2014.11.29

明日に向けて(982)社会的共通資本としての絵本-市居みか展四日市へのお誘い(1)

守田です。(20141129 18:30)

絵本作家でアースディしがも担われている市居みかさんの作品展「あのころ」が三重県四日市市のメリーゴーランドで始まりました。11月28日から12月10日までです。
10月に行われた京都展の続きです。僕はポーランドから帰国してぎりぎりの日程で行くことができましたが、本当にとても良かったです。

市居さんは今回の個展のことをこんな風に表現しています。

子どもの頃にしか感じられなかった、あの感じ。
わくわくするような、不思議なことが起こるような、ドキドキするような、あの感じ。。。
思い出しながら、もう一度味わいたいと思います。

絵本作家 市居みかの日々あれこれ
http://ichiipk.exblog.jp/23487278

ドキドキしながらあの扉を開けて・・・そんな懐かしいあのきらめきの一瞬があなたの中に蘇ってきます。
お近くの方、また近郊の方もぜひお越しください。会場を記しておきます。12月7日午後2時から市居さんも在廊されるそうです。

メリーゴーランド
http://www.merry-go-round.co.jp/index.html

またこの時期に三重県松阪市嬉野図書館で市居さんの講演とワークショップもあります。
定員が親子30組だそうです。われと思われる方は早めにご連絡を。

絵本作家 市居みかさん講演会ワークショップ
http://www.library-matsusaka.jp/matsuri5.html

市居さんと出会ったのは僕が滋賀県に一瞬だけ起ちあがった「みんなの滋賀新聞」という新聞社に参加していて県内を走り回って取材していたときのことです。
滋賀県は図書館が素晴らしくいい。間違いなく日本で一番いい。それもダントツにいい。素晴らしいポリシーを持って作られてきています。とくに僕が惹かれたのは当時才津原哲弘さんが館長をされていた能登川図書館でした。何度も通ってお話を聞きました。
そのとき才津原さんに紹介されて参加したのが近江兄弟社小学校の「とりいしんぺい」先生の主催する大人を対象とした絵本を読む会で、その場に参加されていたのが市居さんでした。

絵本を読む会は能登川図書館と、近江八幡のとても素敵なカフェレストラン「茶楽」で交互に行われていました。参加するたびに驚きがありました。とうに忘れていた絵本の力を思い出しました。
たくさんのことを取材して、図書館や絵本に関する連載を企画していたのですが、残念ながら立ち上がったばかりのこの新聞社が一年で力尽きてダウン。
ものすごく溜め込んだ他の滋賀県ネタとともに、すべてがお蔵入りになってしまいました。

その後、恩師の故宇沢弘文先生が僕を同志社大学社会的共通資本研究センターにひろってくださり、僕の社会的共通資本に関する研究が始まりました。
宇沢先生が最晩年に最も力を注いだのは「社会的共通資本としての医療」でしたが、それとともに社会的共通資本の考え方を社会のさまざまなところに適用していくことも意欲的に考えておられました。
そんなときに僕の滋賀県での絵本に関する取材の話から「社会的共通資本としての絵本」という企画を同志社でやらないかということになりました。

このときに宇沢先生がぜひお呼びしようと推薦されたのが絵本の老舗、福音館書店の会長、松居直さんでした。松居さんは同志社のOBでもいらっしゃいました。
もうひとり、京都・堺町画廊の主宰者でもあり、僕の昔からの友人の絵本作家ふしはらのじこさんも来て下さいました。
お二人の話ともにとても素敵だったのですが、今回、「社会的共通資本としての絵本」というタイトルにからめてご紹介したいのは、松居さんのことです。

松居さんは、絵本の世界にいる方の中ではとても有名な方で、絵本道の達人です。
といってもご本人が絵本を書かれてきたのではありません。福音館書店を通じて数々の素晴らしい絵本を世に押し出し、また素晴らしい作家さんたちを育ててこれらたのです。
松居さんは、絵本や、こどもの本にまつわる成人向けの本を何冊も書かれています。『絵本をみる眼』『絵本とは何か』『子どもの本・ことばといのち』などです。とくに絵本やこどもの本を開いてみようという方にお勧めなのは『子どもの本・ことばといのち』です。

ここでは松居さんのお勧めの児童書がずらりと並んで紹介されています。その筆頭にあげられているのは『ハイジ』です。誰もがご存じのアニメーション『アルプスの少女ハイジ』の原作ですが、実は原作とアニメにはかなりの違いがあり、松居さんはそれを次のように紹介しています。
「久しぶりに完訳で『ハイジ』を読み返したとき、ひとりの読者-それも大人の読者として、私は予想した以上に心をひかれました。これほどまっすぐに心に語りかけ、新鮮な思いに包まれた読書体験も稀でした。
それに較べてアニメーションの「ハイジ」のなんと貧しいこと。原作者シュピーリが語り伝えたいと願ってあろう本質の問題は、みごとに消し去られているのです。」
「いえ、その部分は映像化しえないのです。もちろん物語を”読む”というあの楽しさは味わえません。シュピーリが心をこめてことばにした自然の美しさも、人の心のゆたかさや深い悩みも、まるでメッキのように薄っぺらにしか表現されていません。」(『子どもの本・ことばといのち』p10)

