2014.11.22

明日に向けて(977)ウクライナの悲劇=被曝の現実を読み解く(ポーランドを訪れて-5)

守田です。(20141122 23:30)

ポーランドから帰ってからかの国のこと、ベラルーシやウクライナのことを調べ続けています。今回の国際会議ではじめてウクライナから来ている方たちと知り合ったことも大きなインパクトになりました。
歴史についてもかなり学びすでに記事にしてきました。まだ20世紀のことが残っており続編を書くつもりですが、今回はそこから少し飛んで、チェルノブイリ原発後の今のウクライナの現状について述べたいと思います。
ウクライナはかつてナチスドイツに激しく攻め込まれ、占領されて膨大な死者と損害を出しました。そこから長い年月をかけて復興を遂げてきた1986年にチェルノブイリ原発事故が起こり、大変な被曝を受けました。
1991年に被災者を救済する法律ができましたがその年の暮れに旧ソ連邦が崩壊。独立国となったものの、ソ連邦崩壊による混乱と原発事故のもたらしたさまざまな被害への対処に追われて、経済的な苦境が続いてきました。

それから20数年経って、ウクライナは今、分裂的な危機の中にあります。親EU派の現政権側と、親ロシア派の東部の人たちの間で軍事衝突が繰り返されており、この先どうなるのか見通しが立っていません。
今回、いろいろなことを調べていて見えてきたのは、今の政治的混乱と軍事対立そのものが、チェルノブイリ原発事故による社会的人的ダメージを背景に起こってきているということです。
現在のウクライナ情勢の分析をしている人々、「専門家」の中でチェルノブイリ原発事故と今を結びつけて解き明かしている人士を僕は知りませんが、しかし考えてみれば当たり前とも言えるように思えます。
膨大な被災者がいて病がどんどん深刻化する上に、検査や治療などさまざまな経費がかかってきたこと、その上、原発事故の後処理にも膨大な予算が消費され、社会の体力が繰り返し奪われて疲弊を深めてきたからです。

ポーランドの国際会議などを通じて知ったのは、ドイツのIBBをはじめ多くの民間団体が苦境の中にあるウクライナやベラルーシに手を差し伸べようと努力を重ねてきたことでした。
しかし他方でウクライナの前にはさまざまな国際機関が立ちはだかり、原発事故による病の多発を認めず、医師たちの告発を握りつぶしてさえきたのでした。このためウクライナは病への対処に当然あるべき国際機関の援助をほとんど得られずにきました。
ウクライナの前に立ちはだかってきたのはIAEA(国際原子力機関)、WHO(世界保健機関)、UNSCER(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)、ICRP(国際放射線防護委員会)などです。
これらの団体がそろって低線量被曝の影響を認めず、ウクライナの人々への救済の道をふさぎ続けてきたのです。大変、悲しく、憤りを感じるばかりの事態ですが、これはけして遠い国のできことなのではありません。同じ組織が私たちの前にも立ちはだかっているのです。

ウクライナやベラルーシの人々との連帯のためにも、私たち自身の未来のためにも、チェルノブイリ原発事故以降にウクライナが辿ってきた経過に学ぶこと意義がここにあるのですが、その入り口としての恰好な書物に出あいました。
『低線量汚染地域からの報告-チェルノブイリ26年後の健康被害』です。馬場朝子・山内太郎著、NHK出版から2012年9月に出ています。
NHK・ETV特集 シリーズ チェルノブイリ原発事故・汚染地帯からの報告「第1回 ベラルーシの苦悩」と「第2回ウクライナは訴える」(放送は同年9月16日と23日)のうち、第2回をまとめたものです。
著者たちはいずれも現場に取材に入ったディレクターたちですが、2011年4月に公表された『ウクライナ政府報告書』での病の実態の告発を読んだことをきっかけにこの番組の制作を決めたとのことです。

