守田です。(20170202 14:30)

東芝の崩壊過程の考察の3回目です。
前回は東芝が2006年に無理をして購入した米ウェスチング・ハウス社の原発建設が次々と訴訟を引き起こして泥沼に入っていったことを書きました。
今回は東芝本体自身がやはりアメリカで進めていた原発建設もまた暗礁に乗り上げてしまった点について解析していきます。

問題はサウス・テキサス・プロジェクト(STP)と呼ばれるもので、テキサス州ヒューストン近郊に2基の原発の増設を狙ったものでした。
発注元は米電力大手NRGエナジー(ニュージャージー州)。もともと2基の原発を所有していますが、3号機、4号機を作ろうという計画でした。
受注は2008年3月。炉のタイプは東芝が長年手がけてきた沸騰水型原子炉(BWR)の改良型(ABWR)で出力は1349メガワット、建設費1000億ドル(当時の為替レートによれば約8000億円)で、2015~16年の運転開始が目指されていました。

WH社の原発建設計画が、東芝にとっては、アメリカの原子炉メーカーを子会社化したものであったことに対し、STPは東芝純正の原発をアメリカに建てる計画でしたから、日本で初めての原発輸出事業でした。
東芝は発注元のNRGエナジーとともに事業会社であるニュークリア・イノベーション・ノース・アメリカ(NINA)を起ち上げてこの事業を進めました。
最大手の出資者はNRGエナジーで22億ドル(持ち株比率88%)、東芝が3億ドル(12%)でしたが、さらに約10%に相当する2億5千ドルを東京電力が追加出資することになっていました。東電もまた次世代戦略として海外進出を目指していたのでした。

ところが2011年3月11日に福島第一原発が大事故を起こし、東電は自社の破綻の可能性にも直面して、出資どころではなくなってしまい、早々に撤退しました。
するとこれをみてNRGエナジーが、事故から一月余りの4月19日にやはりいち早くこの計画からの全面撤退を表明してしまったのでした。
「株主に対してこれ以上の投資を正当化できなくなった」というのが利用でしたが、これから建設しようとする原発が、事故を起こした東芝の原発の後継機種であっため、信用が得られなくなったこと、あるいはNRGエナジー自身が東芝を信用できなくなったことが最大の理由でしょう。

このときすでに資金を投じていたNRGエナジーは発注済みだったSTP3,4号機に関する減損を行い、4億8100万ドル(約400億円)の特別損失を計上したのですが、早期に撤退することで損害をできるだけ小さなものにとどめたとも言えました。
ところが88%の投資者を失い、東電の参加も絶望的な状態になったにも関わらず、東芝はこの計画を捨てきれず、その後もパートナーを探し続けることで、あたら損失を拡大し続けてしまいました。
この段階で処理すれば120億円の損失で済んだと言われているのですが、採算の取れない会社を存続させ続けたため、損失は雪だるま的に増えていきました。

この時期、東芝にとって何よりも問われたのは福島第一原発事故の反省でした。道義的反省と謝罪、被災者の救済、そして事故原因の徹底究明が必要でした。
NRGエナジーが逃げだしたのも、東芝への信用がおけなくなったからであって、同社は巨大事故を起こした当事者としての誤りを真摯に捉え返し、襟を正して責任をとることで、社会的信用を取り戻すことこそ問われていたのです。
これはビジネスの観点からも重要なことでした。商取引の基礎にあるのは信用であり、商品の社会的有用性とともにその会社に誠実さがあってこそ真っ当な商売が進展するからです。これは多くのビジネス書にも記されている基礎的事柄です。

しかし東芝は福島第一原発事故に開き直り、倫理的反省どころか技術的反省すらもないままにそれまでの原発建設路線をただひたすら走り続けました。
そのためにも東芝は、粉飾決算を続けて原発事業のつまづきによる赤字の発生を隠していたものの、さすがにSTPからの大口出資者の撤退に不信を強めた同社の監査法人からせっつかれ、損失を公表せざるを得なくなりました。
東芝はSTPをめぐって2014年3月期に310億円、2015年3月期に410億円の減損をしぶしぶ計上しました。損失は当初の120億円の6倍にも膨らんでいました。

