2012.10.23

明日に向けて(569)原発災害に対する心得(中)

守田です。(20121023 23:00)

明日に向けて(556)で「原発災害に対する心得(上)」を書きました。これは10月7日に同志社大学のある寮で行った防災訓練でお話したことに基づいたものです。そこでは次のようなレジュメも配りました。

***

原発災害に対する心得

知っておきたい心の防災袋(防災心理学の知恵)
1、災害時に避難を遅らせるもの
○正常性バイアス⇒避難すべき事実を認めず、事態は正常と考える。
○同調性バイアス⇒とっさのときに周りの行動に自分を合わせる。
○パニック過大評価バイアス⇒パニックを恐れて危険を伝えない。
○これらのバイアスの解除に最も効果的なのは避難訓練

2、知っておくべき人間の本能
○人は都合の悪い情報をカットしてしまう。
○人は「自分だけは地震(災害)で死なない」と思う。
○実は人は逃げない。
○パニックは簡単には起こらない。
○都市生活は危機本能を低下させる。
○携帯電話なしの現代人は弱い。
○日本人は自分を守る意識が低い。

3、災害時!とるべき行動
○周りが逃げなくても、逃げる!
○専門家が大丈夫と言っても、危機を感じたら逃げる。
○悪いことはまず知らせる!
○地震は予知できると過信しない。
○「以前はこうだった」ととらわれない。
○「もしかして」「念のため」を大事にする。
○災害時には空気を読まない。
○正しい情報・知識を手に入れる。

原発災害にどう対処するか
1、原発災害への備え
○災害対策で一番大切なのは避難訓練。原発災害に対しても避難訓練が有効。
何をするのかというと、災害がおこったときをシミュレーションしておく。
○家族・恋人などと落ち合う場所、逃げる場所を決めておく。
○持ち出すものを決めておき、すぐに持ち出せる用意をしておく。

2、情報の見方
○出てくる情報は、事故を過小評価したもの。過去の例から必ずそうなる。
○「直ちに健康に害はない」=「直ちにでなければ健康に害がある」。
○周囲数キロに避難勧告がでたときは、100キロでも危険と判断。

3、、避難の準備から実行へ
○災害を起した原発と自分の位置関係を把握。基本的には西に逃げる。
○マスク、傘、雨合羽必携。幾つか代えを持つ。
○お金で買えない一番大事なものを持ち出す。その場に戻ってこられないと想定することが大事。どうでもいいものは持っていかない。
○可能な限り、遠くに逃げる。逃げた先の行政を頼る。
○雨にあたることを極力避ける。降り始めの雨が一番危ない。
○二次災害を避けるべく、落ち着いて行動する。

放射線被曝についての心得
1、福島原発事故での放射能の流れと情報隠し
○福島原発事故では風の道=人の道に沿って放射能が流れた。
○被曝範囲は東北・関東の広範囲の地域。京都にも微量ながら降っている。
○SPEEDIの情報隠しなど、東電と政府の事故隠しが被曝を拡大した。

2、知っておくべき放射線の知恵
○放射能から出てくるのはα線、β線、γ線。体への危険度もこの順番。
○空気中でα線は45ミリ、β線は1mしかとばず、γ線は遠くまで飛ぶ。
○このため外部被曝はγ線のみ。内部被曝ですべてのものを浴びる。
○より怖いのは内部被曝。外部被曝の約600倍の威力がある。(ECRR)
○外部被曝を避けるには必要なのは、放射線源から離れること、線量の少ないところにいくこと。
○内部被曝を避けるために必要なのは、汚染されたチリの吸い込みを避けること、汚染されたものを飲食しないこと。

3、放射能との共存時代をいかに生きるのか
○元を断つ。
○被曝の影響と向き合う。被爆者差別とたたかう。
○あらゆる危険物質を避け、免疫力を高める。前向きに生きる。

***

「原発災害に関する心得(上)」では、このうち「知っておきたい心の防災袋(防災心理学の知恵)」についてポイントとなることを書いておきました。今回の(中)では、「原発災害にどう対処するか」について述べていきたいと思います。この点は重要なので、当日行った講演を文字起こししてお伝えしようと思います。