僕はこの一説に衝撃を受け、すぐに「ハイジ」の原作を日本語訳して福音館書店が発刊したものを手に入れ、ゆっくりと、丹念に読みました。そして松居さんがおっしゃるように、この本が本当に深い広がりを持っていることを知りました。パウル・ハイの描いたさし絵にとても感銘しました。
実はこのさし絵は、松居さんが日本語訳を編集されたときに、スイスの著明な絵本編集者で、こどもの本のすぐれた研究者でもあったベッティーナ・ヒューリマンさんに相談を持ちかけ、パウル・ハイさんを紹介されて実現したものなのでした。
そのヒューリマンさんが『七つの屋根の下で – ある絵本作りの人生』というこれまた素晴らしい本を出されているのですが、その日本語訳をされたのが、宇沢先生のお連れ合いの宇沢浩子さんでした。

松居さんはさらにこう続けられています。
「すでに『ハイジ』をお読みになったことがある方々も、改めて矢川澄子訳、パウル・ハイ画の完訳本『ハイジ』を、一行一行ゆっくりと、山に登るときのようなあゆみで読んでみてください。そして作者シュピーリの語ることばと思いに、より添ってみてください。」
「さらには、登場人物たちの行為やことばだけでなく、アルプスの自然について語る、シュピーリのことばにこめられた、彼女の実体験とあこがれに思いをいたしてください。この作品の新の立役者は、スイス・アスプスの大自然だともいえるのではないかと、私はおもうからです。」(同p12)

松居さんが『ハイジ』の紹介を通じて伝えたかったことは何でしょうか。
ことばと絵が、人間の想像力をかきたてること、そこにこそ「子どもの本」や「絵本」の素晴らしさがあるということだと思います。だから実は優れた本は、大人をも深く感動させます。
正確には、ものごとに感動する私たちのかけがえのない人間的な力を引き出してくれるのです。ピュアに書かれたことばの力、絵の力、そして絵本の力がそこにあると僕には思えます。あらゆる書物の原点もまたそこにあるように思えます。

松居さん自身は、『絵本とは何か』という本の中でこう語っています。小さな子どもたちを集めて、お話を読み聞かせたとき、ついてこれる子と、そうでない子がいる。それはなぜかということを解き明かす中で語られている言葉です。
「物語を聞ける力というのは、物語という目に見えない世界を、自分の心の中に見えるようにする、絵(イメージ)にする力です。一般に想像力(イマジネーション)といわれる力です。想像力が豊かであれば、人間は見えないものを見ることができます。絵本は、子どもたちの想像力に大きなかかわりがあります。」
「子どもは、生まれたときから、豊かな想像力を持っているのではありません。それは直接、間接の体験を通して獲得されるものです。体験が豊かであればあるほど、想像力も豊かになるでしょう。絵本は、幼児にとって体験を豊かにする機会をあたえます。」(『絵本とは何か』p7、8)

宇沢先生がもっとも重要視されたのは、医療とともに「社会的共通資本としての教育」でした。
宇沢先生は子どもにはもともと自らを成長させていくインネイトな力が備わっており、その発展、開花を助け、支えていくものこそが教育なのだと考えられていました。その点、松居さんと少し捉え方のニュアンスに違いはあるものの、お二人は同じことを語られていたのだと思います。
子どもの感性をおおらかに伸ばしていくこと、想像力を発達させていくいこと、そのために良質な児童書が必要であり、良質な教育が必要なのです。その教育の場を国家官僚の恣意的支配や市場原理に任せてはならない。だからこそ教育も絵本も社会的共通資本なのです。

この日の同志社での企画も、松居さんが著書に書かれている児童書や絵本の力と意義について語ってくださり、宇沢先生も社会的共通資本としての教育について語ってくださいました。
もうひとりの参加者のふしはらのじこさんも、ちょうど松居さんの立ち上げられた福音館書店から『じんがくんいちばにいく』という素晴らしい絵本を出されており、その話などをしてくださいました。
素晴らしい企画になりました。なお『じんがくんいちばにいく』の紹介もアマゾンのサイトから載せておきます。アマゾンにはさまざまな問題がありますがレビューにはなかなか良いものもありますのでご参考にされてください。

『じんがくんいちばにいく』
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4834018512%3ftag=osusumeehonsh-22%26link_code=xm2%26camp=2025%26dev-t=1CR2KCSDNRVJY76AMX82

続く

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