2015.05.27

明日に向けて(1088)放射線の「透過力」を考察する・・・内部被曝の危険性をつかむために(上)

守田です。(20150527 21:00)

今週末、5月31日に高槻の市民放射能測定所開設2周年企画でお話します。タイトルは「内部被曝について」です。
今回は測定所での講演ということもあり、内部被曝の危険性をあたらめて問うことに話しの軸を設定したいと思っています。

内部被曝のメカニズムをお話したいと思いますが、この際、僕はいつも放射線の「透過力」について大きく取り上げることにしています。
この点を説明すると、放射線に対する理解の中で、しばしば起こりがちな混乱を正すことができ、放射線の性質に対する理解が進むからです。
明石市の講演でもこの点に触れましたが、参加したある方から、この点がまだ良く分からないという質問をいただいたのでここでお答えしておこうと思います。

放射線には種類がたくさんありますが、私たちが向かい合っているのは、原発から飛び出してきた放射能から発する放射線ですから、α線、β線、γ線について問題にすれば良いと思います。
このうち私たちが最も多く向かい合わざるを得ないのは、ほとんどの放射能から飛び出してくるβ線とγ線です。
環境中で最も多く観測されるセシウムはβ線を出します。一つの原子は放射線を出すことによって違う物質に変わりますが、セシウムの場合はバリウムになり、そのバリウムがγ線を出します。

よく「セシウムのγ線」という言い方がされますが、正確にはセシウムがβ線を出して変化したバリウムから出てくるのがγ線です。
γ線は、どの放射能から出てきたのかによってエネルギーが違うので、放射線測定器(ベクレルモニター)では、このγ線を計測し、「このエネルギーのγ線があるということは、セシウムがあることだ」と結論づけています。
一方で放射能の中でも身体への打撃力が高いストロンチウムはβ線を出しますが、その後にγ線が出てこないため、γ線を測定するベクレルモニターでは計測できません。β線は物質による違いがはっきりしないため、それだけでは物質の特定もできません。

これに対してα線を出す物質は質量の高い物質=原子番号の大きな物質に多いです。主なものにウランやプルトニウムなどがあげられます。
ウランはα線を出して崩壊しますが、次の物質がまた同じようにα線を出して崩壊し、次の物質がまた・・・という現象を繰り返し、その過程でラドンなどを生みます。ラドンは自然界に最も多く存在するα線を発する放射能です。
他にも幾つものものがありますが、私たちの生活との関係性が深いものを一つあげるとポロニウムです。煙草に含まれていて、肺に吸引されることによりα線被曝を起こします。喫煙者に多く見られる肺がんの根拠の一つであると考えられています。

さてα線、β線、γ線にはそれぞれ特徴がありますが、物質との関係で重要なのは物質を壊してしまう性質です。
物質は微小単位では原子と原子が結びついて作られる分子によって構成されています。分子は原子核と周囲を周る原子から成り立っていますが、この分子のつながりは、多くの場合、原子の周りをまわっている電子の軌道を共有する形で成り立っています。
放射線はこの原子と原子を結びつけている電子に玉つき現象を起こし、軌道から弾き飛ばしてしまいます。このことで分子の切断が起こり、物質の構成が変えられてしまうのでこれを電離作用と呼びます。

私たち生物の場合は、私たちの遺伝情報の鎖であるDNAへの切断作用としてあらわれます。放射線が飛んで来てDNAをつないでいる電子が弾き飛ばされてDNAがダメージを受けるのです。
さらに私たちの身体は、水分が大半を占めています。水の分子は二つの水素と一つの酸素によって成り立っていますが、それが分子切断されると、「フリーラジカル」と呼ばれる身体に損傷を与える物質が生み出され、DNAがより損傷されてしまいます。
これが放射線被曝の実体をなします。電離作用による分子切断が私たちの身体の中で起こるということです。

電離作用を及ぼす力は放射線によって異なります。最も強いのはα線、続いてβ線、γ線の順番です。
最も強いということはその分、放射線が飛ぶ先にある分子をよりたくさん切断するということです。このためα線は長い距離は飛びません。空気中では45ミリぐらい。その間にある分子を次々と切断してエネルギーを失ってしまうのです。
β線は種類によって飛ぶ距離が違いますが、セシウムから出てくるものなどは飛距離が1メートルぐらいです。γ線の場合はもっとずっと長い距離を飛びます。それだけ同じ距離の間での分子切断の量が少ないのです。

人体の中ではどうか。α線が細胞の中で進むのはわずかに40マイクロメートルぐらいです。1000分の40ミリです。人体の細胞は6~25マイクロメートルぐらいと言われていますので、細胞数個分です。
β線の場合は概ね1センチぐらい。10ミリですから細胞数百個から数千個ぐらいの距離です。これに対してγ線は人体の中ではエネルギーを使い切らずに外に出て行ってしまいます。
α線は細胞をもっとも激しく破壊します。しかも密集した被曝をもたらします。β線も打撃力は大きいですがα線から比べるとまばらです。γ線はそもそも人体の中ではエネルギーを使いきれないので、その分、ダメージが少なくなります。

