2013.03.22

明日に向けて(646)ネズミが犠牲になって教えてくれたこと(福島原発冷却システムのダウンに即して)

守田です。(20130322 10:00)

3月18日に福島第一原発で停電が発生し、1号機、3号機、4号機、共用プールの冷却システムが一斉にダウンしてしまいました。まったく幸いにも20日未明までにシステムが復旧し、とりあえずの危機は去りましたが、今回の事故は大きな教訓を私たちに与えました。この点に関しての分析を行いたいと思います。

まず事故の要因ですが、東電による解析がまだ継続中であるものの、今のところ、直接的な原因ではないかと考えられているのは、ねずみよる配電盤のショートです。東京新聞より当該部分を引用します。

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東京電力福島第一原発の使用済み核燃料プールの冷却などが同時多発の停電でストップした事故で二十日、問題の仮設配電盤の内部の壁に、焦げた跡が見つかった。その近くには、感電死したネズミらしき小動物もいた。東電は、小動物が配電盤に入り込んで端子に触れ、異常な電流が流れて事故につながった可能性があるとみて、さらに詳しく調べている。
冷却装置など九つの装置が、二十日午前零時すぎまでにすべて運転再開した。約二十九時間も複数の重要装置が停止し続け、福島事故の発生後、最悪のトラブルとなった。

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ポイントは、ただ一匹のネズミによる一箇所のショートが起こっただけで九つの装置がダウンしてしまい、もっとも重要な冷却システムが一斉に止まってしまったことにあります。地震が起こったわけでもない。他の自然災害があったわけでもない。起因はネズミ一匹なのです。
この事態を前に、僕自身、「認識が甘かった」と思わざるをえませんでした。というのは僕は、起こりうる危機は、地震が引き金になるのではないかと考えてきたからです。大地震ではなくても、脆弱になっている建物の構造を考えれば、危機が訪れうるのではないかと思ってきたし、その認識自身は今も変わりません。しかしまさかねずみ一匹による配線のショートでこんな危機が訪れるとは思っていませんでした。
おそらく福島原発事故に厳しい目を向け、原発サイトの状態の悪化を懸念している多くの人々もそうなのではないでしょうか。その認識は甘かったのです。臍を噛むような思いです。

どうして福島原発はこんなに脆弱な状態に陥っているのでしょうか。分析を進めると見えてくるのは次の点です。この点も東京新聞の報道から引用します。

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東電は重要な装置が仮設の配電盤につながっている危険性を認識していながら、後手に回った。停電の原因は仮設の配電盤で起きた異常が各設備に波及したと、東電の調査でほぼ判明。同時多発事故の恐ろしさは、東電自身が二年前に痛感したはずなのに、その教訓が十分に生かされなかった。 

この配電盤は、二〇一一年三月の事故直後の同十八日ごろに設置され、そのままトラックの荷台に置かれた状態で、ずっと使われてきた。簡易的な仕様で、文字通り仮設だった。
そんな配電盤であるにもかかわらず、つながれた装置は、3、4号機と共用プールの冷却装置など重要なものが多かった。早く専用の配電盤に交換していたら、停電事故は防げた可能性が高い。

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ようするに、冷却システムという、私たちの国の生死に直結する最重要システムが、仮設の配電盤につながれたままになっていたこと、その状態が2年間も放置されていたことが、今回の事故の要因だったということです。その意味で、この事故を起こしたのは東電の怠慢であり、感電死したねずみは、自らの命と引き換えに、この構造的危機を私たちに教えてくれたということができます。死亡したねずみに感謝です。

大事なのはこの先です。この問題を論ずるネットなどの論調を見ていると、東電のあまりの杜撰なあり方に対する批判を多く目にします。確かにそれはそうで、「まだそんなことをやっているのか」とうんざりもしますが、しかしこの点にだけとどまっていしまうのはあまりに問題の見方が弱く、浅い。東電だけの問題にしていてはいけないのです。
問題の根本にあるのは、福島第一原発が、今なお、大変危険な状態にあることが隠し続けられていること、従ってまた、国民・住民の多くが、これを自らの危機として主体的に捉えるに至ってないこと、自分の問題として主体的に把握していないことにこそあります。東電を批判するだけで、自らが何をすべきかを問うていない、そのことにこそ危機があります。

実際、この事故の後に、ある電気関係の技術者の方とお会いした時にも、「僕らにとって今回の事故は信じられない事態です。なんで二系統の電源をつないでないのだろう。なんで一箇所の不具合でシステム全体がダウンしてしまうような愚かなことを続けているのだろう。まだそんなことをやっているのかとびっくりしました」ということが聞かれたのですが、僕は「その声を大きく出してください。危機をもっと具体的に指摘してください」とお願いしました。
僕は東電を擁護する気などまったくありませんが、東電と言うよりも、現場の方たちは、おそらく本当にいっぱいいっぱいなのです。大変な高線量にさらされ、次から次へとさまざまな不具合が発生し、対処に追われてばかりで、とてもシステム全体を見直す余裕がないのでしょう。だから同じような、技術者の常識に反するようなことが他にもたくさんあるはずです。
当たり前の話ですが、東電にだって技術者はいるだろうし、一定の技術的常識を持ってもいるでしょう。しかしそれが発揮されないほどに、現場の危機は深刻なのです。しかしそのことにまったく光が当たっていない。何度も繰り返しますが、そこにこそ私たちの危機の真相があるのです。

