2012.06.17

明日に向けて(490)空間線量に反映されない偏在する放射性物質の危険性

守田です。(20120617 20:30)

原田先生と社会的共通資本についての論考が途中なのですが、ここで5月下旬の福島市訪問に話を戻して、そこで見てきたことの報告を挟みたいと思います。論じておかねばならないことが多くて、こんな形になっていることをお許しください。それで今日、触れておきたいのは、5月23日にシンポジウム参加のために訪れた福島大学でのこと、大学内の放射線値についてですが、書きたいポイントは現在の福島大学内、ないし福島市内の放射線被曝の危険性は、空間線量だけを目安にみてとることはできないということです。それは福島に限らず、放射線値の高いところに共通することだと思うのですが、それがなぜかを書いてみます。

この日、キャンパスを訪れて、印象的だったのは、大学構内にモニタリングポストが設置されて、リアルタイムに放射線値が掲示されていることでした。とくにシンポ会場の向かい側にある大学のS棟前には、名古屋市に本社を置くKICTEC社製の空間線量計測器が置かれており、私たちが訪れたときは0.20μS(毎時)という値が出ていました。その前を、学生たちがマスクもすることなく、談笑しながら歩いていました。

ポストを見ている僕の後ろから、シンポに招いてくださった福島大の先生が、「ここもあの周りはきれいに除染してあるのですよ」と声をかけて下さいました。ようするにここも「除染ポスト」なのです。少し離れれば、もっと高い値がでるのでしょう。しかしそれでも0.20という値はけして低い値ではない。年間の線量に換算するならば、1.66mSもあり、チェルノブイリ周辺では避難権利区域に相当する数値です。

大学全体のことが気になって、数日前に大学ホームページを閲覧してみたところ、驚くべきことに、0.19μS(毎時)という値は、公表されている計測値の中でも低いものであることが分かりました。本年の6月14日に測定されたデータによるものですが、以下からこれを見ることができます。

福島大学キャンパス内及び附属学校園の放射線計測データ(2012年4月~)
http://www.fukushima-u.ac.jp/guidance/top/fukudai-housyasen.html

これをみると、事故から1年3ヶ月を過ぎた数日前の時点でも、大学内の調整池前道で、0.74μS/h、プール建物前道で0.78μS/hという値が出ている。どちらも放射線管理区域に相当する値です。西門警務員室前で0.54μS/h、本部管理棟前で0.45μS/hという数字が出ていて、先ほど紹介したS棟前でもこの日は、0.28μS/hと、5月23日よりも、かなり高い数値が出ていました。これだけでも福島大学キャンパス内には大きな危険性があることが分かります。

ところがより大事なのは、先にも述べたように、こうした空間線量には反映されてない危険性が存在することです。それが放射能の偏在であり、その結果として生じているマイクロホットスポットの存在なのです。というのは5月23日の時点でも、確かにS棟前は、0.20μS/hという値が掲示されていたのですが、私たちが車を止めた駐車場付近(S棟よりももう少し北のあたり)で泥が溜まっているところを計測すると、すぐに3.5μS/hが計測される地点が見つかりました。それを教員の方に話すと、「あちこちにそういう場所があります。僕の知っているところでは、いつでも10μS/hぐらいは出ています」という答えが返ってきました。

問題は、空間線量の計測に頼った現在の測定方法では、こうしてそこかしこに偏在してマイクロホットスポットを作っている放射性物質の危険性が、なんら反映されないことです。その意味で、空間線量計の周りだけが除染されていて、これらの機器が、その一回り外の実測値より低い数値を出しているということに、問題はとどまりません。たとえこれらの機器が、そこだけの除染などなされておらず、周辺の空間線量を正しく反映していたとしても、それだけではそこに存在する危険性を捉えきれないのです。

なぜならば、大変高い値を示しているマイクロホットスポットがあるということは、そこにその値を出している放射性物質が集中して存在しているということであり、しかもそれが周囲から風や雨水の流れから集まってきたものであると推定されること、つまり環境中を循環しているものである限り、その物質を含んだ泥などが、例えば夏の日差しで乾燥させられる中で舞い上がることで、さらなる移動を行い、その過程で、構内にいる学生や教職員が吸い込んでしまう可能性があるからです。

