままに既存産業の延命だけを求めて再稼働を行い、それを無理やり原発輸出につなげようとしているのであって、その強引な構造は、当然にも安全性の軽視に直結します。
いやすでに直結しているがゆえに、「重大事故」=過酷事故が起こる可能性があると開き直りつつ、避難対策などなんら施さないままに川内原発の再稼働が行われてしまったのです。
しかも誰も「安全性」を保障しない。規制委員会は繰り返し「新規制基準に通ったからと言って安全だとは言えない」と責任逃れをしており、政府は「規制委員会が安全だと言った原発から動かす」と意図的に規制委員会の発言を無視しています。
再び、三度、嘘のかたまりであり、だからこそ深刻な事故が起きる可能性があります。私たちはこの点をこそ、東芝の不正問題からしっかりとくみとっておく必要があります。
東芝不正問題のウォッチを続けます。
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決算発表再延期 東芝、信頼回復遠く 修正、見通し甘さ露呈
毎日新聞 2015年09月01日 東京朝刊
歴代3社長が辞任するなど不正会計問題の混乱が続く東芝は8月31日、新たに調査が必要な問題が発覚したことを明らかにした。
7月に発表した第三者委員会の調査結果で出し切ったはずの経営の「うみ」がまた表れた形で、調査そのものへの信頼がゆらぎかねない。
自ら31日に設定した2015年3月期の有価証券報告書の政府への提出期限を守れなかったことで、失った市場からの信頼回復は、更に難しくなった。
経団連会長など財界トップを輩出してきた名門、東芝は間違いなく「最大の危機」(室町正志会長兼社長)にある。
◇第三者委「うみ」出し切れず
8月31日に発表が予定されていた2015年3月期決算の発表再延期の直接の原因は、「複数の国内・海外子会社の会計処理の調査が必要となった」(室町会長兼社長)ためだ。
東芝は詳細を明らかにしていないが、室町氏は31日の記者会見で「米国子会社での水力(発電所)案件のコスト見直し」などと説明した。関連工事の原価総額を低く見積もって、損失の先送りや売り上げの過大計上を行っていた疑いがある。
こうした問題のある会計処理は、第三者委がすでに調査報告で指摘していた内容だ。室町氏によると、第三者委の調査報告書の発表以降、内部通報が増加し、新たな問題の発覚につながったという。
しかし、第三者委の2カ月間にわたる調査などでは、不正会計の「うみ」を出し切れなかったとも言え、同社の問題の根深さが改めて浮き彫りになった形だ。
また、市場では、東芝が06年に買収した米原子力大手ウェスチングハウスが十分な収益を上げていないとして、会計上の価値を見直し、多額の損失を計上するのではとの懸念があった。しかし、室町氏はその可能性を否定した。
東芝は当初、31日に経営監視体制の強化や事業の立て直しなどに注力する姿勢をアピールしたかっただけに、発表延期の釈明会見を余儀なくされた今回の事態は、同社の見通しの甘さを露呈した。信頼回復の道のりはますます遠のいたと言える。
また、これまでも同社の会見や資料の発表は、深夜に突然行われたり、予定時間より大幅に遅れたりするケースがあった。今回も、発表再延期を明らかにしたのは31日午後5時20分過ぎだった。
室町氏は会見で「前日の夜まで、何とか31日に(発表)できないかと(監査法人に)相談していたが、今朝の状況でやはり難しいと判断した」と説明した。
今回のドタバタ劇の背景には、決算発表を急いで信頼回復につなげたい東芝側と、正確性を最重視する監査法人との思惑の違いもありそうだ。
東芝の監査を担当してきた新日本監査法人は一連の不正会計の発覚で、監査内容に対する批判が出ていることもあり、より厳格に対処しているとみられる。【小倉祥徳、片平知宏】
◇金融当局、責任追及へ
有価証券報告書の提出期限の再延長や、新たな不正会計とみられる問題の発覚で、市場の東芝に対する見方が厳しさを増すのは確実だ。
金融当局や東京証券取引所も事態を重く見ており、東芝の会計監査を担当する新日本監査法人を含め、関係者の責任を厳しく追及する方針だ。
東京証券取引所によると、有価証券報告書の提出期限の再延長は、新興株市場であるジャスダック上場の企業が13年7月に1カ月あまり再延長した1件を除いて近年では例がない。
東芝が上場している東証1部では、異例中の異例だ。ある市場関係者は「有価証券報告書を提出後に再修正する事態を避けたかったのかもしれないが、あまりにもお粗末」と、東芝の対応にあきれていた。
東芝の株価は3月下旬につけた今年の最高値(535円)から、一連の騒動の発端となった決算内容を調査すると発表した4月以降、300円台と3割近く下落した。発表ごとに傷が広がることへの失望が広がっている。
今回の再延長は自ら市場に約束した延長期限さえ守れなかった形で、金融当局幹部は「明らかに投資家の信頼を裏切る行為」と責任の重さを指摘する。
東証は近く、東芝を社内管理体制に問題があるとして投資家に注意を促す「特設注意市場銘柄」に指定する方針だ。また、証券取引等監視委員会は、金融商品取引法に基づく課徴金を科すよう金融庁に勧告する見通し。
金融庁内には「監査の品質自体を厳しく問う必要がある」(幹部)との声が高まっており、東芝の監査を担当する新日本監査法人の責任も厳しく調べる構えだ。【和田憲二】
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◇東芝の不正会計問題を巡る主な動き
2月12日 証券取引等監視委員会から報告命令、開示検査を受ける
4月 3日 会長をトップに特別調査委員会を設置
5月 8日 2015年3月期決算発表の延期と第三者委員会の設置を表明
15日 初めて社長が記者会見し、陳謝
6月25日 定時株主総会で社長が経緯を説明し、陳謝
7月20日 第三者委が調査報告書を提出。組織的関与を認定
21日 歴代3社長らの引責辞任を発表
8月18日 室町会長兼社長が社長専任となり、社外取締役を増員する新たな経営体制などを発表
31日 15年3月期決算の発表を再延期
9月 7日 15年3月期決算を発表? 延期していた有価証券報告書の新たな提出期限
9月下旬? 臨時株主総会開催。新経営体制を提案