(上)にあたるところで、僕が強調したのは、災害心理学によれば、避難を阻む最も大きな壁は、災害時に、災害の発生そのものを認めようとしない「正常性バイアス」であり、それを解除するにの有効なのは、事前に避難訓練をきちっと行っておくということでした。
それでは原発災害に対してはどのような避難訓練を行えば良いのかですが、それは事故が起こったときに、自分がどう行動するのか、きちっとシミュレーションしておくということです。

原発災害に向けたシミュレーション

ではシミュレーションではどういうことが重要なのか。「家族・恋人などと落ち合う場所、逃げる場所を決めておく」。これがぜひやっておいて欲しいことです。
もしも福井原発で事故が起こったときに、自分がどうするのか。僕が実際に連れ合いと打ち合わせていることをお教えすると、僕らは京都駅前のあるホテルのロビーで待ち合わせることにしています。その心は、電車が動いていたとすると、新幹線に飛び乗って西に逃げるということです。
しかし地震で電車が止まることがありますが、その場合でもバスは動きます。そうしたらバスターミナルからバスに乗ってとりあえず行けるところまで逃げる。行く先も考えてあります。四国の友人が農の営みをしているある地域です。もちろん「そのときは助けてね」と伝えてあります。反対に、「京都に避難するのが必要なら受け入れるよ」とも。こうやってあらかじめ「避難協定」を結んでおくといいのです。

実際に、福島原発の事故のときも、電車は止まりましたが、バスは動いていたのです。だからバスに乗って福島から逃げ出した人がたくさんいました。この中の大きな部分を占めたのが誰だか知っていますか?東京電力の社員の家族だったのです。
東京電力は、もうダメだから逃げろと、家族にだけ指示したのです。僕の友人は、東京電力の社員の家族の友人でもあったので、その人から「今、会社が逃げろと言っているので逃げて」という情報をもらったそうです。「バスが動いているからそれで逃げろ」とも。
ようするに東京電力はイザというときのシミュレーションをしていたということなのです。誰にも教えずに。ひどいですね。国民、住民には教えなかった。

あとは人がただちに避難に移れない大きな理由に、家族の居所が分からないということがあります。とくに小さなお子さんをもった親御さんは、子どもの安全が確認できないと、自分の避難ができない。むしろ子どもを探しにいって、災害に巻き込まれてしまったというケースが多いのです。

そのため小学生の子どもを持ったママさん、パパさんには、例えば学校に子どもがいるならば、「動かないでそこにいなさい。迎えにいくから」と決めておくことも大事です。もちろんそこが津波地域にあたる場合で、地震の直後なら別ですよ。

この点はケースバイケースですから、幾つかの想定をしてシミュレーションをしておく。それで家族と落ち合えるようにしておくのです。みなさんの場合は、学生さんですから、まだ子どもはいないと思うので、恋人とか、親しい友だちとかとあらかじめ話をして、いざ事故があったら一緒に逃げよう、だからどこで落ち合おうと決めておくといいです。

持ち出すものを決めておく

次に、災害のときに、これは原発災害だけのことではないですが、持ち出すものを決めておいてください。持ち出すものは一番大事なものです。これにも例があります。僕の友人で国連の職員をしている人がいます。アフガニスタンのある都市にいて、政情が不安定になり、事務所から緊急に逃げなくてはならなくなった。

それで彼女はとっさに、お気に入りの服をバックにつめて逃げたのだそうです。それで逃げた先でものすごく後悔した。なざ後悔したのかというと、そんなものは買い戻せるのです。では何をもって逃げるべきだったのかというと、写真や日記や手紙や、絶対にお金で買えない、自分のメモリーにとっての大事なものです。

それは全部、おいてきてしまったのだそうです。なぜおいてきてしまったのかというと、人はそこから逃げ出すときに、二度とそこに帰ってこれなくなるとは思いたくない。だからちょっと出て、すぐに戻ってくるようなつもりで出てしまうのだそうです。そうなると出た先の自分の格好の方が気になるから、お気に入りの服を持っていったのです。
ところが彼女が戻れるまでに1年以上かかりました。政情がまた変わって、事務所にまた戻れたのですが、内部は荒らされていて、自分の大事なものは残ってなかったそうです。

今、実際にも、福島原発の周りに住んでいた人たち、大熊町や双葉町の中には、一生、戻れない人たちもたくさんいます。でもこの人たちもほどんと、着の身着のままで出てしまったのです。だからこの人たちは、少しでもいいからどうしても家に帰らしてくれといって、放射能防護服を着て、「1時間だけいさせてあげましょう」とか言われて、家に入りました。それで最初に持ち出すのはアルバムだそうです。家族のメモリーが一番大事なのですね。