本書の初めの方にこの『ウクライナ政府報告書』が出てきます。チェルノブイリ原発事故後に作られた「国立記録センター」にまとめられた2012年の時点での236万4538人の被災者のデータをもとに作成されたものです。
被災者のうちわけは、原発事故の作業員31万7157人、原発周辺の立ち入り禁止区域からの避難民8万1442人、低線量汚染地域の住民153万1545人、これらから生まれた第2世代31万9323人、すでに死亡した11万5072人です。
この報告書の第3章「チェルノブイリ惨事の放射線学的・医学的結果」に掲げられた疾病は次の通りです。「甲状腺疾患、白内障、免疫疾患、神経精神疾患、循環器系疾患(心臓・血管など)、気管支系疾患(肺・呼吸など)、消化器系疾患(胃や腸など)」(『同書』p34)
注目すべきことはこれらの疾患が時間と共に増えていることです。「原発周辺の高汚染地域からの避難民のうち、慢性疾患を持った人は1988年には31.5パーセントだったのが2008年には78.5パーセントに増加したという」。(『同書』p35)

これらの内容を先に挙げた国際機関が認めないのですが、その理由はウクライナの報告が疫学的な手法で証明されていないというもの。ある集団の被曝線量と健康被害との間に統計的に有意な相関があって初めて病が証明されたと言えるが、ウクライナにはそのようなデータがないと言うものです。
しかしチェルノブイリ原発事故は当初、ソ連当局によって厳重に秘密にされたので詳細なデータが残っていません。事故対処の混乱の中で測られなかった、ないし意図的に測定されなかったものもあります。2か月と少しで環境中から消えて行く放射性ヨウ素をはじめ半減期の短い核種です。
もちろん個々人の被曝の測定もきちんとされていないし、データも秘密化されて存在しているかどうかも分かりません。そのためこの国際機関の論法では、その後にどんな被害が出ようが被曝との因果関係は証明できないものとされてしまうことになります。
実はこれは福島原発事故でも同じことが言えます。政府は意図的にもヨウ素被曝の実態の測定をしませんでした。政府と言うより福島県によってですが、事故直後の弘前大学のチームによる測定が止めさせられています。さらに福島だけではなくて東京までヨウ素は届いたのに、何の被曝測定もされていません。

これに対してウクライナの医師たちは、当初の被曝データがなくても病と被曝の因果関係を科学的に証明できると訴えてきました。
「自然環境、社会環境、経済的特徴は等しいが、汚染の程度が異なる複数の地域において発病率や死亡率などを比較する方法」(『同書』p40)の採用です。これならば当初の被曝量は分からなくとも、被曝と病の蓋然性が示せます。
というよりも実は僕はこちらの方が科学的に妥当な方法だと思えます。なぜかというと、そもそも個人個人の被曝量が測れるという大前提の方にこそ実は科学的な根拠がないと僕は思うからです。
なぜか。事故当初はものすごくたくさんの核種が飛び出して人々に内部被曝が発生します。内部被曝は体内のさまざまなところで起こります。しかもα線の場合はわずか40マイクロメートルの間で起こるのでありとてもではないけれども測ることなどできないからです。

つまりもともと被曝線線量というものも大雑把に「これぐらい被曝しただろう」という目安のようなものでしかないのです。
詳しくは稿をあらためてICRP批判として展開していきたいと思いますが、そのため土壌汚染などを目安に汚染の違う地域の相互比較や、汚染のない地域との比較から被曝による影響のあるなしは当然にも導き出すことができます。
『ウクライナ政府報告書』はこのような方法で、被災者の現実をことこまかに記録してきたデータであり大変貴重なものです。番組のディレクターたちは次のように評価しています。
「ウクライナ政府報告書は、まさに被災国の叫びそのものだ。数多くの病気は死の存在を証明する手段を、事故後の大混乱や旧ソ連の情報隠しによって奪われ、国際社会から何度『非科学的』だと言われながらも、沈黙することだけは断固拒否したウクライナの人々の叫び」(『同書』p41)

内容の紹介に入りたいと思います。まずは甲状腺癌のことが展開されているのですが、今回は割愛させていただきます。これまでもすでに福島の子どもたちから激発しているものが福島原発事故由来のものであることを繰り返し指摘してきたからです。
それよりも今回、着目していただきたいのは他のさまざまな病との関連です。まずこういうデータが示されています。
「原発周辺の高く汚染された地域から避難した被災者のうち、健康な人は1988年には67.7パーセントだったのが、2008年には21.5パーセントに減少した。逆に慢性疾患を持つ人は31.5パーセントだったのだが78.5パーセントに増加した」(『同書』p96)
「ウクライナ政府報告書によれば、慢性疾患の中でも圧倒的に多いのが循環器系(守田注 主に心臓や血管)の病気だ」「ウクライナ報告書ではその中でも『心筋梗塞』や『狭心症』を取り上げることが多いが、この心臓や血管の病気が、がん以外の慢性疾患による死因の実に89パーセントを占めるという」(『同書』p97)

