2013.02.12

明日に向けて(622)あまりに狭すぎる災害対策重点地域・・・「原子力災害対策指針(原子力規制委員会)」批判(2)

守田です。(20130212 18:00)

昨日に続き、原子力規制委員会が提出した「原子力災害対策指針」への批判を行いたいと思います。なお本日(12日)午後12までパブリックコメント受付中です。FAX・メールでの提出が可能ですが、入力などが大変煩わしいようです。提出をする方は時間の余裕をみて、行ってください!
指針の批判の最初に触れたのは、この災害対策指針が、原発の「過酷事故」を想定したものになっていることでした。しかし過酷事故の可能性があるのなら、絶対に運転などしてはならない。なぜなら過酷事故とは、設計の想定を越えた事故のことであり、設計思想のうちに、対処が想定されてないものだからです。過酷事故の発生はプラントの破産を意味します。そんなものが織り込み済みのプラントなどあってはなりません。
第二に、一方で過酷事故を想定するとしていながら、現実に最も恐れのある福島原発4号機が深刻な危機に陥る可能性や、このことが明らかにした各原発の燃料プールの問題が、まったく考慮されていません。現実に必要なのは、稼働している原発を止めた上での4号機倒壊などの際の防災対策と、各原発の核燃料が冷却不能になった場合の対処などです。もちろん六カ所などさまざまな核施設の事故への対処も必要です。この点をおさえた上で細目の批判に入りたいと思います。

この指針の細目の中の最も大きな欠陥は、「第2原子力災害事前対策」の中の「(3)原子力災害対策重点区域」の設定にあります。これは「あらかじめ異常事態の発生を仮定し、施設の特性等を踏まえて、その影響の及ぶ可能性がある区域を定めた上で、重点的に原子力災害に特有な対策を講じておくこと」という定義に基づいて設定されたものですが、その範囲があまりに狭いのです。
具体的に言うと、まず「予防的防護措置を準備する区域(PAZ:Precautionary Action Zone)」という規定があります。「急速に進展する事故においても放射線被ばくによる確定的影響等を回避するため、先述のEALに基づき、即時避難を実施する等、放射性物質の環境への放出前の段階から予防的に防護措置を準備する区域のことを指す。
PAZの具体的な範囲については、IAEAの国際基準において、PAZの最大半径を原子力施設から3~5kmの間で設定すること(5kmを推奨)とされていること等を踏まえ、「原子力施設から概ね半径5km」を目安とする」とされています。

これに続くのが「緊急時防護措置を準備する区域(UPZ:Urgent Protective Planning Action Zone)という規定です。「確率的影響を最小限に抑えるため、先述のEAL、OILに基づき、緊急時防護措置を準備する区域である。
UPZの具体的な範囲については、IAEAの国際基準において、UPZの最大半径は原子力施設から5~30kmの間で設定されていること等を踏まえ、「原子力施設から概ね30km」を目安とする」とされています。

この設定の大きな誤りは、福島第一原発事故以前に設定されたICRPの規定にしたがっていることです。これは本指針の前文に「平成23年3月に東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故が起こり、従来の原子力防災について多くの問題点が明らかとなった。」
「また、国会、政府、民間の各事故調査委員会による各報告書の中においても多くの問題点が指摘され、住民等の視点を踏まえた対応の欠如、複合災害や過酷事象への対策を含む教育・訓練の不足、緊急時の情報提供体制の不備、避難計画や資機材等の事前準備の不足、各種対策の意思決定の不明確さ等に関する見直しについても多数の提言がされた」と明記され、福島原発事故の教訓に基づいて、防災対策を考えるとされている点に著しく反します。
実はこの考え方は「第1原子力災害」の「(4)放射線被ばくの防護措置の基本的考え方」の中で、「基本的考え方としては、国際放射線防護委員会(以下「ICRP」という。)等の勧告、特にPublication109、111や国際原子力機関(以下「IAEA」という。)のGS-R-2等の原則にのっとり、住民等の被ばく線量を最小限に抑えると同時に、被ばくを直接の要因としない健康等への影響も抑えることが必要である」という点に基づいたものです。
しかしICRPがPublication109と111を承認したのはいずれも2008年であり、IAEAがGS-R-2が出版したのは、福島原発事故の10年近くも前の2002年です。どちらも福島原発事故の経験をまったく踏まえてないのです。これらを下敷きとしているところに福島の教訓を実際には無視していることが現れています。