もちろん、大事なものは一人一人違うと思います。例えば卒論を書いている方なら、そのデータを持ち出し可能な媒体に記録しておいて、それを持って出ることをシミュレーションしておくといいのではと思います。学問をされている方にとっては、自分で書いた論文や、研究成果を持ち出せるようにしておくのが良いでしょうね。

危険な情報は隠される

レジュメを見てください。「出てくる情報は、事故を過小評価したもの。過去の例から必ずそうなる」。これも重要な点です。
これまでの原発事故のすべてに共通しているのは、当初、事故が非常に過小評価されていることです。これには二つの理由があります。一つには明確に事故隠しがあったということです。
福島原発事故では、スピーディーという、放射能の拡散予測の情報が隠されてしまいました。それでどうのようなことが起こったのかというと、福島市のお母さんたちが泣きながら話すことなのですが、実は原発から60キロ離れた福島市にも、とても濃い放射能が流れていったのですよね。
 
ところがそのことがまったく知らされなかった。福島市の人たちは、原発から60キロ離れていて、よもや自分たちが原発事故に巻き込まれるとは思っていなかったそうです。それで何が起こっていたのかというと、停電や断水が起こっていました。水が得られないので、福島市が給水車を出して、水を配り始めた。

その前にたくさんの人たちが並んでいたそうですが、若いお母さんたちは、他に子どもを見てくれる人がいないので、子どもの手をつないで、何時間も並んでいたのですが、実はそのときにたくさんの放射能が降ってしまったのです。もろに浴びてしまったのですね。
だから今、子どもの甲状腺がんの発生の可能性が非常に高いのではと思われていて、すでに福島市で、甲状腺がんになってしまった子が見つかっています。

僕の友人も医師で、検査に関わっていますが、ものすごい状態だといいます。これから間違いなく深刻な状況が訪れると思います。

それはそのときに外にいて並んでなかったら、それだけでもかなり違ったのです。ヨウ素剤を配って飲んでいたら、かなり防げた。ところがそれがなされなかった。残念ながらこの国はそういう国なので、自分で自分の命を守らないとダメです。

運転員や政府も「正常性バイアス」にとらわれる

一方で、意図的なものではなく、本当に間違えて過小評価してしまう場合もあります。原発に運転員の方や、責任者も、容易に「正常性バイアス」にかかるのです。原発の非常に重要な事故のすべてで共通しているのは、運転員がはじめに計器が壊れたと思っていることです。同じことが繰り返し起こったのですよ。

チェルノブイリの場合では、原子炉が爆発して、蓋があいていました。それですべての計器が瞬時にダメになった。そのときにどうしたのかと言うと、運転員の一人が、「計器が壊れたから現場を見に行ってくれ」と言っています。言われた人は、蓋があいた原子炉を見にいって、大量の放射線を浴びて、ほとんど即死しています。

同じことは必ず起こります。なぜかというと、原発はしょっちゅう事故や故障を起こしてるのです。とくにメーターが壊れることなど日常茶飯事です。だからいつも「また壊れたか」という感覚を持ってしまっています。計器の示す数値をみて、その度に事故を想定して動いているとやっていられないので、「ああ壊れた」と思うことが習い性になってしまっているのです。

それが原発が危ない理由の一つでもあるのですが、政府も実はそうなのです。政府は半分は意図的に隠しますが、半分は本当に「事故であって欲しくない」という意識が働いて、事故の過小評価に陥りがちなのです。

福島の事故のときも、菅首相が、斑目原子力安全委員長の「安全」という言葉を信じてしまったということがありました。ヘリコプターで原発を見に行ったときに、斑目さんが「首相、大丈夫です。原子炉は絶対に壊れません」と叫んだ。そうしたら菅さんはころっと信じてしまった。そのすぐ後に原子炉の爆発があったので、まったく動揺してしまったのでした。