さらにウクライナ国立放射線医学研究センターのウラジミール・ブズノフさんのがん以外の病に関する証言として次のような言葉が紹介されています。
「発症の時期が早いのは甲状腺の異常。そして最も重要なのが循環器系の異常です。疾患の中では、循環器系の異常は30パーセントを占めています。次に消化器系の疾患が約26パ-セント。次に呼吸器官疾患で慢性気管支炎などです」
「死因に関して言えば、80パーセント以上が循環器系の疾患です。具体的には、脳出血、脳梗塞、心不全、心筋梗塞、そして最終的に心筋梗塞につながる狭心症があります」(『同書』p98)
ここにあるようにがん以外の疾患でもっとも多いのは心臓や血管など循環器系の病であるとされている点に注目していただきたいと思います。なぜなら心筋梗塞などはがんと違って、突然死につながるものだからです。

僕がこの点を強調したいと思うのは、端的にいって福島や、被曝量の高いところに住まわれている方々にぜひとも心臓を守っていただきたいからです。あなただけでなくあなたの周りの方の心臓をもです。
心筋梗塞が起こった時に、医学界から強調されているのは6時間以内に救急救命機関に担ぎ込んで欲しいということです。その場合の救命率は90パーセントであるとされています。
また心筋梗塞にはさまざまな予兆があります。それを見逃さずに事前に循環器内科を受診し、治療を受ければ、少なくとも突然、心筋梗塞に見舞われる可能性はずっと低くなります。だからこそあなたと周りの方の心臓に注意を向けて欲しいのです。
心臓疾患の多いアメリカでは「ハリウッド症候群に気を付けろ」とも言われています。映画をみると心筋梗塞の人は心臓を押さえて倒れる。しかし奥歯が痛んだり、顎がしびれたり、左肩があがらない、左腕がしびれる、お腹が痛むなども心筋梗塞由来であることがあります。これを映画の影響で見過ごすなというのです。

今回、ウクライナの報告を読んでいて、ますます心臓を守りあわねばという思いを強くしました。西日本の方とて安心してはいけません。放射性物質は食べ物に混入してさまざまに西日本にも入ってきています。
さらに西日本には中国から大量のPM2.5や黄砂が飛来してきています。これも大変危ない。PM2.5については肺呼吸から血液に入って心臓にまわっていくため、心臓疾患を引き起こすことがすでに証明されてもいます。
そのことを踏まえて、私たちは大量被曝下のこの国で住んでいく上で、本当に十二分に私たちの心臓に注意を払い、祈りを守っていくことに留意していく必要があります。
その努力を重ねながら、ウクライナの人々の長きにわたる苦しみに思いを馳せ、連帯し、同時に苦難の中で積み重ねてきた努力と知恵に学んでいきたいと思います。

続く

*****

なおこれまで心臓を守るために呼び掛けた記事もご紹介しておきます。とくに(634)では今回ご紹介したハリウッド症候群のことをはじめ、心臓を守る具体的な点を書いてあります。
命を守る重要な記事としてぜひ目を通していただきたいです。これを知っているだけで、いつかどこかで目の前の大事な人の命を救うことができるかもしれません。

明日に向けて(617)福島原発事故の影響から心臓を守ろう!
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/83ed3716ed745eb954ee4d297dbd606a

明日に向けて(631)福島で「震災関連死」が増えている・・・心臓を守ろう!(上)
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/7c9f201e69779cb487b63c6113b1ae52

明日に向けて(634)福島で「震災関連死」が増えている・・・心臓を守ろう!(下)
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/34e78bfe8925a0a46a73bd2b80c27f65
さらに今回紹介した書籍とNHKの番組のリンク先が示されているブログを見つけたので紹介しておきます。
時間のある方は本書と共に放映されたNHKドキュメント「ウクライナは訴える」をぜひご覧下さい!

after311.info
http://after311.info/radioactivity/post-1696/

 

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