しかも重要なことは東芝は未だにこのプロジェクトに終止符を打たずに損失を膨らませながら存続させていることです。現在もです。このため損失がさらに膨らんでいるに違いありません。
STPをめぐって東芝は2016年2月にやっと念願のCOL=建設・運転一括許可を得ることに漕ぎ着けたのですが、しかし共同出資者が相変わらず見つからない。
それどころか同年5月に、これまでともに原発の建設に参画してきたSB&I社(WH社が買収したストーンアンドウェブスターS&W社のもともとの親会社)が原発部門に見切りを付けて撤退してしまい、許可を得たものの、プロジェクトが凍結してしまいました。

これに対して東芝はこのような声明を出しました。
「NINA社は本年2月にSTP 3、4号機の建設につき、米国原子力規制委員会から建設運転一括許可の承認を受けましたが、建設予定地であるテキサス州では現在電力価格が低迷していることから、今後電力市況を見極めながらパートナー企業を募集し、適切な時期に建設開始の判断をすべく、関係者と協議をしています。」
なんとここにいたってもまだパートナー探しを続けるというのです。出資者だけでなく建設会社も逃げてしまったにも関わらず。同プロジェクトによる損失はさらに拡大を続けるでしょう。

東芝が陥っている苦境はこれだけではありません。STPの展望がついえたことを認めず、NRGエナジーに代わる出資者を探すことで、実は今はまだ経理上は完全に表面化していないもう一つの大変な事態を抱えてしまっています。
何かと言えばLNG(液化天然ガス)プロジェクトへの関与です。これまであまり触れてきたせんでしたが、アメリカで原発建設が次々と暗礁に乗り上げた背景の一つに、新たにシェールガスが発見され、安価なガスの提供が可能になったことがありました。
東芝は、この点でも原発の展望を考え直さずに、LNGプロジェクトにも首を突っ込んでSTPプロジェクトを可能なものにしようと画策して、かえって経営的危機を広げてきているのです。

東芝が手を出したのはSTPから数十キロの都市で営業しているFreeportLNG社でした。天然ガスの液化には大量の電力が必要なことに目を付けた東芝は、この会社にSTPで作りだす電力を買ってもらおうと2013年11月にLNG加工契約を結んだのでした。
契約内容は2019年からの20年間に220万トンのLNGを74億ドルで購入するというものでした。東芝が日本国内でガスタービンを売る際にLNGを抱き合わせで販売することも考えてのことでした。

ところがこの頃から顕著になった原油価格の大幅な下落を背景に、契約締結後にLNG価格も大きく下落してしまいました。
LNGはBUTという英国熱量単位で測られています。4BUTで約1キロカロリーですが、東芝が契約した時は100万BTU17ドルでした。ところが2016年5月段階では同価格が7ドルまで下がってしまい、なんと半値以下となってしまいました。
日経ビジネスはこの点について、2016月8月29日付の記事で、今後20年間で東芝に1兆円の赤字が発生するとの計算を明らかにしています。その後、LNG価格の多少の揺り戻しがあって2016年末で100万BUT8.5ドルとなっていますが、いずれにせよこの面での大幅な赤字も必至です。

この他にも東芝が赤字を広げてしまったものがあります。2010年に行った米国のウラン濃縮会社ユーゼックへの約90億円の出資です。同社の株式の65%を占める額でした。
東芝はウラン濃縮にまで手を伸ばして原子力事業の最大手に上り詰めようとしたわけですが、そのユーゼックがなんと2014年3月に市況悪化によって倒産してしまったのです。
最大の理由は日本のほとんどの原発が止まってしまったため、ウラン燃料が売れなくなってしまったことでした。私たち日本民衆の頑張りが同社を倒産に追い込んだのだとも言えます。
ユーゼックの負債総額は約1000億円。東芝はこの65%を負担しなければならないので、ここでも650億円の損失を出してしまっています。

このように見てくると東芝が原子力事業からの撤退の時期を大きく誤まり、その後に損失を重ねてきたことは明白です。
もはや原子力事業の展望が途絶えつつあり、共同出資していたアメリカの会社が次々と逃げ出したのに、あくまで事業に固執し傷口を広げ続けてきたのです。
その意味で東芝は、福島第一原発事故を反省的に捉え返さないがゆえにこそ、墓穴を掘り続けてきたのでした。倫理的反省を欠いたまま、インモラルであこぎな商売を続けたがゆえに、どうともならない隘路に辿りついてしまったのです。

続く