事故が起こって欲しくない、事故はこれ以上進まないと思いたい、思いたいという願望から、「安全だ、安全だ」と自分の思い込みたくて、認識がずれていってしまっているという面もありました。当然なのです。それまで真剣に原発災害の危険性を考えてこなかったから、つまり避難訓練をまともにしたことがなかったから、正常性バイアスに捕まってしまうのです。これは傾向的に生じることです。原発が、事故も可能性を隠して、あるいは非常に小さく見積もることで運転にこぎ着けてきているからです。

そのために「周囲3キロは避難しろ」という言葉が出たら、それこそ100キロ圏はとりあえず避難した方がいいです。福井で何かあって、近くに避難指示が国から出たら、もうとにかく逃げてしまうのが勝ちですね。放射能が来る前に逃げてしまうのが勝ちなのです。これをぜひ覚えていてください。

今も続く「正常性バイアス」による心理的ロック

実はみなさん、知っていますか?東日本は壊滅するかもしれなかったのですよ。4号機に1000本以上の核燃料が入っています。それを冷やしている水が抜けてしまったのです。温度が上がりだしてもうどうにもならない寸前までいった。そのとき偶然に、その横にはってあった水の敷居板が壊れて水が流れ込んで、大きなことにならなかったのでした。

この段階で日本政府はこの危険性を察知しました。それでシミュレーションしました。なんと170キロ圏が強制避難だとされたそうです。避難対象は3000万人にもなった。自衛隊に避難のための命令が出たそうです。それで自衛隊の幹部は絶望したそうです。軍の総力をあげたって、せいぜい一度に1万人も動かせるかどうかも分からない。お手上げたったのです。

なおかつ4号機は今も大地震が来たら、かなり危ないです。他の原子炉だってそうです。そうなったら関東や東日本は壊滅するし、西日本にも、世界にも本当に深刻な影響がでます。本当にその危機が今、私たちの前にあるのです。
でもそれを見たくないので、多くの人たちが事故がもう終わったかのように振る舞い、政府の側もそれを直視したくないので「安全だ、安全だ」と繰り返しているのです。

そのため関東や東北で問題意識のある人は、4号機の倒壊に備えて、子どもまでパスポートをとっていたりします。仙台で話したあるお母さんたちは、4号機が倒壊したら、とにかく高速道路に乗って、一路、秋田空港を目指し、そこからアジアに出国することをシミュレーションしているそうです。そのように考えている人ほど、逃げられると思います。

放射能は見えない・・・しかし感じることはある

あと、原発事故で注意すべきことは、放射能が見えないことです。だからより正常性バイアスが働きやすい。津波は見えますよね。見えていても、正常性バイアスが働いている人は津波を認識できずに迅速な避難に移れないことがあります。放射能がやっかいなのは、見えないから余計に、「大丈夫だ、大したことはない」という心理的ロックが働きやすいのです。

ただし一般に放射能は、無味無臭だと言われますが、敏感な人は感じています。感じているだけではなく、子どもたちが激しい鼻血を出す例がたくさんありました。福島県内では当たり前、東京でもたくさんの子どもたちが鼻血を出しました。
どういう鼻血なのかというと、東京の町田市の5歳の男の子と例ですが、「25分から30分間、水道の蛇口を全開にしたような鼻血」だったそうです。

そういう鼻血を出した子どもでなくて、お母さん本人が出した話も直接、聞いたことがあります。「それでどうしたの?」と聞いたら、女子トイレに駆け込んで、便器を抱えていたそうです。ティッシュは論外、タオルもすぐにぐしょぐしょになって役に立たない。
これは被曝の影響です。鼻の粘膜に、放射性微粒子が付着して、ホットスポットができて、それで鼻血を出したのだと思います。

しかしこういう目に会った人は、かえって即刻逃げ出したり、防護体制を厳重にとったりするので、まだましだとも言えます。人間の感受性は人によってかなり大きく違うので、放射線に対してもかなり敏感な人もいれば、かなりの程度まで全然、感じない人もいるのだと思います。

感じる人では、喉がイガイガしたという人が多いですね。全身にじんましんのようなものが出たという人もいます。だから結構、人間は放射線の影響を五感でキャッチするのですね。より放射線が強いところにいると、口の中に金属を含んだような嫌な味もするそうです。これは空気中にあるいろいろな物質が、イオン化され、そのうちの金属性のものを舌が感知するようです。それで「ずっとつばを吐いていた」という経験も聞きました。だいたいそういう人ほど、感じたことを避難や放射線防護に結びつけています。

続く

 

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