さてその上で、PAZとUPZの違いを見ると、前者が「確定的影響等を回避するため~即時避難を実施する等」の対応が必要な地域とされ、後者が「確率的影響を最小限に抑えるため~緊急時防護措置を準備する区域」とされていることです。
この「確定的影響」と「確率的影響」という規定についても、もともと現象面を恣意的分けたものでしかなく、科学的規定とは言えないものですが、それへの批判はここではおくとして、大きな分け方が急性症状を起こすことを想定した地域と、晩発性の影響を起こすことを想定した地域になっていることに特徴があります。また前者はただちに避難することが想定されていることも特徴です。
しかし原発サイトから飛び出した放射能が、5キロの線で急性症状を起こさないほどに十分、威力が小さくなると想定するのはあまりに非科学的です。

そもそも福島第一原発事故を教訓とし、「あらかじめ異常事態の発生を仮定する」ならば、実際に起こったことだけでなく、起こり得たことのすべてが対象にならなければなりません。実際に起こり得たのは、いずれかの原子炉で冷却に完全に失敗し、原発サイトを放棄せざるをえなくなる事態でした。実際に東京電力は、一度そのように判断し、全社員を現場から退避させようとしました。
実際には現場にかけつけた人々の類まれなる努力と、幸運の重なりにより、事態の最悪の破局化は今のところ回避されていますが、あのときに事態がもっと拡大する可能性は十分にあったのであって、それこそが「仮定」されうるし、されなくてはならないものなのです。
反対にそれを「仮定」しないとするならば、その仮定を防ぐ仕組みが設計思想の中に盛り込まれていなくてはなりません。つまりそこまで事故が拡大しないプラントとして作らなければならないわけですが、そもそも過酷事故そのものが「設計想定」を超える事態なのですから、そんなことは不可能です。
過酷事故は、可能性としては事実上、どこまでも拡大しうる恐れのもったものなのであり、2011年に政府内で行った試算でも、少なくとも半径250キロ圏が避難しなければならない事態なども仮定せざるをえないのです。

ではこのPAZを半径250キロとして対策を練ることは可能でしょうか。かなり厳しいのが事実です。それでもやらねばならないのが、原子力災害の恐ろしさであることを私たちは見据えなくてはならない。原発が採算に合う合わないの話どころではないのです。
この点はどう考えたらいいのでしょうか。少なくとも半径250キロにも直接的な被害が及びうることを見据え、これに完璧ではなくても少しでもできる対策を積み重ね、少しでも安全マージンを増やしていかねばならないということです。
そのために最も有効なのは何か。第一に原発を絶対に稼働させないこと、現在、動いている大飯原発も即刻止めることです。動いている原発の方が危険性が格段に高いからです。第二に、今から廃炉を前提に各々の原発の燃料プールにある使用済み燃料の安全保管の作業を進めることです。
ここでもネックになっているのは、今に至ってもなお、原子力推進サイドが「使用済み核燃料の再処理」という無謀な計画を捨てていないことです。そのために使用済み核燃料を廃棄物として処理できない。この点を改め、さしあたって各原発サイトに、乾式の使用済み燃料棒格納装置を作り、そこに危険な燃料棒を移して、安全マージンを増やすことが防災対策の重要な柱です。

