守田です。(20110419 02:40)

福島原発の現状と対策の今について、このところ、よく分からないことが続き、
現状をどう見るか、ずいぶん、思い悩んでいます。今宵は、この悩んでいる点を
そのままに論じてみたいと思います。

すでにご存じのように、4月17日に、東京電力により、事故収束にむけた
「工程表」というものが発表されました。
読売新聞がこれを報じていますが、記事が短いので、まずは再確認の意味で
これを読んでいただきたいと思います。

*********************
原発安定へ6~9か月2段階で冷却停止…工程表
2011年4月18日01時20分 読売新聞
 東京電力の勝俣恒久会長は17日、福島第一原子力発電所の事故収束に
向けた工程表を初めて発表した。
 原子炉の本格的な冷却システムを復旧させ、放射性物質の放出を大幅に
低減して安定した状態を取り戻すまでの期間を6~9か月と設定した。発表を
受けて海江田経済産業相は同日、周辺住民の避難生活の長期化は避けられ
ないとの見通しを示した。

 工程表では、放射線量を着実に減らす「ステップ1」と、放射線量をさらに
大幅に抑える「ステップ2」の2期に分けた。「1」は今から約3か月後、「2」は
6~9か月後の完了を目指す。当面は、発生した水素が激しく反応する
「水素爆発」を避けることと、放射性物質を高濃度に含んだ汚染水を敷地外に
出さないことに重点的に取り組む。
http://www.yomiuri.co.jp/feature/20110316-866921/news/20110417-OYT1T00546.htm?from=nwla

**************************

一読して思ったのは二つの点。一つは東電の非常に甘いよみでも、「放射線
量を着実に減らす」のに3カ月。「大幅に抑える」のに6カ月から9カ月もかかる
とされていることへの何とも言えない苦々しい思いです。実際、長くかかるのは
事実だと思いますが、ともあれ、まだまだ「高濃度」の放射能漏れは続いていく
わけです。本当に、ゆっくりと、長く、大量に放射能が漏れ続けていきます。
私たちはまだまだ緊張感を持って、これと相対していくしかありません。

しかし二つ目に思うのは、東電のこの工程表の達成可能性に、いかなる裏付け
があるのだろうかという点、ただの希望的観測を述べたにすぎないのではと
思われる点です。現状でもタービン建屋の水や外のピットの汚染水を排除
できないのに、なぜ3カ月で「着実に減らす」と言えるのか。何の根拠も示されて
いない。本当に東電はこの内容に確信を持っているのだろうか。場つなぎの
発言なのではないかと思えてきます。

ところが次の記事を読んで、どうしてこういうことになるのか、さらに深く考え
込んでしましました。東電の工程表を、安全委員会が早速、否定しているのです。
これも短いので、記事をお読みください。

**************************

東電工程表、実施に相当の困難と班目委員長
2011年4月18日20時19分 読売新聞 
 内閣府原子力安全委員会の班目春樹委員長は18日、東京電力が発表した
事故収束への工程表について「相当のバリアがある」と述べ、実施には困難が
伴うとの認識を示した。

 また「工程表の精査はできていないが、スケジュールありきで安全がおろそか
になることは避けてほしい」と語った。

 班目委員長は「一番難しいのは2号機対策」とし、理由としてタービン建屋地下
に高濃度の放射性物質を含む汚染水があることを挙げた。フランスから導入
予定の浄化処理技術についても「本当に(高濃度の汚染水に)使えるのか、
安全委員会側として承知していない」と効果に未知数の部分が多いことを挙げた。
http://www.yomiuri.co.jp/feature/20110316-866921/news/20110418-OYT1T00857.htm

**************************

率直に思うのは、東電は安全委員会とのすり合わせを行っていないのだろうか
という疑問です。とくにフランスからの浄化処理技術について、「安全委員会
側としては承知していない」と語られているのですが、ということは、この決定に
安全委員会が参画してないことが見えてきます。しかしそもそも安全委員会は
内閣府の組織、つまりは政府組織です。それが承知してない技術を、一民間
企業である東電が採択しているのでしょうか。

ここまで考えてきて、はたと気がついたのは、そもそもなぜこの工程表が
東電から出されたのかという点です。もはやこれは政府が出すべきものなの
ではないか。これほどの危機的な状況からの脱出が、いまだに一民間企業に
託されているのはどう考えても不合理です。

