守田です。(20110416 02:00投稿 11:20更新)
今宵はもうひとつ、放射線被ばくに関する記事を書きます。
事故当初より、政府の安全キャンペーンに与してきた読売新聞が、
「放射線ストレス」というタイトルの解説記事を載せています。
ここで記事が強調しているのは、放射能の影響よりも、それを気にしすぎた
ストレスの影響の方が大きいという点です。
記事の最後に、「チェルノブイリ原発事故では、身体的な影響以上に
精神的なストレスによるアルコール依存症や放射能の不安による人工妊娠
中絶などが社会問題になった」という解説がついています。
なんというか、さりげない記事であるとも言えるのですが、これは政府や
原発を推進する人々が今後、多様してくるロジックになると思われるので
注意が必要です。
なぜならこれは、IAEAが1991年に行ったチェルノブイリ調査以来の論調を
引き継ぐものだからです。この報告の第一に挙げられたのも、放射能による
成人への影響は見られず、むしろ精神的なストレスの影響の方が大き
かったという内容でした。
このときのIAEA調査団の団長は、日本の広島放射線影響研究所理事長の
重松逸造氏。水俣病とチッソの因果関係を否定したことでも有名な御仁です。
放射線影響研究所も、そもそもは、広島原爆投下後に、日本を占領した
アメリカ軍が作った、原爆傷害調査委員会(ABCC)の流れをくむもので、
原爆の効果を調べるために作られた軍事組織の末裔です。1975年に
日米合同組織としてスタートしました。
ABCCは、時に被ばく者をジープに載せて強制連行し、病院で裸にして
調査を行い、しかも一切、診察を行わなかったことでや、たくさんの
被ばく者の遺体の解剖を(放影研への改組後の)1978年まで行い続けた
ことで、被ばく者の怒りを買い続けたことで有名です。
ちなみに1981年から16年間も理事長の座にいた重松氏は、「ここの研究が
原発建設に大いに役立っている」「アメリカが治療しなかったのは地元医師会
の要請だった」と発言し、被ばく者の組織、被団協等から抗議を
受けたそうです。
ABCCの目的は、アメリカが原爆投下の人道的罪を告発されかねない国際的
情勢下において、原爆による放射能の影響をできるだけ小さく宣伝し、未来
世代への迫害をはじめ、人道的罪と呼べるものはないと証明することにあり
ました。そのことで核武装の正当化をすることに大きな焦点が置かれ、放射
能の影響が大変、低く見積もられたのです。
ここで使われたロジックがチェルノブイリのその後にも適用されていきました。
実はその点では、旧ソ連もアメリカ、イギリス、フランスも利害を共にして
いました。そのためにわざわざ広島から、重松氏を連れて来て、チェルノブイリ
被災者調査の団長に据えたのでした。そうして出てきた報告書が、「放射能の
害は成人には見られなかった。むしろ放射線ストレスの方が深刻だった」
というものでした。
記事はこのロジックを完全に踏襲したものですが、さらにここに具体的な
線量の問題をも書き込んでいます。
「これまでの周囲の累積放射線量は、発がんなど健康への
影響が出始めるとされる100ミリ・シーベルトより低く、国の原子力安全
委員会は「現段階の一般住民の被曝(ひばく)量で将来的に健康影響が出ること
はない」としている。
だが、放射線災害では、身体的な影響がなくても「放射線ストレス」に
よる心の影響が深刻な場合がある」
「根拠のある科学的情報を繰り返し伝え、わずかでも放射線を浴びた人
への差別もなくしていく。「問題ない」「大丈夫」と不安をただ否定することは