これらの対処を行いつつ、PAZについては、福島第一原発対策と、それ以外の原発対策とをわけ、距離を決めていく必要があります。繰り返し述べるように、4号機を考えたとき、半径250キロという想定が政府によってなされたのですから、それを適用せざるを得ないのですが、どうしても経済的にも社会的の無理だというのであれば、次善の策として、アメリカに習って半径80キロをPAZとすることも考えざるを得ないのではないかと思います。
この距離は、実際にアメリカが、自国民に対して、2011年の暮れまで立ち入り禁止区域と定めた区間です。これとても十分であるとは言えませんが、これ以上の想定は難しいことを、国民・住民に十分説得した上で、とりあえずこのような想定を行うことはありえるのではないか、せざるを得ないのではないかと思えます。
これに対して、他の原発の場合、運転をしていないことを前提に、もう少し範囲を狭めても良いように思えます。その場合の科学的に妥当な数字もありえず、ここも政治的・経済的な判断をせざるを得ないと思いますが、これも同じように、国民・住民に、この線引きが十分な科学的根拠に基づくとは言えないこと、不十分なものであることを説明した上で、合意形成することが必要だと思います。

そもそもありうるすべての事故を想定するならば、私たちにとっての理想な災害対策は、日本を捨てて、原発から十分遠く離れた他国の地域に移住することです。4号機や食料汚染への不安から、実際にそのような選択をしている人々もいるわけですが、しかし大多数の私たちにとってそれは不可能な選択です。
だとすれば私たちの大半は、危険を承知でこの国に住み続けなくてはなりません。それが実際にあること、否定しようのない事実であって、それ自身は覆せないのですから、もはや受け入れざるを得ない。だとすればその危険性をしっかりと認識し、いざというときの対策を立てておくことが重要です。

ではUPZはどのように設定したら良いでしょうか。まず当然にも入るのは、福島第一原発から半径250キロ以内のすべての地域です。本来ならばPAZにも入りうる地域だからです。これで東北・関東の大半が入ってしまいます。ではその他の地域はどうかと考えると、もはや線引きの想定はむなしく、沖縄をのぞいた全地域をいれざるを得ないのではないでしょうか。
「確率的な影響を避ける」というのであれば、放射能を含んだ雲の到達地域の全てが入らなくてはなりません。それを考えると、沖縄をのぞき、日本の中に安全と言える地域はどこにもありえません。すべての地域が最寄りの原発の事故により、被曝しうる地点に入ってしまっているのです。だからそれへの対策を想定をせざるを得ません。

このように考えるとき、この「原子力災害対策指針」が、現実に起こりうる事故を非常に小さく見積もっていること、つまりこれこそが形を変えた原子力安全神話であること、「過酷事故は起こるかもしれないけれども、影響は大して広がらない」と言っているにすぎないことを私たちは批判しなければいけません。
実際に私たちが面と向かっているのは、日本の国力の総力を結集して対処すべき事態なのです。国家の存亡がかかっています。いや世界の存亡すらがかかっています。今よりも事故が拡大し、膨大な放射能が出れば、世界大で計り知れないほどの被害が広がってしまいます。
そのため各国にも、頭を下げて、4号機の倒壊の際の、可能な限りの対処をしてもらうことをお願いするしかありません。私たちの国が世界の人々を、危機の手前においやってしまっていることを、きちんと伝えなくてはなりません。

このような最悪の事態を想定することは辛いことです。どうしても、「そんな事態はやってこない、そんな想定は大げさだ」と考えたくなります。僕自身、そんな破局がやってこないことを心の底から祈っています。
しかしだから「ないものと考える」のであってはいけません。津波の被害ひとつ見たって、実は東電は、前からプラントが危機になる津波が起きる可能性を想定しながら、その可能性を「ありえない」と切り捨ててきたのです。
いやこの事故に限らず、この国のリーダたちは、先の大戦への対処を含めて、常に最悪の事態は、起こって欲しくない、だから避けようとするのではなく、ないことにしてしまって、時局への対処を大きく誤ってきたのです。その愚かさを繰り返してはなりません。

危機を見据えましょう。腹を決めて、対処を考えましょう。そのための災害対策指針を私たちのイニシアチブで作っていかなくてはなりません。そのために、原子力災害の危機を極端に小さく見せる原子力規制委員会の指針に批判を集中しましょう!

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