僕がもっとも懸念するのは、おそらく現場で大変な被曝が起こっていることです。被曝では細胞分裂の活発な箇所こそダメージを受ける。どこの箇所の被曝がより深刻だとは一概に言えませんが、例えば記憶をつかさどる脳の海馬も、新しい知識を書き込むために細胞分裂が激しく行われていて、その分、ダメージを受けやすい。こうした事態が現場の技術者を襲っているのではないでしょうか。
脳へのダメージではなく、臓器へのダメージによる体調の悪化によっても、私たちの思考力は低下します。腹痛や歯痛などで、思考が働かないことなど、日常でもよく経験することですが、高線量下での、被曝の蓄積の中での労働は、私たちの通常の感覚では捉えられないものがあるのではないでしょうか。

ところが日本政府も、東電も、事故をできるだけ小さくみせたいがために、福島原発の今が、ねずみ一匹でも危機に陥ってしまう状態にあることをひた隠しにしてしまっている。だからこそ現場の苦労が外には見えない。現場の人々は、危機が表に出るたびに「またか!」とバッシングされるばかりで、それが現場への助けにつながっていきません。
さらに政府も東電も、被曝の影響をひた隠しにしています。そのため大変な高線量の下で働かざるを得ず、心身に深刻な不具合が発生し、極度のストレスにさらされている現実までもが隠されてしまっている。そのような労働環境で、「常識的な判断ができない」ことは、ある意味で、当たり前に起こりうるのではないでしょうか。

なかなか難しいことですが、東京電力という悪辣な会社、その幹部たちと、現場で働く人々を、私たちはもっと分けて考えて、現場にとって何が必要なのかから発想していかねばならないと強く思うのです。そうしないとあの東電のことですから、社会から会社がバッシングされるや、全てを現場の誰彼のせいにするだけではないでしょうか。今回も幹部ではない技術者が、責められてはいないでしょうか。
ではどうすればいいのか。現場労働の実態にもっと社会的な監視を強め、働く人々に、現場の実態をよりよく教えてもらうこと、現場からの発話が可能になるような工夫をさまざまな面から凝らし、大変な被曝労働下で、完全に崩壊したプラントの保持のために働いている現実をリアルに私たちがつかんで世界に発信していくことです。このことが何よりも必要だと思います。
そのためぜひ訴えたいのですが、東電や現場に関わりのあるみなさんに情報提供をお願いしたいと思います。僕のブログにぜひ情報をください。労働組合のみなさんなどとも連携しながら、この作業を進めたいと思っています。そのことで現場の苦労の社会的共有化を図りたいと思うのです。

同時に、今回のことを教訓に、福島第一原発事故の深刻化、冷却システムの完全ダウンを想定した避難計画を、ぜひとも各地で立てて欲しいと思います。これ抜きに、東電の杜撰さや、「常識のなさ」をなじっているばかりではダメだと僕は思います。こんなに大きな危機が目の前にあるのです。それに対して避難の準備をしないのならば、そのこともまた「杜撰」であり、「常識のなさ」を象徴するようなものです。
東京電力はこの国の悪さのすべてを象徴するような会社ですが、しかし私たち自身は、どこまでそれから自由なのでしょうか。私たちは東電や政府に比べて、どれだけましな危機管理意識を持っているのでしょうか。ここに至ってもなお、危機管理の多くを国家や官僚、そしてあの東電の手に委ねてはいないでしょうか。
自分たちで自分たちの命を守るために立ち上がらなくてはなりません。危機への準備を進めなくてはなりません。そのために原子力災害対策・避難計画を、あらゆるレベルで構築していきましょう。そのことこそが、ねずみが教えてくれた今回の教訓から真に学び、実践すべきことだと僕には思えるのです。

以下、東京新聞の記事をご紹介しておきます。

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福島第一停電 仮設配電盤 交換せず
東京新聞 2013年3月20日
http://www.tokyo-np.co.jp/article/feature/nucerror/list/CK2013032002100003.html

東京電力福島第一原発の使用済み核燃料プールなどで同時多発した停電事故で、東電は重要な装置が仮設の配電盤につながっている危険性を認識していながら、後手に回った。停電の原因は仮設の配電盤で起きた異常が各設備に波及したと、東電の調査でほぼ判明。同時多発事故の恐ろしさは、東電自身が二年前に痛感したはずなのに、その教訓が十分に生かされなかった。 (桐山純平)
東電は、問題がありそうな部分を一つ一つ点検していき、最後に可能性が残ったのが3、4号機の仮設配電盤だった。この配電盤は、二〇一一年三月の事故直後の同十八日ごろに設置され、そのままトラックの荷台に置かれた状態で、ずっと使われてきた。簡易的な仕様で、文字通り仮設だった。
そんな配電盤であるにもかかわらず、つながれた装置は、3、4号機と共用プールの冷却装置など重要なものが多かった。早く専用の配電盤に交換していたら、停電事故は防げた可能性が高い。
配電盤を製造する企業で構成する日本配電制御システム工業会によると、仮設の配電盤は取り付けるのは簡単だが、ほぼ電気を流すだけの機能しか備わっていない。