役に立たない。不安な人の話に耳を傾け、気持ちを受け止める」
要するに100ミリシーベルトまでは、健康に害はない。今はそれよりずっと
低いので将来的にも影響は出ることは無い。懸念されるのは過剰な心配だと
言うことです。
そのうえで「根拠のある科学的情報を繰り返し伝え」ることを強調している。
しかし実は自らは「根拠のある科学的情報」などにまったく立っていないのです。
少なくとも原子力安全委員会など、それを熟知しているはずです。これは
明らかに意図的に事実を捻じ曲げた言説です。
その証左の一つとして、記事の後に、きしくもこの記事と同じ日に原子力
学会が発表した「被曝による健康への影響と放射線防護基準の考え方」
という文章の一部を取り上げました。
この文章そのものは、現在は非常時なので、1ミリシーベルトという許容値を
20ミリから100ミリにあげることを検討することを提言しているものであり、
その内容には僕は反対です。
しかしここには明確に
「(国際放射線防護委員会の)2007 年勧告では、広島・長崎の原爆やチェルノ
ブイリの原子力発電所事故の追跡調査の結果などを含む、最新の科学的
知見に基づいて、線量限度を定めています。その結果、100mSv
(ミリシーベルト)以下の被曝では確定的影響(*1)は発生しないとしています。
一方、100mSv 未満の被曝であっても、がんまたは遺伝性影響の発生確率が、
等価線量の増加に比例して増加するであろうと仮定するのが科学的に
もっともらしいとしています。これを確率的影響(*2)と呼んでいます。」
と述べています。確定的影響、つまりこの量を浴びると、多くの人がある症状を
発生させるのが100ミリシーベルトからであり、これに対してそれ以下の場合は
確率的な影響、あるパーセンテージにおいて、ガンの発生率が生じること、
つまり確率的影響が出ると書かれているのです。
他の研究では、確定的影響は50ミリシーベルトから始まるとされており、僕は
とりあえずそれに従っているので、この原子力学会の定義は、原子力推進側に
ありがちな、緩い定義だと考えているのですが、しかしこの学会は、
確率的影響にはしきい値がなく、ごく小さな線量からも確率が生じることに
ついては、きちんと指摘しています。
その点で、読売新聞の記事、またそこに挿入された原子力安全委員会の
発言は、原子力学会や、さらに国際放射線防護委員会でも前提にしている
科学的見解を否定したものであり、かなり意図的に書かれたもの
であると考えられます。
こうした非科学的で、放射能の影響を政治的に過小評価したと思われる
断言が「根拠のある科学的情報」などとして流布されていることに、強い
危機感を覚えます。なぜならこれでは、人々が無防備なままに、放射能汚染に
さらされてしまう可能性が強まるばかりだからです。
チェルノブイリ事故の10分の1にも相当するもの凄い放射能が出ているのに
それを教えなかった政府、スピーディーが人々に逃げる経路を指示して
いたのに、それを握りつぶした政府、そしてその政府の広報と化して、
安全を宣言し続けたマスコミ、それがまた「放射能は安全キャンペーン」
を始めています。「放射能より放射線ストレスが怖いキャンペーン」と
言ってもいいかもしれません。
私たちが私たちの安全を守ろうとするとき、命を、子どもたちを守ろうと
するとき、好むと好まざるとに関わらず、このキャンペーンと向かいあって
いかねばならないと思います。
放射線を浴びる許容量の、安易な緩和や、非科学的な言説をを許さずに、
私たちと子どもたち、未来世代を守っていきましょう!