これらの放射線の進み方を表したものに「透過力」という表現があります。
良く次のように表現されます。「透過力=ものを突き抜ける力。α線は紙一枚で止まり、β線は金属板で止まり、γ線は厚味のある鉛版でないと止まらない。」
これを図示したものもよく用いられますが、このように表現されてしまうと、どうしてもγ線が最も力の強い放射線であるかのように思えてしまいます。よく示されるものから一つを紹介しておきます。

α線、β線、γ線の放射線遮へい
http://www.rist.or.jp/atomica/data/pict/16/16020103/02.gif
(一般財団法人・高度情報科学技術研究機構「原子力百科事典ATOMICA」より)

どうしても一番、怖いのは鉛板でなければ止まらないγ線に見えてしまうかと思うのですが、物質に対する作用という面で一番大きな力を持っているのはあくまでもα線です。
なぜそうなのかを理解することが放射線の性質を理解する早道になりますが、その際、私たちが着目しなければならないのは、物理的世界と私たちの日常的感覚との大きな違いです。
原子は先に述べたように原子核と電子から成り立っているわけですが、原子核が野球のボールぐらいだとすると、電子は東京ドーム全体のどこかを飛んでいる非常に小さな玉であることになります。

どこにあるかは確率的にしか分からないのですが、ともあれ私たちの日常感覚からすると、原子の内部はそのほとんどがスカスカなのです。これはもう「そういうものだ」と飲み込んでください!
ここに放射線が飛んでくるわけですが、α線の場合、β線に比べるとずっと大きな粒子なので、その分、電子と当たりやすいのです。このためにそこで電離作用を行ってエネルギーを失います。
紙の表面もまた分子から構成されていて、スカスカなのですが、それでもα線は紙の分子とあたり、激しく電離作用をおこしてそこでエネルギーを使い果たすのです。

これに対してβ線はα線よりもずっと小さいので、紙の場合だとあまりあたらないですり抜けてしまうのです。これが「透過力」の正体ですが、「ものを突き抜ける力」という表現は誤解を生みやすいですね。
私たちの日常感覚のように、ものを破壊しながら突き破っていくような意味での「突き抜ける力」ではありません。すり抜けていってしまう性質なのです。
β線の場合、分子と分子の間が紙よりは詰まっている金属板の場合だと、ようやくすり抜けることなくその分子のなかの電子とぶつかり、電離作用を起こして止まるのです。

これに対してγ線はもっと分子と当たらない。紙や金属板ぐらいではすり抜けてしまうのです。もっと分子が密集していている鉛板でもってはじめて分子の中の電子と衝突し、電離作用を起こして止まるのです。
ちなみにγ線は電磁波のなかまで波の性格をもっていて粒子ではないのですが、原子核と電子の間の私たちの日常感覚からは「スカスカ」なところをどんどんすり抜けるがゆえに遠くまで飛ぶのです。
このため紙や金属板と比べて、はるかに分子がぎっしりと詰まって構成されている鉛の厚い板を持ってきた時に、はじめて鉛分子の中の電子とぶつかり、電離作用を起こしてエネルギーを使い果たすのです。

人体の中でも同じことです。多くの場合、γ線は人体の細胞とあたるにはあたりますが、平均回数が少ないのでエネルギーを使い切らずに人体の外まで出ていきます。
中には人体の中で止まるものもあるかもしれませんが、反対に人体の中ではほとんど細胞とあたらずに通り過ぎていくものもあるでしょう。その総体をならしたものがγ線の「透過力」ですが、それが「強い」のはその分電離作用が少ないことを意味します。
このため電離作用のことを「物質との相互作用」とも言います。物質に影響を及ぼし、自らもエネルギーを失うからです。繰り返しますが相互作用を一番、激しくもたらすのがα線であり、一番弱いのがγ線なのです。

続く

*****

高槻・市民放射能測定所開設2周年 ”内部被ばく”を考える講演・学習会

日時:2015年5月31日(日)13:30開場 14:00開始~16:30終了予定
場所:本澄寺
参加費:500円(資料代)※避難者・被災者無料

福島第一原発事故の発生から4年あまりが経過しました。
事故収束の見通しが立たない中、一般食品は上限100Bq/kgまで流通が許されるなど、内部被ばくを軽視した政策がとられ続けています。
政府にはこのような甘い基準の撤回を求めるとともに、内部被ばくによる健康被害の拡大を防ぐために、市民自身が意識を持って生活を見直す必要があります。

高槻・市民放射能測定所は開設2年を迎えるにあたり、 今一度、内部被ばくについて考える機会を設けたいという思いから、講演・学習会を開催します。

プログラム
■14:00 高槻・市民放射能測定所より「測定所2年間の歩み」
■14:20 守田敏也さん講演 「内部被ばくについて」

主催:高槻・市民放射能測定所
〒569-0003 高槻市上牧町2-6-31 本澄寺内
ブログ http://takatsuki-sokuteisyo.blog.so-net.ne.jp/
申込み・問合せ先
電 話:072-669-1897(本澄寺)
090-1023-6809(時枝)
メール:hsnk@tcn.zaq.ne.jp

駐車スペースには限りがあります。駐車場のご利用を
希望される場合は事前にお問合せください。

 

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