そうなると、ガンマ線を測定している空間線量にはまったく反映されていない危機が人々を襲うことになる。内部被曝の危険性が生じるのです。欧州放射線リスク委員会が、内部被曝をあえて外部被曝と比較するならば、平均して600倍と考えるべきだと述べていることを折りに触れて説明してきましたが、そうすると、福島大学構内には、モニタリングポストで示された数百倍の危険性が存在していることになる。いや、実際に存在しているのです。その点をみればいかに危険な状態にキャンパス内があるかが見えてきます。

ところがこうした危険性を一切反映しない空間線量計の存在は、低線量被曝の危険性はきわめて小さいと繰り返す政府や、原子力村の人々の虚言とあいまって、むしろ目の前にある危険性を非常に過小評価し、小さく見せることに貢献するものになっているように僕には思えます。それらの結果もあって、大学内の学生たち、若者たちが誰一人、マスクもしていないのです。

シンポジウムの中でも僕はこのことを問題にし、マスクの必要性を訴えましたが、これに対して非常に印象的な質問をある学生がしてくれました。彼は言うのです。

「僕たちはもうみんな被曝していると思うのです。今さらマスクをしても無駄ではないでしょうか」

この言葉は非常にアンビバレントです。一方では被曝の危険性に対する危機意識がきちんと介在していながら、しかしもう被曝対策をしても遅いのだという虚無的な考えにとらわれているからです。恐らくこうした危機意識と、どうせ空間線量もそれほどではないし(そんなことはまったくないですが)、きっとそんなに危なくはないのだ。だから今さらになって、マスクなどしなくてもいいのだという危機感が麻痺した意識の間を、学生たちの思いは揺れているのではないか。あるいは悲しいことに、そんなに危険な場なら大学を開講することはないだろうという大学当局への信頼も介在しているかもしれません。

僕は述べました。「そんなことはありません。むしろマスクはすでに被曝してしまった人がすることにより大きな効果があるとも言えます。あなたは確かにこれまで被曝していますが、あなたの若さが、放射性物質が悪さをすることをおさえているのだと思います。免疫力によって、病が抑えられている。だからこそ、これ以上、被曝を重ねないことが大事なのです。そのためには今からでもマスクをして、放射性物質を吸い込まないように注意すること、内部被曝を避けることが大切です」。

・・・もちろん、前提として、0.20μS/hという値ですら、チェルノブイリ周辺では避難権利区域に相当するものであり、ここは普通に生活しているにはあまりに危険性が高いこと、可能なら避難をした方がいい場であることを述べた後での話でしたが、マスクをめぐる僕の発言に、学生さんは「分かりました」と納得してくれたようでした。

このように、放射性物質は環境中を循環しており、ところどころにマイクロホットスポットを形成しています。それは内部被曝の危険性を作り出していますが、それは空間線量にはまったく反映されていません。そのため線量が高い地域、具体的には年間の線量が1ミリシーベルトを越えるところはどこでも、近くにマイクロホットスポットが存在していることを自覚し、マスクなどで防御するとともに、これらの危険箇所に近づかないようにすることが大事です。空間線量に惑わされずに、呼吸による内部被曝から、しっかりと身を守りましょう。

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・宮城取材報告会への参加を(6月21日)

なおこうした福島・宮城の取材で見えてきたことの報告を、6月21日に、京都市左京区のキッチンハリーナで行います。案内を貼り付けておきます。
お近くの方、ぜひお越しください!

守田敏也さんお話会 「福島からのリポート2012・5月」

★5月に福島に取材に行かれた守田敏也さんの最新リポート。
6/21(木) @キッチンハリーナ
19:00-21:00
1ドリンク+500円(お食事のオーダーはこの時間帯はできません)先着25名様
お問い合わせ・ご予約は: yh.soratoma@gmail.com スズキまで

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