明日に向けて(1601)宇沢先生はローマ法皇のアドバイザーも務められた!-社会的共通資本に学ぶ(2)

守田です(20181019 11:00)

社会的共通資本についての考察の続きです。

● ローマ法皇のアドバイザーとして

宇沢先生は本当にいろいろな方と出会い、交流された方でもあって、例えば前の前のローマ法皇のヨハネ・パウロ2世のアドバイザーをされていました。バチカンの歴史で初めての異教徒のアドバイザーだったそうです。
ヨハネ・パウロ2世は1978年10月から2005年4月まで法皇を務められました。どういう時代だったのかというと80年代後半に東欧の社会主義が瓦解していったときで、最終的に「ソ連」もなくなり、社会主義政権がほとんど無くなりました。
資本主義や市場経済の勝利と言われたのですが、法皇はそのことをそのまま受け入れていいのかとすごく悩まれて、宇沢先生をアドバイザーに指名されたのでした。
この方はまた法皇として初めて広島・長崎に来られた方でした。就任から3年後の1981年2月のことで長崎原爆の爆心地である浦上天主堂も訪れられ、戦争は人間が犯した愚かな過ちだと語られました。とても心が温かい方だったそうです。

● 第二のレールム・ノヴァルム(革命)にアドバイス

宇沢先生に連絡をしてこられたときは、ちょうどカトリック教会の公文書である回勅を書かれようとしていたところでした。回勅は全世界の司教に法皇の立場を示すものです。
100年前に当時の法皇レオ13世が「レールム・ノヴァルム」と名付けた回勅を出されました。ラテン語で「新しいもの」を意味し、ときに「革命」とも訳される回勅でしたが、これには「資本主義の害悪と社会主義の幻想」という副題がつけられていました。
レオ13世は資本主義が爛熟して貧富の格差が拡大していること、また恐慌などが繰り返されている現状に対し、カトリック教会がその是正のために社会正義を掲げた関わりを強めることを打ち出されたのでした。
レオ13世は同時にこの問題が、当時勃興し始めていた社会主義では解決できないことも語っていました。

それから100年を経てヨハネ・パウロ2世が第二の「レールム・ノヴァルム」を出そうと宇沢先生にアドバイスを求めて来られたのですが、先生は即座に「社会主義の害悪と資本主義の幻想」という副題を提案されました。
既存の社会主義は限界に来ており、社会主義政権のほとんどが民衆に対して抑圧的になっていてもはや「害悪」としか言えない。しかし市場経済によって全てを置き換えればうまくいくというのも全くの幻想だと宇沢先生は説かれました。
ヨハネ・パウロ2世はこの意見を取り入れて1991年5月に第二のレールム・ノヴァルムを出されました。その後、この年の暮れの12月にソ連邦が崩壊しましたが、レールム・ノヴァルムはそこにも影響をおよぼしたと言われています。
いやそのさきの「市場経済によって全てを置き換えればうまくいくというのは幻想だ」という指摘も社会主義の崩壊の後に来るものへの重要な提言になっています。

● 教皇の部屋で極上のワインを飲んで・・・

さてそんなアドバイスをされた宇沢先生ですが、実際にバチカンに招かれ、ヨハネ・パウロ2世のお部屋でごちそうになったことがあったそうです。宇沢先生はたいへんお酒が好きな方で量もたくさん飲まれました。
僕は直接見たことはないですが若い頃はビールを「何本という単位ではなくてケースで飲んでいた!」という逸話を耳にしたことがあります。

このときも先生曰く、極上のワインが次々に注がれ、どんどん飲んでしまってすっかり良い気持ちになってしまったそうです。それで先生、ヨハネ・パウロ2世にこう言われました。
「いま、人々の魂は荒廃し、心は苦悩に侵されている。この世界の危機的な状況のもとで、あなたは倫理を専門とする職業的専門家として、もっと積極的に発言しなければならない」。
これに対してヨハネ・パウロ2世はニコニコしながらこう言われたそうです。
「この部屋で、私に説教したのは、お前が最初だ」
(You are the first to preach me here!)

なおこれらは前回紹介した書、『人間の経済』『経済学と人間の心』のいずれも冒頭で紹介されています。先生にとっても心に深く残るエピソードだったのでしょう。

● 宇沢先生についてのさまざまなエピソードを交えながら社会的共通資本についてお話してきます!

宇沢先生はそんなエピソードがたくさんある方で、いろいろな方から好かれていて、たくさんのお仲間もいました。僕もそんないろいろな方とお会いする機会に恵まれ、さまざまな角度から社会的共通資本の考え方に触れることができました。
こうして得た経験は僕にとっての宝物です。そんなことも通して学んだ社会的共通資本について、さまざまなエピソードも交えてお話していきたいと思います。
初回はまずその前提として経済社会がどのように動いて来て、その中で経済学はどのようなことを主張し、どのような役割を果たして来たのかをお話していきたいと思います。

続く

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社会的共通資本勉強会第4回
第2回・3回で『自動車の社会的費用』について熟読しました。
今回はそれを踏まえて『自動車の社会的費用』で展開されたことのまとめを行い、社会的共通資本のアイデアをどんな風に生かすのか、みんなで討論します。
10月24日(水) 午後7時から9時
市民環境研究所にて(京都市叡山電車元田中駅から5分)
https://www.facebook.com/events/589590494805103/

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