明日に向けて(1533)書評『野の仏が起つとき』-小浜の思いを分かちあうために

守田です(20180604 23:00)

今宵は一冊の本をご紹介したいと思います。昨年末に上梓された『野の仏が起つとき』です。A5版256頁 製作支援費1200円。
ぜひ読んで欲しいので書評を『人権と部落問題』2018年6月号で書かせていただきました。許可をいただいたのでここにも転載します。

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『野の仏が起つとき』という本が昨年5月末に上梓された。「やのほとけがたつとき」と読む。著者は中嶌哲演・武藤類子・井戸謙一・安斎育郎・柴野徹夫の各氏と「福井・福島・沖縄 民主主義の旗手たち」。60人近い人々によって編まれた書だ。
軸をなすのは福井県小浜市を中心になされてきた長い抵抗史である。そこに原発労働と福島原発事故による被曝への、そしてまた沖縄の基地への嘆きと怒りが流れ込んでいる。
中心になって編集・執筆を担ったのは元福井新聞記者の永田康弘さん。その永田さんが記した冒頭の文は「小浜市民の会 これこそ草の根 ~小浜原発を三度つぶし、中間貯蔵施設を二度阻止~」と題されている。
そう。小浜の人々はなんども原発計画をとん挫させ、中間貯蔵施設建設も許さなかったのだ。その市民の会が発行してきた『はとぽっぽ通信』への無数の寄稿が本書の素材ともなっている。

さて評者にとってこの書はなかなかに手ごわい。たくさんの人々が魂の声をあげ、一つ一つが鮮烈かつ温かみに溢れていてなかなかに抽出を許してくれないからだ。どれもが紹介したいものばかり。だからぜひ本書を手に取って欲しいと最初にお伝えしたい。
本書は小浜における魂の活動の記録としての位置も持っている。
その中であえて二人の方を紹介したい。第八章に「敦賀の二人の菩薩」と紹介された故太田和子さんと故杉原厚子さんだ。ともに敦賀市に住まわれ90代前後で亡くなられたが、後に続く人々が菩薩と呼ぶのだそうだ。

太田和子さんは敦賀原発3、4号機増設が取りざたされだした2003年7月から2011年11月まで、敦賀市の繁華街にある日本原子力発電事務所前で、「埋め立てないで、阿弥陀見の浜」「原発必要ならば、まず東京へ」と掲げて立ち続けた。
土日をのぞき毎日午前10時から1時間もである。
いま全国の電力会社前などで毎週金曜日に脱原発を掲げた人の輪ができており、その多くが300週になんなんとしている。日本民衆史に残る抵抗だが、太田さんの行動こそ、その原型の一つだろう。
しかも太田さんは原発立地地域の人々への誤解もはらそうとしていた。「幾百年の間、命がけで獲った魚を売る権利もなく、運ぶ権利もなく、町の商人に、ただ同然で取り上げられてきた非情の歴史」があったことを人々に伝え続けたという。

もう一人の菩薩は杉原厚子さん。元養護教諭で退職後も障がい者の面倒を自宅で見ていた。その杉原さん宅に原発で働かされた教え子たちがやってくる。知的障がいのある人々が鉛色の顔をし、生活に困ってお金を貸してくれと言ってくる。
原発での労働時間は1日3分という人も。高線量被曝とともに、3分でお金を得る生活のせいで普通に働けなくなってしまうのだろう。一部を手記から引用しよう。
「『先生金を貸してくれ』って。『何でっ』と言ったら、『ぼくな、もういっぱいな』ちゅうんです。放射能がいっぱいらしいんですね。『もう20年も勤めとって・・・もう誰も使こうてくれんもん』・・・気の毒でしょうがないんです」。
人々は「ぼく、ここえれぇんじゃ」とお腹を押さえたり、甲状腺に病を抱えたりしていたという。それでも「ようけもらえるやないけ。ううん、ビール飲めるやろ。その方がいいもん」と働いていた教え子は、ガンで亡くなり、悲観した母親が自殺してしまった。杉原さんは慨嘆する。「原電って言うのは、人間をだめにするんだなあ」・・・。
この二人を取り上げたのは、本書に集う人々がこの思いを共有していると感じたからだ。人々はこの嘆きと怒りを胸に、原発と対峙し続けてきたのだ。

もう一人、紹介しておきたいのは小浜市民の会結成時からこの輪の中心で奮闘してきた明通寺住職・中嶌哲演さんである。第一章「あとから来るものへ」で『はとぽっぽ通信』毎号の巻頭に寄せられた中嶌さんの緒言がピックアップされている。
その中で中嶌さんはある集会でこう発言を締めたと書いている。
「『第二第三のフクシマ』の続発が危惧される今日、まだ辛うじて残されているふるさとの美しい海や山を守り、『あとからくる可愛い者たち』のために広く、強く、深くつながりあい、幾百千万人と共に前進しましょう」・・・。

「野に仏が起つ」とは仏教の言葉だそうだ。哲演さんは「野仏たちとは、百姓、民衆、庶民のことでしょう」と述べている。そう。いまや野に仏が大挙して起ち「核の炎」を止めつつある。その流れの源の一つである小浜の思いをみんなで分かちあいたい。

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