守田です。(20110417 08:30)

やはりというべきかどうか、首相官邸より「チェルノブイリ事故との比較」という
文章が、4月15日付で出されました。これは政府が、今後、「チェルノブイリ事故
での放射線被ばくの被害は大したことはなかった。だから放射能は怖くない」
というレトリックを国民に流し続けることを表明したものです。

しかもその内容も、考えられる中で最もひどいというか、事実を限りなく矮小化
したものです。

発表は、長瀧重信 長崎大学名誉教授(元(財)放射線影響研究所理事長、
国際被ばく医療協会名誉会長) と、佐々木康人(社)日本アイソトープ協会
常務理事(前 放射線医学総合研究所 理事長)の名で行われていますが、
この問題ある研究所のお二人が、こうした内容を語っていることよりも、
首相官邸が、これを公の声明として採用していることに、この国の危機の
深さが象徴されています。

広島・長崎の被ばくの経験を持つ私たちの国の首相官邸が、このような文章を
この時期にだしたことに、僕は深い悲しみを覚えます。同時に、あまりにも
でたらめなものなので、即時、撤回することを求めます。

事態の深刻さを知っていただくために、まずはこの声明の全文をお読み
いただきたいと思います。

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チェルノブイリ事故との比較
平成23年4月15日

チェルノブイリ事故の健康に対する影響は、20年目にWHO, IAEAなど8つの
国際機関と被害を受けた3共和国が合同で発表し、25年目の今年は
国連科学委員会がまとめを発表した。これらの国際機関の発表と福島原発
事故を比較する。

原発内で被ばくした方
*チェルノブイリでは、134名の急性放射線傷害が確認され、3週間以内に
28名が亡くなっている。その後現在までに19名が亡くなっているが、放射線
被ばくとの関係は認められない。
*福島では、原発作業者に急性放射線傷害はゼロ、あるいは、足の皮膚
障害が1名。

事故後、清掃作業に従事した方
*チェルノブイリでは、24万人の被ばく線量は平均100ミリシーベルトで、健康に
影響はなかった。
*福島では、この部分はまだ該当者なし。

周辺住民
*チェルノブイリでは、高線量汚染地の27万人は50ミリシーベルト以上、低線量
汚染地の500万人は10~20ミリシーベルトの被ばく線量と計算されているが、
健康には影響は認められない。例外は小児の甲状腺がんで、汚染された
牛乳を無制限に飲用した子供の中で6000人が手術を受け、現在までに15名が
亡くなっている。福島の牛乳に関しては、暫定基準300(乳児は100)ベクレル/キロ
グラムを守って、100ベクレル/キログラムを超える牛乳は流通していないので、
問題ない。

*福島の周辺住民の現在の被ばく線量は、20ミリシーベルト以下になって
いるので、放射線の影響は起こらない。
一般論としてIAEAは、「レベル7の放射能漏出があると、広範囲で確率的
影響(発がん)のリスクが高まり、確定的影響(身体的障害)も起こり得る」
としているが、各論を具体的に検証してみると、上記の通りで福島と
チェルノブイリの差異は明らかである。

長瀧重信 長崎大学名誉教授
(元(財)放射線影響研究所理事長、国際被ばく医療協会名誉会長)
佐々木康人(社)日本アイソトープ協会 常務理事
(前 放射線医学総合研究所 理事長)
http://www.kantei.go.jp/saigai/senmonka_g3.html
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どう読んでみても、ここからは、次のような点しか読み取れません。

1、事故当時の原発での被ばくで亡くなったのはわずかに28人。
2、事故後、清掃作業に従事した24万人の被ばく総量は平均100ミリ
シーベルトで、健康被害はなかった。
3、周辺住民には、子どもの甲状腺がんで6000人が手術を受け、
15人が亡くなった以外に被害はなかった。
4、福島はこれ以下の被ばくなので、まったく問題はない。

これは本当にひどい。何がひどいのかと言うと、さすがにここまでひどい
事故の過小評価は、世界のどこでも行われていないからです。

この声明の中にも、
「チェルノブイリ事故の健康に対する影響は、20年目にWHO, IAEAなど
8つの国際機関と被害を受けた3共和国が合同で発表し」と書かれて
いますが、その発表がなされたチェルノブイリ・フォーラムでは、以下のような
報告が出されています。

これまでに確認された死者:約60 人
放射線急性性障害 134 人のうちの死亡・・・・28 人
急性障害回復者 106 人のその後の死亡・・・・19 人
小児甲状腺ガン約 4000 人のうちの死亡・・・・9 人

ガン死者:3940 人
1986-87 年のリクビダートル20 万人から・・2200 人
事故直後 30km 圏避難民11.6 万人から・・・・140 人
高汚染地域居住者 27 万人から・・・・・・・1600 人

リクビダートルとは、1986年に動員された事故処理作業者のことですが、
それらの人々から2200人も含めて、今後、3940人が被ばくの影響で
ガンで亡くなる。そのためチェルノブイリ事故の犠牲者は4000人になるという
内容です。

まずはこれがあって、この数はあまりに事故を過小評価している、
非科学的でとても信用できるものではないという国際的批判が
まき起こったというのが、実際にあったことです。

この点については、京大原子炉実験所の今中哲二さんの文章からの
引用で、説明に変えたいと思います。

「フォーラムの死者の大部分をしめるガン死とは、モデルをあてはめて
計算された数字であって、そのモデルで用いる仮定によって結果が大きく
変わってくる。フォーラムとしては、昨年9月のウィーン会議で総死者4000 人
という数字を発表して20 周年に向けての先手を打ったつもりだったのだろうが、
ベラルーシやウクライナの専門家やNGO、さらにはベラルーシ政府からも
報告書のへの抗議を受け、ついには報告書修正版を出すに至っている
(内容はほとんど変えず表現を柔らかくしたものになった)。

また、フォーラムの身内というべきWHO やIARC(国際ガン研究機関)からも、
今年になってもっと大きなガン死数推定値が発表され、フォーラムの面目は
丸つぶれの状況にある。表2は、この間に発表された、いろいろなガン死数を
まとめたものである。フォーラムの4000 件が最低で、グリーンピースはその
20 倍以上の9万3000 件という値を出している。」

なお全文は以下のアドレスから見れます。
http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/tyt2004/imanaka-2.pdf「※ 本稿は、「原子力資料情報室通信」No.386、2006 年8 月に掲載された
原稿に加筆したものである」との補足があります。

つまり2006年に出された報告書は、チェルノブイリ事故でのガン死者を
今後の予想も含めて4000人としており、これがあまりにもひどい過小評価
だとして、ベラルーシ政府から抗議を受けたのをはじめ、WHOなどが、
修正を報告をだしたようなものだったのです。

ところが首相官邸が公表した声明は、この2006年に国際的な批判を呼び込んだ
チェルノブイリフォーラムでの事故評価をも完全に無視したものになっています。
本当に、唖然とするような内容です。

これが意味すること、本当に深刻なことは、日本政府に、国民と住民を、放射線
被ばくから守る意志がまったくないことが如実にあらわれているということです。

このままでは、放射線の害の著しい過小評価が続けられ、守るべき人が
守られず、多くの人々が無防備なままに放射線被ばくにさらされてしまうことなる。
本当にたくさんの人々が危機にされされています・・・。

とりあえずみなさんにこの危機的な事態をお伝えしたいと思います。
この内容については、後々、詳しく取り上げていきます。