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[放射線ストレス]被曝量・差別への不安
2011年4月14日 読売新聞
東京電力福島第一原発事故で避難した人たちの間で、放射線災害に特有の
不安が高まっている。心のケアの専門家は「被災者の精神状態の安定を支援
する対策が急務」と指摘している。(高梨ゆき子)
避難生活で増幅、対策急務
福島市のあづま総合運動公園の避難所にいる南相馬市鹿島区の主婦、
伊佐井真希さん(38)は「放射線は目に見えないから余計に不安」と話す。
3月19日、10歳と2歳の子どもを連れ避難した。自宅は屋内退避とされた
区域(福島第一原発から20~30キロ・メートル圏)より1キロほど外側だが、
子どもは放射線の影響を受けやすいと聞いたためだ。夫は仕事で自宅に
残る。「南相馬の出身だからと差別され、子どもたちが将来、結婚できな
かったらどうしようとか、そこまで考えて落ち込んでしまう」と表情を曇らせる。
相馬市の避難所で暮らす南相馬市小高区の斎藤悦子さん(62)は、
同居の長女と2人の孫は東京に避難した。「地震で家はめちゃくちゃだけど
片づければいい。でも相手が放射能ではどうにもならない」と涙をこぼす。
浪江町の避難区域から福島市の避難所に来た大工の松本進さん(52)は、
原発で水素爆発のあった3月12日、おびえる長女(16)にせかされ、
作業着のまま逃げ出した。妻は高齢の母を気遣って町内に残り、長男(20)、
長女と3人で避難場所を探し転々とした。
松本さんは「こんな思いで暮らすのはもう限界。仕事も学校もどうなるのか、
この不安がいつまで続くのか、はっきりしてほしい」と、やりきれない思いを
はき出した。
福島第一原発事故は、事故の深刻度を表す国際的な尺度で、旧ソ連の
チェルノブイリ原発事故と同じ史上最悪の「レベル7」に暫定評価が引き上げ
られたものの、これまでの周囲の累積放射線量は、発がんなど健康への
影響が出始めるとされる100ミリ・シーベルトより低く、国の原子力安全
委員会は「現段階の一般住民の被曝(ひばく)量で将来的に健康影響が出ること
はない」としている。
だが、放射線災害では、身体的な影響がなくても「放射線ストレス」に
よる心の影響が深刻な場合がある。
災害心理学に詳しい武蔵野大教授の小西聖子(たかこ)さんは、「放射線は目に
見えない、個人の努力では防げない、深刻な影響があるというイメージが
強いなど、人が不安に感じて当然の要素が多い」と話す。
不安を完全に消すことはできないが、災害直後の心のケアで重要なのは
「安全・安心の確保」と「生活の安定」だ。日常生活が不安定だと、人は
さらに不安を感じやすい。なるべく早く当面の住居や仕事を提供し、生活の
見通しを具体的に示すことが大切だという。
根拠のある科学的情報を繰り返し伝え、わずかでも放射線を浴びた人
への差別もなくしていく。「問題ない」「大丈夫」と不安をただ否定することは
役に立たない。不安な人の話に耳を傾け、気持ちを受け止める。
小西さんによると、心理学の研究では、自然災害より人災の方が人々の
心へのダメージが大きい。しかも放射線災害では人は特に不安に陥りやすい。
福島の人たちの不安を少しでも早く取り除く対策が求められている。
放射線ストレス
放射線災害では、健康に影響が出ない程度の被曝(ひばく)でも、人は不安感を
抱きやすい。チェルノブイリ原発事故では、身体的な影響以上に精神的な
ストレスによるアルコール依存症や放射能の不安による人工妊娠中絶
などが社会問題になった。
http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=39517
被曝による健康への影響と放射線防護基準の考え方
社団法人 日本原子力学会 平成23年4月14日より抜粋
2007 年勧告では、広島・長崎の原爆やチェルノブイリの原子力発電所事故の
追跡調査の結果などを含む、最新の科学的知見に基づいて、線量限度を定めて
います。その結果、100mSv(ミリシーベルト)以下の被曝では確定的影響(*1)
は発生しないとしています。一方、100mSv 未満の被曝であっても、がんまたは
遺伝性影響の発生確率が、等価線量の増加に比例して増加するであろうと仮定
するのが科学的にもっともらしいとしています。これを確率的影響(*2)と
呼んでいます。
*1 確定的影響:ある程度の高い線量によって起こり、その影響が発生する
最小線量となるしきい値のある影響。
*2 確率的影響:しきい線量がないと仮定し、被曝線量が低くてもその線量に
応じたある確率で癌や遺伝的影響等が発生するかも知れない影響。低線量被ばくに
よる人体への影響に下限があるかどうかについては現在では諸説あり、検証が
進められている。
http://www.aesj.or.jp/information/fnpp201103/com_housyasenbougyo20110414R.pdf
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