菅首相は、東電の会見に対して、これで少し前進だと述べたそうですが、どう
考えてもおかしい。首相がそんな客観的なことを言っていてどうするのでしょうか。
首相自身が、こうした工程表を国民と住民に提示すべきなのではないか。
ここには何が介在しているのでしょうか。

責任の所在が全く見えてこない・・・。

この背後には一体何があるのでしょう。何か深い思惑があるのでしょうか。
それとも単なる責任のなすりつけ合いなのでしょうか。良く分かりません。
どう考えても僕には理由が合理的に解けない。

そもそもこの工程表に対して、政府は責任を負っているのでしょうか。少なくとも
安全委員会が、自分たちは責任を持てないと言っているのは明らかです。
となると、東電に計画を言わせて、とりあえず、人々の不安をおさえて、その
実行の結果については政府は責任を取らないつもりなのだろうか・・・という
憶測も成り立ちます。しかし幾らなんでもそれほど低レベルな政治が行われて
いるとは信じたくない気持もある。そんなことは止めて欲しい。

こう考える時に思い起こされるのは、「ベント」の問題です。事故当初に炉内が
極めて危機的な状況になり、圧力容器から蒸気が格納容器に吹き出して、
格納容器の気圧が設計気圧の2倍にもなってしまった。
このとき「ベント」という、非常用の弁が開けられ、非常に高濃度の放射能が
排出されたわけですが、このベントのときに、実は政府と東電の間で、
「やれ」「やりたくない」というやりとりがあったのです。

この点は後藤政志さんが4月14日に詳しく説明して下さっていますが、もともと
ベントは放射能を閉じ込める格納容器にとって「自殺」と言えるようなものであり、
設計思想には入っていなかった。ところが原発事故の多発の中で、非常用
としてつけられた。

このとき、ヨーロッパでは、蒸気の排出には高濃度の放射能が含まれることが
確実なため、特殊なフィルターの設置が義務付けられた。ところが日本の場合、
それこそ極めて「あいまい」な対処がなされた。というのは、ベントについては
理論上、使うことがあり得るものではあるけれど、「現実」には使う可能性が
極めて低い。そのためこれについての電力会社への義務規定が設けられ
なかったというのです。

「論理上ありえることだけれど、ほとんどありえないから、考えなくて良い」
という発想に日本の原子力規制は立ってきたというわけです。

そのため今回のベントでも、するかしないかは、東電の自主性に任されていて
義務的な規定がなかった。それに対して、東電は責任を取るのを嫌がった。
一民間企業の判断で、強烈な毒ガスを排出することを嫌がったのです。

これに対して後藤さんは、民間ではそのような判断はできなかったのではと
指摘しています。東電も責任を免れないにせよ、政府が責任主体にならざるを
得ない。ところが政府は自ら責任を取らずに、東電に「自主的」放出を迫った。
命令ではないため、東電はこれを渋り、ベントが遅れてしまった・・・と
言われています。(詳しくは以下の内容を参照)
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/6f8c4f9a278060e6a88f25806214509f

実は未だにこうした矛盾が解決されていないのではないか。そのためもはや
国家の存亡がかかった工程表を、一民間企業である東電が出さねばならな
かったのではないか。

繰り返しますが、それほどに低レベルな政治が動いているとは思いたくないです。
ただ、考えても考えても、他の要因が見つかりません。見つからないけれども、
そうだという確信も持てないというか、持ちたくない気がします。

ともあれ言えることは次の点です。第一に、この工程表は、翌日に、内閣府
安全委員会からたちまち否定的な意見が出るようなあやふやなもの、しっかりと
した基礎に立っていないものであり、従って、実現可能性は極めて低いと
言わざるをえないということ。

第二に、これほどに重要な計画を、政府は民間企業に託しており、少なくとも
工程表の推進主体としては立ち現われてはいないこと。政府の責任性が
まったく見えず、今後の展望に期待が持てないこと。

第三に、いずれにせよ、事態に対して、オールジャパンで、打って一丸となって
取り組んでいる姿勢が見えず、内外の英知の総結集・・・には程遠いことが
感じられること、そこに事態の打開の可能性を封じてしまう人的危機が
介在しているように思えてならないことです。

工程表は、そのことを意味しているように僕には思えます。
東電、安全委員会、政府を構成する今の人々ではなく、後藤さんのような方たち
こそが対策チームに参画しなければ、事態は収束に向かえないのでは
ないでしょうか。