これに対して、どんな機器と接続するかを十分考慮して取り付けられた専用の配電盤であれば、「他の機器に不具合を波及させないよう制御も働くので、今回のような事故は起きにくい」(担当者)という。
「3、4号機は今月中に、共用プールはもう少し後に、専用の配電盤につなぎ替える準備を進めていた。結果論として、もっと早く対応しておけばということになったが…」。東電の尾野昌之原子力・立地本部長代理は十九日の会見で後悔の念を述べた。
事故当初は電源復旧を最優先するために仮で対応することは仕方なかったとしても、早期に配電盤を専用のものにしなかった東電の危機管理の甘さがまた露呈した。

◆原因不明のまま仮復旧
停電事故で止まっていた使用済み核燃料プールの冷却装置など全九装置が、二十日午前零時すぎまでに運転を再開した。停電の影響を受けた全装置の運転再開は約二十九時間ぶり。ただ、停電の原因になったとみられる3、4号機の仮設配電盤の不具合の原因は分からず、装置の電源を別の配電盤につないだだけの仮復旧となった。
東電によると止まっていた1、3、4号機の使用済み核燃料プールが十九日午後に、共用プールが二十日午前零時すぎに、それぞれ運転を再開した。今のところ、仮設配電盤の内部に目立った損傷はなく、電気関係を詳しく調べて原因を探る。
東電は、早く運転再開させることを最優先し、つなぎ直した電源ケーブルは必ずしも整然となっていない状況だという。近く配電盤を、仮設のものから専用のものに交換するのに合わせ、ケーブルも引き直すという。

福島第一原発 停電、ネズミ原因か
東京新聞 2013年3月21日
http://www.tokyo-np.co.jp/article/feature/nucerror/list/CK2013032102100003.html

東京電力福島第一原発の使用済み核燃料プールの冷却などが同時多発の停電でストップした事故で二十日、問題の仮設配電盤の内部の壁に、焦げた跡が見つかった。その近くには、感電死したネズミらしき小動物もいた。東電は、小動物が配電盤に入り込んで端子に触れ、異常な電流が流れて事故につながった可能性があるとみて、さらに詳しく調べている。
冷却装置など九つの装置が、二十日午前零時すぎまでにすべて運転再開した。約二十九時間も複数の重要装置が停止し続け、福島事故の発生後、最悪のトラブルとなった。

東電は復旧を受け、社員ら約二十五人で本格的な調査を始めた。
同日午後零時半ごろ、トラック荷台上の大きな金属箱に入った配電盤の扉を開け、内部に設置された端子などを確認したところ、箱中央付近の上部の内壁に焦げ跡があり、その下には、毛がちりちりに焦げた小動物の死骸が横たわっていた。
小動物が配電盤内に入り込み、端子に触れて感電、異常が起きた可能性が高まった。

仮設の配電盤は、二〇一一年三月の事故発生間もないころに設置された。応急的に用意した仮設だけに、箱の下部から3、4号機などに延びる電源ケーブルがじゃまをし、扉は密閉できない。薄いゴム状の幕をケーブルと扉の隙間に張り、雨風を防いではいるが、隙間は残る。ここから小動物が入り込んだとみられる。
一方、1号機のプール冷却装置は、3、4号機とは別の送電網、別の配電盤から電気を受ける仕組みで、本来なら影響を受けないはずだった。
しかし、仮設配電盤がつながっている送電網は、別の工事で使えない状態だったため、1号機側の送電網に一時的につながれていた。このことが事故の影響を広げた。
東電は今後、プールの冷却装置など重要な装置は独立した二つの送電網に接続し、片方でトラブルが起きても停電しないように備えるとしている。

◆「事故でなく事象」東電、重大事の認識欠く
東京電力は、福島第一原発で起きた停電事故のことを、発生当初から「事象」と呼び続けている。使用済み核燃料プールの冷却が二十九時間も止まるという重大事は、単なる出来事や自然現象なのだろうか。
二十日の記者会見で東電の尾野昌之原子力・立地本部長代理に問うと、「『事象』か『事故』かは神学論争的な話」とした上で、「原子力の世界では、外部に放射性物質が出て、影響を与えるようなら事故だが、そうでなければ事故とは呼ばない」と言い切った。
ただ、二年前、1、3号機の原子炉建屋で水素爆発が起き、土煙とともに放射性物質をまき散らした際にも、東電も政府も「爆発的事象」と言い続けていたのも事実。
「事象」は深刻な事態を小さく見せようとする原子力関係者特有の言葉と受け止められることが多い。にもかかわらず東電がこの言葉を安易に使い続けていては、信頼を回復する日は遠い。 (加賀大介)

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